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25. 道中
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「ナタリア。二人でいる時に改めていうよ。十年前のあの時、助けてくれて本当にありがとう。君は、命の恩人だ。」
そう言われ、私は戸惑ってしまったわ。だって、私は何もしていないもの。
「ウカーシュ様…そんな事言わないで下さいませ。私は、命の恩人などと言われるような事は何もしていませんわ。」
そう言うと、困ったような顔をして答えてくれた。
「…まぁ、今はそれでもいいか。うん、それでも、ナタリアがあの時に駆け付けてくれたんだろう?落馬なんて恥ずかしい所を見られてしまったが、ナタリアが来てくれて本当に良かった。」
「ふふふ。そう言って下さって、嬉しいです。私は何も出来なかったのですが、あの時に駆け付けた自分を褒めてあげたいですわ。強いていうならば、やはりピオトル兄様のおかげかもしれませんわね。」
「ピオトル兄様?そうなのかい?」
「ええ。ピオトル兄様は私より三歳上の兄です。その兄はイノリコなのですわ。だから、不思議な事がいろいろと起こるのですって。あ、イノリコってご存じですか?」
「なるほど…そういう事なんだね。ピオトル殿、がねぇ…。あ、イノリコはもちろん知っているよ。君のお兄さんは素晴らしいんだねぇ。」
「はい!」
ーーー
ーー
ー
「え!?何がどうなったのですか!?め、女神様!?」
私達は石畳の街道沿いを歩いていた。そしてしばらく行くと『あそこだよ。』とウカーシュ様が言われた。
一本の大きな木の下で、一人の寝そべっている男性と二頭の馬がいた。
そして、近くまで行くとその男性は体を起こしてこちらを見るなり、口や目を大きく開けて驚いてそう言った。
「え!?女神って…」
「ハハッ…よっぽど、あの十年前の出来事は心細かったとみえる。ナタリアが話し掛けてくれて女神様のように感じたんだって。」
そのようにウカーシュ様は言うけれど、女神様なんて畏れ多いわ。
「や、そんな女神様だなんて…。」
私の呟きは小さかったからか、聞こえなかったかもしれない。
それでも、ウカーシュ様は私を見てにっこりと笑ってくれた。
「お待たせ、リシャルド。ゆっくり休養は出来たかい?」
そう言ったウカーシュ様。ゆっくりって、かなり時間が経ったと思うのだけれど。
「まぁ…でも、早かったですね。もっと遅くなるのかと思ってましたよ。しかも、女神様までお連れになるなんて。攫ってきたんじゃないですよね!?」
「何を言うんだ!!そんな事有るわけ無いじゃないか!ヤロスワフ伯爵にきちんと許可をいただいて、遠駆けに行くんだ。」
「え!?不審人物として門前払いされなかったのですか!?ウカーシュ様、良くやりましたねぇ。」
なんだか、リシャルド様は十年前の時とは雰囲気が違うわね。やはり、あの時は切羽詰まっていたからかしら。
「うるさい!…それで、二人で出掛ける許可を頂いたんだが、ナタリアがそれでは緊張するかもしれないし、と思ってね。リシャルド、特別にお前も一緒に行こう。」
「はぁー!?嫌ですよ。二人デートなんですよね?なんでそのやり取りを傍で見ないといけないんですか!?」
リシャルド様、なんだか勘違いされているわ!
「リシャルド様、私達、デートではごさませんわ。遠駆けをするのですよ。でも、あの…ウカーシュ様止めた方が良さそうなら、止めましょうか。」
リシャルド様はもしかしたら、遠駆けは苦手なのかもしれないわ。
せっかく行けるのかと思ったけれど…残念ではあるけれど、リシャルド様がお待ちで、行きたくないのなら止めた方がいいわよね…。
「あ、や、止め…止めなくていいよ、な?リシャルド!お願いだ!そう、僕らは決してデートではない。だから、一緒に行こう!」
「…分かりました。どんよりと雲が広がってきて空模様が怪しくなってきましたけれど、雨が降る前にでは行きましょうか!遠駆け、私も楽しませてもらいますよ、女神様!」
「まぁ、良かったのですか?でも、女神様と呼ぶのはお止め下さいね。」
リシャルド様もいらしたのは驚いたけれど、遠駆けに行けるのはとても楽しみだわ!
そう言われ、私は戸惑ってしまったわ。だって、私は何もしていないもの。
「ウカーシュ様…そんな事言わないで下さいませ。私は、命の恩人などと言われるような事は何もしていませんわ。」
そう言うと、困ったような顔をして答えてくれた。
「…まぁ、今はそれでもいいか。うん、それでも、ナタリアがあの時に駆け付けてくれたんだろう?落馬なんて恥ずかしい所を見られてしまったが、ナタリアが来てくれて本当に良かった。」
「ふふふ。そう言って下さって、嬉しいです。私は何も出来なかったのですが、あの時に駆け付けた自分を褒めてあげたいですわ。強いていうならば、やはりピオトル兄様のおかげかもしれませんわね。」
「ピオトル兄様?そうなのかい?」
「ええ。ピオトル兄様は私より三歳上の兄です。その兄はイノリコなのですわ。だから、不思議な事がいろいろと起こるのですって。あ、イノリコってご存じですか?」
「なるほど…そういう事なんだね。ピオトル殿、がねぇ…。あ、イノリコはもちろん知っているよ。君のお兄さんは素晴らしいんだねぇ。」
「はい!」
ーーー
ーー
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「え!?何がどうなったのですか!?め、女神様!?」
私達は石畳の街道沿いを歩いていた。そしてしばらく行くと『あそこだよ。』とウカーシュ様が言われた。
一本の大きな木の下で、一人の寝そべっている男性と二頭の馬がいた。
そして、近くまで行くとその男性は体を起こしてこちらを見るなり、口や目を大きく開けて驚いてそう言った。
「え!?女神って…」
「ハハッ…よっぽど、あの十年前の出来事は心細かったとみえる。ナタリアが話し掛けてくれて女神様のように感じたんだって。」
そのようにウカーシュ様は言うけれど、女神様なんて畏れ多いわ。
「や、そんな女神様だなんて…。」
私の呟きは小さかったからか、聞こえなかったかもしれない。
それでも、ウカーシュ様は私を見てにっこりと笑ってくれた。
「お待たせ、リシャルド。ゆっくり休養は出来たかい?」
そう言ったウカーシュ様。ゆっくりって、かなり時間が経ったと思うのだけれど。
「まぁ…でも、早かったですね。もっと遅くなるのかと思ってましたよ。しかも、女神様までお連れになるなんて。攫ってきたんじゃないですよね!?」
「何を言うんだ!!そんな事有るわけ無いじゃないか!ヤロスワフ伯爵にきちんと許可をいただいて、遠駆けに行くんだ。」
「え!?不審人物として門前払いされなかったのですか!?ウカーシュ様、良くやりましたねぇ。」
なんだか、リシャルド様は十年前の時とは雰囲気が違うわね。やはり、あの時は切羽詰まっていたからかしら。
「うるさい!…それで、二人で出掛ける許可を頂いたんだが、ナタリアがそれでは緊張するかもしれないし、と思ってね。リシャルド、特別にお前も一緒に行こう。」
「はぁー!?嫌ですよ。二人デートなんですよね?なんでそのやり取りを傍で見ないといけないんですか!?」
リシャルド様、なんだか勘違いされているわ!
「リシャルド様、私達、デートではごさませんわ。遠駆けをするのですよ。でも、あの…ウカーシュ様止めた方が良さそうなら、止めましょうか。」
リシャルド様はもしかしたら、遠駆けは苦手なのかもしれないわ。
せっかく行けるのかと思ったけれど…残念ではあるけれど、リシャルド様がお待ちで、行きたくないのなら止めた方がいいわよね…。
「あ、や、止め…止めなくていいよ、な?リシャルド!お願いだ!そう、僕らは決してデートではない。だから、一緒に行こう!」
「…分かりました。どんよりと雲が広がってきて空模様が怪しくなってきましたけれど、雨が降る前にでは行きましょうか!遠駆け、私も楽しませてもらいますよ、女神様!」
「まぁ、良かったのですか?でも、女神様と呼ぶのはお止め下さいね。」
リシャルド様もいらしたのは驚いたけれど、遠駆けに行けるのはとても楽しみだわ!
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