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6. お願い
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応接室に入ると、お父様が席に座り、宰相がその後ろに立っていた。
そして対面には、マクスウェル大国の人が三人座っている。皆、金色の軍服を着ていた。その中の一人、深緑色の髪色の男性が私を見て、会釈をした。年齢は私と同じ位か、少し上かしら。
他の二人は、騎士団長と副騎士団長の様子だ。
ロッテは入り口の壁際に控え、私も席に座るとさっそく、お父様が話し出した。
「マクスウェル大国の使者であるロバウト殿、ようこそお越し下さいました。そちらへ輿入れの予定をしていました長女のエドナが、た、体調を崩しまして…。熱も酷く、万が一伝染病だといけないので、次女であるアリーシャが、輿入れと変更をしてもよろしいでしょうか。」
お父様は、こめかみに汗をかきながらどうにか言い終えた。本来、優しい人であるから、嘘をつくのも苦手なのだ。
「それはいけませんな。では私達は一旦帰国して、また後日参りましょうか。」
「い、いえいえいえ!滅相もございません!!せっかくこのように来て下さいましたので、アリーシャを輿入れではいけませんか。え、ええと、延期というのも、あまり醜聞も良くないかと存じますもので…。」
そう言うと、そのロバウトと呼ばれた使者は顎に手を当てて考えだした。
なので、一呼吸置いて私が挨拶をする事にした。断りを入れられたら困るもの。
「お初にお目にかかります、私、アリーシャと申します。ロバウト様とお呼びしてもよろしいでしょうか。私からも申し上げたいのですが…。」
そう言うと、ロバウト様は私へと顔を向け、言った。
「どうぞ。何でしょうか。」
「ありがとう存じます。姉であるエドナから私に代わるというのは、大変申し訳なく思っております。けれど、貴方様の国であるマクスウェル大国を蔑ろにしているわけでは決してございません。慈悲の心が少しでもござりますれば、どうか私をそちらへと嫁がせてはいただけませんか。私も正統なる父と母の娘でございます。和平の象徴とさせて下さいませ。」
そう言って、私は頭を下げた。
どのくらいそうしていたでしょう。冷や汗が流れる程緊張していたけれどやがて、ロバウト様が『顔をお上げください』と言って下さいました。
「アリーシャ様。あなたはそれでよろしいのですか?」
「はい。姉が元気であれば、姉が架け橋となる予定でしたのに申し訳ありません。」
「まぁ、体調が悪いのは…仕方ないですからね。では、アリーシャ様、こちらこそよろしくお願いします。早く回復されるよう祈っておりますよ。医師を派遣しましょうか。」
「い…」
「いいえ、それには及びませんわ。傷み入りますけれど。我が国にも、幼少期よりついている医師がおります。もし、どうしても手に負えない時は、お願い致します。」
お父様が言い出したのを私が被してしまいましたわ。怪しく思われないといいのですけれど。
「そうですか。では、その時は遠慮なく仰って下さい。」
「はい。それから、もう一つお願いがございます。私の侍女を、連れていきたいのです。」
「それはさすがに…うちにも王宮には選りすぐりがおりますから。」
「お願いでございます。一人だけですから、お願いします。心淋しいのです。」
やはり断られるのかしら。そう思いながら頭を下げた。
「やはり難しいですか…。アリーシャはまだ十七ですから、いきなり祖国を離れ一人で…とは考えられず…。」
お父様も加勢して下さいました。けれど、あまり無理を言うのも、こちらの心証を悪くしてもいけないわね。
「ご無理言いまして申し訳ありませんでした。覚悟が足りず…すみませんでしまた。私一人で、行きます。」
「いや。アリーシャ様…では一人だけ、せめて道中だけでも連れて行きましょう。マクスウェル大国へ行って、我が主に直接聞いてみましょうか。よくよく考えてみますと、女性騎士はおりますが侍女は同行しておりませんので。」
「あ…ありがとうございます!」
「でも、追い返されるかもしれませんよ。」
「それでもです!ありがとう存じます…!」
よかったわ!どうにかロッテも一緒に行けるなんて。案外、マクスウェル大国も野蛮な人達ばかりではないのかもしれないわね。隣接する国を次々手に掛けて行ったから野蛮だと思っていたけれど、偏見はいけないわね。
そして対面には、マクスウェル大国の人が三人座っている。皆、金色の軍服を着ていた。その中の一人、深緑色の髪色の男性が私を見て、会釈をした。年齢は私と同じ位か、少し上かしら。
他の二人は、騎士団長と副騎士団長の様子だ。
ロッテは入り口の壁際に控え、私も席に座るとさっそく、お父様が話し出した。
「マクスウェル大国の使者であるロバウト殿、ようこそお越し下さいました。そちらへ輿入れの予定をしていました長女のエドナが、た、体調を崩しまして…。熱も酷く、万が一伝染病だといけないので、次女であるアリーシャが、輿入れと変更をしてもよろしいでしょうか。」
お父様は、こめかみに汗をかきながらどうにか言い終えた。本来、優しい人であるから、嘘をつくのも苦手なのだ。
「それはいけませんな。では私達は一旦帰国して、また後日参りましょうか。」
「い、いえいえいえ!滅相もございません!!せっかくこのように来て下さいましたので、アリーシャを輿入れではいけませんか。え、ええと、延期というのも、あまり醜聞も良くないかと存じますもので…。」
そう言うと、そのロバウトと呼ばれた使者は顎に手を当てて考えだした。
なので、一呼吸置いて私が挨拶をする事にした。断りを入れられたら困るもの。
「お初にお目にかかります、私、アリーシャと申します。ロバウト様とお呼びしてもよろしいでしょうか。私からも申し上げたいのですが…。」
そう言うと、ロバウト様は私へと顔を向け、言った。
「どうぞ。何でしょうか。」
「ありがとう存じます。姉であるエドナから私に代わるというのは、大変申し訳なく思っております。けれど、貴方様の国であるマクスウェル大国を蔑ろにしているわけでは決してございません。慈悲の心が少しでもござりますれば、どうか私をそちらへと嫁がせてはいただけませんか。私も正統なる父と母の娘でございます。和平の象徴とさせて下さいませ。」
そう言って、私は頭を下げた。
どのくらいそうしていたでしょう。冷や汗が流れる程緊張していたけれどやがて、ロバウト様が『顔をお上げください』と言って下さいました。
「アリーシャ様。あなたはそれでよろしいのですか?」
「はい。姉が元気であれば、姉が架け橋となる予定でしたのに申し訳ありません。」
「まぁ、体調が悪いのは…仕方ないですからね。では、アリーシャ様、こちらこそよろしくお願いします。早く回復されるよう祈っておりますよ。医師を派遣しましょうか。」
「い…」
「いいえ、それには及びませんわ。傷み入りますけれど。我が国にも、幼少期よりついている医師がおります。もし、どうしても手に負えない時は、お願い致します。」
お父様が言い出したのを私が被してしまいましたわ。怪しく思われないといいのですけれど。
「そうですか。では、その時は遠慮なく仰って下さい。」
「はい。それから、もう一つお願いがございます。私の侍女を、連れていきたいのです。」
「それはさすがに…うちにも王宮には選りすぐりがおりますから。」
「お願いでございます。一人だけですから、お願いします。心淋しいのです。」
やはり断られるのかしら。そう思いながら頭を下げた。
「やはり難しいですか…。アリーシャはまだ十七ですから、いきなり祖国を離れ一人で…とは考えられず…。」
お父様も加勢して下さいました。けれど、あまり無理を言うのも、こちらの心証を悪くしてもいけないわね。
「ご無理言いまして申し訳ありませんでした。覚悟が足りず…すみませんでしまた。私一人で、行きます。」
「いや。アリーシャ様…では一人だけ、せめて道中だけでも連れて行きましょう。マクスウェル大国へ行って、我が主に直接聞いてみましょうか。よくよく考えてみますと、女性騎士はおりますが侍女は同行しておりませんので。」
「あ…ありがとうございます!」
「でも、追い返されるかもしれませんよ。」
「それでもです!ありがとう存じます…!」
よかったわ!どうにかロッテも一緒に行けるなんて。案外、マクスウェル大国も野蛮な人達ばかりではないのかもしれないわね。隣接する国を次々手に掛けて行ったから野蛮だと思っていたけれど、偏見はいけないわね。
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