34 / 35
34. 番外編 ー私の初恋ー
しおりを挟む
七歳になる、活発な女の子が港の近くを走り回っていた。
それは、見慣れた風景ではあるが、今日は港についた船があり、いつもより人が多かった。
「今日は人が多いわ。こういう日は犯罪が増えるから、気をつけないと!」
この女の子は、名前をマリーアと言う。母がクラーラ、父がラグンフリズである。
クラーラの元来の性格に似たのか、活発で、いつも港街から山に向かうと高台にある広いフォントリアー家のカントリーハウスを抜け出し、港街に来て、海運業組合の建物や港に入り浸っていた。
港街に住んでいる人達も、クラーラやラグンフリズがいつも連れているのでマリーアの事は知っている。だから、護衛も付けずにマリーアが遊び回っていても、気にも止めない。だが、一度危ない目に遭いそうになると近くにいる人達が助けに入る。
「あ!なによあれ…。」
マリーアが見回りと称して歩き回っていると、店先にあったパンをつまみ、そのまま代金を払わず歩いて行ってしまう男性二人を見かけた。店主は気づいていない。
マリーアは駆け出し、その男達の手を後ろから引っ張り、大声で叫んだ。
「おい、盗人!ちゃんとお金を払ってからじゃないと自分の物にならないんだよ。そんな事も知らないの!?」
周りの人達はなんだなんだとジロジロと見てきた。慌てて手を引っ張られた男は、その手を振り払い、負けじと叫び返した。
「なんだ!?言い掛かりをつけるのか!これは、今払ってきたに決まってら!なぁ?」
「おお、そうだ。当たり前の事言っちゃいけねぇ!子供だからって、粋がんじゃねぇぞ!」
そう言われ、隣に居た男性に胸を押されたので、マリーアは後ろに倒れそうになった。
が、誰かが後ろから支えてくれ、マリーアは倒れずに済んだ。
そして、その人が男達に向けて声を掛けた。
「おいおい…手ぇ出すんはいけねぇ。か弱い子供に手ぇ上げるんはかっこ悪いぜ、お兄さんよ。もしかして、金も払えない位貧しいのか?可哀想に…。じゃあ仕方ない。衛兵には連れて行くの止めてあげるから、店主に謝りに行こう。貧しいから払えません!って言えば、店の手伝い位できっと許してくれるから。」
「そうだぞ、兄ちゃん達、貧しいならしょうがねぇもんなぁ!」
「そうだそうだ!自分だけじゃ謝りに行けないんなら、俺も着いてってやろうか?」
「チッ…なんだよ、おい、逃げるぞ!」
「へい!」
「おい、逃がすか!」
それからは、さすが港街。普段は素知らぬふりをして歩いていても、いざ揉め事があったら皆で団結して解決をする。港街は、国の玄関口でもある為、悪い事をしようとする輩もどうしても入って来てしまう。その為、さながら自警団のように、街の皆で悪い輩を捕まえて、衛兵に引き渡しているのだ。
「よし、捕まえた!あっけねぇなぁ。悪い事はしちゃいけねぇよ。」
街の人達が誰がやったか分からないように、足を引っ掛けて転ばせたり、ちょっと殴ったり服を引っ張って行く手を阻んだりして、あとは体格の良い奴が出てきて後ろ手に捕まえ、誰かが縄を投げ、それを拾い、ぐるぐる巻きにして一丁上がり。いつものように、衛兵へ引き渡した。
「おい、お前。皆が助けてやったから良かったもんだけど、まだガキなんだから自分からやりに行くなよ。」
マリーアを後ろに倒れないように助けてくれた人が、マリーアへと注意した。彼は、オレンジのような髪をした、十七歳のエマヌエルだ。
父親のような髪色に、マリーアは目が奪われた。
マリーアは知らなかったが、フォントリアー家の海運業組合に勤めているまだまだ下っ端だ。
「あら、でも、悪事は見逃せないわ。治安維持も大切な仕事よ。」
「そうだけどよ、お前はまだ小さいんだ。今回は俺が助けたから良かったものの、怪我があったらいけないだろ?」
そう言われ、マリーアは自分を心配してくれる人がいるんだと思った。
マリーアは、領主の娘である。
ラグンフリズは、結婚して二年目にモウリッツの跡を継いで領主になったのだ。その娘のマリーアを心配しない者はいない。その為、港街に出歩くマリーアを見つけた時は、街の住人総出で見守っているようなものなのだ。
だが、その事をマリーアは知らないし、面と向かって言われたのは初めてだった為に舞い上がってしまった。
「まぁ!そんな事言う人なんて初めてだわ!あなた名前は?私は、マリーアよ。」
「俺は、エマヌエルだ。いいか?気をつけろ。悪事が見過ごせないなら、近くの大人に言え。俺が近くにいれば俺でもいいから。」
「なんて優しいの…!エマヌエル、私と結婚して!」
「はぁ!?」
「お父様が言ってたんだもの!一緒に居たいと思う人が、結婚したいと思う人なんだって!!」
「バッ…バッカじゃねぇの!?(何組合長は娘に言ってんだよ!)俺は貴族でも何でもねぇ!だから無理だな。他を探せよ。」
「何言ってるの?それこそ馬鹿じゃないの?人は、貴族か貴族じゃないかでは無いのよ?自分の事を本当に大切にしてくれるかどうかなの!ね、エマヌエル!今じゃダメなら、もう少し大人になったら考えて!」
「…いつかな!お前が大人になって、まだそう思ってんなら、その時考えてやるよ。(ま、その時はもう、俺の事なんて忘れてるだろ。)」
「言ってくれたわね!?男に二言はないのよ?私、お母様に似た素敵な淑女になってやるんだから!いい?覚悟しておきなさい!」
マリーアは、忘れない内に早くこの事を両親に伝えないとと思って急いで家路に向かった。
それは、見慣れた風景ではあるが、今日は港についた船があり、いつもより人が多かった。
「今日は人が多いわ。こういう日は犯罪が増えるから、気をつけないと!」
この女の子は、名前をマリーアと言う。母がクラーラ、父がラグンフリズである。
クラーラの元来の性格に似たのか、活発で、いつも港街から山に向かうと高台にある広いフォントリアー家のカントリーハウスを抜け出し、港街に来て、海運業組合の建物や港に入り浸っていた。
港街に住んでいる人達も、クラーラやラグンフリズがいつも連れているのでマリーアの事は知っている。だから、護衛も付けずにマリーアが遊び回っていても、気にも止めない。だが、一度危ない目に遭いそうになると近くにいる人達が助けに入る。
「あ!なによあれ…。」
マリーアが見回りと称して歩き回っていると、店先にあったパンをつまみ、そのまま代金を払わず歩いて行ってしまう男性二人を見かけた。店主は気づいていない。
マリーアは駆け出し、その男達の手を後ろから引っ張り、大声で叫んだ。
「おい、盗人!ちゃんとお金を払ってからじゃないと自分の物にならないんだよ。そんな事も知らないの!?」
周りの人達はなんだなんだとジロジロと見てきた。慌てて手を引っ張られた男は、その手を振り払い、負けじと叫び返した。
「なんだ!?言い掛かりをつけるのか!これは、今払ってきたに決まってら!なぁ?」
「おお、そうだ。当たり前の事言っちゃいけねぇ!子供だからって、粋がんじゃねぇぞ!」
そう言われ、隣に居た男性に胸を押されたので、マリーアは後ろに倒れそうになった。
が、誰かが後ろから支えてくれ、マリーアは倒れずに済んだ。
そして、その人が男達に向けて声を掛けた。
「おいおい…手ぇ出すんはいけねぇ。か弱い子供に手ぇ上げるんはかっこ悪いぜ、お兄さんよ。もしかして、金も払えない位貧しいのか?可哀想に…。じゃあ仕方ない。衛兵には連れて行くの止めてあげるから、店主に謝りに行こう。貧しいから払えません!って言えば、店の手伝い位できっと許してくれるから。」
「そうだぞ、兄ちゃん達、貧しいならしょうがねぇもんなぁ!」
「そうだそうだ!自分だけじゃ謝りに行けないんなら、俺も着いてってやろうか?」
「チッ…なんだよ、おい、逃げるぞ!」
「へい!」
「おい、逃がすか!」
