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休憩へ
やっと休憩、だが!
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階段を上ってドアを開けると、ナースステーションがある。ドアの隙間から覗き見ると、看護師たちが慌ただしく行き来していた。点滴や生体情報モニターなど、梨花には扱えないものが並んでいた。
梨花は戸惑った。休憩所に行きたい自分は、場違いである。
「お、おじゃましましたー……」
そう言いつつ、ドアを閉めようとした時だ。
技師長に呼び止められる。
「梨花さん、まだ休憩に行っていなかったのか!」
梨花は両肩をビクッと震わせる。自分が何か悪い事をしたかのような、バツの悪さを感じる。
「す、すみません」
「休憩所はこの先にある。おかずもご飯もセルフサービスになっているから、取り忘れないように!」
「は、はい!」
本当にここを通っていいの? などと思ったが勢いに押されて通ることにした。
両足をガクガクさせながら、一歩ずつ進む。慎重に、周りに気を配りながら。
病室から出てきた患者さんに心配されたが、梨花は引きつった笑顔を浮かべて会釈しながら通り過ぎる。
休憩所は思いの外広かった。天井は高く、清潔感がある。幾つもの白い長机に向かって椅子が並ぶ。
天井に設置された固定具には、テレビが付けられている。誰にも邪魔にならない位置だ。
簡素なデザインだが、なんとなく落ち着ける。
梨花はようやく安堵の溜め息を吐いた。
「疲れた……」
思わず机につっぷす。一気に疲れが押し寄せてきた。
思えば、長い半日であった。遅刻寸前だったために全力で走ったし(結局は遅刻したが)、今まで触れた事のないMRIを一人で操作した。疲れない方がおかしい。
少しくらい寝てもいいか。誰が禁止しても、私が許す。
梨花は自分を甘やかして、眠りに落ちた。夢も見ないほど深い眠りであった。
そして時が経ち。
梨花は自分のお腹が鳴る音で目が覚めた。
「ご飯食べなきゃ……」
黒縁メガネを引き上げ、重いまぶたをこする。休憩所は梨花一人だ。
ふと、電話が鳴る。梨花はだるい身体に鞭打って、受話器を取る。
「もしもし、梨花です」
「梨花さん、まだ休憩していたのか!? いつ戻るつもりだ」
技師長だ。口調が荒らい。怒っているのは明白だ。
私、ご飯まだなんですけど……。
そう言いたいが、文句を言ったらますます怒るだろう。
梨花は努めて冷静な口調になる。
「ご飯を食べたら戻ります」
「まだ待たせるのか!? 呆れた!」
そして、電話は切られた。
梨花は何を怒られているのか分からなかった。少し寝ただけなのにと思いつつ、壁に備え付けられた時計を見る。
時計の針は、梨花が休憩室に来てから二時間進んでいた。
「この時計は壊れているのかしら」
梨花は眠たい目をこすってテレビの時間を確認する。
時計と一緒の時刻を示していた。
「私は二時間も寝てしまったの……?」
休憩をどれくらい取っていいかは聞かされていなかったが、同僚の樹が休憩を取れていないのだから、限度があるだろう。
血の気が引き、一気に目が覚めた。
「うそぉぉおおおお!」
梨花は絶叫して、休憩室を走って出た。
梨花は戸惑った。休憩所に行きたい自分は、場違いである。
「お、おじゃましましたー……」
そう言いつつ、ドアを閉めようとした時だ。
技師長に呼び止められる。
「梨花さん、まだ休憩に行っていなかったのか!」
梨花は両肩をビクッと震わせる。自分が何か悪い事をしたかのような、バツの悪さを感じる。
「す、すみません」
「休憩所はこの先にある。おかずもご飯もセルフサービスになっているから、取り忘れないように!」
「は、はい!」
本当にここを通っていいの? などと思ったが勢いに押されて通ることにした。
両足をガクガクさせながら、一歩ずつ進む。慎重に、周りに気を配りながら。
病室から出てきた患者さんに心配されたが、梨花は引きつった笑顔を浮かべて会釈しながら通り過ぎる。
休憩所は思いの外広かった。天井は高く、清潔感がある。幾つもの白い長机に向かって椅子が並ぶ。
天井に設置された固定具には、テレビが付けられている。誰にも邪魔にならない位置だ。
簡素なデザインだが、なんとなく落ち着ける。
梨花はようやく安堵の溜め息を吐いた。
「疲れた……」
思わず机につっぷす。一気に疲れが押し寄せてきた。
思えば、長い半日であった。遅刻寸前だったために全力で走ったし(結局は遅刻したが)、今まで触れた事のないMRIを一人で操作した。疲れない方がおかしい。
少しくらい寝てもいいか。誰が禁止しても、私が許す。
梨花は自分を甘やかして、眠りに落ちた。夢も見ないほど深い眠りであった。
そして時が経ち。
梨花は自分のお腹が鳴る音で目が覚めた。
「ご飯食べなきゃ……」
黒縁メガネを引き上げ、重いまぶたをこする。休憩所は梨花一人だ。
ふと、電話が鳴る。梨花はだるい身体に鞭打って、受話器を取る。
「もしもし、梨花です」
「梨花さん、まだ休憩していたのか!? いつ戻るつもりだ」
技師長だ。口調が荒らい。怒っているのは明白だ。
私、ご飯まだなんですけど……。
そう言いたいが、文句を言ったらますます怒るだろう。
梨花は努めて冷静な口調になる。
「ご飯を食べたら戻ります」
「まだ待たせるのか!? 呆れた!」
そして、電話は切られた。
梨花は何を怒られているのか分からなかった。少し寝ただけなのにと思いつつ、壁に備え付けられた時計を見る。
時計の針は、梨花が休憩室に来てから二時間進んでいた。
「この時計は壊れているのかしら」
梨花は眠たい目をこすってテレビの時間を確認する。
時計と一緒の時刻を示していた。
「私は二時間も寝てしまったの……?」
休憩をどれくらい取っていいかは聞かされていなかったが、同僚の樹が休憩を取れていないのだから、限度があるだろう。
血の気が引き、一気に目が覚めた。
「うそぉぉおおおお!」
梨花は絶叫して、休憩室を走って出た。
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