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3. 初めて感じた罪悪感
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リュシーの特技は、動物と会話が出来る為に、友達がたくさん増えたようで嬉しい気持ちになる。
と、同時に、悲しい気持ちにもなる。
それはーーー
物心ついた頃。
リュシーは自分の中では動物の会話が聞ける事は特別な事では無かった為、隠す事もなく、動物に向かって会話を繰り広げていた。
しかし、周りからは動物へ独り言を話していたように見えていたし、なぜリュシーが近寄っても野生動物が逃げないのか不思議に思われていた。
リュシーが五歳の頃。
「おい、リュシー。また、猫に向かって独り言話しているのかよ。気持ち悪!」
ブニャー
「あーあ!アドンが来るから怖いって逃げちゃった!」
リュシーがまだ手入れをされていた頃の庭でしゃがみ込み、野生にしては汚れていないフワフワとした真っ白な毛並みの猫に向かって顔を突き合わせていると、オーバンの息子アドンがリュシーに声を掛け近寄って来た。
アドンは、リュシーよりも二歳年上なだけだが、アランブールの屋敷の使用人棟に家族で住んでいるので、この時はすでに見習いのように働いているのだった。
しかし、アドンが近寄って来た事で、リュシーの傍にいた猫は走って遠くに行ってしまった。
「はぁ?俺のせいってか?野生の動物ってのは人に懐かないもんだろ?」
「そんな事ないわ。あの子は最近よくここに顔を出しているでしょ?」
「猫の顔なんて判別出来ねぇよ。それより、昨日夕食に出された鴨肉食べなかったんだって?あんな豪勢な食べ物、なんで残したんだよ?」
「だって…かもさん、可哀想…。」
「あー、確かに、鴨はここで飼ってたやつだったよなぁ。でも、育ててるんだし、またすぐに増えるって。てか、贅沢言うなよ!俺ら一般庶民はなかなか食えないっていうのによ、残すんじゃねぇよ!」
「…!」
「あ!おい、待てよ!リュシー!!ったく…」
アドンの言葉は最もで、けれど悲しい気持ちになったリュシーはその場から逃げ出してしまう。
リュシーは、昨夜料理として出て来た鴨肉が、屋敷のすぐ裏手の池で飼われていた鴨だと初めは気づかなかった。だが、家族で食事をしていた時に母マリエットが、
「うちで育てた鴨はやっぱり最高ね。」
と満足そうに話しているのを聞いて、リュシーは考えた。そして、裏手の池で鴨を飼っていたと思い出したのだ。
池は、危ないから近寄ってはいけないと言われていたリュシーだったから鴨と会話を交わしてはいなかった。だが、遠目から鴨の姿を見ていたので、それがこのように食卓に並ぶとは思っていなかったのだ。
それまで何とも思わずに食べていたのに、その一言でリュシーは何とも言えない気持ちになり、手を止めてしまったのだった。
走った先に、先ほどの真っ白い猫が寝そべっていた。
猫はリュシーの方を向き、悲しそうな顔をしている事に気づくと起き上がりリュシーへ近づき、足を一舐めした。
《どうしたのさ。泣きそうだな。あの憎たらしいアドンがなんかしたのか?》
「だって…アドンが、昨日残した鴨肉の事で怒ったの。お庭にいたかもさん、ご飯に出て来たんだもん。可哀想で…」
《なんだ、そんな事か。そんなの、我らには日常茶飯事だ。というか、残したのか?ダメだぞ、命を粗末にしちゃ。》
「だって…」
《お前たち人間は、何でも食べるだろ?さすがに我を食べたりはしないだろうが、野うさぎやうずらだって、食べちまう。命を絶って食べろと出されたんなら、食べてやらなきゃそいつに失礼だぞ?我だって、昨日まで遊んでた奴を明日には腹が減って食べる事もある。そん時は、感謝して食べてるぜ?》
「そんなの…」
《理不尽か?でもな、食べなきゃ死ぬぞ?食べたら、リュシーの体の中で、血となり肉となって生きてくれるんだぜ。だから、有難いと感謝して食べろ。》
「私の中で生きて…?」
《そうだ。それが弱肉強食ってもんだ。リュシーは心優しいから、悲しく思ってしまうかもしれん。だが、それは生きていく上でごく当たり前の事さ。感謝の心さえ忘れなきゃ、死んで食されたものたちも浮かばれるってもんよ!》
「猫さん…うん、分かった。悲しくなるけど、感謝する!」
《そうだ。えらいぞ!》
ーーー
ーー
ー
こうして、リュシーは食卓に並ぶものもまた食べられるようになった。まだ少し思う事はあっても、感謝をし、有り難くいただくようになったのだった。
と、同時に、悲しい気持ちにもなる。
それはーーー
物心ついた頃。
リュシーは自分の中では動物の会話が聞ける事は特別な事では無かった為、隠す事もなく、動物に向かって会話を繰り広げていた。
しかし、周りからは動物へ独り言を話していたように見えていたし、なぜリュシーが近寄っても野生動物が逃げないのか不思議に思われていた。
リュシーが五歳の頃。
「おい、リュシー。また、猫に向かって独り言話しているのかよ。気持ち悪!」
ブニャー
「あーあ!アドンが来るから怖いって逃げちゃった!」
リュシーがまだ手入れをされていた頃の庭でしゃがみ込み、野生にしては汚れていないフワフワとした真っ白な毛並みの猫に向かって顔を突き合わせていると、オーバンの息子アドンがリュシーに声を掛け近寄って来た。
アドンは、リュシーよりも二歳年上なだけだが、アランブールの屋敷の使用人棟に家族で住んでいるので、この時はすでに見習いのように働いているのだった。
しかし、アドンが近寄って来た事で、リュシーの傍にいた猫は走って遠くに行ってしまった。
「はぁ?俺のせいってか?野生の動物ってのは人に懐かないもんだろ?」
「そんな事ないわ。あの子は最近よくここに顔を出しているでしょ?」
「猫の顔なんて判別出来ねぇよ。それより、昨日夕食に出された鴨肉食べなかったんだって?あんな豪勢な食べ物、なんで残したんだよ?」
「だって…かもさん、可哀想…。」
「あー、確かに、鴨はここで飼ってたやつだったよなぁ。でも、育ててるんだし、またすぐに増えるって。てか、贅沢言うなよ!俺ら一般庶民はなかなか食えないっていうのによ、残すんじゃねぇよ!」
「…!」
「あ!おい、待てよ!リュシー!!ったく…」
アドンの言葉は最もで、けれど悲しい気持ちになったリュシーはその場から逃げ出してしまう。
リュシーは、昨夜料理として出て来た鴨肉が、屋敷のすぐ裏手の池で飼われていた鴨だと初めは気づかなかった。だが、家族で食事をしていた時に母マリエットが、
「うちで育てた鴨はやっぱり最高ね。」
と満足そうに話しているのを聞いて、リュシーは考えた。そして、裏手の池で鴨を飼っていたと思い出したのだ。
池は、危ないから近寄ってはいけないと言われていたリュシーだったから鴨と会話を交わしてはいなかった。だが、遠目から鴨の姿を見ていたので、それがこのように食卓に並ぶとは思っていなかったのだ。
それまで何とも思わずに食べていたのに、その一言でリュシーは何とも言えない気持ちになり、手を止めてしまったのだった。
走った先に、先ほどの真っ白い猫が寝そべっていた。
猫はリュシーの方を向き、悲しそうな顔をしている事に気づくと起き上がりリュシーへ近づき、足を一舐めした。
《どうしたのさ。泣きそうだな。あの憎たらしいアドンがなんかしたのか?》
「だって…アドンが、昨日残した鴨肉の事で怒ったの。お庭にいたかもさん、ご飯に出て来たんだもん。可哀想で…」
《なんだ、そんな事か。そんなの、我らには日常茶飯事だ。というか、残したのか?ダメだぞ、命を粗末にしちゃ。》
「だって…」
《お前たち人間は、何でも食べるだろ?さすがに我を食べたりはしないだろうが、野うさぎやうずらだって、食べちまう。命を絶って食べろと出されたんなら、食べてやらなきゃそいつに失礼だぞ?我だって、昨日まで遊んでた奴を明日には腹が減って食べる事もある。そん時は、感謝して食べてるぜ?》
「そんなの…」
《理不尽か?でもな、食べなきゃ死ぬぞ?食べたら、リュシーの体の中で、血となり肉となって生きてくれるんだぜ。だから、有難いと感謝して食べろ。》
「私の中で生きて…?」
《そうだ。それが弱肉強食ってもんだ。リュシーは心優しいから、悲しく思ってしまうかもしれん。だが、それは生きていく上でごく当たり前の事さ。感謝の心さえ忘れなきゃ、死んで食されたものたちも浮かばれるってもんよ!》
「猫さん…うん、分かった。悲しくなるけど、感謝する!」
《そうだ。えらいぞ!》
ーーー
ーー
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こうして、リュシーは食卓に並ぶものもまた食べられるようになった。まだ少し思う事はあっても、感謝をし、有り難くいただくようになったのだった。
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