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手術室!?

頑張りたいけれど

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 壁時計の針はどんどん進む。
 遠くからいろんな人の慌しい足音が聞こえる気がしていた。
 梨花がぼーっと立っている間にも、病院はせわしなく動き続けている。
「……私も何かしないと」
 技師長が手術室に行けと言っていた。
 おそらく超音波検査を見学させる余裕はなかったのだろう。
 手術室に行った方が学べるものがあると思ったのだろう。
「頑張らないと」
 少しでも何かを覚えようと思った。
 廊下に出る。どんどん歩く。
 しかし、すぐに足が止まる。
「そういえば手術室はどこ?」
 病院の見取り図は持っていない。
 しかし、検査室にいてもたどり着けないのは分かりきっていた。
 職員の誰かに会って尋ねればいいだろう。
 二階に行けば確実に看護師がいる。
 梨花は階段をのぼってナースステーションに向かった。
 
 
 ナースステーションはてんやわんやだ。
 点滴やらモニターやら書類やら、梨花には全く処理できないものが管理されている。
 それらを扱いながら、看護師たちはあちこちに行ったり来たりしていた。
 音楽が鳴ったと思ったら病室に行く看護師もいる。ナースコールにも対応しているのだろう。
 梨花は自分が場違いだと感じた。
 しかし、手術室の場所を尋ねなければならない。
 梨花は意を決して口を開く。
「あ、あの……」
「どいて!」
 あっさり切り捨てられた。
 梨花はすごすごとナースステーションを離れた。
 手術室を自力で捜す事にした。
 とぼとぼと歩く途中で溜め息が出る。
 早くたどり着かないといけないと考える義務感と、まだ何もできない自分の無力さがないまぜになっていた。
「樹君から自分を卑下するのをやめるように言われたけど、難しいわ……」
 どうしても自信が持てない。
 明人の異常画像に気付いたとはいえ、セッティングをしたのは技師長だ。一人では何もできない。

「……みんなはどうしてあんなに頑張れるのかしら」

 天井を見上げる。光輝の爽やかな声と笑顔を思い出す。じんわりと涙が出そうになっていた。
 技師長は、光輝は不慣れな事を頑張っていると言っていた。
「光輝君は何を考えているのかな」
 そう呟いて、再び溜め息が出た。
 通路を見つける。
 非常に静かだ。
 梨花は通路の壁に背中を付ける。
「……落ち着くわ」
 思えば昨日も今日も忙しかった。
 少しくらい気持ちを落ち着けてもバチは当たらないだろう。
 ゆっくりと呼吸ができるのが久しぶりである。
 しかし、梨花は見つけてしまう。

 通路の先は扉がある。

 その扉の上には、手術室と書かれていた。
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