【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる

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気になって

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 翌日。


 クラウディオは気になり、昨日助けた場所に行ってみる事にした。



 ーー昨日はあれから、クラウディオは少し離れた場所で腰を落ち着ける事とした。
 クラウディオは手荷物を置くと早速、川辺に行き、じっくりと川を観察する。と、すぐに水面近くを群で泳ぐ小さな魚を見つける。だがすぐに違う方向を探した。食べるには少し小さいと思ったからだ。少し先に水面から大きく突き出た石があり、その影を見ると程良い大きさの魚が数匹泳ぐのを見てとれた。


(よし。…ごめんね。)


 魚に詫びたクラウディオは、掌をそちらに向けると、えいっと力を入れた。すると、先ほどまでゆらゆらと川の流れに逆らうように泳いでいた魚達が一瞬光った後、力無く水面近くに仰向けになって浮かんできた。それに向かって手招きをすると、クラウディオの手に吸い寄せられるように魚達が宙を舞った。
は、いつからかクラウディオが出来るようになったである。

 近くに落ちていた程よい長さの枝にその魚達を順に串刺しにする。
そして手荷物に入っているナイフを取り出し、近くに落ちていた石をこすり付けて火花を起こして拾った枝に火をつけ、川魚を程よい加減まで焼いて食べた。
 体が濡れていたため火を付けてからにしようかとも思ったが、クラウディオは魚を捕るのはすぐに出来る為そのような順で行った。

 食事を終えると、手荷物にあった大きめの布をさっと広げ、近くの木の枝に器用に巻きつけて簡易テントにし、その中で体を休めた。このように外で寝る事もしょっちゅうで、特に何事もなく眠る事が出来た。

 そして、朝日と共に目が覚めると川で顔を洗い、近くの木に実っていた拳ほどの大きさの果物の実を、これまた掌をそちらに向けて力を込めて手招きをするとすぐにクラウディオの手の中に吸い寄せられ、それを朝食とした。

 それをしている間、昨日の事が頭から離れなかったのだ。


(土嚢を並べるのなら、人手があった方がいい。でもあの三人でやり遂げたいのかもしれない。それであれば、僕、手伝ってもいいかな。
 …けど、土嚢じゃなくて、もっと効率がいいものないのかな。川辺全体を土嚢で覆うのは無理があるだろうし……。)


 クラウディオはいろいろと考えた結果、少し前に訪れた街を思い出し、それを参考にすればいいのではないかと考えた。


(そうだ!…でもそれはそれで大変だけど…でも僕がやればそんなに掛からずに出来る。)






 ☆★

 クラウディオが向かうと、川辺にはすでにまた昨日の三人がいて土嚢を運んでいた。どこからそんな土を入れているのか、積めてある麻袋が川原に十は無造作に積んであった。もしかしたら、川原の石や砂をそこで積めているのかもしれないとクラウディオは思う。


「あら!昨日の!!」


 バスコに指示をしていたミュリエルは、クラウディオに気づくと笑顔でそう言い、近づいてきた。


「来てくれたのね!ねぇ、あとで、お礼に昼ご飯を一緒に食べましょ?」


 クラウディオの腕を持ち、そう言ったミュリエルはクラウディオの顔を覗き込んでそう言った。


「お礼?」


 クラウディオは、いきなり腕を捕まれたのでドキリとした。だが、それを顔には出さないようにしてそのように聞く。


「ええ。昨日私を助けてくれたお礼よ?
 だって、うちには来てくれなかったのだもの。きっと堅苦しいのは嫌なのかと思って。会えて良かったわ!たくさん作ってもらってきたのよ?」


 そう言ったミュリエルに、クラウディオは驚いた。


(え?今日会えるかも分からなかったのに?)


「改めまして昨日はミュリエル様をお助け下さりありがとうございました。まだお昼には時間がありますが、ご一緒して下さるとミュリエル様も喜びます。お食事が無駄にならなくて済みますし。」


 そう言って、オデットもクラウディオの前までやって来るとそのように声を掛けた。


「…丁寧にありがとう。
 それより、今日も土嚢を並べるの?」

「ええ。昨日も言ったけれどこの辺りは大雨が降ると、たまに川から水が溢れ出てしまうのよ。街道まで水が行く事はほとんどないけれど、それでもこの近くに住んでいる人もいるから、そっちまで水が行くと困るのよ。」

「おい、ミュリエル!ここでいいか?」


 クラウディオと話していたミュリエルに、水辺で作業をしていたバスコが少し大きめの声でそう言う。


「バスコ、ごめん!そうね、順に置いていってちょうだい!」

「あのさ、やっているところ水を差すようで悪いけど、大変じゃない?」


 クラウディオは、思い付いた考えを述べようと声を掛ける。


「え?うーん…確かに大変だけど、民を守る為にはやるしかないのよね。」


 苦笑いしながら答えるミュリエルに、クラウディオはゆっくりと口を開く。


「あのさ、土嚢じゃなくてもう少し大掛かりになるけど、これだったら長い年月で見たらいい方法だと思うものがあるんだけど、話してもいい?」

「いい方法?なぁに?」

「川幅を広くする、というか支流を作るのはどうかな?」

「?」


 そう話し出すと、ミュリエルは良く分からないという顔をする。確かに大掛かりになってしまうから、疑問に思うのは無理はない。普通であれば人手がたくさんいる。だからお金も掛かってしまう。このように三人だけでやっているのだから、考えにも及んでなかっただろう。
だが、実際、クラウディオが訪れた街で、そのように川の流れを人工的に変えて水害から逃れようとしている地区を見てきたのだ。だから、大変ではあるが出来ない事はないだろうと続きを話す。


「土嚢を敷き詰めるのは、毎年やっているの?広範囲に置くのは、大変だと思ったんだ。しかも、バスコがやっているんだろう?重いから仕方ないとはいえ、一人では長い時間掛かると思う。
だから、どうせ大変な事をするなら、何年ももつ事をした方がいいんじゃないかなって。僕も手伝うからさ。」


 クラウディオが話していると、バスコも気になったのか近くまでやってきて、どういう事かと首を捻りながら会話に入ってきた。


「どういう事だ?確かにミュリエルやオデットもたまにやるが一応女だからな。ほとんどオレが運んでいる。仕事だから仕方ないが、オレはそんなに体力があるわけじゃないから確かに大変だ。毎日、ヘトヘトになって夜は一度も起きないから、良い運動になっているのかもしれないけれど、朝目覚めが少し悪くなったのも事実だ。
他にいい案があるのなら聞くが、時間の無駄にならないだろうな?」

「簡単に言えば、川をもう一つ作るようなものだ。」

「はぁ!?川を!?」

「水害って、川から水が溢れるからおこってしまうんだよね?だったら、溢れないように流れる道を作ればいいと思う。
もちろん、これは僕の思い付きではあるけれど、実際にそれをやり遂げて水害が減った地区もある。少し南に下った集落がそうだよ。村の名前までは聞いてないけど。」


 よほど驚いたのか、バスコは噛みつくような勢いでクラウディオに近づき、疑問を投げかけたので、クラウディオは若干体を後ろに仰け反りながら説明する。


「…あなたは、旅の人?いろんな街を巡ってきたのかしら?」


 考え込んでいたミュリエルがそのように首を傾げながらクラウディオに言う。その姿がなんだか可愛いと思ってしまったクラウディオは、自然と笑みが溢れながらも答えた。


「そうだよ。…訳あって、生まれ育った村を出ていろいろと回っているんだ。」

「そうなのね。凄いわ!あなたの知識は、もしかしたらうちの領地を救う素晴らしいものになるのかもしれない!私、詳しい事は良く分からないけれど、みんなの為になるのならやらないという選択肢はないわ!
 確かに、土嚢を並べるのはバスコが大変かと思っていたのよ。もっと人手があったら、とは思っていたけど、お父様に言えば頭を悩ますでしょうし。」

「本当かー?ミュリエル。
まぁ、旦那様の為に、って動いてるのに結局助けてと言うんじゃあ意味がないからな。オレはそのミュリエルの考えは理解している。だから文句も言わずやっているしよ。」

「そこまで買い被られても困るけれどね。
 ただ、まぁ僕の知識が少しでも役に立つのなら僕としても嬉しいよ。こんな役立たずの僕にも、多少は生きている価値があったのかと思えるからね。」

「…え?役立たず?」

「あぁ、そこは触れないでくれると…」

「役立たずなわけないわ!だって昨日は私を助けてくれたんでしょう!?それに今日だって!
あなたは私にとってとても必要な人だわ!」


 クラウディオが最後まで言う前にミュリエルがそのように力強く言い、クラウディオの腕をギュッと掴んで言うものだから、クラウディオは心がむず痒いような、晴れやかになるような何とも言えない気持ちになったのだった。

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