5 / 27
5. いざ、鉱山へ
しおりを挟むアレッシアは明朝、家を一人で出て、歩いて鉱山へと向かった。
コンシリアが入り口までついて行くと言ってくれたのだが、鉱山への道中は緩やかではあるが上り坂であるし、分かりやすく街道もそれなりに整備されている為に一人で行くと断った。
アレッシアは、父から『ベアータも詳しくは聞いていないそうなんだ。商人とも世間話の一つとして聞いたそうだからね。でも、鉱山の入り口に行って聞けば、何か分かるだろう。』としか言われなかったのでかなり不安ではあったが、行かなければ何も分からないととりあえず向かっているのである。
ベアータもさすがにその商人から聞いただけで、鉱山へと稼ぎに行く事を考えてもいなかったから『そういえばイブレア鉱山、また人材募集始めたそうですね。ここもまた、人が増えるかもしれませんねぇ。』という世間話に、『あらそうなの?どうなのかしらね。』としか返事をしなかったらしい。商人も、会話をする事で新しく仕入れた情報を流しているのだ。ベアータもその事はなんとなく分かっているので、ブリツィオに商人から聞いた話は伝えただけなのである。
だが、それを聞いたブリツィオは元々の漁師の魂がうずき、『だったら、私が金を稼ぎに行こう!』と思いついたのだ。船の上で活躍する漁師は、思い立ったら経験と直感に頼り即行動するのだ。婿養子であるから貴族のしきたりよりも家族思いのブリツィオ。だが、どうあっても領主であるが故に自分が思うように行動出来ない事を歯痒く思っている。
高台に建つペルティーニ伯爵家から、整備されている街道をひたすら進んで行き、そろそろ鉱山道への入り口が見えてくる頃かという時にアレッシアは何やら動物の痛々しい鳴き声が聞こえてきた。
ヒヒーン、ヒーン
(馬…?)
アレッシアはこんな山奥に馬が何故居るのだろうと思ったが、とても悲痛な鳴き声であったから可哀想に感じ、街道から逸れるが少しなら迷わないだろうとその声のする方へ耳を澄ませ、歩みを進める事とした。
木々の間を抜け、思ったよりも街道にほど近い少しだけ進んだ先に、背の高い真っ黒な毛並みの馬がもがいているのが見えた。
(どうしたのかしら…あ!脚!!)
馬がやたらと足元を気にしているのでそちらに視線を向けたアレッシアは、誰か人間が仕掛けたであろう鉄製の罠に脚が挟まれているのを見つけた。
「大丈夫!?今外してあげるわ。だからごめんね、ちょっとだけ大人しくしててね。」
馬は、後ろへ回り込まれるのを嫌う習性がある。それでも、蹴られるかもしれない危険は感じつつもアレッシアは馬へと声を掛けつつ近づいた。
アレッシアは近くにあった大きな太い枝を、その罠へとねじ込み、馬の脚をどうにか抜いた。
「やった!外れたわよ!」
ヒヒーン!
馬が嘶き、ブルンブルンと鼻を鳴らしながらアレッシアをジッと見つめる。
けれどもアレッシアはそれよりも脚の傷が気になり周りをきょろきょろと見渡した。
と、目当ての葉を見つけ、そちらまで走っていきそれを引っこ抜くと、自分の持ってきた僅かな荷物から少し長めの布を出し、それを馬の脚へと当てて巻いた。その葉は、傷によく効くのである。だから馬にもきっと同じく効能を発揮するだろうとそのように手当てをしたのだ。
意外にも、嫌がられずに大人しくしてくれたのでホッとしながらアレッシアは声を掛ける。
「大人しくしてくれてありがとう。
これでいいかしら?すぐ外れちゃうかもしれないけれど、やらないよりはましだからね、きっと。」
そう馬へと話しかけると、アレッシアはゆっくりと顔へと手を近づけ、撫でようとした。
「あ!でも野生なのかしら?撫でたら怒る?」
アレッシアが馬の目を見つめつつそう問うと、その馬はまるで言葉が分かるかのように首をアレッシアへとむけ、差し出す。
「フフ。本当にいい子だわ。早く良くなるといいわね。
じゃあね。」
馬の首元を二、三度ゆっくり撫でてからそう言うと、アレッシアは手を振って街道へと戻った。
☆★
それからすぐに街道を進むと、木々が開けた場所に出た。アレッシアは鉱山への入り口へ辿り着いたのだ。
木造でしっかりと造られた枠組みのような門が構えてあり、それをくぐると正面に洞窟のような山の中への入り口がぽっかりと空いていた。そこが、鉱山への入り口なのだろう。
しかし、人気はなく静まり返っている。
(ここ、でいいのよね…?)
昨日ブリツィオに軽く言われた場所に来たアレッシアは、周りには誰も居なくて鳥の鳴き声しか聞こえないその鉱山への入り口で立ち止まる。
どうしようかとも考えたがアレッシアは思い切って、門をくぐり洞窟へと進む事にした。ここでずっと立ち止まっていても物事は進まないと思ったのだ。
「すみませーん、少しよろしいでしょうかー。お邪魔いたしますー。すみませーん。」
そのように大きな声を上げながら門をくぐり、洞窟の中へとそう叫ぶとアレッシアに答えるように、洞窟の奥から声が聞こえた。
「誰だー?ちょっと待っとれー!」
その声にアレッシアは、足を止めて待つ。ややもすると、アレッシアと同じほどの背丈で、お腹の部分がふっくらとした男性が近づいてくる。
「誰だー?おんめー、新人け?」
見るからに怪しいと、アレッシアを上から下までジロリと視線を這わせてから、またアレッシアへと声を掛ける。
「聞いとるけ?」
「あ!は、はい!…えーと……」
けれどもアレッシアは、その男性の言葉に返事をどう返せばいいのか迷った。
(新人、なのよね?私。ここで働くのが希望なのだもの。でもまだ雇われてもないのだけど…まぁでも名乗った方がいいわよね。)
「あの、私…」
「あー、新人だべ!人手が足りんから助かるば。じゃあついて来な!」
そう言って、その男性は振り返り元来た道を直ぐに戻って行ってしまう。
アレッシアは見失うと困ると思い、慌ててついて行ったのだった。
1
お気に入りに追加
251
あなたにおすすめの小説
逆行転生した侯爵令嬢は、自分を裏切る予定の弱々婚約者を思う存分イジメます
黄札
恋愛
侯爵令嬢のルーチャが目覚めると、死ぬひと月前に戻っていた。
ひと月前、婚約者に近づこうとするぶりっ子を撃退するも……中傷だ!と断罪され、婚約破棄されてしまう。婚約者の公爵令息をぶりっ子に奪われてしまうのだ。くわえて、不貞疑惑まででっち上げられ、暗殺される運命。
目覚めたルーチャは暗殺を回避しようと自分から婚約を解消しようとする。弱々婚約者に無理難題を押しつけるのだが……
つよつよ令嬢ルーチャが冷静沈着、鋼の精神を持つ侍女マルタと運命を変えるために頑張ります。よわよわ婚約者も成長するかも?
短いお話を三話に分割してお届けします。
この小説は「小説家になろう」でも掲載しています。
お兄様の指輪が壊れたら、溺愛が始まりまして
みこと。
恋愛
お兄様は女王陛下からいただいた指輪を、ずっと大切にしている。
きっと苦しい片恋をなさっているお兄様。
私はただ、お兄様の家に引き取られただけの存在。血の繋がってない妹。
だから、早々に屋敷を出なくては。私がお兄様の恋路を邪魔するわけにはいかないの。私の想いは、ずっと秘めて生きていく──。
なのに、ある日、お兄様の指輪が壊れて?
全7話、ご都合主義のハピエンです! 楽しんでいただけると嬉しいです!
※「小説家になろう」様にも掲載しています。
【完結・7話】召喚命令があったので、ちょっと出て失踪しました。妹に命令される人生は終わり。
BBやっこ
恋愛
タブロッセ伯爵家でユイスティーナは、奥様とお嬢様の言いなり。その通り。姉でありながら母は使用人の仕事をしていたために、「言うことを聞くように」と幼い私に約束させました。
しかしそれは、伯爵家が傾く前のこと。格式も高く矜持もあった家が、機能しなくなっていく様をみていた古参組の使用人は嘆いています。そんな使用人達に教育された私は、別の屋敷で過ごし働いていましたが15歳になりました。そろそろ伯爵家を出ますね。
その矢先に、残念な妹が伯爵様の指示で訪れました。どうしたのでしょうねえ。
友人の結婚式で友人兄嫁がスピーチしてくれたのだけど修羅場だった
海林檎
恋愛
え·····こんな時代錯誤の家まだあったんだ····?
友人の家はまさに嫁は義実家の家政婦と言った風潮の生きた化石でガチで引いた上での修羅場展開になった話を書きます·····(((((´°ω°`*))))))
自分の家も婚約した相手の家も崩壊の危機だと分かったため自分だけ逃げました
麻宮デコ@ざまぁSS短編
恋愛
ミネルヴァは伯爵家に養女として引き取られていたが、親に虐げられながら育っていた。
侯爵家の息子のレックスと婚約させられているが、レックスの行動を見て侯爵家は本当は危ないのでは?と嫌な予感を抱く。
調べたところレックスの侯爵家は破綻寸前であることがわかった。
そんな人と心中するつもりもないミネルヴァは、婚約解消をしようとするがどうしても許してもらえないため、家と縁を切り自分だけ逃げることにした。
没落貴族とバカにしますが、実は私、王族の者でして。
亜綺羅もも
恋愛
ティファ・レーベルリンは没落貴族と学園の友人たちから毎日イジメられていた。
しかし皆は知らないのだ
ティファが、ロードサファルの王女だとは。
そんなティファはキラ・ファンタムに惹かれていき、そして自分の正体をキラに明かすのであったが……
夫から国外追放を言い渡されました
杉本凪咲
恋愛
夫は冷淡に私を国外追放に処した。
どうやら、私が使用人をいじめたことが原因らしい。
抵抗虚しく兵士によって連れていかれてしまう私。
そんな私に、被害者である使用人は笑いかけていた……
私は幼い頃に死んだと思われていた侯爵令嬢でした
さこの
恋愛
幼い頃に誘拐されたマリアベル。保護してくれた男の人をお母さんと呼び、父でもあり兄でもあり家族として暮らしていた。
誘拐される以前の記憶は全くないが、ネックレスにマリアベルと名前が記されていた。
数年後にマリアベルの元に侯爵家の遣いがやってきて、自分は貴族の娘だと知る事になる。
お母さんと呼ぶ男の人と離れるのは嫌だが家に戻り家族と会う事になった。
片田舎で暮らしていたマリアベルは貴族の子女として学ぶ事になるが、不思議と読み書きは出来るし食事のマナーも悪くない。
お母さんと呼ばれていた男は何者だったのだろうか……? マリアベルは貴族社会に馴染めるのか……
っと言った感じのストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる