21 / 35
21. 親族になれなかった人達
しおりを挟む
「こ、これは…!」
「アルベルトよ。お前はうちと婚約を結ぶより一ヶ月ほど前に宮廷の仕事を辞めたんだってな。いや…正確にいえば公的資金を使い込んでしまったが為のクビ。ベントナー伯爵領は広くない領地に小麦と季節の野菜を少し育てている位で抜きん出た特産物がない。その為宮廷での仕事が無くなると収入が格段と減ってしまうから、うちと婚約を結ぼうと考えたのだろ?」
「…!」
「そんなに我々は仲良かった訳ではないが、学院時代はよく話し掛けてきたな。今思えば、こうなる事を見越していたのかと思った位だ。」
「……!」
「それから、タウンハウスを売り払っているね。馬車も。大方、その売れた金額を宮廷への使い込んだ返済に充てたのだろうが、それを見る限り、経営は破綻寸前だったのだろ?タウンハウスは、地方がある我々のような貴族にとって必要だからな。そんな破綻寸前の家に娘を嫁がせるなんて…苦労が目に見えている。出来る訳がない。」
ティーオドルにそう言われたアルベルトは、頭を抱えだした。
ちなみに、馬車を売り払ってしまったから宮都へ来る時には乗り合い馬車に乗って来ていた。今回も、馬車が無い為にマグヌッセン家の馬車で迎えに行ったというわけだ。
ティーオドルには、『今年は宿に泊まりたい気分で』とかなんとか適当に言い、だから馬車が使えないと早々に言っていたのだ。
クラーラは、だから出掛ける時はうちから馬車を毎回出していたのかと納得した。
「そんな…!横暴ですわ!将来親戚関係になり得るのですから、お助け下さるのが筋というものでしょう?なぜ、見捨てるとおっしゃるの!?」
「ベンテ…黙りなさい。」
「いいえ!マグヌッセン伯爵家とうちは、ヘンリクが卒業したら親戚関係となるのよ?マグヌッセン家は儲かっているのだから、少しくらい私達に分けてくれてもいいじゃないの!そうでしょう?」
「そうですわ!だって、お兄様が結婚するから私達はドレスが買えるのよ!結婚しなくなったら、新しいドレスが買えなくなるわ!そんなの困る!!」
「マイアネも!いいから黙りなさい!」
ティーオドルの言葉に、納得いかないのだろう、ベンテとマイアネが口を挟んできた。
しかし、それに対し慌ててアルベルトが制する。
「…ベントナー家では、教育もままならないようだね。」
「す、済まない…。」
「あなた…ちょっと、偉そうに何よ!本来であれば、うちの立派なヘンリクと婚約できるのだから準備金をベントナー家へ渡すのが礼儀でしょう?それなのに、何にもくれないんだもの!金持ちのくせにケチにもほどがあるわ!!こっちはヘンリクが卒業するまで我慢しているのに!」
「ベンテ!!」
「ほう…?我慢しているって?どこがだ!?」
そう言ったティーオドルは、手に残っていた書類を今度はベンテの目の前に叩きつけるように置いた。
「何よ!…え!?あ…」
「お母様?」
それは、高級仕立屋の請求書だった。
「うちは、代々付き合いのある仕立屋を屋敷に呼ぶからね。この店とは違うんだが、噂に聞いてね、その高級仕立屋に話を聞きに行かせたんだ。よくもまあ人の名前を騙って高い物を買えるね。ずうずうしいにもほどがあるよ。」
ベンテは、マイアネが小さな頃はそんなに金遣いが荒いわけではなかった。けれども、マイアネが大きくなってくると『あの子のドレス可愛い』『あれよりも可愛いのが欲しい』と言ってくるようになった。仕方がないからベンテはマイアネと一緒に宮都へ買い物に来ていたのだが、見ているとやはり自分の分も欲しくなる。そこで見に来ると大抵二人分を何着も購入していた。
アルベルトもさすがに支出が多いと注意をしたがそれでも聞かない。
だから、アルベルトは二人の衣装代をどうにかしなければと仕事のお金に手を付けてしまったと言うわけだ。
息子の婚約関係を結んだとアルベルトより聞いたベンテは、これ幸いだと今までよりも高級な仕立屋に行き『うちの息子がマグヌッセン伯爵家と結婚するのよ。だから、結婚したら払うわ。』と支払い時に言ったらしい。
仕立屋は、『だったら商品は渡せない。代金と引き換えだ。』と言うと、『ちゃんと三年後には払うからいいでしょ?そんな事も出来ない仕立屋なの?なんなら、イロを付けてあげるわ。請求書も書けばいいじゃないのよ。』と強気だった。
高級仕立屋は、困っていた。マグヌッセン家とは取り引きがない。聞きに行く事も憚られた。仕方がないから請求書はしっかりと残しておき、三年後払わない場合には裁判でも起こそうかと考えていた。
だからマグヌッセン家から事情を聞きにきた時はものすごく喜ばれ、請求書も写しをすぐに渡してくれたのだ。
その代金も、立て替えさせたティーオドル。もちろん、あとからベントナー家へと請求する気でいる。
「それから、ヘンリクよ。娘の為にと努力していたのかと思えば、愛情では無く金の成る木だと思って大切にしていたのかね?お前は私の娘を愚弄しているのか!?婚約者がいる身でありながら、他の女子生徒を口説くとは不貞と取られかねんぞ。まぁ、うちの娘はそれもあり、婚約関係を継続するのは難しいに至ったわけだが。」
「え!?ちょ…おい!クラーラ!!あの女から何か聞いたのか!?あいつが言ったのはそれこそ戯言だ!勘違いしないでくれ!僕は、君への愛は偽りはないよ!!」
「どの口が言う?さぁ、入ってもらいなさい。」
ティーオドルは再び、執事のイエスタへと声を掛けると、イエスタは頭を素早く下げてから廊下へと向かった。
「アルベルトよ。お前はうちと婚約を結ぶより一ヶ月ほど前に宮廷の仕事を辞めたんだってな。いや…正確にいえば公的資金を使い込んでしまったが為のクビ。ベントナー伯爵領は広くない領地に小麦と季節の野菜を少し育てている位で抜きん出た特産物がない。その為宮廷での仕事が無くなると収入が格段と減ってしまうから、うちと婚約を結ぼうと考えたのだろ?」
「…!」
「そんなに我々は仲良かった訳ではないが、学院時代はよく話し掛けてきたな。今思えば、こうなる事を見越していたのかと思った位だ。」
「……!」
「それから、タウンハウスを売り払っているね。馬車も。大方、その売れた金額を宮廷への使い込んだ返済に充てたのだろうが、それを見る限り、経営は破綻寸前だったのだろ?タウンハウスは、地方がある我々のような貴族にとって必要だからな。そんな破綻寸前の家に娘を嫁がせるなんて…苦労が目に見えている。出来る訳がない。」
ティーオドルにそう言われたアルベルトは、頭を抱えだした。
ちなみに、馬車を売り払ってしまったから宮都へ来る時には乗り合い馬車に乗って来ていた。今回も、馬車が無い為にマグヌッセン家の馬車で迎えに行ったというわけだ。
ティーオドルには、『今年は宿に泊まりたい気分で』とかなんとか適当に言い、だから馬車が使えないと早々に言っていたのだ。
クラーラは、だから出掛ける時はうちから馬車を毎回出していたのかと納得した。
「そんな…!横暴ですわ!将来親戚関係になり得るのですから、お助け下さるのが筋というものでしょう?なぜ、見捨てるとおっしゃるの!?」
「ベンテ…黙りなさい。」
「いいえ!マグヌッセン伯爵家とうちは、ヘンリクが卒業したら親戚関係となるのよ?マグヌッセン家は儲かっているのだから、少しくらい私達に分けてくれてもいいじゃないの!そうでしょう?」
「そうですわ!だって、お兄様が結婚するから私達はドレスが買えるのよ!結婚しなくなったら、新しいドレスが買えなくなるわ!そんなの困る!!」
「マイアネも!いいから黙りなさい!」
ティーオドルの言葉に、納得いかないのだろう、ベンテとマイアネが口を挟んできた。
しかし、それに対し慌ててアルベルトが制する。
「…ベントナー家では、教育もままならないようだね。」
「す、済まない…。」
「あなた…ちょっと、偉そうに何よ!本来であれば、うちの立派なヘンリクと婚約できるのだから準備金をベントナー家へ渡すのが礼儀でしょう?それなのに、何にもくれないんだもの!金持ちのくせにケチにもほどがあるわ!!こっちはヘンリクが卒業するまで我慢しているのに!」
「ベンテ!!」
「ほう…?我慢しているって?どこがだ!?」
そう言ったティーオドルは、手に残っていた書類を今度はベンテの目の前に叩きつけるように置いた。
「何よ!…え!?あ…」
「お母様?」
それは、高級仕立屋の請求書だった。
「うちは、代々付き合いのある仕立屋を屋敷に呼ぶからね。この店とは違うんだが、噂に聞いてね、その高級仕立屋に話を聞きに行かせたんだ。よくもまあ人の名前を騙って高い物を買えるね。ずうずうしいにもほどがあるよ。」
ベンテは、マイアネが小さな頃はそんなに金遣いが荒いわけではなかった。けれども、マイアネが大きくなってくると『あの子のドレス可愛い』『あれよりも可愛いのが欲しい』と言ってくるようになった。仕方がないからベンテはマイアネと一緒に宮都へ買い物に来ていたのだが、見ているとやはり自分の分も欲しくなる。そこで見に来ると大抵二人分を何着も購入していた。
アルベルトもさすがに支出が多いと注意をしたがそれでも聞かない。
だから、アルベルトは二人の衣装代をどうにかしなければと仕事のお金に手を付けてしまったと言うわけだ。
息子の婚約関係を結んだとアルベルトより聞いたベンテは、これ幸いだと今までよりも高級な仕立屋に行き『うちの息子がマグヌッセン伯爵家と結婚するのよ。だから、結婚したら払うわ。』と支払い時に言ったらしい。
仕立屋は、『だったら商品は渡せない。代金と引き換えだ。』と言うと、『ちゃんと三年後には払うからいいでしょ?そんな事も出来ない仕立屋なの?なんなら、イロを付けてあげるわ。請求書も書けばいいじゃないのよ。』と強気だった。
高級仕立屋は、困っていた。マグヌッセン家とは取り引きがない。聞きに行く事も憚られた。仕方がないから請求書はしっかりと残しておき、三年後払わない場合には裁判でも起こそうかと考えていた。
だからマグヌッセン家から事情を聞きにきた時はものすごく喜ばれ、請求書も写しをすぐに渡してくれたのだ。
その代金も、立て替えさせたティーオドル。もちろん、あとからベントナー家へと請求する気でいる。
「それから、ヘンリクよ。娘の為にと努力していたのかと思えば、愛情では無く金の成る木だと思って大切にしていたのかね?お前は私の娘を愚弄しているのか!?婚約者がいる身でありながら、他の女子生徒を口説くとは不貞と取られかねんぞ。まぁ、うちの娘はそれもあり、婚約関係を継続するのは難しいに至ったわけだが。」
「え!?ちょ…おい!クラーラ!!あの女から何か聞いたのか!?あいつが言ったのはそれこそ戯言だ!勘違いしないでくれ!僕は、君への愛は偽りはないよ!!」
「どの口が言う?さぁ、入ってもらいなさい。」
ティーオドルは再び、執事のイエスタへと声を掛けると、イエスタは頭を素早く下げてから廊下へと向かった。
71
お気に入りに追加
2,987
あなたにおすすめの小説
愛しき夫は、男装の姫君と恋仲らしい。
星空 金平糖
恋愛
シエラは、政略結婚で夫婦となった公爵──グレイのことを深く愛していた。
グレイは優しく、とても親しみやすい人柄でその甘いルックスから、結婚してからも数多の女性達と浮名を流していた。
それでもシエラは、グレイが囁いてくれる「私が愛しているのは、あなただけだよ」その言葉を信じ、彼と夫婦であれることに幸福を感じていた。
しかし。ある日。
シエラは、グレイが美貌の少年と親密な様子で、王宮の庭を散策している場面を目撃してしまう。当初はどこかの令息に王宮案内をしているだけだと考えていたシエラだったが、実はその少年が王女─ディアナであると判明する。
聞くところによるとディアナとグレイは昔から想い会っていた。
ディアナはグレイが結婚してからも、健気に男装までしてグレイに会いに来ては逢瀬を重ねているという。
──……私は、ただの邪魔者だったの?
衝撃を受けるシエラは「これ以上、グレイとはいられない」と絶望する……。
女性として見れない私は、もう不要な様です〜俺の事は忘れて幸せになって欲しい。と言われたのでそうする事にした結果〜
流雲青人
恋愛
子爵令嬢のプレセアは目の前に広がる光景に静かに涙を零した。
偶然にも居合わせてしまったのだ。
学園の裏庭で、婚約者がプレセアの友人へと告白している場面に。
そして後日、婚約者に呼び出され告げられた。
「君を女性として見ることが出来ない」
幼馴染であり、共に過ごして来た時間はとても長い。
その中でどうやら彼はプレセアを友人以上として見れなくなってしまったらしい。
「俺の事は忘れて幸せになって欲しい。君は幸せになるべき人だから」
大切な二人だからこそ、清く身を引いて、大好きな人と友人の恋を応援したい。
そう思っている筈なのに、恋心がその気持ちを邪魔してきて...。
※
ゆるふわ設定です。
完結しました。
【完結】探さないでください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
私は、貴方と共にした一夜を後悔した事はない。
貴方は私に尊いこの子を与えてくれた。
あの一夜を境に、私の環境は正反対に変わってしまった。
冷たく厳しい人々の中から、温かく優しい人々の中へ私は飛び込んだ。
複雑で高級な物に囲まれる暮らしから、質素で簡素な物に囲まれる暮らしへ移ろいだ。
無関心で疎遠な沢山の親族を捨てて、誰よりも私を必要としてくれる尊いこの子だけを選んだ。
風の噂で貴方が私を探しているという話を聞く。
だけど、誰も私が貴方が探している人物とは思わないはず。
今、私は幸せを感じている。
貴方が側にいなくても、私はこの子と生きていける。
だから、、、
もう、、、
私を、、、
探さないでください。
【完結】捨ててください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ずっと貴方の側にいた。
でも、あの人と再会してから貴方は私ではなく、あの人を見つめるようになった。
分かっている。
貴方は私の事を愛していない。
私は貴方の側にいるだけで良かったのに。
貴方が、あの人の側へ行きたいと悩んでいる事が私に伝わってくる。
もういいの。
ありがとう貴方。
もう私の事は、、、
捨ててください。
続編投稿しました。
初回完結6月25日
第2回目完結7月18日
皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
もう、愛はいりませんから
さくたろう
恋愛
ローザリア王国公爵令嬢ルクレティア・フォルセティに、ある日突然、未来の記憶が蘇った。
王子リーヴァイの愛する人を殺害しようとした罪により投獄され、兄に差し出された毒を煽り死んだ記憶だ。それが未来の出来事だと確信したルクレティアは、そんな未来に怯えるが、その記憶のおかしさに気がつき、謎を探ることにする。そうしてやがて、ある人のひたむきな愛を知ることになる。
【完結】もう誰にも恋なんてしないと誓った
Mimi
恋愛
声を出すこともなく、ふたりを見つめていた。
わたしにとって、恋人と親友だったふたりだ。
今日まで身近だったふたりは。
今日から一番遠いふたりになった。
*****
伯爵家の後継者シンシアは、友人アイリスから交際相手としてお薦めだと、幼馴染みの侯爵令息キャメロンを紹介された。
徐々に親しくなっていくシンシアとキャメロンに婚約の話がまとまり掛ける。
シンシアの誕生日の婚約披露パーティーが近付いた夏休み前のある日、シンシアは急ぐキャメロンを見掛けて彼の後を追い、そして見てしまった。
お互いにただの幼馴染みだと口にしていた恋人と親友の口づけを……
* 無自覚の上から目線
* 幼馴染みという特別感
* 失くしてからの後悔
幼馴染みカップルの当て馬にされてしまった伯爵令嬢、してしまった親友視点のお話です。
中盤は略奪した親友側の視点が続きますが、当て馬令嬢がヒロインです。
本編完結後に、力量不足故の幕間を書き加えており、最終話と重複しています。
ご了承下さいませ。
他サイトにも公開中です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる