8 / 51
休憩へ
安堵の溜め息
しおりを挟む
折悪しく、電話が鳴る。
樹は電話を取る気がないらしい。MRI画面とメモをせわしなく交互に見ている。
仕方なく梨花が受話器を耳に当てる。
「もしもし、勝河です」
「手術室の光輝です。技師長から伝言です。どちらかお昼休憩を取っておいてください……あれ、何か鳴ってるね」
「うん……」
梨花は半泣きになりながら頷いた。
光輝の声は優しくて、心にしみる。
「MRIを止めた方がいいんじゃないかな。ほら、山田太郎様がブザーを鳴らした時の音だよね」
梨花はハッとした。
山田太郎とは現在MRIで検査を受けている患者さんだ。検査を受ける前にわざとブザーが鳴るかを確認していた。
思い出してみれば、その時と同じ音が鳴っている。
「ありがとう、すぐに止めるね!」
「はーい」
梨花が受話器を置いた頃には、樹はMRIを止めていた。
音が止む。
樹は太郎の元まで行く。そして、声を掛けている。
「大丈夫ですか!?」
「おーい、いつ終わるんだ!? 随分経ったが」
声から察すると、太郎は不機嫌だ。
樹が応対する。
「あと十分くらいです!」
「おーい勘弁してくれー。どれくらい掛かるんだ」
「十分です!」
「困るぞ、どうなんだ!?」
樹が苦笑いしてMRI検査室から出てきた。
「会話が通じない。俺はそんなに怒らせる事をしたのか?」
「気のいいおじいさんだと思ったけど……」
「どうすればいいのだろう……」
樹はうなる。かなり困っているようだ。
梨花は考えた。
太郎の準備をしていた時の事を思い出す。会話が通じず、梨花も苦労した覚えがある。
困っていると、光輝に助けられた。
「光輝君、何て言ってたっけ……」
あの時の光輝のマネごとをしてみる。
「ぱんつだけ、これ着てと言ってて……えっと……」
急に一人芝居を始める梨花を、樹は首を傾げて見ていた。
この時に、梨花は思い出した。
「そうだ、補聴器!」
太郎は補聴器を付けていた。今は外している。耳が聞こえないはずだ。
樹にその事を伝えると、樹はMRI台を外に出すボタンを押した。
梨花は一旦MRI検査室から出て、紙とペンを捜す。
テーブルの上に幾つかあるが、どれを使っていいのか分からない。
「おい、どうなんだー!?」
太郎が怒号を飛ばす。
「俺のペンとメモを使ってくれ!」
樹の声が聞こえた。
樹君、ごめんね!
梨花は樹のペンを手に取り、メモ帳に書き込む。
その後は急いでMRI台に近づいた。
あと十分! とデカデカと書いたメモを見せた。太郎は指でOKサインを作った。伝わったらしい。
再びMRI検査を再開する。
「気のいいおじいさんで良かった」
樹の呟きに、梨花は頷いた。
「ごめんね、患者さんに時間を伝えていなかったから……あと、メモ帳も」
「気にしてもしょうがない。今度から気をつけよう。そういえば、電話はなんて?」
樹の口調はぶっきらぼうだが、光輝と違った優しさがある。
梨花は思わず、安堵の溜め息が出る。ようやく落ち着けた。
「技師長から伝言だって。私と樹君のどちらかはお昼休憩取ってと」
「梨花が行け。疲れただろ」
「樹君も疲れてるでしょ」
梨花が言うと、二人で笑った。
梨花は樹に御礼を言って、休憩所に向かう。
しかし、すぐに戻った。
「ねぇ、樹君。休憩所ってどこ?」
遅刻した梨花は職場の案内を受けていない。至極当然の質問であった。
樹は空いた口が塞がらない様子であったが、知らないものは仕方ない。教えてもらうしかない。
「二階に行けば分かると思う」
「ありがとう!」
梨花は意気揚々と操作室を後にした。
樹は電話を取る気がないらしい。MRI画面とメモをせわしなく交互に見ている。
仕方なく梨花が受話器を耳に当てる。
「もしもし、勝河です」
「手術室の光輝です。技師長から伝言です。どちらかお昼休憩を取っておいてください……あれ、何か鳴ってるね」
「うん……」
梨花は半泣きになりながら頷いた。
光輝の声は優しくて、心にしみる。
「MRIを止めた方がいいんじゃないかな。ほら、山田太郎様がブザーを鳴らした時の音だよね」
梨花はハッとした。
山田太郎とは現在MRIで検査を受けている患者さんだ。検査を受ける前にわざとブザーが鳴るかを確認していた。
思い出してみれば、その時と同じ音が鳴っている。
「ありがとう、すぐに止めるね!」
「はーい」
梨花が受話器を置いた頃には、樹はMRIを止めていた。
音が止む。
樹は太郎の元まで行く。そして、声を掛けている。
「大丈夫ですか!?」
「おーい、いつ終わるんだ!? 随分経ったが」
声から察すると、太郎は不機嫌だ。
樹が応対する。
「あと十分くらいです!」
「おーい勘弁してくれー。どれくらい掛かるんだ」
「十分です!」
「困るぞ、どうなんだ!?」
樹が苦笑いしてMRI検査室から出てきた。
「会話が通じない。俺はそんなに怒らせる事をしたのか?」
「気のいいおじいさんだと思ったけど……」
「どうすればいいのだろう……」
樹はうなる。かなり困っているようだ。
梨花は考えた。
太郎の準備をしていた時の事を思い出す。会話が通じず、梨花も苦労した覚えがある。
困っていると、光輝に助けられた。
「光輝君、何て言ってたっけ……」
あの時の光輝のマネごとをしてみる。
「ぱんつだけ、これ着てと言ってて……えっと……」
急に一人芝居を始める梨花を、樹は首を傾げて見ていた。
この時に、梨花は思い出した。
「そうだ、補聴器!」
太郎は補聴器を付けていた。今は外している。耳が聞こえないはずだ。
樹にその事を伝えると、樹はMRI台を外に出すボタンを押した。
梨花は一旦MRI検査室から出て、紙とペンを捜す。
テーブルの上に幾つかあるが、どれを使っていいのか分からない。
「おい、どうなんだー!?」
太郎が怒号を飛ばす。
「俺のペンとメモを使ってくれ!」
樹の声が聞こえた。
樹君、ごめんね!
梨花は樹のペンを手に取り、メモ帳に書き込む。
その後は急いでMRI台に近づいた。
あと十分! とデカデカと書いたメモを見せた。太郎は指でOKサインを作った。伝わったらしい。
再びMRI検査を再開する。
「気のいいおじいさんで良かった」
樹の呟きに、梨花は頷いた。
「ごめんね、患者さんに時間を伝えていなかったから……あと、メモ帳も」
「気にしてもしょうがない。今度から気をつけよう。そういえば、電話はなんて?」
樹の口調はぶっきらぼうだが、光輝と違った優しさがある。
梨花は思わず、安堵の溜め息が出る。ようやく落ち着けた。
「技師長から伝言だって。私と樹君のどちらかはお昼休憩取ってと」
「梨花が行け。疲れただろ」
「樹君も疲れてるでしょ」
梨花が言うと、二人で笑った。
梨花は樹に御礼を言って、休憩所に向かう。
しかし、すぐに戻った。
「ねぇ、樹君。休憩所ってどこ?」
遅刻した梨花は職場の案内を受けていない。至極当然の質問であった。
樹は空いた口が塞がらない様子であったが、知らないものは仕方ない。教えてもらうしかない。
「二階に行けば分かると思う」
「ありがとう!」
梨花は意気揚々と操作室を後にした。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
タケノコドン
黒騎士
大衆娯楽
七夕の夜の奇跡 願い 怨念
大地を割り現れた巨大怪獣が日本を席巻する その目的は人類根絶か世界の破滅か、それとも…
とあるYouTubeチャンネルから生まれたマスコット怪獣を元にした創作群像劇三部作――始まります!
近所のサンタさん
しらすしらず
大衆娯楽
しらすしらずです!クリスマス短編小説を書きました!働く社会人にとってクリスマスは特別感が少ない!というところを題材にしたほっこりする話です。社会人とサンタさんというあまり絡みそうにない人間が出会う3日間の物語となっています。登場人物は、主人公の隆也(たかや)と後輩の篠川(しのかわ)君、そして近所のサンタさんと呼ばれる人物です。隆也は忙しい日々を送る会社員で、クリスマスの季節になると特別な雰囲気を感じつつも、少し孤独を感じていました。そんな隆也の通勤路には、「近所のサンタさん」と呼ばれるボランティアで子供たちにプレゼントを配る男性がいます。ある日、偶然電車内で「近所のサンタさん」と出会い近所のクリスマスイベントのチケットをもらいます。しかし、隆也は仕事が忙しくなって行くことができませんでした。そんな隆也がゆっくりとほっこりするハッピーエンドに向かっていきます。
本当はクリスマス前に書き上げたかったんですけどねー、間に合わなかった!
恥ずかしながらこれが初めて最後まで書き上げることができた作品なので、ところどころおかしなところがあるかもしれません。
この作品で皆さんが少しでもほっこりしていただけたら嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる