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7. 婚約者との初登校とは

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「おい、クラーラ!あーよかった!間に合って。どうしたんだい?迎えに行ったら、もう居なかったから驚いたよ。」



 もうほとんどの生徒が講堂に集まり、好きに座っていい席も埋まってきていた。
 クラーラは、あれからずっとシャーロテと講堂で話していたが、入り口から大きな声で名前を呼ばれたのでそちらを見ると、婚約者のヘンリクであった。

「ヘンリク様…?」

「え、誰?」

 シャーロテがそれに対し、眉間に皺を寄せて彼を見る。

「あ、私の婚約者です。でも、どうされたのかしら。」

「いや、婚約者だとしてもあんな入り口から大声で…」

 講堂は広く、入り口から前の方に座っていたクラーラ達の方まではかなりの距離があった。なのに、大声で婚約者の名前を呼ぶなんて、紳士となるべく学ぶべき伯爵家の息子がするべき事ではないとシャーロテは眉間に皺を寄せたのだ。

 ツカツカと大股でクラーラの元まで歩いて来たヘンリクは、目の前に話すべき相手がいるというのに再び大きな声で話し出した。

「驚くじゃないか、クラーラ!せっかくの学院初日の入学式だったから、僕家まで迎えに行ったんだよ?なのに、もう学院に向かったと聞いて…心配になってしまったんだ!あぁ、無事でよかった!!」

 大袈裟過ぎる身振り手振りで、頭を抱えたり、手で目頭を押さえたり忙しくしている。それを見て、シャーロテは一層苛立ち、思わず言葉を放った。

「あなた、何を仰っているの?どういう事か説明してくれるかしら?」


 クラーラは、先ほどシャーロテに、婚約者が最近出来た事や、その彼が寮から通う事を話している所だった。その為、シャーロテは、寮から通う人がどうしてタウンハウスから馬車で通うクラーラの家まで迎えに行くのかと嫌味を込めて言ったのだ。

「ん?君は?済まないが、僕はクラーラに話をしているんだ。僕と話したいのかもしれないが、ごめんね、クラーラと話し終わってからね。それで、クラーラ?どうして先に向かったの?一人で行くと危ないだろう?」

 そう言われたシャーロテは拳を握り締め、怒りを耐えるようにわなわなと小刻みに震えている。

 対してクラーラは、はて、自分はヘンリクと約束をしたのだろうかと考えていた。
 ヘンリクは学院の敷地内にある寮に入り、そこから学院に通うと以前のガーデンパーティーに行く馬車の中で話していた。寮に馬車は無い。だから、当然、クラーラはタウンハウスから通う為一人で学院に通うのは当然だと思っていた。もちろん、歩けない距離ではないから、歩いて行く事もあるだろう。でも、貴族の娘が街中を一人で歩くのは外聞が悪い為、馬車で通いなさいと両親からも言われていた。
 けれど、考えても思い出せないし、せっかく友達になったシャーロテがかなり機嫌が悪くなっているのを見て慌ててヘンリクに聞いてみた。

「あの…ヘンリク様。私、ヘンリク様は寮から通われると伺っておりましたから、ヘンリク様は寮から直接学院に向かわれると思っておりました。その方が近いのですから。けれど、私の勘違いだったのでしょうか?約束も特にしていなかったので、ヘンリク様が迎えに来て下さるとは知らず、申し訳ありませんでした。」

「そ、そうか…。まぁ、確かにね。でも、クラーラが大切だからね、迎えに行ったんだよ?おかげで遅刻するかと思ったよ。」

「申し訳ありませんでした。間に合ってよかったです。」

「ああ。ちょうど君の家の前にいた馬車に乗せて来てもらったからね。」

「えっ!?」

「はぁ!?」

 え、と驚いたのはクラーラ。はぁ?と呆れたのはシャーロテである。

 他家の者が、他家の馬車にその家の者がいないのに乗るなんて、よほどの事情でもない限り乗る訳がない。それなのに、ヘンリクは家の前にいた馬車に平然と乗せてもらったと言った。お礼も、その馬車の持ち主である家のクラーラに対して述べる事もしていない。
 ちなみにその馬車は、クラーラが学院まで乗って来て、一旦家に帰ったものである。

「ヘンリク様、申し訳ありませんでした。けれど、明日からは私、自分で来れますから迎えに来なくても大丈夫ですわ。ヘンリク様はせっかく学院内にある寮から通えるのですもの。」

「そ、そう?大丈夫?本当に?僕が行かなくても泣いたりしないかい?」

 クラーラは、今度は、泣くとはどういう事だろうかと思ったが、彼はきっと私を心配して言ってくれているのだと思って返事を返した。

「えぇ、ヘンリク様のご迷惑になるのはいけませんから。学院でも会えますものね。」

「そう?じゃぁ明日からは行かないよ?いい?父上に、報告しないよね?」

「報告ですか?何を?」

「いや、だから僕が迎えに来ないと怒ったりしない?」

「ええ、大丈夫です。そんな事で怒ったりしませんわ。」

「そっかそっか…。クラーラは優しいんだね。じゃぁ明日からは行かないからよろしくね。ああ、それで、クラーラの隣の君は?僕と話したかったんだよね?」

 わなわなと怒りを耐えていたシャーロテだったが、そうヘンリクに言われてさすがに言い返してしまった。

「いいえ!そんな事全く思っておりません!早く席に着くといいわ!!空いた席に座りに行きなさい!!」
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