上 下
2 / 16

雷の奇跡

しおりを挟む
「にいちゃーん、まってー!」

「はは!オレに追いつけるかー?」



 一歳違いの兄弟のアルサイドとクラウディオは、周りの子供達とそれほど変わらない、ごく一般的に仲の良い兄弟だった。

 山あいにあり、自給自足で生活しているこの小さな村は、取り立てて目立つ産業があるわけでもない為に日々生活するのに精一杯の、貧しい村であった。

 住んでいる住人もたいして多くはなく、生きる為に皆が協力して農業も行っていた為、村中が大きな家族のようであった。




 今日も変わらず、両親が近所の人と共に小麦畑の手入れをしている。その近くで、四歳になるアルサイドと三歳のクラウディオは追いかけっこや、木登りをしていた。

 と、だんだんと雲が分厚くなり、どこからかゴロゴロと雷鳴が聞こえてきた。



「そろそろ終わりにするかー?」


 空を見上げた一人が、首から下げた布で頭から滴る汗を拭いながら声を上げる。


「でも、あと少しなんだよなー。」


 それに答えた者も、他の者も汗を拭いながら空と畑を見比べる。


「じゃああっちまで終えたら、今日は上がろうかー。」

「そうだな。」


 そう、大人たちが話していると突然、バリバリバリ!!!という耳をつんざくような音がし、大人たちは目と耳を押さえて自然と体勢を低くししゃがみこんだ。


 アルサイドはその時、その辺りで一際背の高い真っ直ぐに空へとそびえ立つ木の中ほどまで登っていて、クラウディオが追いかけようと下から今まさに木に手をついてよじ登ろうとしていた時だった。


「にいちゃん!!」


 クラウディオが叫んだ時、辺りは雷の影響か、ものすごく明るくなり目を瞑っていても眩しく感じるほどだった。


 大人たちも、何が起こったのか分からなかった。


 だが、ややもして皆が目を開けると、アルサイドが木の下に仰向けで横になっていて、目をパチパチとしてから、やがてすっと起き上がりキョトンとする。


「アルサイド!」

「え!どうしたの?」

「何ともない!?」

「大丈夫か!!」


 見ると、木は少し焦げていて、辺りも焦げ臭い匂いが漂っている。


「にいちゃん!よかったぁ。」


 クラウディオがそう言うと、大人たちは顔を見合わす。


「あれ?オレ、木に登ってたのに…。」


 アルサイドの声に、やっと状況を掴めたようで大人たちで話し出した。


「木って、焦げ臭いしまさか雷が落ちたって事か?」

「でも木は燃えてないぞ。」

「ああ、黒く焦げてはいるが、一部分だけだ。しかも、アルサイドは怪我してないぞ。」

「アルサイド…まさか奇跡なんじゃない?」

「え?」

「まさか…」

「奇跡の…聖人!?」



 奇跡の聖人とは、遥か昔、この国に災いが起きた時、奇跡を起こして災いを無くす事が出来た人の事を指す。だが、その姿は白髪の年老いた男だったとも、黒髪の若い男だったとも言われていた。いわば伝説のようなもの。

 それが、この貧しい村に奇跡の聖人が居るとなれば、それは素晴らしい事なのではないかと皆が言い、アルサイドの両親に向かって賛辞を送る。

 アルサイドの両親も、突然の事で驚きはしたがアルサイドが特に怪我がない様子であるから安心し、だんだんとその言葉に浮かれるようになった。


「や、やだわー、アルサイドがそんな…!でももし本当にそうだとしたらどうしましょ!」

「そうだな、国からお呼びが掛かるかもしれんぞ。さ、帰るか!」


 雨が降りだす前にと、もう畑仕事の続きはせずに、皆はそんな話をしながら各々の家へと歩き出し戻って行く。クラウディオも木のすぐそばにいたのだが、それには誰も気づく者はなく、浮かれた調子で大人たちはアルサイドが奇跡の聖人だと話していた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

全てを奪われ追放されたけど、実は地獄のようだった家から逃げられてほっとしている。もう絶対に戻らないからよろしく!

蒼衣翼
ファンタジー
俺は誰もが羨む地位を持ち、美男美女揃いの家族に囲まれて生活をしている。 家や家族目当てに近づく奴や、妬んで陰口を叩く奴は数しれず、友人という名のハイエナ共に付きまとわれる生活だ。 何よりも、外からは最高に見える家庭環境も、俺からすれば地獄のようなもの。 やるべきこと、やってはならないことを細かく決められ、家族のなかで一人平凡顔の俺は、みんなから疎ましがられていた。 そんなある日、家にやって来た一人の少年が、鮮やかな手並みで俺の地位を奪い、とうとう俺を家から放逐させてしまう。 やった! 準備をしつつも諦めていた自由な人生が始まる! 俺はもう戻らないから、後は頼んだぞ!

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

今度生まれ変わることがあれば・・・全て忘れて幸せになりたい。・・・なんて思うか!!

れもんぴーる
ファンタジー
冤罪をかけられ、家族にも婚約者にも裏切られたリュカ。 父に送り込まれた刺客に殺されてしまうが、なんと自分を陥れた兄と裏切った婚約者の一人息子として生まれ変わってしまう。5歳になり、前世の記憶を取り戻し自暴自棄になるノエルだったが、一人一人に復讐していくことを決めた。 メイドしてはまだまだなメイドちゃんがそんな悲しみを背負ったノエルの心を支えてくれます。 復讐物を書きたかったのですが、生ぬるかったかもしれません。色々突っ込みどころはありますが、おおらかな気持ちで読んでくださると嬉しいです(*´▽`*) *なろうにも投稿しています

英雄一家は国を去る【一話完結】

青緑
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシャリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

晴れて国外追放にされたので魅了を解除してあげてから出て行きました [完]

ラララキヲ
ファンタジー
卒業式にて婚約者の王子に婚約破棄され義妹を殺そうとしたとして国外追放にされた公爵令嬢のリネットは一人残された国境にて微笑む。 「さようなら、私が産まれた国。  私を自由にしてくれたお礼に『魅了』が今後この国には効かないようにしてあげるね」 リネットが居なくなった国でリネットを追い出した者たちは国王の前に頭を垂れる── ◇婚約破棄の“後”の話です。 ◇転生チート。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げてます。 ◇人によっては最後「胸糞」らしいです。ごめんね;^^ ◇なので感想欄閉じます(笑)

処理中です...