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翡翠と堅悟 鞍馬にて
しおりを挟む蔵馬の病院にも瑠璃の交通事故の一報はもたらされていたが、続いてすぐに命に別状が無いことが報告されていた。
秋の気配は少しずつだが濃くなっていて、嵐山が一番良い色を纏う季節がもうすぐくると知らせていた。
それでもまだ濃い夏の気配と秋の気配がせめぎあう独特の雰囲気。
京都ならではの静かな風情に病室の翡翠の姿はとても似合っていた。
「入るで?」
彼らしく無遠慮に堅悟が入ってくる。
「ノックぐらいしとくれやす。なんぼ夫婦でも」
翡翠が相変わらずの憎まれ口を叩いた。
「ええやないか。やっと俺はお前の部屋に何時でも入れる権利を得たんやさかい、それ満喫してんのや」
堅悟が臆することもなく言った。
「ほんで?瑠璃はどないなりましたの?」
翡翠が聞いた。
「ああ、藤堂がそばについとる」
堅悟が答える。
「そうどすか」
翡翠が静かに目を閉じた。
「もう気に病むな。結果としてはお前が呼び寄せたんや、藤堂を」
堅悟がやんわりと庇うように翡翠を抱いた。
「堅悟はん…」
翡翠が素直に堅悟の胸に甘えた。
「ホンマは後悔してたもんな。一生懸命仕込んでやってたつもりが、瑠璃の好きな男を追い詰めてもーた…あの男が出てったあとの瑠璃のやつれぶりはお前には辛かったろな…」
堅悟が言った。
翡翠は何も答えずにじっと堅悟に抱かれている。
「もうええ。堅一郎も堅三郎も、うちの息子はみんな藤堂が瑠璃を本気で好きなのは間違い無いて言うてたし、そもそも殿山が藤堂に一条の土地やらを売った言うなら、殿山は藤堂が本気で瑠璃に惚れてると見抜いてた言うことや。アイツはお前に真剣に惚れとる。せやからお前の不利になることは絶対にせえへん」
堅悟が翡翠の髪を撫でる。
「あんたはん、自分の嫁に他所の男が惚れてて平気ですのん?」
翡翠がじろりと堅悟を見る。
「殿山は己の立場では、自分がお前を手にでけんのは嫌というほど知っとる。それに殿山如きに俺が負ける訳があらへん。最初から俺の勝ちや」
堅悟がフフン、と宣う。
「とんでもない自信家やわ」
翡翠が呆れたように言った。
「そら生まれつきや。しゃあない」
堅悟が笑う。
翡翠の一番好きな笑顔で。
「我ながら男の趣味が悪すぎるわ」
翡翠が言った。
「とか言うて俺が来た途端、劇的回復しとるやないか。惚れた男の胸はやっぱ一番の薬やろ?」
堅悟が聞いた。
一瞬、翡翠が黙る。
そして花のような顔で微笑んで
「せやね?」
と、答えた。
そのメガトン級のカウンターパンチに堅悟が耳まで紅くなる。
そして嬉しそうにギュッと翡翠を抱きしめた。
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