上 下
33 / 51

33. ダミアン兄様の言葉

しおりを挟む
 ウカーシュ様と一緒に屋敷へ帰ると、ダミアン兄様が玄関前に立っていてくれた。

「ダミアン兄様…!」

 でも、雰囲気でどうやら怒っているみたいだわ。腕を組んで、足を少し広げて立っているの。
私を見ると、つり上がった目は一瞬緩み、口元も真一文字ではあったのに少しだけ崩れた。
でも、ウカーシュ様を見ると、また、元の怒った表情に戻ってしまった。

「おい、ウカーシュ!…いや、ウカーシュ様!」

「なんだよ。気持ち悪いから、ウカーシュって呼べよ。」

 そう苦笑しながらウカーシュ様は、ダミアン兄様を優しく見つめられたわ。

「妹を…ナタリアを、本当に大切にしてくれるんだろうな!?分かるんだからな?いいか?ナタリアが憂いていたら、分かるんだからな!?」

 ダミアン兄様は詰め寄る感じで言われたの。そんな必死に言われたので、私は少し驚いてしまったわ。

「あぁ。絶対に幸せにする。今まで、君達がナタリアを護ってきたのだろう。これからはザルーツ国を出て、コンガレン国で、ナタリアは幸せになるんだ。俺が、ナタリアを護る。幸せにするさ。」

 でもウカーシュ様は驚きもせずさも当たり前のようにそう言って、私の腰に手を当てて、少しだけ引き寄せてくれた。

「う、ウカーシュ様…!」

 そう言ってもらうと、私はじんわりと胸が温かくなって鼓動が速くなった。

「ナタリア。これからは、ウカーシュと共に人生を歩むんだ。ウカーシュなら、ナタリアを身を削ってでも護ってくれるはずだ。いいか?フォルヒデンの事は忘れる位でいい。」

「え?何言ってるんですか?私は、フォルヒデンで生まれ育ちました。ここは私の故郷ですわ。忘れるなんて出来ません!」

「…そうだな。じゃあ、また祈ってくれるか?ここの民が幸せに過ごせますようにと。」

「ええ!当たり前ですわ。私には、ピオトル兄様みたいな力はありませんけれど、毎日祈っておりますのよ。お父様も言われておりましたものね。〝力が無い者でも、祈る事は大事だ〟と。」

「ああそうだ。その者や、土地に心を割いて寄り添う時間はとても大切だよ。ではナタリア。隣国で、幸せにな。」

「はい。…って、待って下さい!私、まだここに居ますよね?今日から、ウカーシュ様とあちらへ行くわけではないですわよね?なぜそのような、お別れみたいな言葉を言われるのですか?」

「ははは。ウカーシュがいたから、つい力が入ってしまった。大切なナタリアを幸せにしてもらわないと嫌だからね。まぁとりあえず、その話も含めて父上に聞いてみてくれよ。」

「そうですか。でも、ダミアン兄様も、そろそろご結婚を考えるのでしょう?私よりも、ダミアン兄様が先かと思っていましたのよ。」

「そうか。まぁ、そうだな。僕の相手も見つけないとな!長くなって済まないな。さぁ、中へ入ろう。」

 ダミアン兄様、この手の話になると避けるのよね。まだ、結婚は考えたくないって事なのかしら。

 まぁ、私も、まだまだ先だと思っておりましたのよ?だから…ダミアン兄様も素敵で心安まるお相手が見つかりますようにと祈っておきますね。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます

おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」 そう書き残してエアリーはいなくなった…… 緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。 そう思っていたのに。 エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて…… ※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。

夫を愛することはやめました。

杉本凪咲
恋愛
私はただ夫に好かれたかった。毎日多くの時間をかけて丹念に化粧を施し、豊富な教養も身につけた。しかし夫は私を愛することはなく、別の女性へと愛を向けた。夫と彼女の不倫現場を目撃した時、私は強いショックを受けて、自分が隣国の王女であった時の記憶が蘇る。それを知った夫は手のひらを返したように愛を囁くが、もう既に彼への愛は尽きていた。

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。 因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。 そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。 彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。 晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。 それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。 幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。 二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。 カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。 こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

「おまえを愛することはない!」と言ってやったのに、なぜ無視するんだ!

七辻ゆゆ
ファンタジー
俺を見ない、俺の言葉を聞かない、そして触れられない。すり抜ける……なぜだ? 俺はいったい、どうなっているんだ。 真実の愛を取り戻したいだけなのに。

【完結】盤上の駒ではないので、ひっくり返しました。

BBやっこ
恋愛
王家という盤上。王と王妃。私が駒で、進ませるのは誰? そんな夢を見るようになった。王子妃教育に疲れているのかしら。 私は、けして、勝手に動かない駒じゃない。 小さな国の王太子妃に選ばれた私、王家を見定めて出した結論は…。

貧乏男爵家の末っ子が眠り姫になるまでとその後

空月
恋愛
貧乏男爵家の末っ子・アルティアの婚約者は、何故か公爵家嫡男で非の打ち所のない男・キースである。 魔術学院の二年生に進学して少し経った頃、「君と俺とでは釣り合わないと思わないか」と言われる。 そのときは曖昧な笑みで流したアルティアだったが、その数日後、倒れて眠ったままの状態になってしまう。 すると、キースの態度が豹変して……?

【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?

碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。 まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。 様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。 第二王子?いりませんわ。 第一王子?もっといりませんわ。 第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は? 彼女の存在意義とは? 別サイト様にも掲載しております

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

処理中です...