上 下
7 / 30

7. 両親からの提案

しおりを挟む
 その日、リュシーは夕食の際にマリエットに久々に話しかけられた。


「ねぇ、リュシー。あなたにいいお話があるのよ。」

 驚いて顔を上げたリュシーは、恐ろしいほど口角を上げたマリエットを見て嬉しいを通り越して何の冗談かと思った。


 食事は全くもって豪勢ではないが、いつも家族四人で摂っていた。けれどもリュシーは普段下を向いて黙々と食事をする事に集中し、会話には入れなかった。顔を上げ、会話に参加しようとすると、マリエットが途端嫌な顔をするからだ。その為、もうずっとリュシーは家族と会話をしていないのだった。


 しかし、甘ったるいような猫なで声でリュシーに話しかけたマリエットはウキウキとしているように見えた。

「あのね、リュシーと結婚したいという人がいるのよ。とってもお金持ちでね、それはもう素敵な方よ!」

「ま、マリエット?私は聞いていないよ。」

「お母様!素敵な方と、お金持ちは関係ありませんよ。どんな人柄なのですか?」

 マリエットのいきなりの発言に、バルテレミーは驚きを隠せない様子で言い、カジミールも淡々とそう言った。


「あら、カジミール?お金持ちは素敵よ?うちだってほら、そろそろお金が必要だものね。カジミールだって寄宿学校に通うのでしょう?あぁ、でも私はカジミールと離れるのは少し淋しくもあるのよ。だから、ここから通うっていうのはどうかしら?」

「お母様、寄宿学校は全生徒が寮生活をするのがきまりです。それに、僕は寄宿学校に行かなくても、ここにある書庫の本で勉強するだけでもいいと思ってますから!姉上、だから結婚は無理にしなくていいのですからね!」


 カジミールも、廊下や書庫でリュシーに会うと何かと話しかけようとしてくれていた。
しかし、マリエットが近くにいれば必ず『リュシーと話してはなりません。カジミールは忙しいのですからね!』とリュシーに対して睨みをきかしている為に、なかなか話す機会がなかった。
そうでなくても、カジミールもこの貧しくはあるがレスキュン領の次期領主としてそれに役立つ本や、一般常識を書庫の本をじっくりと読み、学んでいた為に、リュシーとはなかなか話す機会がなかった。


 それでも、カジミールは幼いながらになぜ母はリュシーに冷たく当たるのかと疑問に思っていた。なので、カジミールはリュシーとは普通の姉弟のように仲良くしたいと思っていた。しかし自分が話しかける事でマリエットがリュシーに冷たく当たるの為、マリエットの前では話しかける事は控えていた。

 カジミールはそのように聡かった為、領主である父にも言わずに姉に結婚話を持ちかけ、それに加えてお金持ちだの素敵だのと言っているのがおかしいと思って頭を瞬時に巡らせ、支度金目当てなのではないかという考えに至った。だからお金のかかる学校なんて行かなくてもいいと言ったのだった。


「あら、ダメよカジミール。そうは言っても、女ならいつか結婚しなくちゃ。求められている内が華よ?ね?悪い話ではないわ。考えておきなさい。」

「…はい。」

 リュシーは、相手の事を何も教えてもらっていないのに考えておくもなにもないだろうと思った。
しかし、マリエットの言う事も一理あると感じた。学費が支払えるほどの支度金をくれるのであれば、カジミールが寄宿学校に通えるのだから、いいのではないかと。



☆★

 食事が終わり、部屋に戻るとオーバンが部屋に来て、バルテレミーが呼んでいると告げられた。

(きっと、先ほどの結婚の話じゃないかしら。)

 リュシーは、複雑な思いでバルテレミーの仕事部屋に向かった。



「お父様、入ります。」

「うむ。」

 仕事部屋に入ったリュシーは、こんな部屋だったかなと思った。殺風景で、大きな事務机と、椅子があるだけだった。リュシーがかなり小さい頃、この部屋に呼ばれた時には、入り口入ってすぐの場所にソファがあったように思ったのだ。しかし今は、そこだけ何も置かれずに広く空いていた。
 その為、リュシーは入り口入ってすぐの場所で立ち止まった。


「済まないな、リュシー。もう少し近くにおいで。」


 こんなに会話を続けたのはいつぶりだろうとリュシーは思いながら、事務机の前まで進んだ。


「大きくなったね。なかなか忙しくて会話もろくに出来てなかったな。」

 そういって、目を細めたバルテレミーを見たリュシーは、目を合わせたのはいつぶりだろうと思った。食事の時、バルテレミーからの視線は感じるが、そこで話す事はない。マリエットがいるからだった。


 バルテレミーは、ため息をついてから話し出した。

「驚いたろう?さっきのマリエットの話。私も全く聞いていなかった。マリエットは何を考えて居るんだか…。」

「お父様。お相手がどのような方か分かりませんが、良さそうな人であればお受けした方がアランブール家の為ですわよね。」

「いや…そんな事はない。リュシーはなんならずっとここにいていいんだ。」

「え?」

「リュシー…お前はこの国境近くのレスキュン領が性に合っていると思うよ。自然豊かな場所だ。だからね、マリエットの事は気にしなくていいから。」

「でも…」

「金の事は気にしなくていい。リュシーがいつもこのレスキュン領の為に、尽くしてくれている事を知っているよ。ありがとう。
寄宿学校に行かなくても、学べる方法はあるからね。私も考えてみるよ。」

「はい…。」


 バルテレミーと話せた事は久々であったし、自分の事を図らずも考えてくれていた父親に対してリュシーは嬉しく感じた。
 しかし結局、どうすればいいのだろうかと悩むリュシーであった。
しおりを挟む
感想 31

あなたにおすすめの小説

どうやらお前、死んだらしいぞ? ~変わり者令嬢は父親に報復する~

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「ビクティー・シークランドは、どうやら死んでしまったらしいぞ?」 「はぁ? 殿下、アンタついに頭沸いた?」  私は思わずそう言った。  だって仕方がないじゃない、普通にビックリしたんだから。  ***  私、ビクティー・シークランドは少し変わった令嬢だ。  お世辞にも淑女然としているとは言えず、男が好む政治事に興味を持ってる。  だから父からも煙たがられているのは自覚があった。  しかしある日、殺されそうになった事で彼女は決める。  「必ず仕返ししてやろう」って。  そんな令嬢の人望と理性に支えられた大勝負をご覧あれ。

タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒― 私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。 「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」 その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。 ※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています

完)まあ!これが噂の婚約破棄ですのね!

オリハルコン陸
ファンタジー
王子が公衆の面前で婚約破棄をしました。しかし、その場に居合わせた他国の皇女に主導権を奪われてしまいました。 さあ、どうなる?

ひとりぼっち令嬢は正しく生きたい~婚約者様、その罪悪感は不要です~

参谷しのぶ
恋愛
十七歳の伯爵令嬢アイシアと、公爵令息で王女の護衛官でもある十九歳のランダルが婚約したのは三年前。月に一度のお茶会は婚約時に交わされた約束事だが、ランダルはエイドリアナ王女の護衛という仕事が忙しいらしく、ドタキャンや遅刻や途中退席は数知れず。先代国王の娘であるエイドリアナ王女は、現国王夫妻から虐げられているらしい。 二人が久しぶりにまともに顔を合わせたお茶会で、ランダルの口から出た言葉は「誰よりも大切なエイドリアナ王女の、十七歳のデビュタントのために君の宝石を貸してほしい」で──。 アイシアはじっとランダル様を見つめる。 「忘れていらっしゃるようなので申し上げますけれど」 「何だ?」 「私も、エイドリアナ王女殿下と同じ十七歳なんです」 「は?」 「ですから、私もデビュタントなんです。フォレット伯爵家のジュエリーセットをお貸しすることは構わないにしても、大舞踏会でランダル様がエスコートしてくださらないと私、ひとりぼっちなんですけど」 婚約者にデビュタントのエスコートをしてもらえないという辛すぎる現実。 傷ついたアイシアは『ランダルと婚約した理由』を思い出した。三年前に両親と弟がいっぺんに亡くなり唯一の相続人となった自分が、国中の『ろくでなし』からロックオンされたことを。領民のことを思えばランダルが一番マシだったことを。 「婚約者として正しく扱ってほしいなんて、欲張りになっていた自分が恥ずかしい!」 初心に返ったアイシアは、立派にひとりぼっちのデビュタントを乗り切ろうと心に誓う。それどころか、エイドリアナ王女のデビュタントを成功させるため、全力でランダルを支援し始めて──。 (あれ? ランダル様が罪悪感に駆られているように見えるのは、私の気のせいよね?) ★小説家になろう様にも投稿しました★

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

野心家な王は平和を愛する私を捨て義姉を選びましたが…そのせいで破滅してしまいました。

coco
恋愛
野心家な王は、平和を死する聖女の私を捨てた。 そして彼が選んだのは、望みを何でも叶えると言う義姉で…?

転生墓守は伝説騎士団の後継者

深田くれと
ファンタジー
 歴代最高の墓守のロアが圧倒的な力で無双する物語。

城で侍女をしているマリアンネと申します。お給金の良いお仕事ありませんか?

甘寧
ファンタジー
「武闘家貴族」「脳筋貴族」と呼ばれていた元子爵令嬢のマリアンネ。 友人に騙され多額の借金を作った脳筋父のせいで、屋敷、領土を差し押さえられ事実上の没落となり、その借金を返済する為、城で侍女の仕事をしつつ得意な武力を活かし副業で「便利屋」を掛け持ちしながら借金返済の為、奮闘する毎日。 マリアンネに執着するオネエ王子やマリアンネを取り巻く人達と様々な試練を越えていく。借金返済の為に…… そんなある日、便利屋の上司ゴリさんからの指令で幽霊屋敷を調査する事になり…… 武闘家令嬢と呼ばれいたマリアンネの、借金返済までを綴った物語

処理中です...