復讐の甘い罠

藤木兎羽

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久我本家 麻耶のイケメン怖い狂騒曲

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京都らしい重厚な日本家屋の立派な門構えの家の前に、一台のタクシーがついた。

「け、堅三郎さん…えーと!?アタシまでなんで??」
麻耶がビビって聞いた。
「融資関係のことやからね?一条の財務担当として参加して貰わんとね?」
堅三郎が笑う。
「あ、で、でも!いきなりって!お父さん怒るんじゃ?」
麻耶がビビって聞き返す。

「おやあ?意外にもヘタレなん?麻耶ちゃんは?何時ものはホンマに口だけなんー?」
堅三郎が聞いた。
「くっ!口だけ!?違うわよっ!久我の本家だろうと何処だろうと行ってやるわよっ」
まんまと乗せられて麻耶が答える。
「そ?ほなら行こか?」
堅三郎がニッコリ微笑った。

(わーーーー!アタシ何してんのぉ!敷居高い高い高いぃ!)
格式で言うなら一条ともごっつ張れる超一流旅館である久我家というだけではなく、久我の一門はそれこそ京都では綺羅星のごとく君臨する一族だった。

身内には家元だの女優だの無茶苦茶有名なスポーツ選手だのが散りばめられ、久我の本家の息子達はその美貌と華やかな女性遍歴でも知られている。
一条にいるときこそ堅三郎に言いたい放題言ってた麻耶だが、本来なら麻耶如きが偉そうな口を聞けるような人ではないのは麻耶も理解していた。
堅三郎がおっとりなのをいい事に調子に乗っていただけで、本来はそばに行くのも難しいセレブなのだ堅三郎は。

その証拠にさっきのホテルでもそうだが、京都のどこに行っても堅三郎はほぼ顔パスなのだ。
その堅三郎の実家、久我の本家はまさに重厚な大邸宅で、しかも玄関入るとお手伝いさんが何人も並んでいた。
麻耶がそれにビビり上がる。

いくら一条で多少見慣れたとは言っても、ものと桁の違うセレブなんだと改めて思い知らされる。

「親父や兄貴達は揃ってる?」
お手伝いらしき女性に堅三郎が気軽に聞いた。
「あ、この人は一条の財務の責任者の鈴木麻耶さんね?」
堅三郎がお手伝いの一人に言った。
「おいでやす」
そのお手伝いらしき人が頭を下げる。
「よ、宜しくお願いいたします…」
麻耶が頭を下げた。

「麻耶ちゃん、この人はねー?柿田ママ言うて、僕ら兄弟の育てのオカンのよーな人なんやで?」
堅三郎が言った。
「堅三郎様?お客様に誤解を与えるようなことは」
柿田がビッシャリ釘を刺す。
「ええんや?柿田ママ、麻耶ちゃんは身内のようなもんなんや。麻耶ちゃん?柿田ママはなー?早くにオカンが離婚でおらんよーになった僕らを乳母としてビシバシ躾けたコワーイオカンやし?この久我の家の中は柿田ママが全部仕切ってる。久我の家政婦さんの総帥やから?逆らったらあかんよー?」
堅三郎が言った。
「ぼっちゃま!」
柿田が堅三郎を嗜める。

「なー?怖いやろ?麻耶ちゃんもここで過ごすときは柿田ママには逆らったらあかんでー?僕らの第二のオカンやから」
言いながら堅三郎が麻耶の肩をやんわりと促す。
「よ、宜しくお願いいたします。お、お邪魔します」
麻耶がオロオロしつつ頭を下げて堅三郎に連れて行かれるのを柿田が見送る。
一条にも全然引けを取らないゴージャスな内装の中を連れられて歩くと、本気で飲まれそうになる。

「け、堅三郎さん…な、慣れないから倒れそう…」
麻耶が言った。
「一条と変わらんやん?」
堅三郎が聞き返す。
「い、一条ではアタシは事務室におるだけやし、表におっても従業員としてやもん、アカン、真面目に倒れそう…」
麻耶が言った。
「もー、麻耶ちゃんは意外にも繊細な子やなあ?ほなら僕の腕に捕まって歩いてもええで?」
堅三郎がクスクス笑う。

「意外にもて!酷っ!てか!そんなことしたら誤解される!仮にも堅三郎さんは瑠璃ちゃんの婚約者やのに!」
麻耶がほっぺたを膨らませる。
「婚約破棄されたけねんけどなー?」
と、堅三郎がクスクス笑う。
「茶化さんといて!それを何とかしたくて頑張ってるのに!」
麻耶がちょっと膨らむ。
「ゴメンゴメン。堪忍。緊張解してあげたいと思ただけやねん」
堅三郎が言った。
気がついたら屋敷のだいぶ奥に来ていて、広い座敷の前で堅三郎がきれいな仕草で正座してスッと頭を下げた。
麻耶も同じように頭を下げる。

(こ、こういう時は一条の社員教育助かるぅ…)
しきたりの厳しい京都でも一条の接客は一流だから麻耶達も皆、厳しくそこは仕込まれる。
だから大抵の和のマナーはクリアできる自信がある。

「おお、堅三郎。お入り。なんや改まって儂らを呼び出すとは?なんや困り事か?」
ちょっと年配の男性の声がして、麻耶が更に緊張する。
「ええ。緊急事態ですねん」
堅三郎が言った。
「緊急事態?」
年配男性の横にいる男性が言った。
「ああ、まあその前に二人共お入り?」
もう一人の若い男性が言った。
「麻耶ちゃん?おいで?」
堅三郎が麻耶の手をさり気に取って座へと促す。

麻耶は和のマナーが気になって畳縁を踏んでないかとか、そっちを気にしてて、自分がエスコートされてる格好なのに気がついてなかった。
三人の男性の見守る中、麻耶がなんとか作法をこなして座る。

「お父さん?こちら鈴木麻耶さん。一条の財務責任者です。いつも僕もようしてもろてる」
紹介されて麻耶がとりあえず失礼のないように必死で綺麗に挨拶をした。

「旅館一条の経理担当をしております。鈴木でございます。以後よろしゅうおたのもうしやす」
「おお。可愛らしいお嬢はんやな?ああ、座布団つかいなはれ。足痛うなるで?まだこっち来て浅いんか?」
年配の男性が鷹揚な調子で聞いた。

「あ、麻耶ちゃん、うちの父な。あとこっちが長男の堅一郎、あっちが次男の堅次郎」
堅三郎が紹介する。
「よろしゅうおたのもうしやす」
また頭を下げてから顔を上げてみて麻耶が三人を見て心底くらくらした。

(何この煌びやかなイケメンの群れ………)

堅三郎単体の時はそこまで威圧感が無かったが、兄二人もだが父親がいわゆる美中年といっていいイケメン様で、下手したら麻耶でも持ってかれそうなロマンスグレー様だった。

(い、イケメンって揃うと威圧感半端ない……)
麻耶が心で愚痴る。

長男も次男も噂にたがわないキラキラのイケメン様で、明らかにハイスペック男子の匂いがプンプンだった。

(ありえひんセレブが四人もいると、息吸ってていいのか迷うんですけど)
麻耶が心で盛大にドツッコんだ。

「ほんで?改まってどないしたんや」
久我の当主が聞いた。

「あ、それがな。一条への融資を前倒しして欲しいのや」
堅三郎がズバリ言った。

久我の当主の顔がすぐに経営者の顔に変わる。
「なんでや?」
当主が聞いた。
「敵対的買収がかかってる節があって、瑠璃ちゃんと僕の結婚破談になりそうなんや」
堅三郎があっさり言った。
「どういうことなんや?」
堅一郎が聞いた。
「多分何らかの債権が相手の手にわたってて、下手したら一条は裏で食われてる可能性もある」
堅三郎が答える。
「根拠は?」
堅次郎が聞き返す。
「またまた。堅次郎兄さんの方がそういうの得意やろ?少し前にあったやん。一条の資金繰りおかしいて。」
堅三郎が答える。
「ふん。まあだからこそ。お前をわざわざ送り込んでるんやろ?何かあるならよそ者に食われるよりうちに食われたがましやから」
堅一郎が平然と言った。

一条側の麻耶など居ないも同然の扱いで平然と言ってのけたのに、麻耶がぎょっとする。

「儂は一条との縁談は別に乗り気や無かった。多分一条の大女将もな?せやからいつでも手を引いてええで」
当主が言った。
「元々親父殿と一条の大女将は犬猿の仲やからなぁ。親父の出した条件もほぼ嫌がらせ。お前が幼馴染の瑠璃を救うとか訳解らへんこというて、あっちに行ったから牙剥いてないだけで、親父は一条を喰いたい一人やろ?言うてくるところ間違うてないか?」
堅次郎が聞いた。

麻耶がそれにぎょっとする。

迂闊な口を挟めないと思っていたから黙っているけど、聞いていたらどう見ても久我はホワイトナイツどころか、乗っ取る気満々に見えた。
(な………堅三郎さんて、敵!?)
麻耶が目を見開く。

「融資を速める気はないで?理由もないやろ」
当主が言った。
「ど…どういうこと…なんですか…」
麻耶がふるふる震えながらぎゅっと手を握る。

聞いていたらここの人たちは、どう見ても敵にしか見えなくなった。

「麻耶ちゃん。座り。後で説明するし」
堅三郎が言った。
「堅三郎さんも敵なん!?瑠璃の味方じゃないの!騙したん!?」
麻耶が堅三郎にも食って掛かる。

「ひどい!!」
麻耶が立ちあがって踵を返して出て行こうとする。

「あ!麻耶ちゃん急にたったらあかんて!低血糖すぐ起こすんやから!」
堅三郎が慌てて麻耶を追いかける。
「離して!敵だったなんて!一条陥れようとしてるの久我もだなんて!酷い!」
麻耶が堅三郎の手を振りほどこうとする。
「ちゃうて!落ち着き!」
堅三郎がいうのにも構わず麻耶が激昂して、彼の手を振りほどこうとしてまたクラクラっと眩暈に襲われた。

(あ、ヤバ…こんな敵陣で倒れたくないのに……)

と、思いつつ麻耶の視界がフェードアウトする。
三人の男性がぎょっとして、その目の前で堅三郎が易々と麻耶を支えて抱きとめる。

「もうほら、言わんこっちゃない。麻耶ちゃんすぐ低血糖起こすんやから。ちょっとは気ぃつけぇな?ほら?飴ちゃん食べ?」
ポケットから飴を出して麻耶の口に入れる。

「ご…ごめ……でも…帰る……」
麻耶がフラフラのまま立てもしないのに言った。
「麻耶ちゃん細すぎやて。もーちょい肉つけな。もうええからじっとしときて」
堅三郎がきっちり麻耶を抱きかかえる。
それを三人の男性が片眉をきっちり吊り上げて見つめた。
「じっとして僕に寄りかかっときぃよ?話し終わったらすぐ寝床敷いてあげるよって」
堅三郎が言った。

麻耶は帰る、と言いたかったが、いつもより低血糖がきつくて半分気絶に近かった。
動けずにじっとしている麻耶にホッとしたのか、堅三郎が父親を見る。

「一条の資金繰りがおかしなったんは、大女将が病に倒れたからなんや」
堅三郎がズバリ言った。
「なんやて?」
当主が聞き返す。

「あほなこと言いなや。一条の大女将言うたら、それこそ世界一周旅行クルーズで悠々自適なんやろ?」
堅次郎が聞いた。
「表向きは。けど本当は栃木の病院で脳腫瘍の手術受けて抗ガン治療中」
堅三郎が言った。

「脳腫瘍!?」
当主が聞き返す。
「アホ言いなや。そんなこと何処からも聞かんで?」
堅一郎が言った。

「極秘事項で僕かて知ったばかりや。知っとるのはこの麻耶ちゃんと。古参の仲居頭二人と瑠璃ちゃんだけ。一条の資金繰り悪なったのはこれがきっかけ。そこに誰かがつけこんどるとみてええと思う」
堅三郎が言った。

「翡翠が脳腫瘍………?」
当主が呟く。

「堅次郎兄さん?ちょっと調べてほしいんやけど。一条の個人融資先に変なのがある筈で、多分それは瑠璃ちゃんや麻耶ちゃんも知らされてへん可能性が高いんや。麻耶ちゃんは一条の融資先は銀行と女将の友人言うたけど、それが今どないなっててそして土地とかの抵当も調べてほしいんや」
堅三郎が言った。
「敵は藤堂リゾートか?」
堅一郎が聞いた。
「そらまだ解らんわ。僕かて聞いたばっかりや。」
堅三郎が答える。

「翡翠は何処に入院しとるんや?」
当主が聞いた。

「そら、麻耶ちゃんが目を覚まして聞かな解らんよ。僕もさっき知ってんやて」
堅三郎が答える。
「病状は?」
と、また当主が聞いた。

「あまり良くはないみたいやね。下手したら命落とすかも」
堅三郎が平然と答える。

途端にガタン、と目の前の湯飲みを倒して当主が立ちあがった。

「馬鹿な…死ぬ…?…翡翠が………?」

当主が真っ青な顔で呟く。

「脳腫瘍やけんねぇ。もう元の大女将には戻れんやろ」
堅三郎がまた平然と言った。

「栃木やな!栃木の病院なんやな!」
当主が堅三郎に詰め寄る。
「柿田!出かける!車用意せぇ!…堅三郎!その子が目ぇ覚ましたら病院名連絡せぇ!」
言い置いて当主が出ていく。
それを堅三郎がすまし顔で見送った。

「で?実のところは?」
長男が聞いた。
「脳腫瘍と抗ガン治療はホント。けど余命は僕のアレンジやな」
堅三郎がしゃあしゃあと答える。
「最低な息子やんな」
次男が言った。

「久我の公然の秘密やで。ホントは親父が一条の大女将の事、好きで好きで堪らんで。でも些細なことで喧嘩して。親父が意地張ってた時に、一条の女将がやけ起こしてアホ坊に横取りされたんは」
堅三郎が言った。

「それで親父もやけくそ起こして?顔だけは女将にちょっと似とるけど中身は似ても似つかん俺の母親と結婚したは良いが。尻軽丸出しの俺の母親から堅次郎の母親、お前と堅志郎の母親と三人渡り歩いて結果全部と離婚ちゅうお粗末ぶりやからなぁ」
堅一郎が言った。

「まあ、俺等息子の目から見ても、一条の女将と俺等の母親比較するのはせんないわな」
堅次郎が言った。

「まあええんちゃう。ああでも言わんと素直になれへんのやから。そもそもは親父が女将の危機を聞きつけて。手を貸したいのに、いつもの様に言い合いになって変な条件付けてもーて、身動き取れへんで苦しんでたんを息子の僕が救ったったんやさかいに」
堅三郎が微笑む。

「それで?お前その子どうするん?」
堅一郎が聞いた。
「そらここに連れて来とるんやから察して欲しいなぁ?」
堅三郎がニンマリ笑う。
「本気?」
堅次郎が聞いた。
「本気やのーたら柿田ママに紹介せぇへん」
堅三郎が言った。

「可愛そうやなその子も」
不意に声がしてラフなカジュアル服を着た、またしても超イケメンが入ってくる。
「なんでや?」
堅三郎が聞いた。

「だって久我一の悪魔キャラの兄貴に見初められるやなんて。不幸中の不幸でいいやんな」
カジュアル男子が笑った。
「よー言うわ?お前等兄弟、お前等の母親に似て、どっちもめちゃめちゃなデーモンキャラやん?」
堅次郎が言った。

「まあなー、顔だけで選んだクラブママの俺の母親の浮気に嫌気がさした親父が、お嬢様選んだら前妻以上の尻軽っぷりで?それに懲りて今度はバリバリの秘書を嫁にしたら金だけ掻っ攫われて若い男と駆け落ち。三番目の母親はまあ、それでも前二人よりはましやな」
ケラケラ笑いながら堅一郎が言った。

「実の母親でも呆れる乱れっぷりやもんなぁ。まあでもしゃあないやろ?お袋たちにしてみれば惚れた男がずっと他の女に心奪われてて、しかもそれがどう逆立ちしても勝てへんキャラやで?やけくそも起こすやろ?」
堅次郎が言った。

「俺等の母親は最初から親父の金目当てやしなぁ」
堅志郎が笑う。
「そもそも本気の女を簡単に諦めるから、そういう目ぇに合うんや、自業自得やな」
堅一郎が父親をぶった切る。

「そんでまた、女将が旦那を亡くしてても再婚してくれへんから拗ねるとかもう。我がオヤジながらどんなヘタレなんやってツッコミどころ満載やな」
堅次郎が言った。

「まあええんちゃう。今、生きた心地してへんやろけど?あっちついたら安堵するんちゃう?」
堅三郎が言った。

丁度そこで堅三郎の腕の中の麻耶が低血糖から戻ってくる。
「あ………」
と、ちょっとふらつきながら頭を振る。

そして目を開けて、もう一回低血糖を起こしそうになる。

(何このイケメンの増殖………一人増えてね?)
と、心で呟く。

「あ、麻耶ちゃん目ぇ覚めた?あっち僕の弟な?親父は用事あって出かけたんよ。」
堅三郎がにっこり笑う。
麻耶が堅三郎との距離感がおかしいのに気が付いて、んん?という顔になった後、自分が堅三郎に抱かれている格好になっていると気がついて

「ひょあぁぁっ」
と、変な声を上げた。

久我の四兄弟がその有様に吹きだす。
「なんやねん!その変な声!」
堅志郎が爆笑する。
「なー?麻耶ちゃんて、いいキャラやろー?」
堅三郎も笑う。

「おもろい子ぉやな」
堅次郎と堅一郎もケタケタ笑った。

「あ、そや。麻耶ちゃん、大女将の入院先て、何病院なん?」
と、堅三郎が聞いた。
「あ、栃木のセイワ光陵会ホスピタルだけど…」
麻耶が怪訝な顔で答える。
そしてハッとする。
「ま!まさか弱ってる大女将さんに何かするとかじゃないでしょうねっっ!余命も解らない女将さんに何かしたら許さないからっっ」
事情を呑み込めていない麻耶が堅三郎に食って掛かる。

「え?」
久我の四兄弟がピタリと笑うのをやめて麻耶を見る。
「大女将はんて、そんな悪いんか?」
堅三郎が真顔で聞いた。

「て、敵になんか教えないっっ」
麻耶が言った。
「敵やないっ!僕の事信じられへんのかっっ!?」
堅三郎がちょっと語気を荒げる。

初めて強く言われて麻耶がフリーズする。
「だ………だって………」
麻耶が言い澱む。
「それより女将はん。そんな悪いんか?」
堅三郎が重ねて聞いた。

麻耶が堅三郎の気迫に押されてコクンと頷く。
「手術は成功したけど、抗がん剤がイマイチ合ってないで苦労しとるて瑠璃ちゃんが………ほんとは瑠璃ちゃんも、もっと行きたいみたいやけど宿のことがあって…月に二度は行ってるけど、あまり芳しくないて落ち込んでた…体力の方が持たんかもて……」
麻耶が答える。

「そんな大事なんか………」
堅一郎が呟く。
「だから瑠璃ちゃん大女将さんに心配かけたくなくて………多分………」
麻耶が俯く。
「そっちは心配せんでええ。僕も居るし」
堅三郎が言った。

「け………けど、久我も一条ねらっとるて………」
麻耶が言いかけるのを堅三郎が遮る。
「麻耶ちゃん?言うたろ?早とちりしたらあかん。ええか?何があっても裏切らん言うたら僕は裏切らん。僕の事だけは二度と疑わんとここで誓い?」
堅三郎が言った。

「だって!あんな言い方してて何処信じろっていうの!」
麻耶が言った。
「信じれん言うんやな?」
堅三郎が聞いた。
そして麻耶をじっとねめつける。
麻耶がそれにちょっと怯えて後ずさる。

その麻耶をひょいと堅三郎が抱えた。
麻耶が驚いて暴れようとするのを、ちょっと顔を寄せる格好で見つめて制する。
「じっとしとき?」
見つめられて麻耶がドギマギして焦って視線を反らした。

美形鉄板の堅三郎のドアップにまた低血糖が来そうでクラクラした。
麻耶が簡単に抵抗する力を失う。

堅三郎がそれに満足したように微笑む。

「堅三郎?いきなりか?」
堅一郎がツッコむ。
「僕かて久我の男やもんなぁ?信じれん言うならしゃあないやん」
堅三郎が麻耶を抱えてスタスタと出ていく。

「寝技で説得て…本気で悪魔かアイツ……」
堅次郎が言った。

「まあええんちゃう?あれ本気やろ?あの人ああ見えてガード堅いよ?一遍本気になったら、しちこいし」
堅志郎が笑う。

「まあええやろ。例のメガバンクのお嬢はめでたく堅次郎に入れあげてくれたんやし?アイツは好きにさしとかんと、はぶてたら扱いにくい。堅次郎?瑠璃の家の事はアイツにちゃんとケツ持ちさせえよ?」
と、堅一郎が言った。
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