【完結】私には何の力もないけれど、祈るわ。〜兄様のお力のおかけです〜

まりぃべる

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29. 二通の手紙

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「二人共、驚かずに聞いて欲しい。」


 お父様が、夕食にそんな話をし始めたの。
一体、何の話なのでしょう。私は頷いて、お父様の方へ視線を向けた。
ダミアン兄様も、そうされたわ。


「オホン。…ピオトルが、結婚するそうだ。」

「はぁー!?」
「えっ!?」

 ダミアン兄様がとても大きな声でそう言ったので、壁に控えていた侍女も、私も身を竦ませてしまった。
給仕をしていた侍従なんて、食器をガチャンと音を立てて、慌てて謝っているわ。
お父様は、苦虫を噛みつぶしたような顔をしたまま、手のひらをその侍従に向けたの。気にするな、と言う意味ね。

「ち、父上。今何と!?」

 ダミアン兄様が、確認の為か聞いた。私も、自分の耳がおかしくなったのかと思ったわ。

 だって、イノリコとして王宮にあるイノリバに行き、そこで生涯身を尽くすのかと思ったのだけれど。


 念願だと喜んでいたもの。


 だけれど、お父様から発せられた言葉は先ほどと同じ内容でした。


「あの…どこをどうなって、そうなったのでしょうか。」

「わからぬ。イノリコは、家族や友人に手紙を出す事は出来るが、中身を確認され、外に漏らしてはいけない内容であれば、書き直しさせられるらしい。それは、王宮で働いている者も全く同じだな。仕事で知り得た情報は外に漏らさぬ事。だからだろう、今までの手紙では、そんな内容一言も書いていなかったから青天の霹靂だ。そして、今回も相手は書かれていない。そして…。」

 お父様は、一言そう区切りを付けてから、また話し出した。

「もう一通、スワヴォミル国王から手紙が届いたのだ。」

ゴクリ。

 そんな音が聞こえてきそうなほど、ダミアン兄様もお父様を食い入って見つめているわ。

「内容は、〝イノリコとなったピオトルが結婚をする。イノリコとなった折に、フォルヒデン家とはもう関係ない人間とはなったが、伝える。アリツィア王女とだ。き…」

「なんだって!?」
「まぁ!」

「…続けるぞ。〝急な話に思われて当然だが、何分アリツィア王女が王族である為考慮してもらえると助かる。ピオトルがイノリバに来て少しして親交が深まった。本来であれば、フォルヒデン家とは親族となるが、ピオトルはフォルヒデンの人間ではなくなってしまった為、フォルヒデン家は王族にはならない。よって報告のみとなってしまったがよろしく頼む〟と。以上だ。」

 そう言ったお父様は、まだ苦虫を噛みつぶしたような顔のまま。いえ、先ほどよりも顔色が青くなっているわ。

「ち、父上…いろいろと突っ込みたい部分はあるのですが…。」

「分かる。分かるが、私にもさっぱり分からんのだ。先ほども言ったように正に寝耳に水。一つ言えるのは、ピオトルがイノリコになっただけでも不安ではあったのだが、それよりも更に上の、最上級の位である王族の一員に加わってしまって本当に大丈夫なのだろうかという事だけだ。」

「ど、どうするのです?さすがに僕もこうなるとは…。」

「そうだな。だが、国王からの手紙があるんだ。もはや決定事項なのだろうな。だから、確認の手紙を私からも国王へ至急送る事とする。」

「そうですね…。」

 ピオトル兄様が、結婚をするなんて!アリツィア王女に気に入られたとは以前書いてあったけれど、まさかそんな風になるなんて。

 これは、喜ばしい事なのよね?

「お父様、ダミアン兄様。ピオトル兄様は凄いですね!イノリコになられただけでも凄いのに、アリツィア王女とご結婚なんて!」

 そう、私が言うとダミアン兄様とお父様が二人顔を見合わせて、揃って声を返してくれました。

「あ、あぁ。そうだね、ナタリア。ピオトルは良くやったよなぁ。幸せになるといいね。僕達も祈ってやろうか。」

「そ、そうだな。ナタリアも、ピオトルと会えなくて淋しいだろうが、王族になったなら顔を拝見する機会もあるかもしれないな。ピオトルを応援してやろう。」

「はい!」

 また、寝る前にお祈りすることが増えたわね。
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