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14. 不慮の事故からの出会い

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「あーよく寝た!
じゃ、おれ、新しい作業場で仕事だから!」

「はあ?」
「え?」


 もう少しで午後の作業時間となる頃、グイドがジャンパオロを起こして、作業場へと移動しようとした時にジャンパオロは、そういきなり言ったので、グイドは何を言っているんだと細めた目でジャンパオロを見つめる。


「いやー、あんまり言うなってチーロ採掘長に言われたから詳しくはいえないんだけどよ、さっきいろいろと話して作業する場所が変わったんだ。終わったら、また食堂にくるからよ、またそん時にな!」

「ちょちょちょちょっと待って下さい!どーいう事か説明が足りませんよ!」

「だーかーら!」


 グイドはいつもの澄ました表情とは打って変わって今日は再び焦りを見せた表情でジャンパオロに詰め寄り、顔をグイッと近づけて言うので、ジャンパオロは面倒そうな顔をしながらグイドの耳元で何かボソボソと言うと、グイドの背中をポンポンと叩き、いつもとは違う逆の出口へとジャンパオロは向かった。


「そ…本当に?」


 グイドは呆然と突っ立って、ジャンパオロの後を目で追いながら呟いた。その姿を見て、アレッシアは何と声を掛けようかと迷いながら遠慮がちに声を掛ける。


「えっと…グイドさん。もし心配だったら、ついて行ったら?作業場を変更きてもらえるかもしれないわ。」


 それを聞いたグイドは、アレッシアに視線を合わせたあと、頭を振ってから言葉を発した。


「いえ…ジャンパオロを信じます。すみません、遅れるといけませんね、作業場へと向かいましょう。」


 グイドは気持ちを切り替えると、アレッシアへとそう言って歩き出した。








☆★

「うわー!」

「こらー!何やってんだ!?」


 アレッシアは相変わらず土壁をスコップで掘り進めていた時、後ろで台車に掘り出した土を乗せていたグイドが、乗せ終わって台車を運び出そうとした時に体制を崩したのか盛大に横に倒れ込むように転んだ。


「おーい、大丈夫か!?」

「おい、おーい!!」


(え?何が起こったの?)


 後ろでパオロや他の人達が叫ぶそのような声が聞こえたのでアレッシアが振り返ると、グイドが横向きに地面に倒れていた。


「グイドさん!?大丈夫?」


(大変だわ!)


「おい誰か、先生を呼んで来てくれ!食堂かどっかにいるから!」


 と、そのようにパオロが周りに集まってきた人だかりに向かって言ったので、アレッシアは呼びに行こうと走り出した。





☆★

(大丈夫よね?グイドさん…)


 そう思いながらアレッシアは食堂にたどり着くと、息を整えながら、先ほどとは打って変わってガランとした人気のない食堂で先生と言われる人がいないか見渡して探してみる。確か、以前白衣を着ていた人を見掛けたがその人の事かもしれないと思った。

 と、こちらからは顔が見えないが一人椅子に座っている人が確認出来たアレッシアは、その人に向かって再度駆け出し、声を掛ける。


「あの!すみません、〝先生〟知りませんか?」

「ん?」


 振り向いたその人は、真っ黒い髪で瞳は透き通るように青く、とても整った顔をしていた。


(綺麗な顔……)


 アレッシアは思わずみとれてしまい、その次の言葉がすぐには出て来なかった。


「あれ?…どうした?」

「あ!あ、あの!怪我人が出たんです!助けて下さい!」


 正確には、怪我人が出たので先生医師をつれて行かないといけなかったのだが、アレッシアは焦りのあまり目の前の人に助けを求めてしまった。


「怪我人?それはいけない。どこ?一緒に行こう。」


 立ち上がると背がアレッシアよりも頭三つほども高いその青年は、アレッシアに案内するように促す。
ホッとしたアレッシアはその人と一緒に元来た道を急ぎ足で戻った。


(この人も先生なのかしら。でも、これでグイドさんも大丈夫よね?)






「あちらです!」


 パオロや他の発掘作業人が未だグイドを取り囲んで居るのが見えた。


「おい、どうした?」


 黒髪の青年はそのようにパオロに声を掛ける。


「え?あれ?どうして…!」

「それはいい。パオロ、状況は?」

「はい。彼が移動しようとして倒れたようで…」

「ふむ…グイド?おい、大丈夫か?…まぁいい。とりあえず救護室へ連れて行こう。」

「承知いたしました!…おい、お前!」


 パオロがそう言い、体格の大きな人物に声を掛けるとその人物はグイドを軽々と横抱きに抱え、パオロが先導して連れて行く。


「他の奴らは通常通り作業を再会しとけー!」


 と声を掛けてその場を去る。


「大丈夫かな…」


 アレッシアもついて行こうとは思ったが、何も出来る事はないからと作業を再開する。が、頭の中はグイドがどうなったかが気になり、先ほどよりも作業の手が緩やかになってしまう。


(ぐったりとしていたよね…動かなかったよね……あーだめだわ!暗くなっては!集中しなければ私も怪我したら大変だもの。)


 頭を二度ほど左右に振って意識を変えると、アレッシアはスコップを持つ手に力を入れた。





「おーし、そろそろ昼休憩だ!お疲れー!」


 いつの間にかパオロが帰ってきたようで、パオロが皆にそう声を掛けた。
 作業場の人々はみな、荷物をそれぞれ所定の位置に適当に置き、食堂へと向かう。


「パオロさん!」

「あ?」

「あの、グイドさんはどうですか?」

「あぁ…彼ね、大丈夫。でもまぁ大事を取って別室で休んでいるから、お前さんも心配だろうが今日の所は自分の事をしっかりやってくれな。」


 そう言ってアレッシアの肩をポンと叩くと、そこから移動していった。


(そっか…大丈夫なら良かった。)


 アレッシアもパオロの後ろ姿を見ながらそのように考えつつ、食堂へ向かう。






☆★

 食堂についたアレッシアは、食事を配るカウンターへ行ったあと、どこに座ろうかと周りをキョロキョロと見渡す。と、アレッシアに向かってスタスタと歩いてくる人物がいた。


(あ!)


 それに気づいたアレッシアは視線をそちらに向ける。黒髪で、背の高い先ほどの男性であった。


「いたいた。アレッシア、一緒に食べようか。おいで。」


 そう言うと、その人はアレッシアが両手で持っていたお盆をさりげなく取って運んでいく。


「あ、ありがとうございます。」


 アレッシアは思わずそう言うと、その人はちらりとアレッシアの方を振り向いて少し口角を上げた。


「さ、どうぞ。」


 アレッシアのお盆を向かいに置き、その人はすでに置かれていた食べ物が乗ったお盆がある席に座る。


「アレッシアは、グイドの事が気になるかと思ってね。さ、とりあえずは食べよう。」


 そう言うと、その人は目の前にある食べ物に感謝の言葉を述べてから食べ始めた。

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