上 下
32 / 35

32. 社交パーティー

しおりを挟む
 今年初めての宮廷での夜会に、クラーラは、ラグンフリズと婚約者という形で初めて参加をする。


 ラグンフリズは、クラーラをタウンハウスに迎えに来ていた。


「クラーラ、今日はやっと婚約者と…なって…って…!!」

 ラグンフリズは、玄関ホールでクラーラを待っていて、クラーラを見てあまりの美しさに言葉を失った。

「ラグンフリズ様…?」

「何度も見ているでしょう?義兄上?」


 クラーラの後ろから、ティムが呆れながら声を掛ける。ティムは、ヘンリクの場合は義兄などとこれっぽっちも認めていなかった。
対して、ラグンフリズはカントリーハウスに弟アスガーと訪ねてきたとき、アスガーと意気投合して結果兄とも認めたのだ。
アスガーは、ティムと二人になった時、ラグンフリズとクラーラが恋人になれたらいいと思っていると伝えた。初め、ティムはそれには最初ヘンリクの事もあり警戒していた。しかし、庭でラグンフリズとクラーラが花を見つめながら嬉しそうに話をしていたのを目の当たりにし、もしかしたらアスガーの言う事も一理あるのかもしれないと思った。
また、ラグンフリズからクラーラへと届いた手紙を読んでいる時の姉を見ると幸せそうだから応援しようと思ったのだ。


 しかし、毎回こう、ドレス姿を見る度ラグンフリズのクラーラへの熱い視線を傍で見せられると、応援しているけれども自然と呆れてくるのだ。


「いや…そうなんだが…毎回本当に目がくらむ程綺麗なんだ。仕方ないだろう?義弟よ。」

(知らないよ…弟の俺に言うな…!)

 ティムがムッとしながら、姉に言葉を掛ける。

「姉上、確かに目も眩む程綺麗です。さぁ、先に行って下さい。僕も後から両親と一緒に行きますから。」

(さっさと行きなよ…!幸せそうだからいいんだけどさ!)






 夜会は、とても煌びやかだ。たくさんの人がいる為に熱気もあり、踊り疲れた人はテラスから外へ出て庭園に出る人もいる。庭園にも、足元にほんのりと灯りがあるので、夜の庭園を楽しんだり、適度に暗い為逢い引きする人もいる。

「さぁ、今日はクラーラが疲れるまで踊るからね。今まで、俺とクラーラが踊ったりエスコートしてるのにも関わらず、果敢にクラーラに誘ってきた奴に見せびらかしてやる!」

「もう!ラグンフリズ様ったら。彼らはきっと、ヘンリクと婚約を白紙にした私を揶揄おうと思って誘ってきてたのですから。」

「いや!違う男の名前を出さないでくれ!俺がクラーラを助けてやると思ったんだけど、間に合わず情けなかったんだから…。」

「え?そうだったのですか?ラグンフリズ様のお手を煩わす所だったのですか?尚更、お父様に調べてもらって良かったですわ。」

「クラーラになら、何をお願いされたって煩わしいと思わないよ!それにしてもさすが義父上だよ。手際が良かったからあんな短時間で調べ上げ、婚約を白紙に戻せたんだろう?俺も、ベントナー家のタウンハウスが売りに出されていたのまでは知っていたんだがなぁ…。」

「そんなに落ち込まないで下さいませ!さぁ、ラグンフリズ様とダンスを踊るのは楽しみだったのですから!」

 そう言って、クラーラとラグンフリズはダンスホールへと向かった。

「クラーラは本当に綺麗に踊るよね。ヘンリクと踊っていたのは、一度だけ見たんだけどあいつリードが下手すぎやしないか?クラーラ、よく転ばなかったよね。もう、絶対他の奴には踊らせないけどな!」

「フフフ。ラグンフリズ様って、良い意味で印象が違いますわ。なんだか可愛らしいです。」

「な、何だって?止めてくれよ…でも、クラーラにしか見せないからいっか!」

「そうですか?私も、嫌ではありませんから、そう言われて嬉しいですわ。あぁ、本当にラグンフリズ様は上手くリードして下さるから、以前よりももっとダンスが好きになりました。」

「そう?俺、今までダンスは嫌いだったんだ。何でこんなに密着させて踊るんだって。でも、今はとても楽しいよ。クラーラが俺の手から行ったり来たりして本当に素敵だ。」


 クラーラは、ヘンリクとダンスを踊った時には何度も転ばないようにするのに精一杯だったし『ゆっくり踊れるようになればいいから』なんて言われ、凹んでいた。
だが、ラグンフリズとダンスを踊ると、ティムや執事のイエスタと踊った時よりももっと踊りやすくて何度でも踊りたくなってしまう。
 ただ昨年まではまだ婚約者では無かった為に、一度踊ったら交代しなければならなかったのでラグンフリズは歯痒い思いをしていたし、クラーラも空気を読まない男性陣からダンスに誘われ苦痛であった。

 けれども、今年は婚約者として来ている。何曲踊っていても、誰からもはしたないと言われたりはしない。だからそれが二人共嬉しくて、息が上がるまで何曲も踊っていた。
しおりを挟む
感想 35

あなたにおすすめの小説

愛しき夫は、男装の姫君と恋仲らしい。

星空 金平糖
恋愛
シエラは、政略結婚で夫婦となった公爵──グレイのことを深く愛していた。 グレイは優しく、とても親しみやすい人柄でその甘いルックスから、結婚してからも数多の女性達と浮名を流していた。 それでもシエラは、グレイが囁いてくれる「私が愛しているのは、あなただけだよ」その言葉を信じ、彼と夫婦であれることに幸福を感じていた。 しかし。ある日。 シエラは、グレイが美貌の少年と親密な様子で、王宮の庭を散策している場面を目撃してしまう。当初はどこかの令息に王宮案内をしているだけだと考えていたシエラだったが、実はその少年が王女─ディアナであると判明する。 聞くところによるとディアナとグレイは昔から想い会っていた。 ディアナはグレイが結婚してからも、健気に男装までしてグレイに会いに来ては逢瀬を重ねているという。 ──……私は、ただの邪魔者だったの? 衝撃を受けるシエラは「これ以上、グレイとはいられない」と絶望する……。

女性として見れない私は、もう不要な様です〜俺の事は忘れて幸せになって欲しい。と言われたのでそうする事にした結果〜

流雲青人
恋愛
子爵令嬢のプレセアは目の前に広がる光景に静かに涙を零した。 偶然にも居合わせてしまったのだ。 学園の裏庭で、婚約者がプレセアの友人へと告白している場面に。 そして後日、婚約者に呼び出され告げられた。 「君を女性として見ることが出来ない」 幼馴染であり、共に過ごして来た時間はとても長い。 その中でどうやら彼はプレセアを友人以上として見れなくなってしまったらしい。 「俺の事は忘れて幸せになって欲しい。君は幸せになるべき人だから」 大切な二人だからこそ、清く身を引いて、大好きな人と友人の恋を応援したい。 そう思っている筈なのに、恋心がその気持ちを邪魔してきて...。 ※ ゆるふわ設定です。 完結しました。

【完結】探さないでください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
私は、貴方と共にした一夜を後悔した事はない。 貴方は私に尊いこの子を与えてくれた。 あの一夜を境に、私の環境は正反対に変わってしまった。 冷たく厳しい人々の中から、温かく優しい人々の中へ私は飛び込んだ。 複雑で高級な物に囲まれる暮らしから、質素で簡素な物に囲まれる暮らしへ移ろいだ。 無関心で疎遠な沢山の親族を捨てて、誰よりも私を必要としてくれる尊いこの子だけを選んだ。 風の噂で貴方が私を探しているという話を聞く。 だけど、誰も私が貴方が探している人物とは思わないはず。 今、私は幸せを感じている。 貴方が側にいなくても、私はこの子と生きていける。 だから、、、 もう、、、 私を、、、 探さないでください。

愛のある政略結婚のはずでしたのに

神楽ゆきな
恋愛
伯爵令嬢のシェリナ・ブライスはモーリス・アクランド侯爵令息と婚約をしていた。 もちろん互いの意思などお構いなしの、家同士が決めた政略結婚である。 何しろ決まったのは、シェリナがやっと歩き始めたかどうかという頃だったのだから。 けれども、それは初めだけ。 2人は出会ったその時から恋に落ち、この人こそが運命の相手だと信じ合った……はずだったのに。 「私はずっと騙されていたようだ!あなたとは今日をもって婚約を破棄させてもらう!」 モーリスに言い放たれて、シェリナは頭が真っ白になってしまった。 しかし悲しみにくれる彼女の前に現れたのは、ウォーレン・トルストイ公爵令息。 彼はシェリナの前に跪くなり「この時を待っていました」と彼女の手を取ったのだった。

【完結】捨ててください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ずっと貴方の側にいた。 でも、あの人と再会してから貴方は私ではなく、あの人を見つめるようになった。 分かっている。 貴方は私の事を愛していない。 私は貴方の側にいるだけで良かったのに。 貴方が、あの人の側へ行きたいと悩んでいる事が私に伝わってくる。 もういいの。 ありがとう貴方。 もう私の事は、、、 捨ててください。 続編投稿しました。 初回完結6月25日 第2回目完結7月18日

行き場を失った恋の終わらせ方

当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」  自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。  避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。    しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……  恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。 ※他のサイトにも重複投稿しています。

「婚約の約束を取り消しませんか」と言われ、涙が零れてしまったら

古堂すいう
恋愛
今日は待ちに待った婚約発表の日。 アベリア王国の公爵令嬢─ルルは、心を躍らせ王城のパーティーへと向かった。 けれど、パーティーで見たのは想い人である第二王子─ユシスと、その横に立つ妖艶で美人な隣国の王女。 王女がユシスにべったりとして離れないその様子を見て、ルルは切ない想いに胸を焦がして──。

妹ばかりを贔屓し溺愛する婚約者にウンザリなので、わたしも辺境の大公様と婚約しちゃいます

新世界のウサギさん
恋愛
わたし、リエナは今日婚約者であるローウェンとデートをする予定だった。 ところが、いつになっても彼が現れる気配は無く、待ちぼうけを喰らう羽目になる。 「私はレイナが好きなんだ!」 それなりの誠実さが売りだった彼は突如としてわたしを捨て、妹のレイナにぞっこんになっていく。 こうなったら仕方ないので、わたしも前から繋がりがあった大公様と付き合うことにします!

処理中です...