復讐の甘い罠

藤木兎羽

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取引の裏側

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瑠璃が帰った空虚な部屋のドアフォンが鳴った。
モニター越しに顔を確認して第二秘書の真壁だと解って、藤堂がドアを開けた。

「お待たせいたしました。確認完了致しました。」
真壁が書類を差し出す。 
それを藤堂が無言でめくる。
「なるほどな?」
一通りの書類に目を通して藤堂が呟く。

「ご推察の通り、その融資には裏がございました。大女将とされる一条翡翠様はかなり巧妙な罠に嵌められた可能性も。」
真壁が言った。
「だろうな?手形に抵当。瑠璃すら知らないこの債権が既に一条の地所は人手に渡ったも同然の有様を形成してるとは思いもしてないだろうからな…」
藤堂が呟く。

「大女将は親友だと思ってたようですが。その方は大女将と結婚する以前に大女将の亡くなったご夫君の隠れた恋人でした。家柄の釣り合わない彼女が最終的には日陰者扱いのまま捨てられてる格好だと解ってます。ご夫君は大女将と結婚。結婚前に二股の時期もありますね。多分ですが結婚後も愛人関係がしばらくはあったかと」
真壁が報告する。
「だからヤクザと組んで憎い女に復讐か?女は怖いな」
藤堂が呟く。
「多分大女将ご自身も裏でこうなっていってるなんて理解されてないはずです。気がついたときには後の祭り…」
真壁が答える。

「その前にウチが一条に仕掛けたことがたまたま幸を奏した格好か…ヤクザにしたらうちに売り込むほうが合法的にかつ大金になるものな…」
藤堂が言った。
「ですね?この形だと最後は揉めるし下手すれば刑事にもなりかねません。うちに飛ばすことは彼らには好都合だった。元の女性にもそのヤクザ通じてキチンと手を引かせましたし、すでに全部の名義はうちへと変更も完了し、洗浄も終わってます」
真壁が答える。
「じゃあこれは予定通りに処理してくれ。費用は俺の個人資産からでいい」
藤堂が言った。
真壁が深く頭を下げる。

「それと、土方はどうなった?」
藤堂が聞いた。
「退職願が出たので、守秘義務契約書にサインさせて退職許可を出しました。退職金については慰労金含め規定どおりに、現在は有給消化の扱いです」
真壁が答える。
「解った。それでいい。土方の欠員の補充はお前が土方のポジションに。お前のところには園田を持ってきておけ。あと今後は秘書室には男のみ入れろ」
藤堂が言った。

真壁がそれで思わず苦笑する。
「とんでもない目に合われましたね?まさかあの土方が…」
真壁が笑いをこらえる。
「笑い事か?死ぬほど驚いたぞ?何かに取り憑かれでもしたのかと思うほどの豹変だったんだからな?」
藤堂が憮然とする。
「人は見かけによらないとは言いますが、ほんとにあるんですね?色仕掛けで迫ってくる秘書!ドラマの中だけかと思ってました!」
真壁が言った。
「世の中の秘書の皆さんが激怒するからドラマの中だけってことにしとくべきだろ?本気でお前誰って言いそうになったんだぞ?」
藤堂が言って真壁が吹き出す。

「ありえない!ありえなさすぎですって!鉄の女が!」
真壁が必死で笑いをこらえる。
「土方の名誉のためにも月経前症候群ってことにしとけ。あんなの土方じゃない。」
藤堂が言った。
「ですね。土方も立ち直ってくれるといいんですが。」
真壁が言った。
「まあ、仕事は文句なしにできるから?次の就職先では頑張るだろ?問い合わせあったら仕事ぶりは褒めといていいぞ」
藤堂が言った。
真壁が頷いて、書類を持って下がる。
一人になって藤堂がフーッと息を吐いた。

(多分瑠璃も知らないんだろうな…)
優良な企業の隙をついて騙すようにしてその企業を食い荒らしたり乗っ取ったりする手法は割とよくある。

食い潰してしまうやり方もあれば丸ごとを乗っ取ったり、土地や建物を騙す形で奪い取ったりといろいろで、それには大抵の場合裏にヤクザが潜んでいる。
企業の形をしていても実態はヤクザで、手口も複雑で巧妙だ。

一条の場合はやり口が割と強引だから最後は詐欺でひっくり返されてしまう可能性も多々ある方法だったからヤクザの方が頭を使って合法的に近づくようにこちらを利用した形で金だけを取っていってくれたから事なきを得ることができた。
奴らが地所に拘っていたらもっと複雑になっていた可能性もあったからそれは幸いと言えた。

(既に一条の土地建物全部が藤堂の名義に変わっていると瑠璃が知ったらどうなるかな…)
と、藤堂が暮れてしまった夜景を見つめる。
東京ほどきらびやかでない灯りが京都らしいと何となく感じた。

(きっと烈火みたいに怒って罵ってくるんだろうな…)
愛人契約までさせて、既に土地も建物も失っているなんて、きっと瑠璃にはたまらない話だろうと思えた。

(とっとと全部終わらせて三ヶ月たったら…)
と、そこまで考えてため息をついた。

さっき思わず結婚のことを口に出してから、その事が頭を離れなかった。
(三ヶ月たった時…)
どうなっているのか自分でも読めなかった。
瑠璃を失って耐えきれるのかどうすらも。
抱く前の今ですら、ティーンエイジャーの様に落ち着かない有り様でいるのに。

(逆に最初に思っていたように抱けば諦めもつくのかもしれないな…)
部屋に備え付けの冷蔵庫から新しいペリエを取り出してそのままラッパで飲んだ。
そしてまたフーッと息を吐く。

(この執着はあの時瑠璃からおあずけを食らった格好だったからで、蓋を開けたらこんなもんかと思えるのかも知れない)
藤堂がじっとまた窓の外に見入る。
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