【完結】婚約者は私を大切にしてくれるけれど、好きでは無かったみたい。

19. 招待

　昨夜、四日ほど出掛けていた父ティーオドルがタウンハウスへと帰って来て、早々クラーラを部屋へと呼んで話し始めた。

「クラーラ、遅くなって済まないね。でも約束したからね、ベントナー家の事を調べていたんだ。明日、ベントナー家の者達をこのタウンハウスに招待したよ。そこで、婚約を白紙に戻そう。」

「本当ですか！？」

「ああ。…私が持って来た情報は、家の存続に関わる話になってくる。しかしクラーラは気にしなくていいからね。」

「そうですか…。」

「クラーラを嫁がせなくて本当に良かったと思うよ。今まで本当に済まなかった。だが…ごねずにうまくまとまるといいがな。」

「そうですね。あの…婚約している片方の家から依頼されると、その男子生徒に迫って噂とかを流して別れさせるみたいな事をやってる子とお友達になったのですけど…すんなりといかなかったらその子に頼みます…？でも、ヘンリク様が苦手みたいでしたから、うまくいかないかしら。」

「別れさせる！？友達になったとは、クラーラと同じ年齢なのか！？ううむ…娘を持つ親としては複雑だな。どう別れさせるのかはクラーラ娘の口から聞きたくはないが、その子は大丈夫なのか！？恨まれたりしないのか？」

「お父様の立場としては複雑なのですか？その子は、義理の父親から言われてそのような事をしているそうですよ。あ！…そういえばあまり口外しないでと言われたのでした…。」

「義父から！？ますます分からんな…。まぁ、自分の血を分けた娘とは違うものなのかもしれないが…。そうか、じゃあ胸の内にしまっておくよ。だが、本当にその子に身の危険はないのか？」

「危険…分かりません。あ、でもヘンリク様が彼女にしつこく迫ってきているらしいです。この前、注意していたのにまるで話を聞かない感じでした。」

「ううむ…他所様の家庭ではあるが、クラーラと同じ年頃の娘を持つ父親として、その子が無理やり別れさせたからと危険にさらされるのは見過ごせないなぁ。ヘンリクの事だけでも、排除してやるか。明日、その子も呼べるか確認してみよう。宮都にいるか？なに、大丈夫。悪いようにはしないから。」

　そう言われたクラーラは、マルグレーテの名前と、学院の寮に住んでいる事を伝えた。
　確かに、この前の空き教室での口ぶりだと、少ししたらまたマルグレーテに付きまといそうな感じであったから、どうにか出来るものならマルグレーテは助かるのではないかと思った。




　翌日。

　馬車はマグヌッセン伯爵家が出し、迎えに行かせていた。それをクラーラは、疑問に思っていた。


（なぜベントナー家の馬車で来ないのかしら。何か、理由があるの？）


　このニュークビンアース国では、大抵の貴族は馬車を所有している。マグヌッセン家も、伯爵家と一目で分かる家紋が入った家族四人がゆったりと乗れる馬車を一台と、それより少し小さめの四人詰めれば乗れる馬車を一台、あとは小回りが利く四人乗ったら狭い馬車を一台、所有していた。
　だからクラーラは、わざわざベントナー家の人達をタウンハウスに呼び寄せるのだから、父が何か考えがあっての事なのだろうと思った。



「クラーラ様。到着されたようです。準備して応接室へ向かいましょう。」

　午後。
食事も終わり、着替えも終わって一息ついていると、階下で複数の声がしてきた。ベントナー家の者達が到着したのだろう。
　自室にいたクラーラは、侍女のリーセにそう言われたのでそうするべく、立ち上がった。