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2. その日の夜
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(あぁ…とても疲れたわ。)
クラーラは、ガーデンパーティーが終わり、ちょうどタウンハウスに帰ってきていた。外は、夜の帳が下り始めている。
宮廷がある宮都に、マグヌッセン伯爵家はタウンハウスを持っている。
マグヌッセン伯爵領は宮都からは西へ馬車で半日ほどかかる為、宮廷で行事がある時などは普段住んでいるカントリーハウスから、前日までに訪れているのだ。
対してヘンリクの家のベントナー家は、宮都から南へ半日ほど馬車で走るとある。だが、ベントナー家はタウンハウスを持っていない。正確に言えば少し前までは所有していたが、売り払ってしまったのだ。その為、社交シーズンのように宮廷に用事がある時には、今年からは宮都にある宿に泊まる事になった。
通常、婚約者がいる場合は男性側の家が馬車で迎えに行く事が多い。その方が帰りに送って来れるからだ。けれどもベントナー家はタウンハウスが無い為に、ベントナー家の馬車を準備しておく場所も無い。なので今日は、マグヌッセン家の馬車がヘンリクの泊まっている宿まで迎えに行き、送って来たのだ。
だから時間も少し余計に掛かってしまい、クラーラは緊張もしていた為、かなり疲れていた。
コンコンコン
「クラーラ、大丈夫?」
クラーラの母エルセだ。
今日は社交シーズンの始まりのパーティーであった為、両親と弟のティムも会場にいた。しかし馬車は別々であった為、先に帰って来ていたのだ。
「はい、お母様。」
クラーラは、着替えもせずにベッドに倒れ込むように寝そべっていたが慌てて起き上がり、ソファへと移動した。
「入るわよ?…やっぱりまだ着替えていないのね。疲れたでしょう?大丈夫だった?」
会場では、始まるまではヘンリクに連れられて友人達に紹介されていた。けれど、たくさんの人に紹介され過ぎた為に誰一人覚えていなかった。
その後、国王陛下が庭園へと入ってきて挨拶をされると、クラーラの両親やティムとヘンリクの両親が来て、国王陛下の元へ共に挨拶に行った。
今までは家族だけで挨拶に行ったのだが、婚約が決まった事を陛下にお披露目する為である。
それが終わると、またヘンリクは自分の友人達の所へ行こうと言って、クラーラを連れて行った。クラーラは、紹介して下さるヘンリクが本当に嬉しそうに笑っているし、自分の事をベタ褒めして紹介してくれるから愛想笑いをして付き合っていた。本当は、せっかく来たのだから庭の花を見て回りたいと思っていたのだけれど。
(初めは、上手くエスコートしてくれていると思ったのだけれど…。もう少し私へも気を配ってくれるといいのに。)
そしてそろそろ本当に疲れたから、少し席を外すとヘンリクに伝えようと声を出そうとすると、国王陛下が終わりの挨拶を告げたのだった。
ガーデンパーティーは、主に立ちながらの場で、疲れた人の為に庭園の奥にはベンチがあったり、ホールに戻って席に座る事も出来たのだ。だから、それをしたいと言い出そうとしていたが、終わりとなってしまった。クラーラは、庭園の花を見られなくて残念だと思ったけれど、それよりも体がだるく疲れたので早く馬車に乗って座りたいと思ってしまったのだ。
それを母エルセも視界の端で捉えていたのだ。いつまで経っても解放されない娘を。
「クラーラ。自分の気持ちをお相手に言っていいのよ?疲れたのなら、いつまでもヘンリクの傍に居なくても良かったの。自分の気持ちすら言わせてくれない婚約者なら、取り止めてしまえばいいのだわ。」
そう言って、エルセはクラーラの隣に座り肩に手を置いた。
「お母様…。今回は、ヘンリク様に初めてお会いしたのでどうすればいいのか迷っておりました。次回からはそうします。」
「そうね、初対面だったものね。どうしても合わないなら、言いなさい。ティムも心配していたわ。」
「はい、お母様。でも、お言葉はとても嬉しい事を言ってくれるのです。」
「そう?ならいいわ。まだ、きっとヘンリクもどう接していいか迷って、空回りしているのかもしれないものね。」
そう言って、エルセは愛しい娘の頭をしばらくゆっくりと撫で続けていた。
クラーラは、ガーデンパーティーが終わり、ちょうどタウンハウスに帰ってきていた。外は、夜の帳が下り始めている。
宮廷がある宮都に、マグヌッセン伯爵家はタウンハウスを持っている。
マグヌッセン伯爵領は宮都からは西へ馬車で半日ほどかかる為、宮廷で行事がある時などは普段住んでいるカントリーハウスから、前日までに訪れているのだ。
対してヘンリクの家のベントナー家は、宮都から南へ半日ほど馬車で走るとある。だが、ベントナー家はタウンハウスを持っていない。正確に言えば少し前までは所有していたが、売り払ってしまったのだ。その為、社交シーズンのように宮廷に用事がある時には、今年からは宮都にある宿に泊まる事になった。
通常、婚約者がいる場合は男性側の家が馬車で迎えに行く事が多い。その方が帰りに送って来れるからだ。けれどもベントナー家はタウンハウスが無い為に、ベントナー家の馬車を準備しておく場所も無い。なので今日は、マグヌッセン家の馬車がヘンリクの泊まっている宿まで迎えに行き、送って来たのだ。
だから時間も少し余計に掛かってしまい、クラーラは緊張もしていた為、かなり疲れていた。
コンコンコン
「クラーラ、大丈夫?」
クラーラの母エルセだ。
今日は社交シーズンの始まりのパーティーであった為、両親と弟のティムも会場にいた。しかし馬車は別々であった為、先に帰って来ていたのだ。
「はい、お母様。」
クラーラは、着替えもせずにベッドに倒れ込むように寝そべっていたが慌てて起き上がり、ソファへと移動した。
「入るわよ?…やっぱりまだ着替えていないのね。疲れたでしょう?大丈夫だった?」
会場では、始まるまではヘンリクに連れられて友人達に紹介されていた。けれど、たくさんの人に紹介され過ぎた為に誰一人覚えていなかった。
その後、国王陛下が庭園へと入ってきて挨拶をされると、クラーラの両親やティムとヘンリクの両親が来て、国王陛下の元へ共に挨拶に行った。
今までは家族だけで挨拶に行ったのだが、婚約が決まった事を陛下にお披露目する為である。
それが終わると、またヘンリクは自分の友人達の所へ行こうと言って、クラーラを連れて行った。クラーラは、紹介して下さるヘンリクが本当に嬉しそうに笑っているし、自分の事をベタ褒めして紹介してくれるから愛想笑いをして付き合っていた。本当は、せっかく来たのだから庭の花を見て回りたいと思っていたのだけれど。
(初めは、上手くエスコートしてくれていると思ったのだけれど…。もう少し私へも気を配ってくれるといいのに。)
そしてそろそろ本当に疲れたから、少し席を外すとヘンリクに伝えようと声を出そうとすると、国王陛下が終わりの挨拶を告げたのだった。
ガーデンパーティーは、主に立ちながらの場で、疲れた人の為に庭園の奥にはベンチがあったり、ホールに戻って席に座る事も出来たのだ。だから、それをしたいと言い出そうとしていたが、終わりとなってしまった。クラーラは、庭園の花を見られなくて残念だと思ったけれど、それよりも体がだるく疲れたので早く馬車に乗って座りたいと思ってしまったのだ。
それを母エルセも視界の端で捉えていたのだ。いつまで経っても解放されない娘を。
「クラーラ。自分の気持ちをお相手に言っていいのよ?疲れたのなら、いつまでもヘンリクの傍に居なくても良かったの。自分の気持ちすら言わせてくれない婚約者なら、取り止めてしまえばいいのだわ。」
そう言って、エルセはクラーラの隣に座り肩に手を置いた。
「お母様…。今回は、ヘンリク様に初めてお会いしたのでどうすればいいのか迷っておりました。次回からはそうします。」
「そうね、初対面だったものね。どうしても合わないなら、言いなさい。ティムも心配していたわ。」
「はい、お母様。でも、お言葉はとても嬉しい事を言ってくれるのです。」
「そう?ならいいわ。まだ、きっとヘンリクもどう接していいか迷って、空回りしているのかもしれないものね。」
そう言って、エルセは愛しい娘の頭をしばらくゆっくりと撫で続けていた。
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