それからは、さすが港街。普段は素知らぬふりをして歩いていても、いざ揉め事があったら皆で団結して解決をする。港街は、国の玄関口でもある為、悪い事をしようとする輩もどうしても入って来てしまう。その為、さながら自警団のように、街の皆で悪い輩を捕まえて、衛兵に引き渡しているのだ。
「よし、捕まえた!あっけねぇなぁ。悪い事はしちゃいけねぇよ。」
街の人達が誰がやったか分からないように、足を引っ掛けて転ばせたり、ちょっと殴ったり服を引っ張って行く手を阻んだりして、あとは体格の良い奴が出てきて後ろ手に捕まえ、誰かが縄を投げ、それを拾い、ぐるぐる巻きにして一丁上がり。いつものように、衛兵へ引き渡した。
「おい、お前。皆が助けてやったから良かったもんだけど、まだガキなんだから自分からやりに行くなよ。」
マリーアを後ろに倒れないように助けてくれた人が、マリーアへと注意した。彼は、オレンジのような髪をした、十七歳のエマヌエルだ。
父親のような髪色に、マリーアは目が奪われた。
マリーアは知らなかったが、フォントリアー家の海運業組合に勤めているまだまだ下っ端だ。
「あら、でも、悪事は見逃せないわ。治安維持も大切な仕事よ。」
「そうだけどよ、お前はまだ小さいんだ。今回は俺が助けたから良かったものの、怪我があったらいけないだろ?」
そう言われ、マリーアは自分を心配してくれる人がいるんだと思った。
マリーアは、領主の娘である。
ラグンフリズは、結婚して二年目にモウリッツの跡を継いで領主になったのだ。その娘のマリーアを心配しない者はいない。その為、港街に出歩くマリーアを見つけた時は、街の住人総出で見守っているようなものなのだ。
だが、その事をマリーアは知らないし、面と向かって言われたのは初めてだった為に舞い上がってしまった。
「まぁ!そんな事言う人なんて初めてだわ!あなた名前は?私は、マリーアよ。」
「俺は、エマヌエルだ。いいか?気をつけろ。悪事が見過ごせないなら、近くの大人に言え。俺が近くにいれば俺でもいいから。」
「なんて優しいの…!エマヌエル、私と結婚して!」
「はぁ!?」
「お父様が言ってたんだもの!一緒に居たいと思う人が、結婚したいと思う人なんだって!!」
「バッ…バッカじゃねぇの!?(何組合長は娘に言ってんだよ!)俺は貴族でも何でもねぇ!だから無理だな。他を探せよ。」
「何言ってるの?それこそ馬鹿じゃないの?人は、貴族か貴族じゃないかでは無いのよ?自分の事を本当に大切にしてくれるかどうかなの!ね、エマヌエル!今じゃダメなら、もう少し大人になったら考えて!」
「…いつかな!お前が大人になって、まだそう思ってんなら、その時考えてやるよ。(ま、その時はもう、俺の事なんて忘れてるだろ。)」
「言ってくれたわね!?男に二言はないのよ?私、お母様に似た素敵な淑女になってやるんだから!いい?覚悟しておきなさい!」
マリーアは、忘れない内に早くこの事を両親に伝えないとと思って急いで家路に向かった。
32
お気に入りに追加
2,970
あなたにおすすめの小説
愛しき夫は、男装の姫君と恋仲らしい。
星空 金平糖
恋愛
シエラは、政略結婚で夫婦となった公爵──グレイのことを深く愛していた。
グレイは優しく、とても親しみやすい人柄でその甘いルックスから、結婚してからも数多の女性達と浮名を流していた。
それでもシエラは、グレイが囁いてくれる「私が愛しているのは、あなただけだよ」その言葉を信じ、彼と夫婦であれることに幸福を感じていた。
しかし。ある日。
シエラは、グレイが美貌の少年と親密な様子で、王宮の庭を散策している場面を目撃してしまう。当初はどこかの令息に王宮案内をしているだけだと考えていたシエラだったが、実はその少年が王女─ディアナであると判明する。
聞くところによるとディアナとグレイは昔から想い会っていた。
ディアナはグレイが結婚してからも、健気に男装までしてグレイに会いに来ては逢瀬を重ねているという。
──……私は、ただの邪魔者だったの?
衝撃を受けるシエラは「これ以上、グレイとはいられない」と絶望する……。
大好きな旦那様はどうやら聖女様のことがお好きなようです
古堂すいう
恋愛
祖父から溺愛され我儘に育った公爵令嬢セレーネは、婚約者である皇子から衆目の中、突如婚約破棄を言い渡される。
皇子の横にはセレーネが嫌う男爵令嬢の姿があった。
他人から冷たい視線を浴びたことなどないセレーネに戸惑うばかり、そんな彼女に所有財産没収の命が下されようとしたその時。
救いの手を差し伸べたのは神官長──エルゲンだった。
セレーネは、エルゲンと婚姻を結んだ当初「穏やかで誰にでも微笑むつまらない人」だという印象をもっていたけれど、共に生活する内に徐々に彼の人柄に惹かれていく。
だけれど彼には想い人が出来てしまったようで──…。
「今度はわたくしが恩を返すべきなんですわ!」
今まで自分のことばかりだったセレーネは、初めて人のために何かしたいと思い立ち、大好きな旦那様のために奮闘するのだが──…。
「婚約の約束を取り消しませんか」と言われ、涙が零れてしまったら
古堂すいう
恋愛
今日は待ちに待った婚約発表の日。
アベリア王国の公爵令嬢─ルルは、心を躍らせ王城のパーティーへと向かった。
けれど、パーティーで見たのは想い人である第二王子─ユシスと、その横に立つ妖艶で美人な隣国の王女。
王女がユシスにべったりとして離れないその様子を見て、ルルは切ない想いに胸を焦がして──。
女性として見れない私は、もう不要な様です〜俺の事は忘れて幸せになって欲しい。と言われたのでそうする事にした結果〜
流雲青人
恋愛
子爵令嬢のプレセアは目の前に広がる光景に静かに涙を零した。
偶然にも居合わせてしまったのだ。
学園の裏庭で、婚約者がプレセアの友人へと告白している場面に。
そして後日、婚約者に呼び出され告げられた。
「君を女性として見ることが出来ない」
幼馴染であり、共に過ごして来た時間はとても長い。
その中でどうやら彼はプレセアを友人以上として見れなくなってしまったらしい。
「俺の事は忘れて幸せになって欲しい。君は幸せになるべき人だから」
大切な二人だからこそ、清く身を引いて、大好きな人と友人の恋を応援したい。
そう思っている筈なのに、恋心がその気持ちを邪魔してきて...。
※
ゆるふわ設定です。
完結しました。
もううんざりですので、実家に帰らせていただきます
ルイス
恋愛
「あなたの浮気には耐えられなくなりましたので、婚約中の身ですが実家の屋敷に帰らせていただきます」
伯爵令嬢のシルファ・ウォークライは耐えられなくなって、リーガス・ドルアット侯爵令息の元から姿を消した。リーガスは反省し二度と浮気をしないとばかりに彼女を追いかけて行くが……。
【完結】探さないでください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
私は、貴方と共にした一夜を後悔した事はない。
貴方は私に尊いこの子を与えてくれた。
あの一夜を境に、私の環境は正反対に変わってしまった。
冷たく厳しい人々の中から、温かく優しい人々の中へ私は飛び込んだ。
複雑で高級な物に囲まれる暮らしから、質素で簡素な物に囲まれる暮らしへ移ろいだ。
無関心で疎遠な沢山の親族を捨てて、誰よりも私を必要としてくれる尊いこの子だけを選んだ。
風の噂で貴方が私を探しているという話を聞く。
だけど、誰も私が貴方が探している人物とは思わないはず。
今、私は幸せを感じている。
貴方が側にいなくても、私はこの子と生きていける。
だから、、、
もう、、、
私を、、、
探さないでください。
【完結】忘れてください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。
貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。
夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。
貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。
もういいの。
私は貴方を解放する覚悟を決めた。
貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。
私の事は忘れてください。
※6月26日初回完結
7月12日2回目完結しました。
お読みいただきありがとうございます。
【完結】愛に裏切られた私と、愛を諦めなかった元夫
紫崎 藍華
恋愛
政略結婚だったにも関わらず、スティーヴンはイルマに浮気し、妻のミシェルを捨てた。
スティーヴンは政略結婚の重要性を理解できていなかった。
そのような男の愛が許されるはずないのだが、彼は愛を貫いた。
捨てられたミシェルも貴族という立場に翻弄されつつも、一つの答えを見出した。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる