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13. どちらが国王なのか…?

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 あらかた書類が書き終わり、婚約の話を公にするのは早めがいいがいつにするか、結婚は一年後にするかと話し合っていると、扉が叩かれ外で執事のカルメーロの声がした。


「お客様が参りました。」

「誰だ。聞いとらん。帰ってもらえ。」

「それが…国の一大事だ、とおっしゃっております。」

「ふん。国の遣いか。知らん。放っておけ。」

「承知いたしました。」


 そう言ったカルメーロは去って行った。



「よろしいのですか。」

「よい。
ボニートよ、お前は今日、仕事だったのか?」

「はい。でも、有給を使って休みました。せっかく昨日お話を頂いたので、早い方がいいと思いました故。」

「そうか。私はな、抗議しておるのだよ。」

「抗議、ですか?」


 ボニートは昨日の内に、今日休むと言っておいた為にあれから王宮にも行っていない。だから、王宮の騒ぎを知らないのだ。


「昨日、あのバカ王子が騒ぎを起こしただろう。あれは我が国を馬鹿にしておるから騒ぎを起こしたのか?それに、我が娘が相手にせんかったからと追いかけて庭まで付いてきたというぞ。アルフォンシーナだから逃げられただろうに、ちがう立場の弱い令嬢だったら?どうなっていた?いろいろな事が想定されるわ。
だから、フィラハ国代表として来ているテレンツィオに言ってやったわ。『来訪する国の文化や常識も学ばずに外交に良く来れたもんだな。我が国であれば女遊びをしてもよいと思ったのか?馬鹿にするな!国に訪れるという事をどういう事か理解が出来とらん若造がおいそれと代表となり、友好国です勉強しに来ました、と嘘をつくな!』とな。フィラハ国はどう対処してくるか、だ。それにより、国交断絶してもよいわ。
それから、ピエトロ陛下にも言ってやったわ。『そんな対応を許すのであれば、私は仕事をしない。心労が貯まったからな。他の者にやらせてくれ。領地へ帰る。』と。」


 長々と鼻息荒くバジーリオが吐き出した言葉に、ボニートは半ば驚きながら返事をする。


「そうでしたか…。」


 ボニートが、そこまで言って果たして本当に大丈夫なのかと心配をし出した。


(さすが元、国を治めていた血筋だけの事はあるが…婚姻を結べば、我々は親戚関係となる。はたして大丈夫だろうか。)



 と、廊下が騒がしくなり扉が再び叩かれる。

「誰だ。」

「あ、何度も申し訳ありません。ですが…」


 執事のカルメーロが申し訳なさそうに話し出すと、割って許可も無しに扉を開けて入ってきたのはピエトロ国王だ。
 部屋にいた者は皆、一斉に扉の方を向いた。


「バジーリオ、お願いだ!我が直々に会いに来たのだ。頼む!」

「ピエトロ陛下、お帰り下さい。私は今、違う方と面会しているのです。全てが自分中心だと思ってはなりませんぞ。陛下だって、先触れのない急な面会は断れといつも仰っているではありませんか。」

「む…いや、確かにそうなのだが…頼む!バジーリオがいなければ公務に支障をきたすのだ!」

「でしたらまず、国王なのですから、ご自身でフィラハ国との折り合いを付けてから、私に話をしに来るべきでしょう。」

「いや、勝手に決めても怒るだろう?バジーリオの意見を聞きに来たのだ。人払いを…ん?なんだ、ボニート国防軍長官ではないか!ちょうどいい、ボニートも聞いてくれるか。お嬢さんと…ヴァルフレードか、席を外してくれ。」


 そう勝手に指示をした為に、バジーリオは強めの声を出した。


「おい!さすがに怒るぞ!ピエトロ!!お前が勝手に決めるな!ここは私の家だ!ピエトロが我が儘を言うのであれば、不審者とみなし放り出すぞ!おい、カルメーロ、お帰りだ!連れていけ。」

「よろしいのですね?」

「あぁ。」


 カルメーロはそう確認すると、途端に目つきを鋭くし、家具と同化していた執事であったのにも関わらず、まるで護衛のように力を込めてピエトロの腕を持った。
 ピエトロも、まさか本当にそうされるとは思っていなかったし、今まで頭を下げていた執事がこのように力があり拘束されるとはと焦り、叫び声を上げる。
 ここは、由緒あるソルディーニ家。執事でも訓練はされていて、当主の命令とあれば、力を存分に発揮するのだ。


「ま、待て!済まなかった!!手を離せ!いや、離してもらえるか。バジーリオ、聞く!お前の言う事を聞くから!!」


 バジーリオ以外、この部屋にいる者は皆こんな口を聞いていいのかとヒヤヒヤしている。いや、カルメーロは当たり前のように動いているが。
 国王に付いてきた護衛は見ているだけで、手出しをしてこない事を見ると後からあれは不敬罪だったと言ってきたらどうしようとハラハラしていた。


「絶対だぞ?
カルメーロ、手を離してやれ。」

「はっ。」

「ふぅ…。座ってもいいか?」


 そういったピエトロに、バジーリオは視線をカルメーロへ送り、カルメーロは廊下にあった木製の椅子を持ってきた。
それに対してピエトロは、思う事はあったが、逆らうと、また外へ出されては困るとその椅子に腰を下ろした。


「で?ピエトロの考えは?」

「あぁ。フィラハ国には、賠償金を払ってもらう事とする。元々、交流を深めたいと向こうが言ってきたのだ。今までは特に交流がなかったが、あちらは砂の国であろう?こちら側に、どのようなメリットがあるのかと考え、行ってみたいとは思ったが、特に目立った特産品があるわけではなさそうだし、まあ結局は金かと。」

「…それだけか?」

「え?素晴らしい案かと思ったんだが…金額は、高めにすれば向こうも反省するのではないか?」

「ふー……だからお前は………」


 そういった後、バジーリオは頭を抱え出した。



 それを見かねて、声を発する者がいた。

「よろしいですかな?」


 ボニートが、おずおずと手を上げる。


「なんだ?」


 顔を上げたバジーリオは、ボニートを見て話を促す。


「はい。わがアンドレイニ領は、ベルガモットを栽培しております。ベルガモットは、香油や香水にも加工します。それを瓶に入れて販売するのですが、フィラハ国でも瓶を作られており、しかも曲線美が恐ろしく有名ではなかったかと。」

「そうだな。さすがボニートだ。金は、その場限りなのだ。しかし、そのような加工品は、経済を動かす元となる。分かるか、ピエトロ。」

「はぁ…しかし、そんな瓶なんぞ、目立ったものか?それにアンドレイニ領しか嬉しくないのではないですかな?」

「……ピエトロ。香水の瓶を必要とするのであれば、ブドウや、レモンを作っている領地もある。そこでも僅かではあるが香水を作っているだろ?全てではないだろうが、他の領地だって、使用するかもしれん。」

「そうなのか!じゃあ、そっちのが良いって事か。さすがバジーリオだな!やっぱり頼りになる!うん!!」


 ピエトロは首を縦に動かし、ウンウンと頷いている。
それを見たバジーリオは、ボニートと顔を見合わせ深い息を吐いた。



(なんだか、ここで見る限り、ピエトロ国王陛下は、あまり政治に長けていないのかしら?)


 ここで繰り広げられている話し合いに、そうアルフォンシーナは首をひねる。


 と、また俄に外が賑やかになるので、カルメーロが部屋の外へ確認をしに行ったが、すぐに人を引き連れて戻ってきた。


(ベルトルドお義兄様!?)


 長女カンディダの夫のベルトルドだった。
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