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仕事終わりに
心にしみる
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操作室に戻った梨花は、隅っこで正座していた。
「ううう、いろいろすみません」
「また何かあったのか?」
「ううう、ごめんね」
樹が心配そうに声を掛けるが、梨花は泣いて謝るだけだった。
技師長から借りていた分のお金をテーブルの上に置いた後は、やる事がない。やれる事がないと思うと辛くなっていた。
拭いても拭いても涙が流れ落ちる。涙が流れるからますます泣けてくる。
「私って本当に迷惑かけてばかりでどうしようもないわ」
「そんな事はないと思う。今までも頑張ってきただろう」
樹がぶっきらぼうな口調で温かい言葉を掛ける。
しかし、梨花は乾いた笑いを浮かべた。
「気持ちは嬉しいけど、もう本当にダメよ。光輝君にだって迷惑を掛けたし」
「そんな事はないよ! 僕は梨花がいてとても助かった!」
爽やかな声が聞こえた。
小窓から光輝が片手を振っていた。
「あの場で迷惑を被ったのは技師長だけだと思うよ」
「ううう、光輝君のお母さんの血液を無駄にしたわ」
「無駄じゃないよ! 挑戦したから失敗したんだ。母さんに話したら笑っていたし」
「……やっぱりダメだと思うわ」
梨花はうつむき、溜め息を吐いた。
「元気出して。梨花がそんな顔をしていたって誰も喜ばないよ」
光輝が操作室に入ってきていた。梨花の腕を引っ張って立たせる。
「女の子は笑顔が一番。梨花は梨花のままでいいんだよ」
「……素の私は暗くてどうしようもない人間よ。どんなに頑張っても結果が出せないの」
「大丈夫だよ。仮に梨花自身が思う通りの結果が出せなくても周りは助かっているから」
光輝の微笑みは優しい。
じんわりと心にしみる。
「ありがとう、光輝君は救いの神ね」
「まだまだだよ。もっと頑張らないと。たまにはさぼるだろうけど」
光輝はいたずらっぽく舌を出した。
梨花は首を傾げた。
「さぼる事があるの?」
「ずっとエンジンを掛けっぱなしだとエネルギー切れを起こすから、たまには休まないと。そうそう、一緒に夕飯を食べに行かない? 母さんから行っていいよと言われたんだけど」
突然の提案に梨花は両目を見開いた。
「いいの!?」
「うん、母さんは病院食が出るから。梨花が良ければ喫茶店に行きたいな」
「そういえば、スマホを探してくれたお礼がまだだったわ」
「じゃあ決まりだね! 病院の入り口で待っているよ」
光輝は笑顔で手を振る。爽やかな風をまとっているように思えた。
梨花も手を振り返した。なんとなく気持ちは上向きになっていた。
「ううう、いろいろすみません」
「また何かあったのか?」
「ううう、ごめんね」
樹が心配そうに声を掛けるが、梨花は泣いて謝るだけだった。
技師長から借りていた分のお金をテーブルの上に置いた後は、やる事がない。やれる事がないと思うと辛くなっていた。
拭いても拭いても涙が流れ落ちる。涙が流れるからますます泣けてくる。
「私って本当に迷惑かけてばかりでどうしようもないわ」
「そんな事はないと思う。今までも頑張ってきただろう」
樹がぶっきらぼうな口調で温かい言葉を掛ける。
しかし、梨花は乾いた笑いを浮かべた。
「気持ちは嬉しいけど、もう本当にダメよ。光輝君にだって迷惑を掛けたし」
「そんな事はないよ! 僕は梨花がいてとても助かった!」
爽やかな声が聞こえた。
小窓から光輝が片手を振っていた。
「あの場で迷惑を被ったのは技師長だけだと思うよ」
「ううう、光輝君のお母さんの血液を無駄にしたわ」
「無駄じゃないよ! 挑戦したから失敗したんだ。母さんに話したら笑っていたし」
「……やっぱりダメだと思うわ」
梨花はうつむき、溜め息を吐いた。
「元気出して。梨花がそんな顔をしていたって誰も喜ばないよ」
光輝が操作室に入ってきていた。梨花の腕を引っ張って立たせる。
「女の子は笑顔が一番。梨花は梨花のままでいいんだよ」
「……素の私は暗くてどうしようもない人間よ。どんなに頑張っても結果が出せないの」
「大丈夫だよ。仮に梨花自身が思う通りの結果が出せなくても周りは助かっているから」
光輝の微笑みは優しい。
じんわりと心にしみる。
「ありがとう、光輝君は救いの神ね」
「まだまだだよ。もっと頑張らないと。たまにはさぼるだろうけど」
光輝はいたずらっぽく舌を出した。
梨花は首を傾げた。
「さぼる事があるの?」
「ずっとエンジンを掛けっぱなしだとエネルギー切れを起こすから、たまには休まないと。そうそう、一緒に夕飯を食べに行かない? 母さんから行っていいよと言われたんだけど」
突然の提案に梨花は両目を見開いた。
「いいの!?」
「うん、母さんは病院食が出るから。梨花が良ければ喫茶店に行きたいな」
「そういえば、スマホを探してくれたお礼がまだだったわ」
「じゃあ決まりだね! 病院の入り口で待っているよ」
光輝は笑顔で手を振る。爽やかな風をまとっているように思えた。
梨花も手を振り返した。なんとなく気持ちは上向きになっていた。
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