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本編
幕間~華麗なる東部地方担当者~
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東部地方の大半は、砂漠に覆われている。
朝早くから灼熱の太陽が照らし、夜は急激に冷え込む。人が住むには厳しい環境だ。
そんな東部地方にも、自然の恵みがある。恵みの最たるものがオアシスで、この付近に人は住んでいる。
かつてはクレシェンド王国の住民がオアシス付近にいたが、現在はリベリオン帝国の東部地方担当者の支配圏となっている。
東部地方担当者はシルバー・レイン。銀髪の縦ロールが特徴的な、快活な美少女だ。日頃は黒を基調とした、白いフリルとレースのついたドレスを身にまとっている。裾にヒダの付いた黒いドレスは、胸部分に大きな黄色いリボンがついている。
黄色いリボンの真ん中に、同色の薔薇のブローチが付いている。
彼女はローズ・マリオネットの一員だ。東部地方で最も大きな白いお屋敷に住んでいる。黒い厚底のブーツを履いたしなやかな足を組んで、ソファーでくつろいでいた。
「クリス、面白い話をしなさい」
柑橘系のジュースを飲みながら、隣に立つ男性に無茶ぶりをしていた。
執事のクリスは、困り果てた表情で頭を下げた。白髪を生やす穏やかな男性だ。
「申し訳ございません……シルバー様を満足させるようなお話はできません」
「私は暇な時間をどうすれば良いのかしら?」
シルバーはあっという間にジュースを飲み終えて、溜め息を吐いた。
「ダークからつまらない通達がくるし、困りますわ」
「ローズ・マリオネットはワールド・スピリットの使用を控えるようにという事でしたね。軍部の増強をはかるべきかもしれませんね」
「そうですわね。任せますわ」
シルバーがジュースを飲みほし、カラになったコップを別の執事が受け取り、片づけに行く。
シルバーは二ヤついた。
「まあ、ダークの通達なんて聞かなかった事にしますけどね」
「そ、そのような事をして大丈夫でしょうか?」
クリスはためらいがちに尋ねた。
シルバーはフフンと得意げに鼻を鳴らす。
「平気ですわ。だって、ワールド・スピリットの使用なんて四六時中監視していない限り分かりませんもの」
「使用中に連絡が入ってしまった時に、どのようなご対処をしましょうか?」
クリスは、暗にワールド・スピリットの使用をやめるべきだと言ったのだ。一度バレたら、どのような罰を与えられるのか分からない。
しかし、シルバーは小ばかにしたように笑った。
「ダークの言っている事が意味不明で全く分かりませんでした、と答えますわ。正当防衛で使用していたと付け加えれば怖いものなんてありませんわ」
「おそらくローズベル様もダーク様と同じお考えなのでしょうけど……」
「ローズベル様なら許してくださいますわ」
シルバーの言っている事に根拠はない。彼女がローズベルのお気に入りの一人なのは事実だが、限度はあるだろう。ダークだって恐ろしい男だ。
クリスにとって、怖いものだらけだ。しかし、口にはできなかった。
シルバーは、猛獣を大量に召喚できる。その猛獣はいずれも猛毒を体内に宿す。目を付けられれば猛獣のエサにされるか、猛毒に溶かされてしまう。
シルバーはソファーから降りて、歩き出す。
「水浴びをしますわ。クリス、昼食は早めに用意しなさい」
「承知しました」
クリスは恭しく礼をする。
シルバーが部屋から出ようとする。そんな時に、黒ずくめの男が血相を変えて走りこんできた。
「敵襲です! かなり大量です。おされております!」
「情けないですわね。なんのための軍部かしら?」
「申し訳ございません……」
黒ずくめの男は歯噛みした。
確かに軍部の任務に、防衛戦は含まれる。しかし、シルバーが様々な方面から怒りや恨みを買うせいで、任務達成は至難の業となっていた。
そんな事を口にすれば、殺されるのが目に見えているため何も言えないのだ。
クリスがそっと口を開く。
「偉大なるローズ・マリオネットのお力を拝ませていただきたいです」
「クリスが言うのなら仕方ありませんわ」
シルバーは露骨に溜め息を吐いたが、笑顔を見せる。
「このシルバー・レインが敵襲なんて簡単に蹴散らしますわ……あら?」
黄色い薔薇のブローチが、小刻みに揺れている。
誰かが連絡を取りたがっているのだ。
シルバーはブローチに触れる。
「どなたでしょうか?」
「シルバー、聞いてちょうだい。シリウスちゃんがすごいのよ!」
「ローズベル様!? ご機嫌麗しゅう」
シルバーは驚きこそしたが、すぐに笑顔を取り戻す。
ローズベルは憧れの女性だ。皇后と地方担当者という身分差のせいで、話す機会はほとんどないが、いつも尊敬している。
シルバーの表情が明るくなる。
「シリウス様がどれほどすごいのか、教えていただけますか?」
「賢くて礼儀正しくてかわいいの! 将来が楽しみだわ」
「きっとご両親のおかげですわ。さすがはルドルフ皇帝とローズベル様ですわ」
「私の事も褒めてくれるのね。嬉しいわ! そうそう、シリウスちゃんからのお達しは聞いているかしら?」
シルバーは言葉を詰まらせた。
ワールド・スピリットの使用を控えろというものだろう。ダークが言っていたが、言いつけを守るつもりはなかった。
どうにかして、かわしたい。
「えっと……何の事でしょうか?」
「あら、ダークが言ってくれなかったのかしら。ローズ・マリオネットは敵国に攻め込んではいけないというお話よ」
「そうですの!? 私たちにも関わりのあるご連絡でしたのね。ダークがやらかして、自重を求められたと思っておりましたわ!」
シルバーはわざと声を張り上げた。正しい連絡事項を聞いていなかったと思わせるためだ。
案の定ローズベルは溜め息を吐いていた。
「地方担当者としっかり連携をとってほしいわ。ダークにはよく言っておかないと」
「いえ、私から改めて聞いておきますわ」
ダークに連絡を取られたら、ダークがしっかり伝達をしていた事がバレるだろう。
シルバーは殊勝な心がけの地方担当者を演じているが、ダークの名誉を何度も貶めていた。
「中央部担当者と連携を取る事は、地方担当者の義務ですもの」
「立派な心がけね。頼りにしているわ」
ローズベルは安心したようだ。
シルバーの声は弾む。
「もちろんですわ! なんでもお任せください!」
「ありがとう。そうそう、シリウスちゃんはローズ・マリオネットのワールド・スピリットを怖がっていると思うの。使わないようにお願いね。いざという時には、あなたの可愛らしさでなんかしてね。それじゃあ」
ローズベルは安心して連絡を切ったようだ。
しかし、シルバーはしばらく呆けた。
「ワールド・スピリットを使わないようにですって……?」
「あの、敵襲がありますよね」
クリスは恐る恐る現状を告げた。
シルバーは悲鳴をあげた。
「私たちだけで対処なんてできませんわ! 早く増援を求めませんと!」
そう言って、黄色い薔薇のブローチに再び触れるのだった。
朝早くから灼熱の太陽が照らし、夜は急激に冷え込む。人が住むには厳しい環境だ。
そんな東部地方にも、自然の恵みがある。恵みの最たるものがオアシスで、この付近に人は住んでいる。
かつてはクレシェンド王国の住民がオアシス付近にいたが、現在はリベリオン帝国の東部地方担当者の支配圏となっている。
東部地方担当者はシルバー・レイン。銀髪の縦ロールが特徴的な、快活な美少女だ。日頃は黒を基調とした、白いフリルとレースのついたドレスを身にまとっている。裾にヒダの付いた黒いドレスは、胸部分に大きな黄色いリボンがついている。
黄色いリボンの真ん中に、同色の薔薇のブローチが付いている。
彼女はローズ・マリオネットの一員だ。東部地方で最も大きな白いお屋敷に住んでいる。黒い厚底のブーツを履いたしなやかな足を組んで、ソファーでくつろいでいた。
「クリス、面白い話をしなさい」
柑橘系のジュースを飲みながら、隣に立つ男性に無茶ぶりをしていた。
執事のクリスは、困り果てた表情で頭を下げた。白髪を生やす穏やかな男性だ。
「申し訳ございません……シルバー様を満足させるようなお話はできません」
「私は暇な時間をどうすれば良いのかしら?」
シルバーはあっという間にジュースを飲み終えて、溜め息を吐いた。
「ダークからつまらない通達がくるし、困りますわ」
「ローズ・マリオネットはワールド・スピリットの使用を控えるようにという事でしたね。軍部の増強をはかるべきかもしれませんね」
「そうですわね。任せますわ」
シルバーがジュースを飲みほし、カラになったコップを別の執事が受け取り、片づけに行く。
シルバーは二ヤついた。
「まあ、ダークの通達なんて聞かなかった事にしますけどね」
「そ、そのような事をして大丈夫でしょうか?」
クリスはためらいがちに尋ねた。
シルバーはフフンと得意げに鼻を鳴らす。
「平気ですわ。だって、ワールド・スピリットの使用なんて四六時中監視していない限り分かりませんもの」
「使用中に連絡が入ってしまった時に、どのようなご対処をしましょうか?」
クリスは、暗にワールド・スピリットの使用をやめるべきだと言ったのだ。一度バレたら、どのような罰を与えられるのか分からない。
しかし、シルバーは小ばかにしたように笑った。
「ダークの言っている事が意味不明で全く分かりませんでした、と答えますわ。正当防衛で使用していたと付け加えれば怖いものなんてありませんわ」
「おそらくローズベル様もダーク様と同じお考えなのでしょうけど……」
「ローズベル様なら許してくださいますわ」
シルバーの言っている事に根拠はない。彼女がローズベルのお気に入りの一人なのは事実だが、限度はあるだろう。ダークだって恐ろしい男だ。
クリスにとって、怖いものだらけだ。しかし、口にはできなかった。
シルバーは、猛獣を大量に召喚できる。その猛獣はいずれも猛毒を体内に宿す。目を付けられれば猛獣のエサにされるか、猛毒に溶かされてしまう。
シルバーはソファーから降りて、歩き出す。
「水浴びをしますわ。クリス、昼食は早めに用意しなさい」
「承知しました」
クリスは恭しく礼をする。
シルバーが部屋から出ようとする。そんな時に、黒ずくめの男が血相を変えて走りこんできた。
「敵襲です! かなり大量です。おされております!」
「情けないですわね。なんのための軍部かしら?」
「申し訳ございません……」
黒ずくめの男は歯噛みした。
確かに軍部の任務に、防衛戦は含まれる。しかし、シルバーが様々な方面から怒りや恨みを買うせいで、任務達成は至難の業となっていた。
そんな事を口にすれば、殺されるのが目に見えているため何も言えないのだ。
クリスがそっと口を開く。
「偉大なるローズ・マリオネットのお力を拝ませていただきたいです」
「クリスが言うのなら仕方ありませんわ」
シルバーは露骨に溜め息を吐いたが、笑顔を見せる。
「このシルバー・レインが敵襲なんて簡単に蹴散らしますわ……あら?」
黄色い薔薇のブローチが、小刻みに揺れている。
誰かが連絡を取りたがっているのだ。
シルバーはブローチに触れる。
「どなたでしょうか?」
「シルバー、聞いてちょうだい。シリウスちゃんがすごいのよ!」
「ローズベル様!? ご機嫌麗しゅう」
シルバーは驚きこそしたが、すぐに笑顔を取り戻す。
ローズベルは憧れの女性だ。皇后と地方担当者という身分差のせいで、話す機会はほとんどないが、いつも尊敬している。
シルバーの表情が明るくなる。
「シリウス様がどれほどすごいのか、教えていただけますか?」
「賢くて礼儀正しくてかわいいの! 将来が楽しみだわ」
「きっとご両親のおかげですわ。さすがはルドルフ皇帝とローズベル様ですわ」
「私の事も褒めてくれるのね。嬉しいわ! そうそう、シリウスちゃんからのお達しは聞いているかしら?」
シルバーは言葉を詰まらせた。
ワールド・スピリットの使用を控えろというものだろう。ダークが言っていたが、言いつけを守るつもりはなかった。
どうにかして、かわしたい。
「えっと……何の事でしょうか?」
「あら、ダークが言ってくれなかったのかしら。ローズ・マリオネットは敵国に攻め込んではいけないというお話よ」
「そうですの!? 私たちにも関わりのあるご連絡でしたのね。ダークがやらかして、自重を求められたと思っておりましたわ!」
シルバーはわざと声を張り上げた。正しい連絡事項を聞いていなかったと思わせるためだ。
案の定ローズベルは溜め息を吐いていた。
「地方担当者としっかり連携をとってほしいわ。ダークにはよく言っておかないと」
「いえ、私から改めて聞いておきますわ」
ダークに連絡を取られたら、ダークがしっかり伝達をしていた事がバレるだろう。
シルバーは殊勝な心がけの地方担当者を演じているが、ダークの名誉を何度も貶めていた。
「中央部担当者と連携を取る事は、地方担当者の義務ですもの」
「立派な心がけね。頼りにしているわ」
ローズベルは安心したようだ。
シルバーの声は弾む。
「もちろんですわ! なんでもお任せください!」
「ありがとう。そうそう、シリウスちゃんはローズ・マリオネットのワールド・スピリットを怖がっていると思うの。使わないようにお願いね。いざという時には、あなたの可愛らしさでなんかしてね。それじゃあ」
ローズベルは安心して連絡を切ったようだ。
しかし、シルバーはしばらく呆けた。
「ワールド・スピリットを使わないようにですって……?」
「あの、敵襲がありますよね」
クリスは恐る恐る現状を告げた。
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