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帰り道
温かな優しさ
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梨花は震える手で急ぎ番号をタップする。
通話画面になる。
すぐに目的の人物につながった。
「もしもし? 見つかったのか!」
光輝の声は生き生きとしていた。
心底嬉しそうである。
ビュービューという風の音も聞こえる。まだ家に帰っていないのだろう。
梨花は床にへたり込む。申し訳ない気持ちが強すぎて涙ぐんだ。
「本当にごめん、家にあったの。どうお詫びをすればいいのか分からないわ」
「気にしないで。見つかって良かったよ!」
光輝がケラケラと笑う声が聞こえる。
「また泣いているね。大丈夫?」
「うう、ごめん」
梨花は片腕でまぶたを拭くが、声が震えるのはどうしようもなかった。
「今度何かをおごるね」
「本当に!? 梨花と一緒にどこかに行けるのなら嬉しいな」
光輝の声が弾んでいる。
梨花まで嬉しくなった。
「喜んでもらえるものがいいわ」
「じゃあ、お気に入りの喫茶店があるから一緒に行こうか。めちゃくちゃ美味しいんだ!」
「うん、分かった」
梨花は安堵した。
借りはすぐに返せそうだ。
電話の向こうでただいまーという声がした。光輝が家に帰ったようだ。
「そろそろ切るね。明日もよろしく! お互いに遅刻しないようにね」
「うん、よろしく!」
梨花は思わず笑ってしまう。ようやく笑顔が戻っていた。
電話を切ると同時に、まだ温かいスマホを胸に押し当てる。
天井を見上げると、ゆったりと溜め息が出た。
「光輝君は温かくて本当に優しい」
しかし、その優しさに甘えてばかりいてはいけないだろう。
迷惑を掛けているからこそ、できる事をしたい。
光輝からもらった血管のプリントと技師長が書いてくれた慢性硬膜下血腫と書かれたメモを取り出して、決意を新たにする。
私にはやるべき事がある。立派な臨床検査技師になって、恩返しをするんだ!
心の中で誓い、血管のプリントから見つめる。
光輝が太い血管にマーカーを引いてくれてある。
しかし、梨花には難解に思えた。
前大脳動脈、中大脳動脈、後大脳動脈、脳底動脈、椎骨動脈、内頚動脈など呪文のような言葉が並ぶ。そのうえ、ウィリス動脈輪という文字が書き加えられている。他にももっと細い血管がいくつも描かれている。各名称にはそれぞれ英字が併記されているがお手上げ状態だ。
「目、目が回る~」
梨花はどうっと布団に倒れこんだ。
「……明日に光輝君から教えてもらうしかないわ」
そう呟いて慢性硬膜下血腫について調べようとするが、めまいと疲れがたたってそのまま深い眠りに落ちてしまった。
通話画面になる。
すぐに目的の人物につながった。
「もしもし? 見つかったのか!」
光輝の声は生き生きとしていた。
心底嬉しそうである。
ビュービューという風の音も聞こえる。まだ家に帰っていないのだろう。
梨花は床にへたり込む。申し訳ない気持ちが強すぎて涙ぐんだ。
「本当にごめん、家にあったの。どうお詫びをすればいいのか分からないわ」
「気にしないで。見つかって良かったよ!」
光輝がケラケラと笑う声が聞こえる。
「また泣いているね。大丈夫?」
「うう、ごめん」
梨花は片腕でまぶたを拭くが、声が震えるのはどうしようもなかった。
「今度何かをおごるね」
「本当に!? 梨花と一緒にどこかに行けるのなら嬉しいな」
光輝の声が弾んでいる。
梨花まで嬉しくなった。
「喜んでもらえるものがいいわ」
「じゃあ、お気に入りの喫茶店があるから一緒に行こうか。めちゃくちゃ美味しいんだ!」
「うん、分かった」
梨花は安堵した。
借りはすぐに返せそうだ。
電話の向こうでただいまーという声がした。光輝が家に帰ったようだ。
「そろそろ切るね。明日もよろしく! お互いに遅刻しないようにね」
「うん、よろしく!」
梨花は思わず笑ってしまう。ようやく笑顔が戻っていた。
電話を切ると同時に、まだ温かいスマホを胸に押し当てる。
天井を見上げると、ゆったりと溜め息が出た。
「光輝君は温かくて本当に優しい」
しかし、その優しさに甘えてばかりいてはいけないだろう。
迷惑を掛けているからこそ、できる事をしたい。
光輝からもらった血管のプリントと技師長が書いてくれた慢性硬膜下血腫と書かれたメモを取り出して、決意を新たにする。
私にはやるべき事がある。立派な臨床検査技師になって、恩返しをするんだ!
心の中で誓い、血管のプリントから見つめる。
光輝が太い血管にマーカーを引いてくれてある。
しかし、梨花には難解に思えた。
前大脳動脈、中大脳動脈、後大脳動脈、脳底動脈、椎骨動脈、内頚動脈など呪文のような言葉が並ぶ。そのうえ、ウィリス動脈輪という文字が書き加えられている。他にももっと細い血管がいくつも描かれている。各名称にはそれぞれ英字が併記されているがお手上げ状態だ。
「目、目が回る~」
梨花はどうっと布団に倒れこんだ。
「……明日に光輝君から教えてもらうしかないわ」
そう呟いて慢性硬膜下血腫について調べようとするが、めまいと疲れがたたってそのまま深い眠りに落ちてしまった。
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