上 下
30 / 30

番外編 結婚の儀

しおりを挟む
「お綺麗ですね。あぁ…こんな日が来るなんて。どうぞ、お幸せに、リュシー様。」

「マルゴ。ありがとう!今日はここから二度目の旅立ちだけれど、また来るからね!」

「はい。けれど、あまり実家に帰って来すぎて、ウスターシュ様に愛想を尽かされませんように。」

「そんな事…!え?ある?あるかしら。じゃあもう帰って来られないの?」

「リュシー様!申し訳ありません、冗談でございますよ!ウスターシュ様は、リュシー様に愛想を尽かす事は絶対にないでしょうね。何しろ、一度目の旅立ちの時からリュシー様をそれはもう壊れもののように大切に扱って下さってましたものね。」

「そうだったかしら…?確かに、ウスターシュに私の事を認めてもらって嬉しかったのは覚えているけれど…。」

「それでいいのですよ。リュシー様は何も変わらずに、そのままで。
さ、皆様お待ちですよ。行きましょう。」

「ええ、今まで本当にありがとう、マルゴ。」

「勿体ないお言葉ですねぇ。」



 今日は、結婚の儀。
 このオジュレバン国では、花嫁の家から花婿の家まで向かい、その家に入る前に、神父に向かって花婿と共に誓いの言葉を述べると、花嫁は初めてその家族と認められるのだ。




 見送る為に、バルテレミーは馬車の前で待っていてくれる。今日は、寄宿学校が休みの為、カジミールも帰ってきていた。

「お父様。」

「リュシー。大きくなったな。昔から変わらず今も、これからもずっと愛しているよ。」

「ふふふ、お父様!私もですわ!」

 そう言ったリュシーを優しく、恐々と両手を広げて包み込むバルテレミ-。リュシーがプレゼントしてくれた手袋を嵌めているのだ。

「姉上。幸せになって下さい。頼りないかもしれませんが、僕、レスキュン領を盛り上げていきますから。」

「あら。カジミールは頼りなくなんかないわ。私はいつも誇りに思っているわ。ええ、頑張ってね!」

「気をつけるんだよ。」

「はい!あ、オーバンにも伝えておいてね。元気でねって。今までありがとうって。」

「分かっているよ。姉上、早く行かないと到着が夜になってしまいますよ。」

「それはいけないわ!あ!」


 リュシーが名残惜しみながらも馬車に乗ろうとすると、〝危ない森〟の方角で野生動物達が立ち並んでいるのが見えた。ここからは小さいので定かではないが、いつもリュシーと語らった動物達だろうとリュシーは手を振る。

「みんな、ありがとう!みんながいたから私は淋しくなかったのよ!またね!」

 アオ鷹も、その動物達の頭の上で、旋回していた。






☆★

 馬車で半日ほど走ると、セナンクール領が見えてきた。もう少しで、屋敷も見えると前方に座っている馬車を操っている御者がリュシーへと伝える。


(いよいよなのね。)




 ウスターシュの両親には、一度挨拶をしていた。
 ウスターシュはしなくていいと言ったのだが、やはり結婚前に会うのが礼儀ではないのか、印象が悪くならないのかと心配してウスターシュに問いたリュシーに、大丈夫だと言って放っておいたら、なんと自ら王宮に会いに来てしまったのだ。


「こんにちは。私、ウスターシュの母のアニエスよ。ウスターシュを虜にしちゃったっていうリュシーちゃんを見に来ちゃったわ!だって…ウスターシュったら連れて来てくれないのだもの!リュシーちゃん、屋敷に来たらたくさんお話しましょうね!」

 とても優しくリュシーに言葉を掛けてくれたアニエスに、リュシーはこんな優しい母だったら…と思ってしまった。

「リュシーちゃん!結婚したら、あなたはもう私の娘なのだからね?遠慮せず存分に甘えてちょうだい!うちには、息子がウスターシュ一人でしょ?それなのに家に寄り付かないのだもの。私淋しくって!
だからね、リュシーちゃんこれからいっぱいいろんな事をしましょうね!」


 そんな風に声を掛けてくれ、温かい言葉を掛けてくれたのだ。初対面であるにも関わらず、リュシーは思わず涙を流してしまった。


「あらあらあら!もう、可愛いわねぇ!ウスターシュが一時も離さないのが分かるわぁ!でもね、これからは私とも一緒の時間を少しだけでも過ごす事。いいわね?
女同士でしか出来ない事ってたくさんあるもの。うふふ。楽しみだわね!」


 リュシーは、きっと自分の母の事を知っているからこそそう言ってくれたのではないかと思い、義母が素敵な人でよかったと思った。





「到着しました。今開けますからお待ち下さい。」

 御者に言われ、リュシーは馬車の中で待っていると、扉が開いた。そこには、すでに正装をしたウスターシュがいて手を差し伸べてくれた。


「リュシー、いらっしゃい。真っ白のドレス、とても綺麗だよ。」


 ウスターシュとお揃いのリュシーの白いドレスは、太陽に当たるとキラキラと輝いている。ところどころに小さくはあるが宝石が散りばめられているのだ。

「ウスターシュも素敵…。」

 いつもは緑色のマントを羽織っている背の高いウスターシュは、白いタキシードはリュシーにとったら新鮮で、手足の長さが引き立っていて格好いいと見惚れてしまうほどだった。


「さぁ、お二人共。お進み下さい。」


 二人見つめ合っていたが、あまりに長いので、従僕のブレーズがそう声を掛ける。

 ウスターシュは、リュシーの手を自身の左腕に絡ませ、ゆっくりと屋敷の入り口まで進んだ。
 そこには、ウスターシュの両親である父ギヨームと、母アニエスが横に控えて立っている。正面には、神父がすでに準備をして立っていた。


 二人が、神父の前まで進むと、神父は早速言葉を述べた。

「リュシー=アランブール。あなたは、このウスターシュ=セナンクールと夫婦になる為にここに来たのですか?」

「はい。私、リュシー=アランブールは、ウスターシュ=セナンクール様と夫婦になりたくてここに参りました。」

「ウスターシュ=セナンクール。リュシー=アランブールはこう申しているが、そなたはどうしてここにいるのですか?」

「はい。私、ウスターシュ=セナンクールは、リュシー=アランブールと夫婦になりたくてここにいます。」

「それは、いついかなる時もという事ですかな?楽しいだけではなく、辛い時、悲しい時も共に乗り越えていく夫婦となると誓いますか?」

「「はい、誓います!」」

「よろしい。それではこれより夫婦と認めます。末永く幸せにおなりなさい。」


「ありがとうございます!」
「ありがとうございました。」


 それを見届けたウスターシュの両親は、リュシーの元へ来て、喜んでくれる。

「リュシーちゃん、これで晴れて家族の仲間入りね!楽しみにしてたのよ?さぁ、入ってちょうだい!長旅お疲れさまだったわね。ウスターシュったら、朝からそわそわとしていたのよ。」

「リュシーさん、私とは初めましてだね。ウスターシュの父ギヨームだよ。これからよろしく。
私も、君に会いに行ったとアニエスから聞いた時、私も、行こうかと何度思った事か。けれど、それをしたらウスターシュに叱られると思ってね。今日まで我慢していたんだよ。さぁ、中へ入ろう。
ウスターシュ、良かったな。こんな可愛い人が嫁に来てくれて。」

「ありがとうございます。こちらこそ、よろしくお願い致します。」

 リュシーは、両親にそれぞれ視線を向けて挨拶をする。

「あ、リュシーちゃん、ここには野生の動物達もよく顔を見せてくれるのよ?庭には、リスもいるわ。今度一緒に見ましょうね!」

「む!アニエス、私も仲間に入れてくれよ?イタチなんかも、いるから、今度一緒に見てくれるかい?」

「まぁ!はい、是非に!」

「もう、母上も父上も止めてくれ!
さぁ、リュシー。屋敷へ入ろう。お手をどうぞ。」


「これで本当に、リュシーとやっと夫婦になれたよ。今日は初夜だからね!」

「!」

 リュシーの手を取り、ウスターシュはこっそりとリュシーの耳元でそう言うと、セナンクールの屋敷へと入って行った。



 ウスターシュは、今までは王宮で生活していたのだが、これからはセナンクール領の屋敷で生活する事にした。出勤する際は、馬で通勤するのだ。

 屋敷は、さすが公爵家。部屋数もたくさんある為に、両親も未だ住んでいるが、ウスターシュと共にリュシーもこれから新婚生活をここで送るのだ。

 リュシーはこれからは週に一度王宮へ出勤する。それ以外はここで、公爵夫人としての教育もしなければならないからだ。


 ここからまた、リュシーの生活は続いていくーーー。






☆★

番外編もこれにて終わりとなります。
物足りない部分は、あとは読者様の素敵な妄想をお願い致します☆
長々と、ここまで読んで下さいまして、本当にありがとうございました!

ファンタジー小説大賞にエントリーしました。ポチッと押して下さいました方、本当にありがとうございます!
とてもとても、励みになります!嬉しく思っております。
しおりを挟む
感想 31

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(31件)

太真
2022.09.24 太真
ネタバレ含む
まりぃべる
2022.09.25 まりぃべる

太真様、今回もありがとうございます!

そうですね、また違っていたかもしれません(>_<)

そう言って下さいましてありがとうございます>^_^<また機会がありましたら、読んで下さると嬉しいです(≧ヮ≦)

最後まで読んで下さいましてありがとうございました(●^ー^●)

解除
にゃあん
2022.09.23 にゃあん

本編も番外編も終わりですか⁈
まだまだ先が気になります🥺困りました。
もふもふさん達のお話もっと聞きたかったな😄
でもでも、読ませていただきありがとうございます😊

まりぃべる
2022.09.25 まりぃべる

にゃあん様、またまた感想&嬉しいお言葉ありがとうございます☆

そんなにも言って下さってとても嬉しいです(*´︶`*)
また、もしも機会がありましたら…読んで下さるとありがたいです。

最後まで読んで下さいまして、本当にありがとうございましたo(*´︶`*)o

解除
ぱら
2022.09.23 ぱら
ネタバレ含む
まりぃべる
2022.09.23 まりぃべる

ぱら様、感想&労いのお言葉ありがとうございます!

素敵なアートまで(≧ヮ≦)

いつもぱら様のお言葉に、嬉しく、心温かくなりながら拝見しておりました!


最後までお読み下さいまして、本当にありがとうございました(●^ー^●)

解除

あなたにおすすめの小説

どうやらお前、死んだらしいぞ? ~変わり者令嬢は父親に報復する~

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「ビクティー・シークランドは、どうやら死んでしまったらしいぞ?」 「はぁ? 殿下、アンタついに頭沸いた?」  私は思わずそう言った。  だって仕方がないじゃない、普通にビックリしたんだから。  ***  私、ビクティー・シークランドは少し変わった令嬢だ。  お世辞にも淑女然としているとは言えず、男が好む政治事に興味を持ってる。  だから父からも煙たがられているのは自覚があった。  しかしある日、殺されそうになった事で彼女は決める。  「必ず仕返ししてやろう」って。  そんな令嬢の人望と理性に支えられた大勝負をご覧あれ。

タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒― 私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。 「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」 その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。 ※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています

【完結】シェアされがちな伯爵令嬢は今日も溜息を漏らす

皐月 誘
恋愛
クリーヴス伯爵家には愛くるしい双子の姉妹が居た。 『双子の天使』と称される姉のサラサと、妹のテレサ。 2人は誰から見ても仲の良い姉妹だったのだが、姉のサラサの婚約破棄騒動を発端に周囲の状況が変わり始める…。 ------------------------------------ 2020/6/25 本編完結致しました。 今後は番外編を更新していきますので、お時間ありましたら、是非お読み下さい。 そして、更にお時間が許しましたら、感想など頂けると、励みと勉強になります。 どうぞ、よろしくお願いします。

完)まあ!これが噂の婚約破棄ですのね!

オリハルコン陸
ファンタジー
王子が公衆の面前で婚約破棄をしました。しかし、その場に居合わせた他国の皇女に主導権を奪われてしまいました。 さあ、どうなる?

ひとりぼっち令嬢は正しく生きたい~婚約者様、その罪悪感は不要です~

参谷しのぶ
恋愛
十七歳の伯爵令嬢アイシアと、公爵令息で王女の護衛官でもある十九歳のランダルが婚約したのは三年前。月に一度のお茶会は婚約時に交わされた約束事だが、ランダルはエイドリアナ王女の護衛という仕事が忙しいらしく、ドタキャンや遅刻や途中退席は数知れず。先代国王の娘であるエイドリアナ王女は、現国王夫妻から虐げられているらしい。 二人が久しぶりにまともに顔を合わせたお茶会で、ランダルの口から出た言葉は「誰よりも大切なエイドリアナ王女の、十七歳のデビュタントのために君の宝石を貸してほしい」で──。 アイシアはじっとランダル様を見つめる。 「忘れていらっしゃるようなので申し上げますけれど」 「何だ?」 「私も、エイドリアナ王女殿下と同じ十七歳なんです」 「は?」 「ですから、私もデビュタントなんです。フォレット伯爵家のジュエリーセットをお貸しすることは構わないにしても、大舞踏会でランダル様がエスコートしてくださらないと私、ひとりぼっちなんですけど」 婚約者にデビュタントのエスコートをしてもらえないという辛すぎる現実。 傷ついたアイシアは『ランダルと婚約した理由』を思い出した。三年前に両親と弟がいっぺんに亡くなり唯一の相続人となった自分が、国中の『ろくでなし』からロックオンされたことを。領民のことを思えばランダルが一番マシだったことを。 「婚約者として正しく扱ってほしいなんて、欲張りになっていた自分が恥ずかしい!」 初心に返ったアイシアは、立派にひとりぼっちのデビュタントを乗り切ろうと心に誓う。それどころか、エイドリアナ王女のデビュタントを成功させるため、全力でランダルを支援し始めて──。 (あれ? ランダル様が罪悪感に駆られているように見えるのは、私の気のせいよね?) ★小説家になろう様にも投稿しました★

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

野心家な王は平和を愛する私を捨て義姉を選びましたが…そのせいで破滅してしまいました。

coco
恋愛
野心家な王は、平和を死する聖女の私を捨てた。 そして彼が選んだのは、望みを何でも叶えると言う義姉で…?

転生墓守は伝説騎士団の後継者

深田くれと
ファンタジー
 歴代最高の墓守のロアが圧倒的な力で無双する物語。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。