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拓馬 葛藤
しおりを挟む同じコンスタンシアヴィラージェの別の部屋で拓馬がソファーに身を沈めて考え込むように視線を落としていた。
すでに先程ホテルの係から瑠璃が部屋に入ったと連絡が来た。
(良いのか…これで…)
こんなふうに瑠璃を無理矢理に絡め取るような真似をすることに今更臆した。
(瑠璃は結婚に夢を描いてる方だった…)
付き合っていたときにデパートなんかでブラブラすると、洋服とかより家具や雑貨のコーナーではしゃいでいた。
俺の狭い下宿も瑠璃がちょっとした小物やファブリックに拘って驚くほどおしゃれな空間になってた。
その時に俺はセンス次第で建物は生きも死にもするんだなと何となく思った。
瑠璃は結婚まではセックスはしたくないと自分にもハッキリと言っていた。
今どき珍しいなとは思ったが、瑠璃が結婚に憧れて夢を見てるんだと気がついてからは、それは可愛い夢だと思えて、協力しようと大学生時代は軽い触れ合いばかりだった。
キスしたり二人で同じ布団にくるまって、ちょっとだけそういう雰囲気になったりもしたけど、瑠璃の夢を応援する気持ちに自分もなって、強い不満は無かった。
大学を卒業したらすぐ結婚すればいいや、と何となく思っていた。
けれど実際には一条に入り、あんな別れ方になり。
瑠璃を抱くことはなかった。
瑠璃に嫌われたことは嫌というほどに自覚していたから、もう愛人にするようなこんな形でしか瑠璃に触れることは出来ないと、痛いほどに解っているけれど。
けれどそれは同時に、瑠璃の夢を自らの手で引き裂く瞬間でもある。
瑠璃が夢見ていた結婚を自らの手で不可能に塗り替える瞬間なのだ。
(それでも…瑠璃を欲しがる気持ちが止められないなんて…)
諦めろと、どこかで自分の声は言うのに。
反対側で瑠璃を他の男が抱く事を容認できずに居る。
瑠璃が乱れて女になる瞬間を他の男に渡したくない。
(エゴだと頭では解るのに…)
そして、これが終われば瑠璃はもう一生自分を許すことはなくなるだろう。
何よりも愛人なんてものに瑠璃を貶めた自分を、多分自分が許せなくなると解るのに。
(それでも……瑠璃を抱きたい…)
セックスすら知らない童貞の少年のように。
瑠璃の本当の姿を見たくなる。
誰にも見せない顔を見たくなる。
拓馬が意を決したように立ち上がって部屋を出ていく。
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