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雷の奇跡
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「にいちゃーん、まってー!」
「はは!オレに追いつけるかー?」
一歳違いの兄弟のアルサイドとクラウディオは、周りの子供達とそれほど変わらない、ごく一般的に仲の良い兄弟だった。
山あいにあり、自給自足で生活しているこの小さな村は、取り立てて目立つ産業があるわけでもない為に日々生活するのに精一杯の、貧しい村であった。
住んでいる住人もたいして多くはなく、生きる為に皆が協力して農業も行っていた為、村中が大きな家族のようであった。
今日も変わらず、両親が近所の人と共に小麦畑の手入れをしている。その近くで、四歳になるアルサイドと三歳のクラウディオは追いかけっこや、木登りをしていた。
と、だんだんと雲が分厚くなり、どこからかゴロゴロと雷鳴が聞こえてきた。
「そろそろ終わりにするかー?」
空を見上げた一人が、首から下げた布で頭から滴る汗を拭いながら声を上げる。
「でも、あと少しなんだよなー。」
それに答えた者も、他の者も汗を拭いながら空と畑を見比べる。
「じゃああっちまで終えたら、今日は上がろうかー。」
「そうだな。」
そう、大人たちが話していると突然、バリバリバリ!!!という耳をつんざくような音がし、大人たちは目と耳を押さえて自然と体勢を低くししゃがみこんだ。
アルサイドはその時、その辺りで一際背の高い真っ直ぐに空へとそびえ立つ木の中ほどまで登っていて、クラウディオが追いかけようと下から今まさに木に手をついてよじ登ろうとしていた時だった。
「にいちゃん!!」
クラウディオが叫んだ時、辺りは雷の影響か、ものすごく明るくなり目を瞑っていても眩しく感じるほどだった。
大人たちも、何が起こったのか分からなかった。
だが、ややもして皆が目を開けると、アルサイドが木の下に仰向けで横になっていて、目をパチパチとしてから、やがてすっと起き上がりキョトンとする。
「アルサイド!」
「え!どうしたの?」
「何ともない!?」
「大丈夫か!!」
見ると、木は少し焦げていて、辺りも焦げ臭い匂いが漂っている。
「にいちゃん!よかったぁ。」
クラウディオがそう言うと、大人たちは顔を見合わす。
「あれ?オレ、木に登ってたのに…。」
アルサイドの声に、やっと状況を掴めたようで大人たちで話し出した。
「木って、焦げ臭いしまさか雷が落ちたって事か?」
「でも木は燃えてないぞ。」
「ああ、黒く焦げてはいるが、一部分だけだ。しかも、アルサイドは怪我してないぞ。」
「アルサイド…まさか奇跡なんじゃない?」
「え?」
「まさか…」
「奇跡の…聖人!?」
奇跡の聖人とは、遥か昔、この国に災いが起きた時、奇跡を起こして災いを無くす事が出来た人の事を指す。だが、その姿は白髪の年老いた男だったとも、黒髪の若い男だったとも言われていた。いわば伝説のようなもの。
それが、この貧しい村に奇跡の聖人が居るとなれば、それは素晴らしい事なのではないかと皆が言い、アルサイドの両親に向かって賛辞を送る。
アルサイドの両親も、突然の事で驚きはしたがアルサイドが特に怪我がない様子であるから安心し、だんだんとその言葉に浮かれるようになった。
「や、やだわー、アルサイドがそんな…!でももし本当にそうだとしたらどうしましょ!」
「そうだな、国からお呼びが掛かるかもしれんぞ。さ、帰るか!」
雨が降りだす前にと、もう畑仕事の続きはせずに、皆はそんな話をしながら各々の家へと歩き出し戻って行く。クラウディオも木のすぐそばにいたのだが、それには誰も気づく者はなく、浮かれた調子で大人たちはアルサイドが奇跡の聖人だと話していた。
「はは!オレに追いつけるかー?」
一歳違いの兄弟のアルサイドとクラウディオは、周りの子供達とそれほど変わらない、ごく一般的に仲の良い兄弟だった。
山あいにあり、自給自足で生活しているこの小さな村は、取り立てて目立つ産業があるわけでもない為に日々生活するのに精一杯の、貧しい村であった。
住んでいる住人もたいして多くはなく、生きる為に皆が協力して農業も行っていた為、村中が大きな家族のようであった。
今日も変わらず、両親が近所の人と共に小麦畑の手入れをしている。その近くで、四歳になるアルサイドと三歳のクラウディオは追いかけっこや、木登りをしていた。
と、だんだんと雲が分厚くなり、どこからかゴロゴロと雷鳴が聞こえてきた。
「そろそろ終わりにするかー?」
空を見上げた一人が、首から下げた布で頭から滴る汗を拭いながら声を上げる。
「でも、あと少しなんだよなー。」
それに答えた者も、他の者も汗を拭いながら空と畑を見比べる。
「じゃああっちまで終えたら、今日は上がろうかー。」
「そうだな。」
そう、大人たちが話していると突然、バリバリバリ!!!という耳をつんざくような音がし、大人たちは目と耳を押さえて自然と体勢を低くししゃがみこんだ。
アルサイドはその時、その辺りで一際背の高い真っ直ぐに空へとそびえ立つ木の中ほどまで登っていて、クラウディオが追いかけようと下から今まさに木に手をついてよじ登ろうとしていた時だった。
「にいちゃん!!」
クラウディオが叫んだ時、辺りは雷の影響か、ものすごく明るくなり目を瞑っていても眩しく感じるほどだった。
大人たちも、何が起こったのか分からなかった。
だが、ややもして皆が目を開けると、アルサイドが木の下に仰向けで横になっていて、目をパチパチとしてから、やがてすっと起き上がりキョトンとする。
「アルサイド!」
「え!どうしたの?」
「何ともない!?」
「大丈夫か!!」
見ると、木は少し焦げていて、辺りも焦げ臭い匂いが漂っている。
「にいちゃん!よかったぁ。」
クラウディオがそう言うと、大人たちは顔を見合わす。
「あれ?オレ、木に登ってたのに…。」
アルサイドの声に、やっと状況を掴めたようで大人たちで話し出した。
「木って、焦げ臭いしまさか雷が落ちたって事か?」
「でも木は燃えてないぞ。」
「ああ、黒く焦げてはいるが、一部分だけだ。しかも、アルサイドは怪我してないぞ。」
「アルサイド…まさか奇跡なんじゃない?」
「え?」
「まさか…」
「奇跡の…聖人!?」
奇跡の聖人とは、遥か昔、この国に災いが起きた時、奇跡を起こして災いを無くす事が出来た人の事を指す。だが、その姿は白髪の年老いた男だったとも、黒髪の若い男だったとも言われていた。いわば伝説のようなもの。
それが、この貧しい村に奇跡の聖人が居るとなれば、それは素晴らしい事なのではないかと皆が言い、アルサイドの両親に向かって賛辞を送る。
アルサイドの両親も、突然の事で驚きはしたがアルサイドが特に怪我がない様子であるから安心し、だんだんとその言葉に浮かれるようになった。
「や、やだわー、アルサイドがそんな…!でももし本当にそうだとしたらどうしましょ!」
「そうだな、国からお呼びが掛かるかもしれんぞ。さ、帰るか!」
雨が降りだす前にと、もう畑仕事の続きはせずに、皆はそんな話をしながら各々の家へと歩き出し戻って行く。クラウディオも木のすぐそばにいたのだが、それには誰も気づく者はなく、浮かれた調子で大人たちはアルサイドが奇跡の聖人だと話していた。
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