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プロローグ
プロローグ~謎の美青年~
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こんな日に寝坊するなんて!
勝河梨花は心の中で叫んでいた。ぶどうパンをくわえながら走っていた。
梨花は遅刻寸前であった。それも、初出勤なのに。
夜中は緊張して眠れなかったが、朝方になってうたた寝をしてしまったのだ。
しかし、そんな言い訳は通用しない。遅刻をすれば印象は最悪だ。
絶対に間に合わせるんだから!
梨花は涙目で走っていた。メガネが曇るが気にしない。
しかし、目の前がよく分からないのに走ったのが運の尽きだった。
角を曲がる所で、人とぶつかってしまった。それも、頭と頭が勢い良く。
「いったーー!」
二人で頭を抱えてしゃがみこむ。梨花は尻もちをついていた。しかも、メガネも取れている。視力0.1以下の梨花にとって、致命的だ。
「えっと……メガネメガネ……」
手探りで探すが、かすりもしない。そんな折に車が近づいてくる。もしメガネが轢かれたら、粉々になるだろう。
「危ない!」
そう言って、車の前に躍り出たのは、先程ぶつかった人だ。声から察するに、若い男性だ。
車が急ブレーキをする音が聞こえる。
ついでに、運転手がバカヤローと罵倒する声も。男性が必死に謝る傍で、梨花も何度も頭を下げた。
「あの……本当にありがとうございます」
「いやいや、気にしないで。間一髪でメガネが拾えてよかった」
男性は丁寧に、梨花にメガネを掛ける。矯正視力で見れば、掛け値なしの美青年だった。
つややかな黒髪に、爽やかな笑顔が印象的だ。緑色のポロシャツに白い長ズボンという服装はシンプルだがオシャレに見えた。
思わず頬を赤らめて、目を伏せる。
私はこんなにカッコイイ人に声を掛けられたんだ。
男性は更に口を開く。
「あと、ぶどうパンも地面に落ちる前に掴んだから、安心して食べていいよ。おっと遅刻する! じゃあね、縁があったらまた」
男性は走り去っていった。眩しい微笑みだった。
「……」
梨花はしばらく呆けていた。ぶどうパンを受け止める余裕があったら、自分を受け止めてほしかったと思わなくもないが、贅沢は言えない。
梨花も遅刻寸前だ。慌てて走る。
その行き先は、先程の美青年と同じ個人医院だった。
勝河梨花は心の中で叫んでいた。ぶどうパンをくわえながら走っていた。
梨花は遅刻寸前であった。それも、初出勤なのに。
夜中は緊張して眠れなかったが、朝方になってうたた寝をしてしまったのだ。
しかし、そんな言い訳は通用しない。遅刻をすれば印象は最悪だ。
絶対に間に合わせるんだから!
梨花は涙目で走っていた。メガネが曇るが気にしない。
しかし、目の前がよく分からないのに走ったのが運の尽きだった。
角を曲がる所で、人とぶつかってしまった。それも、頭と頭が勢い良く。
「いったーー!」
二人で頭を抱えてしゃがみこむ。梨花は尻もちをついていた。しかも、メガネも取れている。視力0.1以下の梨花にとって、致命的だ。
「えっと……メガネメガネ……」
手探りで探すが、かすりもしない。そんな折に車が近づいてくる。もしメガネが轢かれたら、粉々になるだろう。
「危ない!」
そう言って、車の前に躍り出たのは、先程ぶつかった人だ。声から察するに、若い男性だ。
車が急ブレーキをする音が聞こえる。
ついでに、運転手がバカヤローと罵倒する声も。男性が必死に謝る傍で、梨花も何度も頭を下げた。
「あの……本当にありがとうございます」
「いやいや、気にしないで。間一髪でメガネが拾えてよかった」
男性は丁寧に、梨花にメガネを掛ける。矯正視力で見れば、掛け値なしの美青年だった。
つややかな黒髪に、爽やかな笑顔が印象的だ。緑色のポロシャツに白い長ズボンという服装はシンプルだがオシャレに見えた。
思わず頬を赤らめて、目を伏せる。
私はこんなにカッコイイ人に声を掛けられたんだ。
男性は更に口を開く。
「あと、ぶどうパンも地面に落ちる前に掴んだから、安心して食べていいよ。おっと遅刻する! じゃあね、縁があったらまた」
男性は走り去っていった。眩しい微笑みだった。
「……」
梨花はしばらく呆けていた。ぶどうパンを受け止める余裕があったら、自分を受け止めてほしかったと思わなくもないが、贅沢は言えない。
梨花も遅刻寸前だ。慌てて走る。
その行き先は、先程の美青年と同じ個人医院だった。
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