10 / 36
瑠璃の決心
しおりを挟む庭から歩いていく二人の後姿を廊下の窓から瑠璃がじっと見ていた。
見るつもりは無くて。
偶々偶然で。
でも二人は抱き合って、そしてキスしていて。
そして甘えて拗ねているような素振りの彼女を藤堂はあやしていて。
(恋人が居るんに…愛人契約せえて言わはったん?)
頭を殴られたような気になる。
(…そうやん。彼にとってはあっちが本命……うちとのことは復讐なんやさかい)
それでも、いよいよ彼のあの行動が復讐で、彼は自分を憎んでいると突きつけられた気がして、目の前が消えそうになる。
思わず壁にもたれかかった。
(あんまりやわ…)
堅三郎との結婚は確かに恋愛じゃなかった。
けど穏やかで不幸でも無かった。
互いに気心が知れていて。
安心できる相手で。
(拓馬に酷い事をしたのは解ってる………けどここ迄されなあかんの?)
泣きたくて仕方なくなる。
彼にとって自分がただの揶揄いとか見下すための対象でしかなくなったことが。
酷く惨めな気分を運んでくる。
(けど負けられへん…此処を護るために……)
そしてそこまで考えてハッとする。
(あ、そやわ…条件とか決めんと…それこそ三か月いうんは決まってても、何回とか秘密にすることとか一切決めてないわ)
愛人をやるのが避けられないとしても、周りには絶対知られたくなかった。
それは自分の為だけではなく、何の罪もない堅三郎の顔にまで泥を塗ることになる。
泣きたい気持ちを必死で振り払ってスマホを取り出した。
(ホテルに来いと言ってた。行って条件を詰めなくては…)
愛人契約なんて異常な申し出を仕事だと割り切ることは無理だけれど、どこかそうとでも思っていないと、足元から崩れてしまいそうだった。
それも一度は心から愛した男からの申し出。
藤堂と同じ年の瑠璃にはきつすぎる出来事と言えた。
(ホテルコンスタンシアヴィラージェ京都1365室…)
確か藤堂リゾートの持っている施設の一つ。
超豪華な内装と、一流の接客を得られると、この業界でも話題で。
傾きかけていた老舗ホテルを見事に再生したとしても話題となった。
(四時……)
瑠璃がスマホをじっと見つめる。
そして画面を切り替える。
そのソフトを起動するとまず暗証ロックを解除するパターンが現れる。
決められたパターンを入れると画面が切り替わってサムネイルがいっぱい出てくる。
その一つをポンと押す。
笑いあってる二人の自撮り。
今より少し長い拓馬の髪と。
今より幾分幼い顔立ち。
写真の彼は屈託なく微笑んでいる。
(…せやんな…この笑顔を凍らせたんは、うちなんや…)
望んでも無い拓馬を向いてない世界に引っ張り込もうとした。
自分に合わそうとした。
(あん時に是正出来たと思たんやけどなぁ……)
と、写真に視線を落とす。
あの時に時間を戻すことなんてもう二度と出来ない。
解ってても辛くなる。
(あかんわ。泣いてる場合やあれへん)
慌ててスマホの画面を消した。
明日からは戦いだと思った。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。


淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。
石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。
自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。
そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。
好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる