6 / 35
6. お願い
しおりを挟む
応接室に入ると、お父様が席に座り、宰相がその後ろに立っていた。
そして対面には、マクスウェル大国の人が三人座っている。皆、金色の軍服を着ていた。その中の一人、深緑色の髪色の男性が私を見て、会釈をした。年齢は私と同じ位か、少し上かしら。
他の二人は、騎士団長と副騎士団長の様子だ。
ロッテは入り口の壁際に控え、私も席に座るとさっそく、お父様が話し出した。
「マクスウェル大国の使者であるロバウト殿、ようこそお越し下さいました。そちらへ輿入れの予定をしていました長女のエドナが、た、体調を崩しまして…。熱も酷く、万が一伝染病だといけないので、次女であるアリーシャが、輿入れと変更をしてもよろしいでしょうか。」
お父様は、こめかみに汗をかきながらどうにか言い終えた。本来、優しい人であるから、嘘をつくのも苦手なのだ。
「それはいけませんな。では私達は一旦帰国して、また後日参りましょうか。」
「い、いえいえいえ!滅相もございません!!せっかくこのように来て下さいましたので、アリーシャを輿入れではいけませんか。え、ええと、延期というのも、あまり醜聞も良くないかと存じますもので…。」
そう言うと、そのロバウトと呼ばれた使者は顎に手を当てて考えだした。
なので、一呼吸置いて私が挨拶をする事にした。断りを入れられたら困るもの。
「お初にお目にかかります、私、アリーシャと申します。ロバウト様とお呼びしてもよろしいでしょうか。私からも申し上げたいのですが…。」
そう言うと、ロバウト様は私へと顔を向け、言った。
「どうぞ。何でしょうか。」
「ありがとう存じます。姉であるエドナから私に代わるというのは、大変申し訳なく思っております。けれど、貴方様の国であるマクスウェル大国を蔑ろにしているわけでは決してございません。慈悲の心が少しでもござりますれば、どうか私をそちらへと嫁がせてはいただけませんか。私も正統なる父と母の娘でございます。和平の象徴とさせて下さいませ。」
そう言って、私は頭を下げた。
どのくらいそうしていたでしょう。冷や汗が流れる程緊張していたけれどやがて、ロバウト様が『顔をお上げください』と言って下さいました。
「アリーシャ様。あなたはそれでよろしいのですか?」
「はい。姉が元気であれば、姉が架け橋となる予定でしたのに申し訳ありません。」
「まぁ、体調が悪いのは…仕方ないですからね。では、アリーシャ様、こちらこそよろしくお願いします。早く回復されるよう祈っておりますよ。医師を派遣しましょうか。」
「い…」
「いいえ、それには及びませんわ。傷み入りますけれど。我が国にも、幼少期よりついている医師がおります。もし、どうしても手に負えない時は、お願い致します。」
お父様が言い出したのを私が被してしまいましたわ。怪しく思われないといいのですけれど。
「そうですか。では、その時は遠慮なく仰って下さい。」
「はい。それから、もう一つお願いがございます。私の侍女を、連れていきたいのです。」
「それはさすがに…うちにも王宮には選りすぐりがおりますから。」
「お願いでございます。一人だけですから、お願いします。心淋しいのです。」
やはり断られるのかしら。そう思いながら頭を下げた。
「やはり難しいですか…。アリーシャはまだ十七ですから、いきなり祖国を離れ一人で…とは考えられず…。」
お父様も加勢して下さいました。けれど、あまり無理を言うのも、こちらの心証を悪くしてもいけないわね。
「ご無理言いまして申し訳ありませんでした。覚悟が足りず…すみませんでしまた。私一人で、行きます。」
「いや。アリーシャ様…では一人だけ、せめて道中だけでも連れて行きましょう。マクスウェル大国へ行って、我が主に直接聞いてみましょうか。よくよく考えてみますと、女性騎士はおりますが侍女は同行しておりませんので。」
「あ…ありがとうございます!」
「でも、追い返されるかもしれませんよ。」
「それでもです!ありがとう存じます…!」
よかったわ!どうにかロッテも一緒に行けるなんて。案外、マクスウェル大国も野蛮な人達ばかりではないのかもしれないわね。隣接する国を次々手に掛けて行ったから野蛮だと思っていたけれど、偏見はいけないわね。
そして対面には、マクスウェル大国の人が三人座っている。皆、金色の軍服を着ていた。その中の一人、深緑色の髪色の男性が私を見て、会釈をした。年齢は私と同じ位か、少し上かしら。
他の二人は、騎士団長と副騎士団長の様子だ。
ロッテは入り口の壁際に控え、私も席に座るとさっそく、お父様が話し出した。
「マクスウェル大国の使者であるロバウト殿、ようこそお越し下さいました。そちらへ輿入れの予定をしていました長女のエドナが、た、体調を崩しまして…。熱も酷く、万が一伝染病だといけないので、次女であるアリーシャが、輿入れと変更をしてもよろしいでしょうか。」
お父様は、こめかみに汗をかきながらどうにか言い終えた。本来、優しい人であるから、嘘をつくのも苦手なのだ。
「それはいけませんな。では私達は一旦帰国して、また後日参りましょうか。」
「い、いえいえいえ!滅相もございません!!せっかくこのように来て下さいましたので、アリーシャを輿入れではいけませんか。え、ええと、延期というのも、あまり醜聞も良くないかと存じますもので…。」
そう言うと、そのロバウトと呼ばれた使者は顎に手を当てて考えだした。
なので、一呼吸置いて私が挨拶をする事にした。断りを入れられたら困るもの。
「お初にお目にかかります、私、アリーシャと申します。ロバウト様とお呼びしてもよろしいでしょうか。私からも申し上げたいのですが…。」
そう言うと、ロバウト様は私へと顔を向け、言った。
「どうぞ。何でしょうか。」
「ありがとう存じます。姉であるエドナから私に代わるというのは、大変申し訳なく思っております。けれど、貴方様の国であるマクスウェル大国を蔑ろにしているわけでは決してございません。慈悲の心が少しでもござりますれば、どうか私をそちらへと嫁がせてはいただけませんか。私も正統なる父と母の娘でございます。和平の象徴とさせて下さいませ。」
そう言って、私は頭を下げた。
どのくらいそうしていたでしょう。冷や汗が流れる程緊張していたけれどやがて、ロバウト様が『顔をお上げください』と言って下さいました。
「アリーシャ様。あなたはそれでよろしいのですか?」
「はい。姉が元気であれば、姉が架け橋となる予定でしたのに申し訳ありません。」
「まぁ、体調が悪いのは…仕方ないですからね。では、アリーシャ様、こちらこそよろしくお願いします。早く回復されるよう祈っておりますよ。医師を派遣しましょうか。」
「い…」
「いいえ、それには及びませんわ。傷み入りますけれど。我が国にも、幼少期よりついている医師がおります。もし、どうしても手に負えない時は、お願い致します。」
お父様が言い出したのを私が被してしまいましたわ。怪しく思われないといいのですけれど。
「そうですか。では、その時は遠慮なく仰って下さい。」
「はい。それから、もう一つお願いがございます。私の侍女を、連れていきたいのです。」
「それはさすがに…うちにも王宮には選りすぐりがおりますから。」
「お願いでございます。一人だけですから、お願いします。心淋しいのです。」
やはり断られるのかしら。そう思いながら頭を下げた。
「やはり難しいですか…。アリーシャはまだ十七ですから、いきなり祖国を離れ一人で…とは考えられず…。」
お父様も加勢して下さいました。けれど、あまり無理を言うのも、こちらの心証を悪くしてもいけないわね。
「ご無理言いまして申し訳ありませんでした。覚悟が足りず…すみませんでしまた。私一人で、行きます。」
「いや。アリーシャ様…では一人だけ、せめて道中だけでも連れて行きましょう。マクスウェル大国へ行って、我が主に直接聞いてみましょうか。よくよく考えてみますと、女性騎士はおりますが侍女は同行しておりませんので。」
「あ…ありがとうございます!」
「でも、追い返されるかもしれませんよ。」
「それでもです!ありがとう存じます…!」
よかったわ!どうにかロッテも一緒に行けるなんて。案外、マクスウェル大国も野蛮な人達ばかりではないのかもしれないわね。隣接する国を次々手に掛けて行ったから野蛮だと思っていたけれど、偏見はいけないわね。
24
お気に入りに追加
1,972
あなたにおすすめの小説
【完結】私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね
江崎美彩
恋愛
王太子殿下の婚約者候補を探すために開かれていると噂されるお茶会に招待された、伯爵令嬢のミンディ・ハーミング。
幼馴染のブライアンが好きなのに、当のブライアンは「ミンディみたいなじゃじゃ馬がお茶会に出ても恥をかくだけだ」なんて揶揄うばかり。
「私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね! 王太子殿下に見染められても知らないんだから!」
ミンディはブライアンに告げ、お茶会に向かう……
〜登場人物〜
ミンディ・ハーミング
元気が取り柄の伯爵令嬢。
幼馴染のブライアンに揶揄われてばかりだが、ブライアンが自分にだけ向けるクシャクシャな笑顔が大好き。
ブライアン・ケイリー
ミンディの幼馴染の伯爵家嫡男。
天邪鬼な性格で、ミンディの事を揶揄ってばかりいる。
ベリンダ・ケイリー
ブライアンの年子の妹。
ミンディとブライアンの良き理解者。
王太子殿下
婚約者が決まらない事に対して色々な噂を立てられている。
『小説家になろう』にも投稿しています
“代わりに結婚しておいて”…と姉が手紙を残して家出しました。初夜もですか?!
みみぢあん
恋愛
ビオレータの姉は、子供の頃からソールズ伯爵クロードと婚約していた。
結婚直前に姉は、妹のビオレータに“結婚しておいて”と手紙を残して逃げ出した。
妹のビオレータは、家族と姉の婚約者クロードのために、姉が帰ってくるまでの身代わりとなることにした。
…初夜になっても姉は戻らず… ビオレータは姉の夫となったクロードを寝室で待つうちに……?!

貧乏子爵令嬢ですが、愛人にならないなら家を潰すと脅されました。それは困る!
よーこ
恋愛
図書室での読書が大好きな子爵令嬢。
ところが最近、図書室で騒ぐ令嬢が現れた。
その令嬢の目的は一人の見目の良い伯爵令息で……。
短編です。
【完結】婚約者を譲れと言うなら譲ります。私が欲しいのはアナタの婚約者なので。
海野凛久
恋愛
【書籍絶賛発売中】
クラリンス侯爵家の長女・マリーアンネは、幼いころから王太子の婚約者と定められ、育てられてきた。
しかしそんなある日、とあるパーティーで、妹から婚約者の地位を譲るように迫られる。
失意に打ちひしがれるかと思われたマリーアンネだったが――
これは、初恋を実らせようと奮闘する、とある令嬢の物語――。
※第14回恋愛小説大賞で特別賞頂きました!応援くださった皆様、ありがとうございました!
※主人公の名前を『マリ』から『マリーアンネ』へ変更しました。

「前世の記憶がある!」と言い張る女が、私の夫を狙ってる。
百谷シカ
恋愛
「彼を返して! その方は私の夫なのよ!!」
「ちょっと意味がわかりませんけど……あの、どちら様?」
私はメランデル伯爵夫人ヴェロニカ・フェーリーン。
夫のパールとは幼馴染で、現在はおしどり夫婦。
社交界でも幼い頃から公然の仲だった私たちにとって、真面目にありえない事件。
「フレイヤよ。私、前世の記憶があるの。彼と結婚していたのよ! 彼を返してッ!!」
その女の名はフレイヤ・ハリアン。
数ヶ月前に亡くなったパルムクランツ伯爵の令嬢とのこと。
「パルムクランツ卿と言えば……ほら」
「あ」
パールに言われて思い出した。
中年に差し掛かったアルメアン侯爵令嬢を娶り、その私生児まで引き取ったお爺ちゃん……
「えっ!? じゃあフレイヤって侯爵家の血筋なの!?」
どうしよう。もし秘密の父親まで超高貴な方だったりしたらもう太刀打ちできない。
ところが……。
「妹が御迷惑をおかけし申し訳ありません」
パルムクランツ伯爵令嬢、の、オリガ。高貴な血筋かもしれない例の連れ子が現れた。
「妹は、養父が晩年になって引き取った孤児なのです」
「……ぇえ!?」
ちょっと待ってよ。
じゃあ、いろいろ謎すぎる女が私の夫を狙ってるって事!? 恐すぎるんですけど!!
=================
(他「エブリスタ」様に投稿)

私の何がいけないんですか?
鈴宮(すずみや)
恋愛
王太子ヨナスの幼馴染兼女官であるエラは、結婚を焦り、夜会通いに明け暮れる十八歳。けれど、社交界デビューをして二年、ヨナス以外の誰も、エラをダンスへと誘ってくれない。
「私の何がいけないの?」
嘆く彼女に、ヨナスが「好きだ」と想いを告白。密かに彼を想っていたエラは舞い上がり、将来への期待に胸を膨らませる。
けれどその翌日、無情にもヨナスと公爵令嬢クラウディアの婚約が発表されてしまう。
傷心のエラ。そんな時、彼女は美しき青年ハンネスと出会う。ハンネスはエラをダンスへと誘い、優しく励ましてくれる。
(一体彼は何者なんだろう?)
素性も分からない、一度踊っただけの彼を想うエラ。そんなエラに、ヨナスが迫り――――?
※短期集中連載。10話程度、2~3万字で完結予定です。

没落貴族とバカにしますが、実は私、王族の者でして。
亜綺羅もも
恋愛
ティファ・レーベルリンは没落貴族と学園の友人たちから毎日イジメられていた。
しかし皆は知らないのだ
ティファが、ロードサファルの王女だとは。
そんなティファはキラ・ファンタムに惹かれていき、そして自分の正体をキラに明かすのであったが……
命を狙われたお飾り妃の最後の願い
幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】
重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。
イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。
短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。
『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる