81 / 90
第八十一頁
しおりを挟む
ゼウスは項垂れていた。
我が娘と慕う、ゆめに戦うように促したからだ。
本来ならば、何よりも守りたい存在なのは解っている。ゼウスは己の不甲斐なさにやり場のない怒りを必死で押し殺している・・・全神々の主として、冷静さを保たなければ、従えている者達に不安を与えてしまうからだ。
ヘーラーは悲しみの牢獄に囚われたかのように、泣きむせび、「ゆめ、ゆめ・・・」と呟いている。
あの娘が悪魔ダイモーンと戦えば、無傷では終わらないはず・・・死んでしまう可能性も十分にある。そう考えるだけで悲しみの淵へと堕ちるような感覚になる。
他の神々は、各地に「勇者」がいないのかと会議をしているのだが、「勇者」が、この世界にいたのは、大昔の話であるし、今からとなると余りにも時間が足り無さ過ぎている。
「時間が足り無さ過ぎている。」と言うのにも理由があった。神々の力で「現実世界。」の時間を止めている間に、勇者を育てようと考えたのだか、「元・神」である悪魔ダイモーンには、その力が通用しない。
それどころか、これ幸いと動きの止まった人間達を食い荒らしていく。十分に栄養を得たダイモーンは、自ら眷属を作り世界中へと散らしていく・・・。
もう、「待ったなし」の状態なのだ。
こうして議論をしている間にも、世界の人口の3割が、奴の栄養として、取り込まれている。世界中の人間が消えるのも時間の問題であろう。
「何もない空間」。まさに沈黙という時間だけが過ぎていく・・・。
そこに光と共にゆめが姿を現した。
「お父さん、皆さん。お話とお願いがあります。」
「おぉ、ゆめ殿!」
この言葉に神々全員の視線がゆめに集まる。
ゼウスとヘーラーは、顔を歪めた。
「もし、私の力が悪魔に対抗出来るのであれば、全ての人達の為に私は力を尽くそうと思います。」
「ゆ、ゆめや・・・」
静止しようと言葉を発しようとしたゼウスは次の言葉を思い留まった。
ゆめの目は真剣だったからだ・・・
あんな目をしたゆめの顔を見るのは初めてだ。いつものあどけなさは一切、感じられない。
「覚悟は出来ておるのじゃな?」
ゼウスの問いに無言で頷いた。
「それで、願いとはなんじゃ?」
「この子達に剣と防具、加護をお願いしたいの。」
ゆめの中から「ゼウス」が姿を現した。
ゼウスはページを捲り、次々と召喚していく。
その数、3,000名の勇者、聖騎士、魔法使い。
500対のドラゴン、400体のワイバーン、300体の「魔王」・・・。
神々から、どよめきと歓声が聞こえた。圧倒的な数を誇る軍。これならば、いくらダイモーンと云えども、討伐出来るかも知れないと。
その中に、何故か「ヘラクレス」がいた。
「ヘラクレスよ。何故、お主がおるのじゃ?」
「私はここにおりまする、ゼウス様!」
確かに、会議用の机にヘラクレスがいる。
「この人はギリシャ神話から来てもらったの。」
・・・成る程、本の世界の住人ならば、相手が神と云えども召喚は出来ると言う事か。
「すぐに欲しいんだけど、出来る?お父さん?」
神々が、雄叫びに似た歓声をあげながら、我先にと勇者に「加護」を与えていく、少しでも強くなるようにと願いを込めながら・・・。
「ところで、ゆめ殿、この者にも加護を与えるのですか?」
皆が注目しているのは「魔王」である。
「その子達には、加護は不要、それと安心して下さい。魔王といっても、ちゃんと「調教済」ですから!」
その言葉に、規律正しく魔王達は膝を屈した。
「防具は私に任せて下さい!」
そう言って来たのは、アテーナーさんだ。
「じゃあ剣は、ワシだな!」
鍛冶の神、ヘーパイストスが名乗りをあげた。
「ゆめ殿のエクスカリバー程の強い剣を作って見せるさ!」
「あなたには、この加護も必要ね。」
アテーナーさんが、私の頭に手を添える。
「なに?この加護?」
「あなたに一番必要な「戦いの加護」。これで戦略、統率が出来るようになるの、あなたはこの軍の総大将よ。」
と、アテーナーさんが、頭を撫でてくれた。
我が娘と慕う、ゆめに戦うように促したからだ。
本来ならば、何よりも守りたい存在なのは解っている。ゼウスは己の不甲斐なさにやり場のない怒りを必死で押し殺している・・・全神々の主として、冷静さを保たなければ、従えている者達に不安を与えてしまうからだ。
ヘーラーは悲しみの牢獄に囚われたかのように、泣きむせび、「ゆめ、ゆめ・・・」と呟いている。
あの娘が悪魔ダイモーンと戦えば、無傷では終わらないはず・・・死んでしまう可能性も十分にある。そう考えるだけで悲しみの淵へと堕ちるような感覚になる。
他の神々は、各地に「勇者」がいないのかと会議をしているのだが、「勇者」が、この世界にいたのは、大昔の話であるし、今からとなると余りにも時間が足り無さ過ぎている。
「時間が足り無さ過ぎている。」と言うのにも理由があった。神々の力で「現実世界。」の時間を止めている間に、勇者を育てようと考えたのだか、「元・神」である悪魔ダイモーンには、その力が通用しない。
それどころか、これ幸いと動きの止まった人間達を食い荒らしていく。十分に栄養を得たダイモーンは、自ら眷属を作り世界中へと散らしていく・・・。
もう、「待ったなし」の状態なのだ。
こうして議論をしている間にも、世界の人口の3割が、奴の栄養として、取り込まれている。世界中の人間が消えるのも時間の問題であろう。
「何もない空間」。まさに沈黙という時間だけが過ぎていく・・・。
そこに光と共にゆめが姿を現した。
「お父さん、皆さん。お話とお願いがあります。」
「おぉ、ゆめ殿!」
この言葉に神々全員の視線がゆめに集まる。
ゼウスとヘーラーは、顔を歪めた。
「もし、私の力が悪魔に対抗出来るのであれば、全ての人達の為に私は力を尽くそうと思います。」
「ゆ、ゆめや・・・」
静止しようと言葉を発しようとしたゼウスは次の言葉を思い留まった。
ゆめの目は真剣だったからだ・・・
あんな目をしたゆめの顔を見るのは初めてだ。いつものあどけなさは一切、感じられない。
「覚悟は出来ておるのじゃな?」
ゼウスの問いに無言で頷いた。
「それで、願いとはなんじゃ?」
「この子達に剣と防具、加護をお願いしたいの。」
ゆめの中から「ゼウス」が姿を現した。
ゼウスはページを捲り、次々と召喚していく。
その数、3,000名の勇者、聖騎士、魔法使い。
500対のドラゴン、400体のワイバーン、300体の「魔王」・・・。
神々から、どよめきと歓声が聞こえた。圧倒的な数を誇る軍。これならば、いくらダイモーンと云えども、討伐出来るかも知れないと。
その中に、何故か「ヘラクレス」がいた。
「ヘラクレスよ。何故、お主がおるのじゃ?」
「私はここにおりまする、ゼウス様!」
確かに、会議用の机にヘラクレスがいる。
「この人はギリシャ神話から来てもらったの。」
・・・成る程、本の世界の住人ならば、相手が神と云えども召喚は出来ると言う事か。
「すぐに欲しいんだけど、出来る?お父さん?」
神々が、雄叫びに似た歓声をあげながら、我先にと勇者に「加護」を与えていく、少しでも強くなるようにと願いを込めながら・・・。
「ところで、ゆめ殿、この者にも加護を与えるのですか?」
皆が注目しているのは「魔王」である。
「その子達には、加護は不要、それと安心して下さい。魔王といっても、ちゃんと「調教済」ですから!」
その言葉に、規律正しく魔王達は膝を屈した。
「防具は私に任せて下さい!」
そう言って来たのは、アテーナーさんだ。
「じゃあ剣は、ワシだな!」
鍛冶の神、ヘーパイストスが名乗りをあげた。
「ゆめ殿のエクスカリバー程の強い剣を作って見せるさ!」
「あなたには、この加護も必要ね。」
アテーナーさんが、私の頭に手を添える。
「なに?この加護?」
「あなたに一番必要な「戦いの加護」。これで戦略、統率が出来るようになるの、あなたはこの軍の総大将よ。」
と、アテーナーさんが、頭を撫でてくれた。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします
*
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!?
しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です!
めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので!
本編完結しました!
時々おまけを更新しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる