23 / 35
23. 事後報告
しおりを挟む
「本当に良かったのかしら?」
「あら、何を言っているの?貴女にはもったいなかったわ。あんなお荷物!…ところで、あの女も居たらしいじゃない!なんで呼んでくれなかったの?私も見てみたかったわ!」
休み明け、朝学院へ行くとクラーラはシャーロテに家であった婚約を白紙に戻す話をしたのだ。今日も、普段通り早く来ているので教室にはほとんど人はいない。教室に他にいる人は、本を読んでいる。
シャーロテは、マルグレーテとも口悪く言っているけれど友人となった。マルグレーテの名前を出してしまうと仲良くなった事が周囲にもバレてしまい、マルグレーテのやっている〝仕事〟がうまくいかなくなるといけないからと敢えてそう言っていたのだ。
「除け者になんてしてないからね、シャーロテ。お父様が声を掛けて下さったの。娘を持つ親として、娘が悪い男に報復をされるかもしれないのは見過ごせないのですって。」
「あら!いいお父様じゃない!うちのお父様は…家の事と、国の事しか考えていないわよ。」
シャローテは口元を尖らせ、少しふて腐れながらそう言った。
「貴族だもの、しかもオルリック公爵家は現国王陛下のご兄弟の間柄だもの。仕方ないわよ。」
「あーあ!クラーラの父親みたいに、貴族らしくない人がお父様だったらなぁ!」
「シャーロテ…」
「あら!分かっているわよ、自分の立場位。でも、思うだけはいいでしょ?…ごめんね、クラーラの前くらいよ、私が弱音吐けるのは。」
クラーラは、シャローテのその明け透けな感じをいつも好ましいと思っていた。公爵令嬢であるのに、全く偉ぶらず、下位貴族の自分とまるで昔からの幼馴染みのように接してくれる。だから自分も、素直になれるのだ。
そんなクラーラに、力になりたいと思わないわけがない。
「そう?ならどんどん吐いて!上手い言葉を掛けてあげられないけれど…。」
「だからいいのよ。クラーラと友人になれたのは宝ね!私がどこかに嫁いでも、クラーラには手紙を書くからね、嫌とか思わないでちょうだい。」
「何言ってるのよ、思うわけないわ!」
「良かったわ。クラーラも、誰に嫁ぐのかしら?本当、あんな男から解放されたから、次は信頼できる人がいいわよねぇ。」
「そうだけど…でも私婚約なんてもう出来ないと思うわ。」
クラーラは少し俯いてそう言った。
自分の有責ではないにしろ、一度結んだ婚約を白紙に戻した令嬢であるから、こんな自分と婚約を結ぶ人なんて居ないと思っていた。
「あら、どうして?クラーラは魅力的よ?きっと、婚約を白紙に戻した事を皆が知ったら、申し込みが殺到よ!これから大変になるわよ!」
「そんな事…!」
ガタン!ガダッ、ガタン!!
「!?」
「!?」
大きな音を立て、椅子と机に足を引っ掛けながら席を立ち、扉にまで体をぶつけて教室を出て行ったのは、ラグンフリズ=フォントリアー。いつも颯爽と歩いているのに今日はどこか鈍くさく、クラーラとシャーロテは笑いそうになりながらも声を出した。
「だ、大丈夫かしら?」
「本当、分かりやす!ええ、クラーラの心配している部分では、大丈夫だと思うわよ。そうじゃない部分は、大丈夫じゃないかもしれないけれど。」
「え?」
「フフフ。さ、お手洗いに行きましょ!付いてきてくれる?」
「分かったわ。もうそろそろ、他の生徒も登校して来る頃ですもんね。」
そう言って、シャーロテとクラーラも、席を立った。
☆★
そして、次の日。
「あの男、学院を辞めたのですってね。」
シャーロテは、登校して早々、クラーラにそう話した。
「えっ!…そうなの。」
あの男、とはもちろんヘンリクだ。クラーラは、父が言っていた事が実現されるのだなと思った。
学院を離れ、罪を償う為に。
「そんな暗い顔しないの!辞める人は珍しいけれど、居ないわけではないし、クラーラの気にする所ではないわよ?」
「ええ…そうね。」
クラーラは、好きになろう、いや婚約者と決まったのだからといずれは夫として共に過ごすのだと寄り添おうと努力していた。そんな一度は婚約者として共に時間を過ごした相手に、少しだけ思いをはせた。
「そういえばもうすぐ、年末年始のお休みだわ!クラーラは、領地へ帰るの?」
暗い顔になったクラーラに、もうその話は終わりとばかりにシャローテは明るい話題を振る。
学院に入学したのが九月。それから三ヶ月も経ったのか、とその言葉にクラーラは思った。
十二月の終わりの一週間と、一月の始めの一週間がが休みになるのだ。
その長期休暇にタウンハウスや寮から通っていた生徒は、領地に帰る者も居る。何らかの事情があって帰らない者は、寮で過ごしても良くなっている。
「ええ。シャーロテも?」
「そうね。どこかで国王陛下に挨拶に来ないといけないけれど、帰るわ。」
「そっか。じゃあお互い会えなくてさみしくなるけれど、ゆっくり過ごしてね!また学院で会いましょう?」
そう言って、シャーロテはクラーラに微笑んだ。
クラーラもまた、領地でゆっくり過ごし、また新学期も頑張ろうと思って微笑んだ。
「あら、何を言っているの?貴女にはもったいなかったわ。あんなお荷物!…ところで、あの女も居たらしいじゃない!なんで呼んでくれなかったの?私も見てみたかったわ!」
休み明け、朝学院へ行くとクラーラはシャーロテに家であった婚約を白紙に戻す話をしたのだ。今日も、普段通り早く来ているので教室にはほとんど人はいない。教室に他にいる人は、本を読んでいる。
シャーロテは、マルグレーテとも口悪く言っているけれど友人となった。マルグレーテの名前を出してしまうと仲良くなった事が周囲にもバレてしまい、マルグレーテのやっている〝仕事〟がうまくいかなくなるといけないからと敢えてそう言っていたのだ。
「除け者になんてしてないからね、シャーロテ。お父様が声を掛けて下さったの。娘を持つ親として、娘が悪い男に報復をされるかもしれないのは見過ごせないのですって。」
「あら!いいお父様じゃない!うちのお父様は…家の事と、国の事しか考えていないわよ。」
シャローテは口元を尖らせ、少しふて腐れながらそう言った。
「貴族だもの、しかもオルリック公爵家は現国王陛下のご兄弟の間柄だもの。仕方ないわよ。」
「あーあ!クラーラの父親みたいに、貴族らしくない人がお父様だったらなぁ!」
「シャーロテ…」
「あら!分かっているわよ、自分の立場位。でも、思うだけはいいでしょ?…ごめんね、クラーラの前くらいよ、私が弱音吐けるのは。」
クラーラは、シャローテのその明け透けな感じをいつも好ましいと思っていた。公爵令嬢であるのに、全く偉ぶらず、下位貴族の自分とまるで昔からの幼馴染みのように接してくれる。だから自分も、素直になれるのだ。
そんなクラーラに、力になりたいと思わないわけがない。
「そう?ならどんどん吐いて!上手い言葉を掛けてあげられないけれど…。」
「だからいいのよ。クラーラと友人になれたのは宝ね!私がどこかに嫁いでも、クラーラには手紙を書くからね、嫌とか思わないでちょうだい。」
「何言ってるのよ、思うわけないわ!」
「良かったわ。クラーラも、誰に嫁ぐのかしら?本当、あんな男から解放されたから、次は信頼できる人がいいわよねぇ。」
「そうだけど…でも私婚約なんてもう出来ないと思うわ。」
クラーラは少し俯いてそう言った。
自分の有責ではないにしろ、一度結んだ婚約を白紙に戻した令嬢であるから、こんな自分と婚約を結ぶ人なんて居ないと思っていた。
「あら、どうして?クラーラは魅力的よ?きっと、婚約を白紙に戻した事を皆が知ったら、申し込みが殺到よ!これから大変になるわよ!」
「そんな事…!」
ガタン!ガダッ、ガタン!!
「!?」
「!?」
大きな音を立て、椅子と机に足を引っ掛けながら席を立ち、扉にまで体をぶつけて教室を出て行ったのは、ラグンフリズ=フォントリアー。いつも颯爽と歩いているのに今日はどこか鈍くさく、クラーラとシャーロテは笑いそうになりながらも声を出した。
「だ、大丈夫かしら?」
「本当、分かりやす!ええ、クラーラの心配している部分では、大丈夫だと思うわよ。そうじゃない部分は、大丈夫じゃないかもしれないけれど。」
「え?」
「フフフ。さ、お手洗いに行きましょ!付いてきてくれる?」
「分かったわ。もうそろそろ、他の生徒も登校して来る頃ですもんね。」
そう言って、シャーロテとクラーラも、席を立った。
☆★
そして、次の日。
「あの男、学院を辞めたのですってね。」
シャーロテは、登校して早々、クラーラにそう話した。
「えっ!…そうなの。」
あの男、とはもちろんヘンリクだ。クラーラは、父が言っていた事が実現されるのだなと思った。
学院を離れ、罪を償う為に。
「そんな暗い顔しないの!辞める人は珍しいけれど、居ないわけではないし、クラーラの気にする所ではないわよ?」
「ええ…そうね。」
クラーラは、好きになろう、いや婚約者と決まったのだからといずれは夫として共に過ごすのだと寄り添おうと努力していた。そんな一度は婚約者として共に時間を過ごした相手に、少しだけ思いをはせた。
「そういえばもうすぐ、年末年始のお休みだわ!クラーラは、領地へ帰るの?」
暗い顔になったクラーラに、もうその話は終わりとばかりにシャローテは明るい話題を振る。
学院に入学したのが九月。それから三ヶ月も経ったのか、とその言葉にクラーラは思った。
十二月の終わりの一週間と、一月の始めの一週間がが休みになるのだ。
その長期休暇にタウンハウスや寮から通っていた生徒は、領地に帰る者も居る。何らかの事情があって帰らない者は、寮で過ごしても良くなっている。
「ええ。シャーロテも?」
「そうね。どこかで国王陛下に挨拶に来ないといけないけれど、帰るわ。」
「そっか。じゃあお互い会えなくてさみしくなるけれど、ゆっくり過ごしてね!また学院で会いましょう?」
そう言って、シャーロテはクラーラに微笑んだ。
クラーラもまた、領地でゆっくり過ごし、また新学期も頑張ろうと思って微笑んだ。
35
お気に入りに追加
2,971
あなたにおすすめの小説
愛しき夫は、男装の姫君と恋仲らしい。
星空 金平糖
恋愛
シエラは、政略結婚で夫婦となった公爵──グレイのことを深く愛していた。
グレイは優しく、とても親しみやすい人柄でその甘いルックスから、結婚してからも数多の女性達と浮名を流していた。
それでもシエラは、グレイが囁いてくれる「私が愛しているのは、あなただけだよ」その言葉を信じ、彼と夫婦であれることに幸福を感じていた。
しかし。ある日。
シエラは、グレイが美貌の少年と親密な様子で、王宮の庭を散策している場面を目撃してしまう。当初はどこかの令息に王宮案内をしているだけだと考えていたシエラだったが、実はその少年が王女─ディアナであると判明する。
聞くところによるとディアナとグレイは昔から想い会っていた。
ディアナはグレイが結婚してからも、健気に男装までしてグレイに会いに来ては逢瀬を重ねているという。
──……私は、ただの邪魔者だったの?
衝撃を受けるシエラは「これ以上、グレイとはいられない」と絶望する……。
女性として見れない私は、もう不要な様です〜俺の事は忘れて幸せになって欲しい。と言われたのでそうする事にした結果〜
流雲青人
恋愛
子爵令嬢のプレセアは目の前に広がる光景に静かに涙を零した。
偶然にも居合わせてしまったのだ。
学園の裏庭で、婚約者がプレセアの友人へと告白している場面に。
そして後日、婚約者に呼び出され告げられた。
「君を女性として見ることが出来ない」
幼馴染であり、共に過ごして来た時間はとても長い。
その中でどうやら彼はプレセアを友人以上として見れなくなってしまったらしい。
「俺の事は忘れて幸せになって欲しい。君は幸せになるべき人だから」
大切な二人だからこそ、清く身を引いて、大好きな人と友人の恋を応援したい。
そう思っている筈なのに、恋心がその気持ちを邪魔してきて...。
※
ゆるふわ設定です。
完結しました。
【完結】白い結婚ですか? 喜んで!~推し(旦那様の外見)活に忙しいので、旦那様の中身には全く興味がありません!~
猫石
恋愛
「ラテスカ嬢。君には申し訳ないが、私は初恋の人が忘れられない。私が理不尽な要求をしていることはわかっているが、この気持ちに整理がつくまで白い結婚としてほしい。こちらが契約書だ」
「かしこまりました。クフィーダ様。一つだけお願いしてもよろしゅうございますか? 私、推し活がしたいんです! それは許してくださいますね。」
「え?」
「え?」
結婚式の夜。
これが私たち夫婦の最初の会話だった。
⚠️注意書き⚠️
☆このお話は完全フィクションです、創作です、妄想の作り話です。現実世界と混同せず、あぁ、ファンタジーだもんな、と、念頭に置いてお読みください。
☆作者の趣味嗜好作品です。イラッとしたり、ムカッとしたりした時には、そっと別の素敵な作家さんの作品を検索してお読みください。(自己防衛大事!)
☆誤字脱字、誤変換が多いのは、作者のせいです。頑張って音読してチェックして!頑張ってますが、ごめんなさい、許してください。
☆ゆるっふわっ設定です。
☆小説家のなろう様にも投稿しています
☆3話完結です。(3月9日0時、6時、12時に更新です。)
【完結】探さないでください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
私は、貴方と共にした一夜を後悔した事はない。
貴方は私に尊いこの子を与えてくれた。
あの一夜を境に、私の環境は正反対に変わってしまった。
冷たく厳しい人々の中から、温かく優しい人々の中へ私は飛び込んだ。
複雑で高級な物に囲まれる暮らしから、質素で簡素な物に囲まれる暮らしへ移ろいだ。
無関心で疎遠な沢山の親族を捨てて、誰よりも私を必要としてくれる尊いこの子だけを選んだ。
風の噂で貴方が私を探しているという話を聞く。
だけど、誰も私が貴方が探している人物とは思わないはず。
今、私は幸せを感じている。
貴方が側にいなくても、私はこの子と生きていける。
だから、、、
もう、、、
私を、、、
探さないでください。
好きな人と友人が付き合い始め、しかも嫌われたのですが
月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
ナターシャは以前から恋の相談をしていた友人が、自分の想い人ディーンと秘かに付き合うようになっていてショックを受ける。しかし諦めて二人の恋を応援しようと決める。だがディーンから「二度と僕達に話しかけないでくれ」とまで言われ、嫌われていたことにまたまたショック。どうしてこんなに嫌われてしまったのか?卒業パーティーのパートナーも決まっていないし、どうしたらいいの?
もううんざりですので、実家に帰らせていただきます
ルイス
恋愛
「あなたの浮気には耐えられなくなりましたので、婚約中の身ですが実家の屋敷に帰らせていただきます」
伯爵令嬢のシルファ・ウォークライは耐えられなくなって、リーガス・ドルアット侯爵令息の元から姿を消した。リーガスは反省し二度と浮気をしないとばかりに彼女を追いかけて行くが……。
【完結】待ってください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ルチアは、誰もいなくなった家の中を見回した。
毎日家族の為に食事を作り、毎日家を清潔に保つ為に掃除をする。
だけど、ルチアを置いて夫は出て行ってしまった。
一枚の離婚届を机の上に置いて。
ルチアの流した涙が床にポタリと落ちた。
【完結】「政略結婚ですのでお構いなく!」
仙桜可律
恋愛
文官の妹が王子に見初められたことで、派閥間の勢力図が変わった。
「で、政略結婚って言われましてもお父様……」
優秀な兄と妹に挟まれて、何事もほどほどにこなしてきたミランダ。代々優秀な文官を輩出してきたシューゼル伯爵家は良縁に恵まれるそうだ。
適齢期になったら適当に釣り合う方と適当にお付き合いをして適当な時期に結婚したいと思っていた。
それなのに代々武官の家柄で有名なリッキー家と結婚だなんて。
のんびりに見えて豪胆な令嬢と
体力系にしか自信がないワンコ令息
24.4.87 本編完結
以降不定期で番外編予定
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる