復讐の甘い罠

藤木兎羽

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瑠璃の決心

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庭から歩いていく二人の後姿を廊下の窓から瑠璃がじっと見ていた。
見るつもりは無くて。
偶々偶然で。
でも二人は抱き合って、そしてキスしていて。
そして甘えて拗ねているような素振りの彼女を藤堂はあやしていて。

(恋人が居るんに…愛人契約せえて言わはったん?)
頭を殴られたような気になる。

(…そうやん。彼にとってはあっちが本命……うちとのことは復讐なんやさかい)
それでも、いよいよ彼のあの行動が復讐で、彼は自分を憎んでいると突きつけられた気がして、目の前が消えそうになる。
思わず壁にもたれかかった。

(あんまりやわ…)
堅三郎との結婚は確かに恋愛じゃなかった。
けど穏やかで不幸でも無かった。
互いに気心が知れていて。
安心できる相手で。

(拓馬に酷い事をしたのは解ってる………けどここ迄されなあかんの?)
泣きたくて仕方なくなる。
彼にとって自分がただの揶揄いとか見下すための対象でしかなくなったことが。
酷く惨めな気分を運んでくる。

(けど負けられへん…此処を護るために……)
そしてそこまで考えてハッとする。

(あ、そやわ…条件とか決めんと…それこそ三か月いうんは決まってても、何回とか秘密にすることとか一切決めてないわ)
愛人をやるのが避けられないとしても、周りには絶対知られたくなかった。
それは自分の為だけではなく、何の罪もない堅三郎の顔にまで泥を塗ることになる。
泣きたい気持ちを必死で振り払ってスマホを取り出した。

(ホテルに来いと言ってた。行って条件を詰めなくては…)
愛人契約なんて異常な申し出を仕事だと割り切ることは無理だけれど、どこかそうとでも思っていないと、足元から崩れてしまいそうだった。
それも一度は心から愛した男からの申し出。
藤堂と同じ年の瑠璃にはきつすぎる出来事と言えた。

(ホテルコンスタンシアヴィラージェ京都1365室…)
確か藤堂リゾートの持っている施設の一つ。
超豪華な内装と、一流の接客を得られると、この業界でも話題で。
傾きかけていた老舗ホテルを見事に再生したとしても話題となった。

(四時……)

瑠璃がスマホをじっと見つめる。
そして画面を切り替える。
そのソフトを起動するとまず暗証ロックを解除するパターンが現れる。
決められたパターンを入れると画面が切り替わってサムネイルがいっぱい出てくる。
その一つをポンと押す。
笑いあってる二人の自撮り。
今より少し長い拓馬の髪と。
今より幾分幼い顔立ち。
写真の彼は屈託なく微笑んでいる。

(…せやんな…この笑顔を凍らせたんは、うちなんや…)
望んでも無い拓馬を向いてない世界に引っ張り込もうとした。
自分に合わそうとした。

(あん時に是正出来たと思たんやけどなぁ……)
と、写真に視線を落とす。
あの時に時間を戻すことなんてもう二度と出来ない。
解ってても辛くなる。

(あかんわ。泣いてる場合やあれへん)
慌ててスマホの画面を消した。
明日からは戦いだと思った。
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