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7. 両親からの提案
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その日、リュシーは夕食の際にマリエットに久々に話しかけられた。
「ねぇ、リュシー。あなたにいいお話があるのよ。」
驚いて顔を上げたリュシーは、恐ろしいほど口角を上げたマリエットを見て嬉しいを通り越して何の冗談かと思った。
食事は全くもって豪勢ではないが、いつも家族四人で摂っていた。けれどもリュシーは普段下を向いて黙々と食事をする事に集中し、会話には入れなかった。顔を上げ、会話に参加しようとすると、マリエットが途端嫌な顔をするからだ。その為、もうずっとリュシーは家族と会話をしていないのだった。
しかし、甘ったるいような猫なで声でリュシーに話しかけたマリエットはウキウキとしているように見えた。
「あのね、リュシーと結婚したいという人がいるのよ。とってもお金持ちでね、それはもう素敵な方よ!」
「ま、マリエット?私は聞いていないよ。」
「お母様!素敵な方と、お金持ちは関係ありませんよ。どんな人柄なのですか?」
マリエットのいきなりの発言に、バルテレミーは驚きを隠せない様子で言い、カジミールも淡々とそう言った。
「あら、カジミール?お金持ちは素敵よ?うちだってほら、そろそろお金が必要だものね。カジミールだって寄宿学校に通うのでしょう?あぁ、でも私はカジミールと離れるのは少し淋しくもあるのよ。だから、ここから通うっていうのはどうかしら?」
「お母様、寄宿学校は全生徒が寮生活をするのがきまりです。それに、僕は寄宿学校に行かなくても、ここにある書庫の本で勉強するだけでもいいと思ってますから!姉上、だから結婚は無理にしなくていいのですからね!」
カジミールも、廊下や書庫でリュシーに会うと何かと話しかけようとしてくれていた。
しかし、マリエットが近くにいれば必ず『リュシーと話してはなりません。カジミールは忙しいのですからね!』とリュシーに対して睨みをきかしている為に、なかなか話す機会がなかった。
そうでなくても、カジミールもこの貧しくはあるがレスキュン領の次期領主としてそれに役立つ本や、一般常識を書庫の本をじっくりと読み、学んでいた為に、リュシーとはなかなか話す機会がなかった。
それでも、カジミールは幼いながらになぜ母はリュシーに冷たく当たるのかと疑問に思っていた。なので、カジミールはリュシーとは普通の姉弟のように仲良くしたいと思っていた。しかし自分が話しかける事でマリエットがリュシーに冷たく当たるの為、マリエットの前では話しかける事は控えていた。
カジミールはそのように聡かった為、領主である父にも言わずに姉に結婚話を持ちかけ、それに加えてお金持ちだの素敵だのと言っているのがおかしいと思って頭を瞬時に巡らせ、支度金目当てなのではないかという考えに至った。だからお金のかかる学校なんて行かなくてもいいと言ったのだった。
「あら、ダメよカジミール。そうは言っても、女ならいつか結婚しなくちゃ。求められている内が華よ?ね?悪い話ではないわ。考えておきなさい。」
「…はい。」
リュシーは、相手の事を何も教えてもらっていないのに考えておくもなにもないだろうと思った。
しかし、マリエットの言う事も一理あると感じた。学費が支払えるほどの支度金をくれるのであれば、カジミールが寄宿学校に通えるのだから、いいのではないかと。
☆★
食事が終わり、部屋に戻るとオーバンが部屋に来て、バルテレミーが呼んでいると告げられた。
(きっと、先ほどの結婚の話じゃないかしら。)
リュシーは、複雑な思いでバルテレミーの仕事部屋に向かった。
「お父様、入ります。」
「うむ。」
仕事部屋に入ったリュシーは、こんな部屋だったかなと思った。殺風景で、大きな事務机と、椅子があるだけだった。リュシーがかなり小さい頃、この部屋に呼ばれた時には、入り口入ってすぐの場所にソファがあったように思ったのだ。しかし今は、そこだけ何も置かれずに広く空いていた。
その為、リュシーは入り口入ってすぐの場所で立ち止まった。
「済まないな、リュシー。もう少し近くにおいで。」
こんなに会話を続けたのはいつぶりだろうとリュシーは思いながら、事務机の前まで進んだ。
「大きくなったね。なかなか忙しくて会話もろくに出来てなかったな。」
そういって、目を細めたバルテレミーを見たリュシーは、目を合わせたのはいつぶりだろうと思った。食事の時、バルテレミーからの視線は感じるが、そこで話す事はない。マリエットがいるからだった。
バルテレミーは、ため息をついてから話し出した。
「驚いたろう?さっきのマリエットの話。私も全く聞いていなかった。マリエットは何を考えて居るんだか…。」
「お父様。お相手がどのような方か分かりませんが、良さそうな人であればお受けした方がアランブール家の為ですわよね。」
「いや…そんな事はない。リュシーはなんならずっとここにいていいんだ。」
「え?」
「リュシー…お前はこの国境近くのレスキュン領が性に合っていると思うよ。自然豊かな場所だ。だからね、マリエットの事は気にしなくていいから。」
「でも…」
「金の事は気にしなくていい。リュシーがいつもこのレスキュン領の為に、尽くしてくれている事を知っているよ。ありがとう。
寄宿学校に行かなくても、学べる方法はあるからね。私も考えてみるよ。」
「はい…。」
バルテレミーと話せた事は久々であったし、自分の事を図らずも考えてくれていた父親に対してリュシーは嬉しく感じた。
しかし結局、どうすればいいのだろうかと悩むリュシーであった。
「ねぇ、リュシー。あなたにいいお話があるのよ。」
驚いて顔を上げたリュシーは、恐ろしいほど口角を上げたマリエットを見て嬉しいを通り越して何の冗談かと思った。
食事は全くもって豪勢ではないが、いつも家族四人で摂っていた。けれどもリュシーは普段下を向いて黙々と食事をする事に集中し、会話には入れなかった。顔を上げ、会話に参加しようとすると、マリエットが途端嫌な顔をするからだ。その為、もうずっとリュシーは家族と会話をしていないのだった。
しかし、甘ったるいような猫なで声でリュシーに話しかけたマリエットはウキウキとしているように見えた。
「あのね、リュシーと結婚したいという人がいるのよ。とってもお金持ちでね、それはもう素敵な方よ!」
「ま、マリエット?私は聞いていないよ。」
「お母様!素敵な方と、お金持ちは関係ありませんよ。どんな人柄なのですか?」
マリエットのいきなりの発言に、バルテレミーは驚きを隠せない様子で言い、カジミールも淡々とそう言った。
「あら、カジミール?お金持ちは素敵よ?うちだってほら、そろそろお金が必要だものね。カジミールだって寄宿学校に通うのでしょう?あぁ、でも私はカジミールと離れるのは少し淋しくもあるのよ。だから、ここから通うっていうのはどうかしら?」
「お母様、寄宿学校は全生徒が寮生活をするのがきまりです。それに、僕は寄宿学校に行かなくても、ここにある書庫の本で勉強するだけでもいいと思ってますから!姉上、だから結婚は無理にしなくていいのですからね!」
カジミールも、廊下や書庫でリュシーに会うと何かと話しかけようとしてくれていた。
しかし、マリエットが近くにいれば必ず『リュシーと話してはなりません。カジミールは忙しいのですからね!』とリュシーに対して睨みをきかしている為に、なかなか話す機会がなかった。
そうでなくても、カジミールもこの貧しくはあるがレスキュン領の次期領主としてそれに役立つ本や、一般常識を書庫の本をじっくりと読み、学んでいた為に、リュシーとはなかなか話す機会がなかった。
それでも、カジミールは幼いながらになぜ母はリュシーに冷たく当たるのかと疑問に思っていた。なので、カジミールはリュシーとは普通の姉弟のように仲良くしたいと思っていた。しかし自分が話しかける事でマリエットがリュシーに冷たく当たるの為、マリエットの前では話しかける事は控えていた。
カジミールはそのように聡かった為、領主である父にも言わずに姉に結婚話を持ちかけ、それに加えてお金持ちだの素敵だのと言っているのがおかしいと思って頭を瞬時に巡らせ、支度金目当てなのではないかという考えに至った。だからお金のかかる学校なんて行かなくてもいいと言ったのだった。
「あら、ダメよカジミール。そうは言っても、女ならいつか結婚しなくちゃ。求められている内が華よ?ね?悪い話ではないわ。考えておきなさい。」
「…はい。」
リュシーは、相手の事を何も教えてもらっていないのに考えておくもなにもないだろうと思った。
しかし、マリエットの言う事も一理あると感じた。学費が支払えるほどの支度金をくれるのであれば、カジミールが寄宿学校に通えるのだから、いいのではないかと。
☆★
食事が終わり、部屋に戻るとオーバンが部屋に来て、バルテレミーが呼んでいると告げられた。
(きっと、先ほどの結婚の話じゃないかしら。)
リュシーは、複雑な思いでバルテレミーの仕事部屋に向かった。
「お父様、入ります。」
「うむ。」
仕事部屋に入ったリュシーは、こんな部屋だったかなと思った。殺風景で、大きな事務机と、椅子があるだけだった。リュシーがかなり小さい頃、この部屋に呼ばれた時には、入り口入ってすぐの場所にソファがあったように思ったのだ。しかし今は、そこだけ何も置かれずに広く空いていた。
その為、リュシーは入り口入ってすぐの場所で立ち止まった。
「済まないな、リュシー。もう少し近くにおいで。」
こんなに会話を続けたのはいつぶりだろうとリュシーは思いながら、事務机の前まで進んだ。
「大きくなったね。なかなか忙しくて会話もろくに出来てなかったな。」
そういって、目を細めたバルテレミーを見たリュシーは、目を合わせたのはいつぶりだろうと思った。食事の時、バルテレミーからの視線は感じるが、そこで話す事はない。マリエットがいるからだった。
バルテレミーは、ため息をついてから話し出した。
「驚いたろう?さっきのマリエットの話。私も全く聞いていなかった。マリエットは何を考えて居るんだか…。」
「お父様。お相手がどのような方か分かりませんが、良さそうな人であればお受けした方がアランブール家の為ですわよね。」
「いや…そんな事はない。リュシーはなんならずっとここにいていいんだ。」
「え?」
「リュシー…お前はこの国境近くのレスキュン領が性に合っていると思うよ。自然豊かな場所だ。だからね、マリエットの事は気にしなくていいから。」
「でも…」
「金の事は気にしなくていい。リュシーがいつもこのレスキュン領の為に、尽くしてくれている事を知っているよ。ありがとう。
寄宿学校に行かなくても、学べる方法はあるからね。私も考えてみるよ。」
「はい…。」
バルテレミーと話せた事は久々であったし、自分の事を図らずも考えてくれていた父親に対してリュシーは嬉しく感じた。
しかし結局、どうすればいいのだろうかと悩むリュシーであった。
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