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真実の泉
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地下の階段にハイヒールの足音が響く。
ランタンを片手に掲げる美しい女性が歩いていた。銀髪を腰まで伸ばし、カラスの羽を上品に飾り付けたような黒いドレスに身を包んでいる。透き通るような色白の肌も、切れ長の青い瞳も、見る者を虜にするだろう。
そんな彼女であるが、地元では有名な悪逆女王である。
生まれつき強大な魔力を持ち、富も地位も国さえも自由にしてきた。
「この世の一番は私のものよ」
女王は誰にも聞かれることのない高笑いをあげていた。
階段に続くのは、石の壁であった。
一見すると行き止まりである。
しかし、女王は口の端を上げた。
「ちゃんと待っててくれたのね、私の可愛い真実の泉ちゃん」
女王が壁をなでると、グゴゴゴゴと鈍い音が聞こえ始める。
不思議な事が起こっていた。
壁がひとりでに開いたのだ。
開いた先には、泉があった。白い大理石の器に水が滴り落ちていた。
女王は軽い足取りで泉に近づく。
「真実の泉よ、おまえのお告げに救われたわ。この世のあらゆるものを手に入れたもの」
女王は泉をのぞき込む。当たり前だが、女王の美しい顔が映しこまれていた。
「きっとこの世のあらゆる美しさも手に入れたわ。試しに聞くけど、この世で最も美しい人間は誰?」
女王が問うと、真実の泉が揺らぎ始める。
渦を巻き、激しく吹きあがり、ひとりでに大理石の器に戻った。
「この方がこの世で最も美しい人間です」
泉が静かに映し出したのは、銀色の短髪と青い瞳の少女であった。
「これは、私の娘のマリア!?」
女王は怒り狂った。
顔は赤く、両目を吊り上げる。ランタンを床に投げつけて、髪をかきむしった。
「この私より美しい人間が存在するなんて許せない! すぐに死刑にしなければ!」
女王はずかずかと乱暴な足取りで泉を後にしようとした。
しかし、その背中に意外な言葉が投げかけられる。
「あなたを尊敬する最も美しい心の持ち主ですよ」
「え……?」
女王は冷静さを取り戻した。
一緒に絵本を読んだり、花壇を育てたり。娘のマリアと過ごした楽しい日々を思い出していた。
「……死刑にするかは様子見にするわ」
女王は末永く娘と幸せに暮らしましたとさ。
ランタンを片手に掲げる美しい女性が歩いていた。銀髪を腰まで伸ばし、カラスの羽を上品に飾り付けたような黒いドレスに身を包んでいる。透き通るような色白の肌も、切れ長の青い瞳も、見る者を虜にするだろう。
そんな彼女であるが、地元では有名な悪逆女王である。
生まれつき強大な魔力を持ち、富も地位も国さえも自由にしてきた。
「この世の一番は私のものよ」
女王は誰にも聞かれることのない高笑いをあげていた。
階段に続くのは、石の壁であった。
一見すると行き止まりである。
しかし、女王は口の端を上げた。
「ちゃんと待っててくれたのね、私の可愛い真実の泉ちゃん」
女王が壁をなでると、グゴゴゴゴと鈍い音が聞こえ始める。
不思議な事が起こっていた。
壁がひとりでに開いたのだ。
開いた先には、泉があった。白い大理石の器に水が滴り落ちていた。
女王は軽い足取りで泉に近づく。
「真実の泉よ、おまえのお告げに救われたわ。この世のあらゆるものを手に入れたもの」
女王は泉をのぞき込む。当たり前だが、女王の美しい顔が映しこまれていた。
「きっとこの世のあらゆる美しさも手に入れたわ。試しに聞くけど、この世で最も美しい人間は誰?」
女王が問うと、真実の泉が揺らぎ始める。
渦を巻き、激しく吹きあがり、ひとりでに大理石の器に戻った。
「この方がこの世で最も美しい人間です」
泉が静かに映し出したのは、銀色の短髪と青い瞳の少女であった。
「これは、私の娘のマリア!?」
女王は怒り狂った。
顔は赤く、両目を吊り上げる。ランタンを床に投げつけて、髪をかきむしった。
「この私より美しい人間が存在するなんて許せない! すぐに死刑にしなければ!」
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しかし、その背中に意外な言葉が投げかけられる。
「あなたを尊敬する最も美しい心の持ち主ですよ」
「え……?」
女王は冷静さを取り戻した。
一緒に絵本を読んだり、花壇を育てたり。娘のマリアと過ごした楽しい日々を思い出していた。
「……死刑にするかは様子見にするわ」
女王は末永く娘と幸せに暮らしましたとさ。
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