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32. お迎え

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 今日はウカーシュ様が三週間ぶりに来てくれる日。

 だけどそわそわとして落ち着かないから、朝早くに少し、小麦農家へ行く事にした。双子のキルスとコルスと、弟のオルバーの家だ。


「おはよう。」

「あ、ナタリア様!」
「今日は早いですね!」
「どうされましたかー?」

「今日はちょっと落ち着かなくて…どう?変わった事はない?」

「あ、分かりました!例の、コンガレン国の人が来るのですか?」
「以前、言われていましたよね!遠駆け楽しかったったって。」
「早めに帰らないとダメですよー?お洒落して、会わないと後悔しますからね。」

 あら…気づかれちゃったのね。でも、確かにそうだわ。

「ありがとう。午後から来ると言われているから、少しは大丈夫なのよ。だって家にいたら、ソワソワしてしまうのですもの。」

「もー!それがまたいいんじゃないですか!」
「そうですよー、待っている時間は相手の事を考えられるから、案外いいものですよー。」
「そういうもの?オレはよく分かんないけど、ナタリア様結婚するんですかー?」

「えっ!?」

「だってさぁ、この前のジャガイモ農家の姉ちゃん、結婚したんですよー?」
「あぁ、確かに。私達より一つ上だったかしら。」
「いいえ、二つ上よ。人手が関係してくるから、農民の結婚って早いですからね。ナタリア様も、そうなるかもですね。お幸せに!」
「お幸せに-!」
「お幸せにー!」

 そうなんだ…私達と同世代なのに、もう相手の家に嫁ぐとかしてるんだ…。
私は、他の貴族の人達と特に交流を持っていないから、そんな事気にも留めてなかったけれど、やはりだんだんとそうなっていくのね。

 生まれた家を離れて、嫁ぎ先の家で過ごしていくのね。



「あぁ。ここにいたのかい。」


「えっ?」

「わー格好いい!」
「本当だ!背が高いのね!」
「ステキ-!」

「ごめんね。会いたくて急いで来てしまって。迎えに来てしまったよ。でもこれも、ナタリアの大事な仕事だもんね。僕は君の姿が、見れただけで嬉しいから、この辺り見させてもらうね。ナタリア、終わったら声を掛けてくれるかい?」

「終わりましたー!」
「ええ、もう終わったんです。」
「ナタリア様、またねー!」

 えっえっ!?
私はその三人に背中を押され、早く帰れと言わんばかりにぐいぐいと馬のいる所まで追い返された。


「ははは。ずいぶん力があるねぇ。ナタリアを追い返すなんて。」

「追い返すなんてしてないよ!」
「そうですよー、さぁせっかくなんで、楽しんで下さいね!」
「ナタリア様を泣かしたら承知しませんからねー!」

 そう言った子供達三人は、手を振って見送ってくれた。

「なんだか、すみません…。私ソワソワとして、家でじっとしていられなかったのです。」

「そう?じゃあ僕達一緒だね。僕も、ソワソワしてたから昨日仕事終わって、国境近くの街まで飛ばして来てしまったんだ。だから、ごめんね。…でも、ありがとう!」

「え?どうしてありがとうなのです?私が、ここにいたのは、探すの面倒じゃなかったですか?」

「そんな事無いよ。屋敷に行ったら、居ないと言われたのには驚いたけれどね。場所も、教えられた場所に居てくれたし。そうじゃなくてね、結婚を承諾してくれた事にありがとうと言いたかったんだ。」

「あ。」

「元々は、僕が君に感謝の言葉を会って伝えたいと思った事から始まってしまうんだけど。リシャルドも言っていたけど、会った日から無意識にナタリアに恋をしていたのかもしれない。それで、恋焦がれてしまったんだ。ナタリアの話をダミアンから聞く度に、人物像を思い描いていて。余計に会いたくてたまらなくなってね。だから、君のお父様から身の上を聞いて、余計に大切に守りたいと思ってしまった。」

 身の上…?お父様ったら、何を話したのかしら。お母様が、亡くなった事?それでそう思ってくれたの?でも…。

「私、ウカーシュ様の想像していた人物像ではないかもしれません。」

「そうだね。でも、それがまたいいんだ。やはり想像するよりも、会って話をしたり、雰囲気を感じ取ったりした方がとても有意義なんだ。違っていても、それが返って新たな発見って感じで楽しいよ。それに、手紙もありがとう。」

「いいえ、そんな…。」

「さぁ、君の家へ帰ろう。けれど僕の家が今度から、君の家にもなってくれると嬉しいけれどね。僕達の家っていうかさ。それから、君の家に着いたら少し話したいけどいいかな。」

 ウカーシュ様ったら…!
話したい事?何かしら。
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