29 / 51
新たに覚える事
頑張る!
しおりを挟む
光輝と話していると職場に着くのはあっという間だった。
「もう着いちゃった」
梨花が残念そうに言うと、光輝も溜め息を吐いた。
「会話をしていると早いね。時間が経つのを忘れたよ」
「そうだね、楽しかったね!」
梨花が笑顔を見せると、光輝はいぶかしげに首を傾げた。
「本当に楽しかった? 僕が勉強した内容を語っただけだった気がするけど」
「そ、それはそうだけど……光輝君の熱心さが分かって良かったわ」
「そんなに良い事を言ったっけ?」
光輝がとぼけた口調になると、梨花は思わず笑ってしまった。
「未来の患者さんのために頑張りたいとか言っていたでしょ」
「ああ、そういえば! 梨花の前だとついつい熱くなる」
光輝は頬を赤らめながら頭をかいていた。照れ隠しだろう。
「日頃語る場がないのもあるけど、自分の気持ちを口にできて嬉しかったんだ。ありがとう」
「こちらこそ、いろいろ教えてくれてありがとう。またお話したいわ」
「そうだね。一緒に喫茶店に行きたいし!」
思わず笑いがこみあげたのは同時だった。
互いに相手が笑うから、さらに幸せな気持ちになる。
しかし、仕事の事を忘れてはいけないだろう。
「じゃあね、梨花。今日は泣かされないようにね」
「う、うん。頑張る!」
光輝は爽やかな笑顔で、梨花は耳まで真っ赤になりながら、病院の出入り口で手を振って互いの持ち場に行く。
時間に余裕を持って出発したつもりだったが、更衣室の時計を見ると、始業時間までギリギリだ。
慌てて着替えてMRI検査室に行くと、すでに樹と技師長がいた。
樹は椅子に座り、技師長はMRI操作画面の前に座っていた。
梨花は荒い息でMRI検査室の時計を見る。
「なんとか間に合いましたか!?」
「俺に聞くな」
技師長がつっけんどんに言った。
「昨日は遅刻して、今日もギリギリで。社会人としての自覚があるのか疑う」
「す、すみません」
「それと、昨日俺が貸したおやつ代は払ってもらえるのか?」
「あ……」
梨花は呆然とした。
昨日の昼休憩時はご飯が食べられなかった。技師長の特別な厚意でコンビニに行って抹茶ティラミスを買う事ができたのだ。
その時におごりじゃないと言われたが、すっかり忘れていた。
「……お昼休みの時に渡してもいいですか?」
「また忘れないか?」
「えっと……」
梨花はどもった。
忘れない自信は無かった。
困り果てていると、樹が紙キレとペンを差し出す。
「覚えるのが大変ならメモを取ればいいと思う」
「ありがとう!」
梨花は紙キレにでかでかとおやつ代を返す! と書き込んだ。
「これはこれで恥ずかしいな」
技師長は溜め息を吐く。
「朝から異常所見が見つかるし、最悪だ」
「異常所見だったのですね!」
樹が立ち上がって画面を凝視する。
梨花も黒縁眼鏡を整えて画面を見た。
そこには、血管の画像が出ていた。前大脳動脈が上部に描出される角度で表示されていた。前大脳動脈から徐々に下方を見ていくと、横には左右に中大脳動脈が広がり、縦には左右それぞれの内頚動脈につながっている。左右の内頚動脈の間に脳底動脈がある。脳底動脈は枝分かれしている。
画像を凝視すると、枝分かれした右側に膨らみがあった。
「椎骨動脈ね。光輝君が教えてくれたわ」
梨花は手に汗を握りながら膨らみを見つめた。
「もう着いちゃった」
梨花が残念そうに言うと、光輝も溜め息を吐いた。
「会話をしていると早いね。時間が経つのを忘れたよ」
「そうだね、楽しかったね!」
梨花が笑顔を見せると、光輝はいぶかしげに首を傾げた。
「本当に楽しかった? 僕が勉強した内容を語っただけだった気がするけど」
「そ、それはそうだけど……光輝君の熱心さが分かって良かったわ」
「そんなに良い事を言ったっけ?」
光輝がとぼけた口調になると、梨花は思わず笑ってしまった。
「未来の患者さんのために頑張りたいとか言っていたでしょ」
「ああ、そういえば! 梨花の前だとついつい熱くなる」
光輝は頬を赤らめながら頭をかいていた。照れ隠しだろう。
「日頃語る場がないのもあるけど、自分の気持ちを口にできて嬉しかったんだ。ありがとう」
「こちらこそ、いろいろ教えてくれてありがとう。またお話したいわ」
「そうだね。一緒に喫茶店に行きたいし!」
思わず笑いがこみあげたのは同時だった。
互いに相手が笑うから、さらに幸せな気持ちになる。
しかし、仕事の事を忘れてはいけないだろう。
「じゃあね、梨花。今日は泣かされないようにね」
「う、うん。頑張る!」
光輝は爽やかな笑顔で、梨花は耳まで真っ赤になりながら、病院の出入り口で手を振って互いの持ち場に行く。
時間に余裕を持って出発したつもりだったが、更衣室の時計を見ると、始業時間までギリギリだ。
慌てて着替えてMRI検査室に行くと、すでに樹と技師長がいた。
樹は椅子に座り、技師長はMRI操作画面の前に座っていた。
梨花は荒い息でMRI検査室の時計を見る。
「なんとか間に合いましたか!?」
「俺に聞くな」
技師長がつっけんどんに言った。
「昨日は遅刻して、今日もギリギリで。社会人としての自覚があるのか疑う」
「す、すみません」
「それと、昨日俺が貸したおやつ代は払ってもらえるのか?」
「あ……」
梨花は呆然とした。
昨日の昼休憩時はご飯が食べられなかった。技師長の特別な厚意でコンビニに行って抹茶ティラミスを買う事ができたのだ。
その時におごりじゃないと言われたが、すっかり忘れていた。
「……お昼休みの時に渡してもいいですか?」
「また忘れないか?」
「えっと……」
梨花はどもった。
忘れない自信は無かった。
困り果てていると、樹が紙キレとペンを差し出す。
「覚えるのが大変ならメモを取ればいいと思う」
「ありがとう!」
梨花は紙キレにでかでかとおやつ代を返す! と書き込んだ。
「これはこれで恥ずかしいな」
技師長は溜め息を吐く。
「朝から異常所見が見つかるし、最悪だ」
「異常所見だったのですね!」
樹が立ち上がって画面を凝視する。
梨花も黒縁眼鏡を整えて画面を見た。
そこには、血管の画像が出ていた。前大脳動脈が上部に描出される角度で表示されていた。前大脳動脈から徐々に下方を見ていくと、横には左右に中大脳動脈が広がり、縦には左右それぞれの内頚動脈につながっている。左右の内頚動脈の間に脳底動脈がある。脳底動脈は枝分かれしている。
画像を凝視すると、枝分かれした右側に膨らみがあった。
「椎骨動脈ね。光輝君が教えてくれたわ」
梨花は手に汗を握りながら膨らみを見つめた。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
タケノコドン
黒騎士
大衆娯楽
七夕の夜の奇跡 願い 怨念
大地を割り現れた巨大怪獣が日本を席巻する その目的は人類根絶か世界の破滅か、それとも…
とあるYouTubeチャンネルから生まれたマスコット怪獣を元にした創作群像劇三部作――始まります!
近所のサンタさん
しらすしらず
大衆娯楽
しらすしらずです!クリスマス短編小説を書きました!働く社会人にとってクリスマスは特別感が少ない!というところを題材にしたほっこりする話です。社会人とサンタさんというあまり絡みそうにない人間が出会う3日間の物語となっています。登場人物は、主人公の隆也(たかや)と後輩の篠川(しのかわ)君、そして近所のサンタさんと呼ばれる人物です。隆也は忙しい日々を送る会社員で、クリスマスの季節になると特別な雰囲気を感じつつも、少し孤独を感じていました。そんな隆也の通勤路には、「近所のサンタさん」と呼ばれるボランティアで子供たちにプレゼントを配る男性がいます。ある日、偶然電車内で「近所のサンタさん」と出会い近所のクリスマスイベントのチケットをもらいます。しかし、隆也は仕事が忙しくなって行くことができませんでした。そんな隆也がゆっくりとほっこりするハッピーエンドに向かっていきます。
本当はクリスマス前に書き上げたかったんですけどねー、間に合わなかった!
恥ずかしながらこれが初めて最後まで書き上げることができた作品なので、ところどころおかしなところがあるかもしれません。
この作品で皆さんが少しでもほっこりしていただけたら嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる