【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる

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昼食

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「ねぇ、オデット。クラウディオ格好よかったわね!」


 ミュリエルは自室で、先ほどまでのやりとりを思い出しながら、少し頬を染めつつそのようにオデットに言った。

 ミュリエルは窓際で、一人掛けのソファに座っている。


 結局、少し話が立て込むからと父から部屋に戻っているように言われた。…一度は断ったのだが、再度言われ、渋々部屋へと来たのだ。
 せっかく屋敷へとクラウディオを招待出来たのに、昼食は遅くなりそうだとため息を吐く。しかしすぐにミュリエルは先ほどのやりとりを思い出し、クラウディオを思い出す事で今はクラウディオを堪能する時間だと思う事にしたのだ。


「ミュリエル様は表情が顔に出ますから、お気持ちが手に取るように分かります。けれどもここで、私がそうですね、と熱い視線をミュリエル様と同じように送ってもよろしいのですか?」


 オデットは、幼い頃よりミュリエルについている為そのように少し気安い感じで、けれども顔はやや真面目に言った。ミュリエルが恋をしているのは一目瞭然、でも冷やかしてはいけないと思ったのだ。


「え!?…それは複雑ね。」


 ミュリエルは口を尖らせオデットを少し睨んだ。
 オデットはそれを見て、ミュリエルのクラウディオへの想いは微笑ましいものだと思った。だが同時に、ミュリエルは領主の娘である為、領主様はどのような判断をするだろうかと気を引き締める。ミュリエルの父は、ミュリエルを大切にしている為、自ら好きになった人と結ばれる事を望んでいるだろうとはなんとなく感じてはいるがしかしどうなるのかは分からない。なので、オデットはこれ以上は止めておこうと話を逸らす。


「それはそうと、普段でしたらそろそろ昼食ですよね。少し、確認して参りましょうか。」

「あぁ、いいわ。邪魔をしたくないもの。」


 そう言うと、ミュリエルは本を読み始めた。





 ☆★

「…ま、ミュリエル様!」

「!?」


 どのくらい経ったのだろうか。ミュリエルは手にした物語の本を読み進めて面白くなってきたと思った時、オデットに声を掛けられた。


「ミュリエル様、昼食の準備が出来たそうです。」

「本当!?」

「はい。旦那様は自室で摂るそうです。ですので、クラウディオ様と二人で摂るように、との事です。」

「まぁ!」


 ミュリエルは、嬉しさのあまり胸の前で両手を叩く。だが、ややもして下を向き、オデットに上目遣いで聞く。


「クラウディオはいいって言ってくれたの?」

「はい。
 それで、ミュリエル様は外で食べられるのと食堂で食べられるの、どちらがよろしいですか?それによって準備がありますので。」


 本当であれば、川辺で食べられるようにサンドイッチをたくさん準備されていた。…まぁ、今日再び会えるかも分からなかったから、完全に無駄にならなくて良かったと料理人達は密かに喜んでいたが。
 だから、ミュリエルのいいようにとオデットは聞いたのだ。

「でしたら、外がいいわ!オデットも一緒に食べましょ!バスコもね。」


 領主の娘とその使用人の関係ではあるが、領内で共に出掛けている時には膝を突き合わせて食べている。それは、幼い頃にミュリエルが無理を言った為だ。母親を幼い頃に亡くし、父も領地の為の仕事があり一人では淋しいと言ったから。
 そして、この屋敷でも、ミュリエルが大きくなった今でも、そのように外で食べたりする時には一緒に摂っている。


「承知致しました。
 けれど、私とバスコもご一緒してよろしいので?」


 フォルクマールから言われたのは、二人で摂るようにとの事であった。だが、それはが含まれているのか、オデットには分からなかった。ミュリエルを見ていれば、クラウディオに熱い視線を送っているのが分かる。が、だからといって二人きりで食事をさせもっとお互いを知るべきとの配慮なのか、本当に仕事があるから自分以外で食べるようにという意味なのか。


「当たり前よ!だって当初は皆で食べる予定だったじゃない?それに…クラウディオと二人きりだと…なんだか恥ずかしいもの。」


 そう口にすると、ミュリエルは下を向き少し赤い顔で両手を膝の上で合わせて指をソワソワと動かした。


「…ではご一緒させていただきますね。少しお待ち下さいね、そのように申し付けてきますから。」


 オデットは微笑ましいと思いながらもそれを表には出さないように表情を引き締めると、外での昼食の準備を進める為に部屋を出て行った。






 ☆★

「ミュリエルさん。こんなにたくさん、ありがとうございます。」


 クラウディオは、案内された自分より少し遅れて来たミュリエルに早々にお礼を言った。


「そんな!
 …クラウディオが喜んでくれて嬉しいわ!」


 ミュリエルははにかみながらクラウディオへと返答する。

 屋敷の応接室から見える庭園の四阿で摂ろうとしたのだが、テーブルが大きくはないし、せっかくなら庭園から少し外れてはいるが大きなメープルの木の下で敷物を広げて食べる事にしたのだ。そこはミュリエルが外で食べる時によく使う場所でもあった。


「ミュリエルさん、午後から、先ほど領主様と話していた人工的に川を造る作業を早速取り掛かる事になりました。」

「まぁそうなのね!クラウディオ、ありがとう!お父様に話して下さって。これで、バスコにほとんどやらせていたのを、回避できるかもしれないのね。」

「はい、それに関しては僕が請け負いますから。」

「え?でも…悪いわ。子供達でも集めてきた方がいいかしら?」

「大丈夫です。僕の体は無駄に大きいだけではありませんから。」

「フフフ。確かにクラウディオは大きいわね。
 食べ物、足りるかしら?もっとあるから、お代わり欲しかったら言ってね。」

「ありがとうございます。とっても美味しいですね、でもこれで充分です。お気遣いありがとうございます。」

「…ねぇ、どうして話し方が先ほどと違うの?お父様にもそうだったけれど、そんなに畏まらなくていいのに。」


 ミュリエルは唇を尖らせながらクラウディオを見た。サンドイッチを食べながら、楽しい話が出来ると考えていたミュリエルにとって、クラウディオは先ほど、父と話していた時のような畏まった話し方だ。それは、ミュリエルにとって距離が出来てしまったようで酷く悲しく思えて思わず不満を口にする。


「え?いえ…すみません。」


 クラウディオは直接そのように指摘され、ミュリエルの表情が可愛いと思いながらも謝った。
 クラウディオはこの屋敷に来て、やはりミュリエルは自分とは違い、裕福な貴族のお嬢様だったのだと思った。初めからそうかも知れないとは思ったが、川で流されそうになったミュリエルを助けた時には自分も必死だった為、言葉遣いまで意識がいかなかったのだ。

 そして先ほどフォルクマールと話してつくづく自分とは住む世界が違うのだと感じてしまった。
 だから、精一杯の言葉遣いで、ミュリエルにも接しようと努力していたのだ。


「どうして謝るの?」

「ミュリエル様、そう詰め寄っては、クラウディオ様が話しづらくなりますよ。」


 オデットはミュリエルの気持ちも痛いほど良く分かったが、それと同時にクラウディオの気持ちもなんとなく分かる為にそう責めるような言い方は良くないとやんわりと注意する。


「だって…なんだか淋しいわ。」

「…なぁ、もしかして身分差を見せつけられて気にしてんのか?だったら、ミュリエル様もフォルクマール様もそんなの気にしたりしねぇからよ、今朝までのように普通に話せばいいんだよ。」

「バスコはちょっと気にしなさ過ぎだと思いますけれど?」

「なんだよ、オデット!だけど俺、怒られた事なんてないんだぜ?ちゃんとしなきゃいけない時には、しっかりやっているし。公私をちゃんと考えればいいんだよ!」

「…まぁ、それもそうですけれど。
 という事でクラウディオ様?よろしければ、今朝までの口調でお願い致します。このままではミュリエル様も悲しいそうですし、クラウディオ様も話辛くて大変でしょう。」


 バスコとオデットに諭すように言われ、クラウディオがミュリエルの方を向けば首を傾げて期待の眼差しで見ていた。


(…まぁ、そんな風に言ってくれるのならいいって事だよね。確かに、言葉遣いを考えながら話すのは大変だし。)


 クラウディオは一つ息を吐くと、分かった、とボソリと呟いてサンドイッチを頬張った。


(…それに、ミュリエルさんの表情、可愛いなぁ。)


 そんな気持ちを悟られないように、クラウディオはもぐもぐと口を動かす。


「良かった!
 ねぇクラウディオ、私も午後からついて行くわ!」

「うん、だと思った。フォルクマール様もきっと来るだろうって言われていたし。でも気をつけるんだよ。」

「ええ、もちろん!」


 そう言うとミュリエルも鼻歌を歌い出しそうなほどニッコリと微笑んでから、サンドイッチに齧りついた。
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