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休憩へ
安堵の溜め息
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折悪しく、電話が鳴る。
樹は電話を取る気がないらしい。MRI画面とメモをせわしなく交互に見ている。
仕方なく梨花が受話器を耳に当てる。
「もしもし、勝河です」
「手術室の光輝です。技師長から伝言です。どちらかお昼休憩を取っておいてください……あれ、何か鳴ってるね」
「うん……」
梨花は半泣きになりながら頷いた。
光輝の声は優しくて、心にしみる。
「MRIを止めた方がいいんじゃないかな。ほら、山田太郎様がブザーを鳴らした時の音だよね」
梨花はハッとした。
山田太郎とは現在MRIで検査を受けている患者さんだ。検査を受ける前にわざとブザーが鳴るかを確認していた。
思い出してみれば、その時と同じ音が鳴っている。
「ありがとう、すぐに止めるね!」
「はーい」
梨花が受話器を置いた頃には、樹はMRIを止めていた。
音が止む。
樹は太郎の元まで行く。そして、声を掛けている。
「大丈夫ですか!?」
「おーい、いつ終わるんだ!? 随分経ったが」
声から察すると、太郎は不機嫌だ。
樹が応対する。
「あと十分くらいです!」
「おーい勘弁してくれー。どれくらい掛かるんだ」
「十分です!」
「困るぞ、どうなんだ!?」
樹が苦笑いしてMRI検査室から出てきた。
「会話が通じない。俺はそんなに怒らせる事をしたのか?」
「気のいいおじいさんだと思ったけど……」
「どうすればいいのだろう……」
樹はうなる。かなり困っているようだ。
梨花は考えた。
太郎の準備をしていた時の事を思い出す。会話が通じず、梨花も苦労した覚えがある。
困っていると、光輝に助けられた。
「光輝君、何て言ってたっけ……」
あの時の光輝のマネごとをしてみる。
「ぱんつだけ、これ着てと言ってて……えっと……」
急に一人芝居を始める梨花を、樹は首を傾げて見ていた。
この時に、梨花は思い出した。
「そうだ、補聴器!」
太郎は補聴器を付けていた。今は外している。耳が聞こえないはずだ。
樹にその事を伝えると、樹はMRI台を外に出すボタンを押した。
梨花は一旦MRI検査室から出て、紙とペンを捜す。
テーブルの上に幾つかあるが、どれを使っていいのか分からない。
「おい、どうなんだー!?」
太郎が怒号を飛ばす。
「俺のペンとメモを使ってくれ!」
樹の声が聞こえた。
樹君、ごめんね!
梨花は樹のペンを手に取り、メモ帳に書き込む。
その後は急いでMRI台に近づいた。
あと十分! とデカデカと書いたメモを見せた。太郎は指でOKサインを作った。伝わったらしい。
再びMRI検査を再開する。
「気のいいおじいさんで良かった」
樹の呟きに、梨花は頷いた。
「ごめんね、患者さんに時間を伝えていなかったから……あと、メモ帳も」
「気にしてもしょうがない。今度から気をつけよう。そういえば、電話はなんて?」
樹の口調はぶっきらぼうだが、光輝と違った優しさがある。
梨花は思わず、安堵の溜め息が出る。ようやく落ち着けた。
「技師長から伝言だって。私と樹君のどちらかはお昼休憩取ってと」
「梨花が行け。疲れただろ」
「樹君も疲れてるでしょ」
梨花が言うと、二人で笑った。
梨花は樹に御礼を言って、休憩所に向かう。
しかし、すぐに戻った。
「ねぇ、樹君。休憩所ってどこ?」
遅刻した梨花は職場の案内を受けていない。至極当然の質問であった。
樹は空いた口が塞がらない様子であったが、知らないものは仕方ない。教えてもらうしかない。
「二階に行けば分かると思う」
「ありがとう!」
梨花は意気揚々と操作室を後にした。
樹は電話を取る気がないらしい。MRI画面とメモをせわしなく交互に見ている。
仕方なく梨花が受話器を耳に当てる。
「もしもし、勝河です」
「手術室の光輝です。技師長から伝言です。どちらかお昼休憩を取っておいてください……あれ、何か鳴ってるね」
「うん……」
梨花は半泣きになりながら頷いた。
光輝の声は優しくて、心にしみる。
「MRIを止めた方がいいんじゃないかな。ほら、山田太郎様がブザーを鳴らした時の音だよね」
梨花はハッとした。
山田太郎とは現在MRIで検査を受けている患者さんだ。検査を受ける前にわざとブザーが鳴るかを確認していた。
思い出してみれば、その時と同じ音が鳴っている。
「ありがとう、すぐに止めるね!」
「はーい」
梨花が受話器を置いた頃には、樹はMRIを止めていた。
音が止む。
樹は太郎の元まで行く。そして、声を掛けている。
「大丈夫ですか!?」
「おーい、いつ終わるんだ!? 随分経ったが」
声から察すると、太郎は不機嫌だ。
樹が応対する。
「あと十分くらいです!」
「おーい勘弁してくれー。どれくらい掛かるんだ」
「十分です!」
「困るぞ、どうなんだ!?」
樹が苦笑いしてMRI検査室から出てきた。
「会話が通じない。俺はそんなに怒らせる事をしたのか?」
「気のいいおじいさんだと思ったけど……」
「どうすればいいのだろう……」
樹はうなる。かなり困っているようだ。
梨花は考えた。
太郎の準備をしていた時の事を思い出す。会話が通じず、梨花も苦労した覚えがある。
困っていると、光輝に助けられた。
「光輝君、何て言ってたっけ……」
あの時の光輝のマネごとをしてみる。
「ぱんつだけ、これ着てと言ってて……えっと……」
急に一人芝居を始める梨花を、樹は首を傾げて見ていた。
この時に、梨花は思い出した。
「そうだ、補聴器!」
太郎は補聴器を付けていた。今は外している。耳が聞こえないはずだ。
樹にその事を伝えると、樹はMRI台を外に出すボタンを押した。
梨花は一旦MRI検査室から出て、紙とペンを捜す。
テーブルの上に幾つかあるが、どれを使っていいのか分からない。
「おい、どうなんだー!?」
太郎が怒号を飛ばす。
「俺のペンとメモを使ってくれ!」
樹の声が聞こえた。
樹君、ごめんね!
梨花は樹のペンを手に取り、メモ帳に書き込む。
その後は急いでMRI台に近づいた。
あと十分! とデカデカと書いたメモを見せた。太郎は指でOKサインを作った。伝わったらしい。
再びMRI検査を再開する。
「気のいいおじいさんで良かった」
樹の呟きに、梨花は頷いた。
「ごめんね、患者さんに時間を伝えていなかったから……あと、メモ帳も」
「気にしてもしょうがない。今度から気をつけよう。そういえば、電話はなんて?」
樹の口調はぶっきらぼうだが、光輝と違った優しさがある。
梨花は思わず、安堵の溜め息が出る。ようやく落ち着けた。
「技師長から伝言だって。私と樹君のどちらかはお昼休憩取ってと」
「梨花が行け。疲れただろ」
「樹君も疲れてるでしょ」
梨花が言うと、二人で笑った。
梨花は樹に御礼を言って、休憩所に向かう。
しかし、すぐに戻った。
「ねぇ、樹君。休憩所ってどこ?」
遅刻した梨花は職場の案内を受けていない。至極当然の質問であった。
樹は空いた口が塞がらない様子であったが、知らないものは仕方ない。教えてもらうしかない。
「二階に行けば分かると思う」
「ありがとう!」
梨花は意気揚々と操作室を後にした。
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