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記憶にございません
しおりを挟む「んんん…」
朝の光がまぶしくて目を開けた。
「んあっっっ」
瑠璃が慌ててベッドに起き上る。
景色を見回して昨夜、拓馬と過ごしたスイートに居るのだと解った。
慌てて起きてリビングエリアに行くと自分の服が綺麗にクリーニングされて、しかも綺麗に畳まれて置かれていた。
その上に小さなメモ。
「用が出来た。先に出る。次回は連絡する」
とだけ拓馬の字で書かれていた。
「え…うち……結局抱かれたん?」
どうも昨夜の記憶があいまいだった。
バスローブの下の下着を慌てて確認して着て来たものを乱れなくつけていると気が付いてホッとする。
「え…なにがどうなったん…?」
訳は解らなかったが旅館の事があるから、とにかく一条に戻らなくてはと慌てて着替える。
軽く化粧してサングラスをかけてロビーを足早に抜けてタクシーを拾う。
タクシーに乗ってから、ふーっと息を吐いた。
(何がどうなったのかさっぱり解らへん…)
ほぼ後半の記憶が無い。
食事して乾杯したところぐらいまではあるのだが。
(は………まさか………)
確か以前にも酒で記憶をなくした。
その時は確か散々な有様を拓馬に見せたらしく、もう二度と酒を飲むなと釘を刺された。
(まさか…大立ち回り…したんやろか…)
何となくだが、拓馬に抱かれたんではないと思う。
という事は酒で酔っぱらった自分がまた醜態をさらして拓馬は呆れて帰ったんだろうかと思い当たった。
(も…もしそうでも…うちのせいやあらへん…)
酒を飲ませたのは拓馬なのだ。
自業自得だと思ったその時に、ふっと昨夜の記憶の一部が戻ってくる。
誰かの胸に包まって、ぬくぬくと微睡んだ感触。
なんだかとても安心して、ここが自分の居場所だと思っていたような気がした。
(ゆめ…?…何の記憶?…)
多分昨夜のものだと思うのだが。
何のシチュエーションなのかが解らなかった。
(まさか相手が拓馬…?)
もしこの記憶が現実なら、相手は拓馬なのだろうし、もしこれが夢なら、きっと自分の願望が見せた夢なのだろう。
(今更やんな…)
ここ数日で思い知った現実。
拓馬とここ迄離れてしまったこと。
それは飛び出す勇気を持てなかった自分の所為だったから。
(あれがうちの…願望なんやなぁ……)
拓馬の胸に包まって何度か寝た。
あの時、確かに幸せだった。
(ちゃうかってんな…処女で結婚したいんやなかってん……ただ単に拓馬のお嫁さんになる自分にはしゃいでた…)
他の人では何の意味も無かったんだと六年もたった今更知っても、どうしようもなかった。
(あほやな…うち…)
瑠璃がまた一つため息をつく。
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