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21. 親族になれなかった人達

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「こ、これは…!」

「アルベルトよ。お前はうちと婚約を結ぶより一ヶ月ほど前に宮廷の仕事を辞めたんだってな。いや…正確にいえば公的資金を使い込んでしまったが為のクビ。ベントナー伯爵領は広くない領地に小麦と季節の野菜を少し育てている位で抜きん出た特産物がない。その為宮廷での仕事が無くなると収入が格段と減ってしまうから、うちマグヌッセン伯爵家と婚約を結ぼうと考えたのだろ?」

「…!」

「そんなに我々は仲良かった訳ではないが、学院時代はよく話し掛けてきたな。今思えば、を見越していたのかと思った位だ。」

「……!」

「それから、タウンハウスを売り払っているね。馬車も。大方、その売れた金額を宮廷への使い込んだ返済に充てたのだろうが、それを見る限り、経営は破綻寸前だったのだろ?タウンハウスは、地方がある我々のような貴族にとって必要だからな。そんな破綻寸前の家に娘を嫁がせるなんて…苦労が目に見えている。出来る訳がない。」


 ティーオドルにそう言われたアルベルトは、頭を抱えだした。
 ちなみに、馬車を売り払ってしまったから宮都へ来る時には乗り合い馬車に乗って来ていた。今回も、馬車が無い為にマグヌッセン家の馬車で迎えに行ったというわけだ。
ティーオドルには、『今年は宿に泊まりたい気分で』とかなんとか適当に言い、だから馬車が使えないと早々に言っていたのだ。


 クラーラは、だから出掛ける時はうちマグヌッセン家から馬車を毎回出していたのかと納得した。


「そんな…!横暴ですわ!将来親戚関係になり得るのですから、お助け下さるのが筋というものでしょう?なぜ、見捨てるとおっしゃるの!?」

「ベンテ…黙りなさい。」

「いいえ!マグヌッセン伯爵家とうちは、ヘンリクが卒業したら親戚関係となるのよ?マグヌッセン家は儲かっているのだから、少しくらい私達に分けてくれてもいいじゃないの!そうでしょう?」

「そうですわ!だって、お兄様が結婚するから私達はドレスが買えるのよ!結婚しなくなったら、新しいドレスが買えなくなるわ!そんなの困る!!」

「マイアネも!いいから黙りなさい!」

 ティーオドルの言葉に、納得いかないのだろう、ベンテとマイアネが口を挟んできた。
しかし、それに対し慌ててアルベルトが制する。

「…ベントナー家では、教育もままならないようだね。」

「す、済まない…。」

「あなた…ちょっと、偉そうに何よ!本来であれば、うちの立派なヘンリクと婚約できるのだから準備金をベントナー家へ渡すのが礼儀でしょう?それなのに、何にもくれないんだもの!金持ちのくせにケチにもほどがあるわ!!こっちはヘンリクが卒業するまで我慢しているのに!」

「ベンテ!!」

「ほう…?我慢しているって?どこがだ!?」


 そう言ったティーオドルは、手に残っていた書類を今度はベンテの目の前に叩きつけるように置いた。


「何よ!…え!?あ…」

「お母様?」


 それは、高級仕立屋の請求書だった。


うちマグヌッセン家は、代々付き合いのある仕立屋を屋敷に呼ぶからね。この店とは違うんだが、噂に聞いてね、その高級仕立屋に話を聞きに行かせたんだ。よくもまあ人の名前を騙って高い物を買えるね。ずうずうしいにもほどがあるよ。」

 ベンテは、マイアネが小さな頃はそんなに金遣いが荒いわけではなかった。けれども、マイアネが大きくなってくると『あの子のドレス可愛い』『あれよりも可愛いのが欲しい』と言ってくるようになった。仕方がないからベンテはマイアネと一緒に宮都へ買い物に来ていたのだが、見ているとやはり自分の分も欲しくなる。そこで見に来ると大抵二人分を何着も購入していた。
アルベルトもさすがに支出が多いと注意をしたがそれでも聞かない。
 だから、アルベルトは二人の衣装代をどうにかしなければと仕事のお金に手を付けてしまったと言うわけだ。

 息子の婚約関係を結んだとアルベルトより聞いたベンテは、これ幸いだと今までよりも高級な仕立屋に行き『うちの息子がマグヌッセン伯爵家と結婚するのよ。だから、結婚したら払うわ。』と支払い時に言ったらしい。
仕立屋は、『だったら商品は渡せない。代金と引き換えだ。』と言うと、『ちゃんと三年後には払うからいいでしょ?そんな事も出来ない仕立屋なの?なんなら、を付けてあげるわ。請求書も書けばいいじゃないのよ。』と強気だった。
 高級仕立屋は、困っていた。マグヌッセン家とは取り引きがない。聞きに行く事も憚られた。仕方がないから請求書はしっかりと残しておき、三年後払わない場合には裁判でも起こそうかと考えていた。
 だからマグヌッセン家から事情を聞きにきた時はものすごく喜ばれ、請求書も写しをすぐに渡してくれたのだ。
 その代金も、立て替えさせたティーオドル。もちろん、あとからベントナー家へと請求する気でいる。

「それから、ヘンリクよ。娘の為にと努力していたのかと思えば、愛情では無く金の成る木だと思って大切にしていたのかね?お前は私の娘を愚弄しているのか!?婚約者がいる身でありながら、他の女子生徒を口説くとは不貞と取られかねんぞ。まぁ、うちの娘はそれもあり、婚約関係を継続するのは難しいに至ったわけだが。」

「え!?ちょ…おい!クラーラ!!あの女から何か聞いたのか!?あいつが言ったのはそれこそ戯言だ!勘違いしないでくれ!僕は、君への愛は偽りはないよ!!」

「どの口が言う?さぁ、入ってもらいなさい。」


 ティーオドルは再び、執事のイエスタへと声を掛けると、イエスタは頭を素早く下げてから廊下へと向かった。
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