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14. そもそもの婚約の話
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ティーオドルは、家族との時間を大切にしている。
愛する家族と過ごす時間を取りたいが為にマグヌッセン領で領主をしているという事もある。
もちろん、宮廷の愛憎渦巻く世界が嫌なのもある。
そんなティーオドルであるが、クラーラと同じように学院に通っていた時期もある。
そこも、宮廷ほどではないとはいえ嫉妬やら私欲やらがやんわりと渦巻き始めていたから、ティーオドルは友達付き合いもそこまで多くはなかった。
しかし、同じ伯爵家であるアルベルト=ベントナーはよくティーオドルに声を掛けてきた。アルベルトは後の、ヘンリクの父親である。
☆★
若い頃、自身の卒業式の夜も二人で宮都の酒場まで飲みに行った。アルベルトはそんなに酒が強いわけではないから、飲み過ぎないよう気をつけていた。
このニュークビンアース国は学院を卒業する歳に大人として認められる為、卒業と同時に酒を煽るのもよくある光景だった。
「ティーオドルよ、これでお互い別々の人生を歩む。私は宮廷の役人とお前は伯爵家の跡取り。それで悔いはないのか?」
「あぁ。私はそれがいい。やっと領地に引きこもれるからな。」
ティーオドルはそう言ってアルベルトに向かって微笑むと、アルコール度数の低いビールを少し飲んだ。
「そうか…お前は本当に…。なぁ、もし俺達がそれぞれに結婚し、お互いの伯爵家を盛り上げていくだろ?それでもし、お互いの子供が異性であったなら、結婚をさせようではないか。」
「アルベルト、まだ先の話だ。本気で言っているのか?まぁ…そうだなぁ。その時になってみないと分からんが、それもいいかもな。」
お酒が入っていた事もあり、また未来なんて分からないとティーオドルは適当にその時は返した。
そして、月日は流れ。
ティーオドルはエルセと結婚する。
エルセは、同じ学院の生徒であったが、学生時代ではあまり話してはいなかった。元々ティーオドルは同性とも必要以上話す事をしない。異性では尚更だった。
だが、卒業後の社交の場で再会し、話していくうちにどちらからともなく惹かれ、ティーオドルが少しずつ迫った為に、再会して半年後に付き合い、一年で結婚をし、クラーラが生まれたのだ。
そして更に月日は流れ、お互いの子供達が学院に通い出す年齢となった時、ティーオドルにアルベルトから手紙が届いた。
【そろそろ私達の子供が学院に入学する年齢となった。どうだろう?卒業式に交わした約束を、果たそうではないか。】
と。ティーオドルは、どういう事かと首を捻った。
まず、卒業してからはお互いに何の音沙汰も無かったのだ。それが何故、この今になって?しかも、音沙汰が無かったのに、自分の子供がアルベルトとの子供と同じ年齢だと分かったのだろう。
ティーオドルは、積極的にではないが、伯爵家の勤めとして最低限の社交に顔を出している。だから、会話はしていなくとも、きっとアルベルトに聞こえてくるのだろうと結論づけた。
社交に出ても、ティーオドルは、挨拶周りをするだけですぐに社交の場から辞している。だから普段、アルベルトと長話したりしていなかったのだ。
(約束とは、結婚?いやいや、まさか。)
疑問に思い、とにかく会おうと手紙を出せば使いもそこそこにすぐにアルベルトはマグヌッセン領へと会いに来た。そこで、アルベルトは、『至極真面目に言いに来ている。どうだ?いいだろう?』と、今までの世間話もせずにすぐに本題に入った。
そこで、少し怪しいとは思ったティーオドルであるが、同級生と親戚になるのもいいなという気持ちも少しはあり、『分かった。だが、学院でお互いに好きな相手が出来たらこの話は無かった事にしよう。それに、娘がアルベルトの息子を好きになれない場合も然り。それでも良いか?』と問えば、『わ、分かった!よろしく頼む!これで未来の親戚だ!!』とアルベルトは、まだ結婚出来るかも分からないのにそう言って喜んだ。
ーーーだが、やはりあの話があった時、断れば良かったのだ!とティーオドルは何度目かのその想いを胸に、クラーラに話した。
愛する家族と過ごす時間を取りたいが為にマグヌッセン領で領主をしているという事もある。
もちろん、宮廷の愛憎渦巻く世界が嫌なのもある。
そんなティーオドルであるが、クラーラと同じように学院に通っていた時期もある。
そこも、宮廷ほどではないとはいえ嫉妬やら私欲やらがやんわりと渦巻き始めていたから、ティーオドルは友達付き合いもそこまで多くはなかった。
しかし、同じ伯爵家であるアルベルト=ベントナーはよくティーオドルに声を掛けてきた。アルベルトは後の、ヘンリクの父親である。
☆★
若い頃、自身の卒業式の夜も二人で宮都の酒場まで飲みに行った。アルベルトはそんなに酒が強いわけではないから、飲み過ぎないよう気をつけていた。
このニュークビンアース国は学院を卒業する歳に大人として認められる為、卒業と同時に酒を煽るのもよくある光景だった。
「ティーオドルよ、これでお互い別々の人生を歩む。私は宮廷の役人とお前は伯爵家の跡取り。それで悔いはないのか?」
「あぁ。私はそれがいい。やっと領地に引きこもれるからな。」
ティーオドルはそう言ってアルベルトに向かって微笑むと、アルコール度数の低いビールを少し飲んだ。
「そうか…お前は本当に…。なぁ、もし俺達がそれぞれに結婚し、お互いの伯爵家を盛り上げていくだろ?それでもし、お互いの子供が異性であったなら、結婚をさせようではないか。」
「アルベルト、まだ先の話だ。本気で言っているのか?まぁ…そうだなぁ。その時になってみないと分からんが、それもいいかもな。」
お酒が入っていた事もあり、また未来なんて分からないとティーオドルは適当にその時は返した。
そして、月日は流れ。
ティーオドルはエルセと結婚する。
エルセは、同じ学院の生徒であったが、学生時代ではあまり話してはいなかった。元々ティーオドルは同性とも必要以上話す事をしない。異性では尚更だった。
だが、卒業後の社交の場で再会し、話していくうちにどちらからともなく惹かれ、ティーオドルが少しずつ迫った為に、再会して半年後に付き合い、一年で結婚をし、クラーラが生まれたのだ。
そして更に月日は流れ、お互いの子供達が学院に通い出す年齢となった時、ティーオドルにアルベルトから手紙が届いた。
【そろそろ私達の子供が学院に入学する年齢となった。どうだろう?卒業式に交わした約束を、果たそうではないか。】
と。ティーオドルは、どういう事かと首を捻った。
まず、卒業してからはお互いに何の音沙汰も無かったのだ。それが何故、この今になって?しかも、音沙汰が無かったのに、自分の子供がアルベルトとの子供と同じ年齢だと分かったのだろう。
ティーオドルは、積極的にではないが、伯爵家の勤めとして最低限の社交に顔を出している。だから、会話はしていなくとも、きっとアルベルトに聞こえてくるのだろうと結論づけた。
社交に出ても、ティーオドルは、挨拶周りをするだけですぐに社交の場から辞している。だから普段、アルベルトと長話したりしていなかったのだ。
(約束とは、結婚?いやいや、まさか。)
疑問に思い、とにかく会おうと手紙を出せば使いもそこそこにすぐにアルベルトはマグヌッセン領へと会いに来た。そこで、アルベルトは、『至極真面目に言いに来ている。どうだ?いいだろう?』と、今までの世間話もせずにすぐに本題に入った。
そこで、少し怪しいとは思ったティーオドルであるが、同級生と親戚になるのもいいなという気持ちも少しはあり、『分かった。だが、学院でお互いに好きな相手が出来たらこの話は無かった事にしよう。それに、娘がアルベルトの息子を好きになれない場合も然り。それでも良いか?』と問えば、『わ、分かった!よろしく頼む!これで未来の親戚だ!!』とアルベルトは、まだ結婚出来るかも分からないのにそう言って喜んだ。
ーーーだが、やはりあの話があった時、断れば良かったのだ!とティーオドルは何度目かのその想いを胸に、クラーラに話した。
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