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第八十一頁

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 ゼウスは項垂れていた。

 我が娘と慕う、ゆめに戦うように促したからだ。

 本来ならば、何よりも守りたい存在なのは解っている。ゼウスは己の不甲斐なさにやり場のない怒りを必死で押し殺している・・・全神々の主として、冷静さを保たなければ、従えている者達に不安を与えてしまうからだ。

 ヘーラーは悲しみの牢獄に囚われたかのように、泣きむせび、「ゆめ、ゆめ・・・」と呟いている。

 あの娘が悪魔ダイモーンと戦えば、無傷では終わらないはず・・・死んでしまう可能性も十分にある。そう考えるだけで悲しみの淵へと堕ちるような感覚になる。

 他の神々は、各地に「勇者」がいないのかと会議をしているのだが、「勇者」が、この世界にいたのは、大昔の話であるし、今からとなると余りにも時間が足り無さ過ぎている。

「時間が足り無さ過ぎている。」と言うのにも理由があった。神々の力で「現実世界。」の時間を止めている間に、勇者を育てようと考えたのだか、「元・神」である悪魔ダイモーンには、その力が通用しない。

 それどころか、これ幸いと動きの止まった人間達を食い荒らしていく。十分に栄養を得たダイモーンは、自ら眷属を作り世界中へと散らしていく・・・。

 もう、「待ったなし」の状態なのだ。

 こうして議論をしている間にも、世界の人口の3割が、奴の栄養として、取り込まれている。世界中の人間が消えるのも時間の問題であろう。

「何もない空間」。まさに沈黙という時間だけが過ぎていく・・・。

 そこに光と共にゆめが姿を現した。

「お父さん、皆さん。お話とお願いがあります。」

「おぉ、ゆめ殿!」

 この言葉に神々全員の視線がゆめに集まる。
 ゼウスとヘーラーは、顔を歪めた。

「もし、私の力が悪魔に対抗出来るのであれば、全ての人達の為に私は力を尽くそうと思います。」

「ゆ、ゆめや・・・」

 静止しようと言葉を発しようとしたゼウスは次の言葉を思い留まった。

 ゆめの目は真剣だったからだ・・・
 あんな目をしたゆめの顔を見るのは初めてだ。いつものあどけなさは一切、感じられない。

「覚悟は出来ておるのじゃな?」

 ゼウスの問いに無言で頷いた。

「それで、願いとはなんじゃ?」

「この子達に剣と防具、加護をお願いしたいの。」

 ゆめの中から「ゼウス」が姿を現した。

 ゼウスはページを捲り、次々と召喚していく。

 その数、3,000名の勇者、聖騎士、魔法使い。
 500対のドラゴン、400体のワイバーン、300体の「魔王」・・・。

 神々から、どよめきと歓声が聞こえた。圧倒的な数を誇る軍。これならば、いくらダイモーンと云えども、討伐出来るかも知れないと。

 その中に、何故か「ヘラクレス」がいた。

「ヘラクレスよ。何故、お主がおるのじゃ?」

「私はここにおりまする、ゼウス様!」

 確かに、会議用の机にヘラクレスがいる。

「この人はギリシャ神話から来てもらったの。」

・・・成る程、本の世界の住人ならば、相手が神と云えども召喚は出来ると言う事か。

「すぐに欲しいんだけど、出来る?お父さん?」

 神々が、雄叫びに似た歓声をあげながら、我先にと勇者に「加護」を与えていく、少しでも強くなるようにと願いを込めながら・・・。

「ところで、ゆめ殿、この者にも加護を与えるのですか?」

 皆が注目しているのは「魔王」である。

「その子達には、加護は不要、それと安心して下さい。魔王といっても、ちゃんと「調教済」ですから!」

 その言葉に、規律正しく魔王達は膝を屈した。

「防具は私に任せて下さい!」
 そう言って来たのは、アテーナーさんだ。

「じゃあ剣は、ワシだな!」
 鍛冶の神、ヘーパイストスが名乗りをあげた。

「ゆめ殿のエクスカリバー程の強い剣を作って見せるさ!」

「あなたには、この加護も必要ね。」
 アテーナーさんが、私の頭に手を添える。

「なに?この加護?」

「あなたに一番必要な「戦いの加護」。これで戦略、統率が出来るようになるの、あなたはこの軍の総大将よ。」

 と、アテーナーさんが、頭を撫でてくれた。

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