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6. 猫

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「良かったね、父さん、退院出来るって。」

「そうね、後遺症もそこまでなくて、本当に良かったわ。」



 面会は私も一緒に行くと、父さんは起きていた。

 話し辛そうではあったけれど、一週間もすれば、もう少し聞き取り易くなるそうだ。
歩くのも、病院の中では車椅子だったが、もう少し練習すれば、問題なく歩けるようになるだろうとの事だった。



「楓、帰って来ない?」



 家について、一息ついている頃に母さんがふと言った。

「ほら、その方が父さんも喜ぶだろうし。仕事はどう?いい人は?」


 元気になった証拠かな…。また回避したい話題になってしまった。


「うーん…少し考えるね。」


 確かに、この一件で少し先の事を考えるきっかけになった。

 今までは、ただ漠然とここの田舎町から大都会に出たい、その一心で大学を目指し、そのまま会社もそっちで就職した。

 でもそろそろ、両親もそういう歳になってきてしまったのだ。老後を考える歳に。



 二階の自分の部屋に戻り、私はベッドに寝転がり考える。

 仕事は大変だけど、やりがいを感じる。
プロジェクトが成功すると、チーム一丸となって取り組めたと達成感が味わえる。会社の知名度もその度に上がり、ますますやりがいを感じる。

 だけど、楽しいわけじゃない。

 月曜の朝は、会社に行きたくない気持ちも芽生える。

 ここは田舎だけど、人も多くなくてせかせかもしていない。無いもない町だけど…。




「ニャー」


 不意に、どこからが猫の鳴き声が聞こえてきた。

 窓の外を見てみると、黒猫がいた。座って、こちらをジッと見据えている。

(猫ちゃん…。)

 あの日助けた猫にそっくり。



 あの助けた日から私は事ある毎に、黒猫を見掛けるようになり、時には両親に隠れておやつなどをあげていた。そうしたからかは分からないけれど、細く痩せたように見えていた子猫は、いつの間にかでっぷりとしたまん丸な黒猫になっていたのだ。

 あれから、もう28年近く立っているから、さすがにその時の猫ではないのだろうけれど。


「ニャー」

 まただ。私を見ながら鳴いているように聞こえる。
せっかくなら、と私は猫の元に行こうと思った。下に降り、居なかったら仕方ないけれどと思いながら玄関へと走った。

「どうしたの?慌てて。」

 階段を下りている途中、母さんが居間から声を掛けてきた。

「ちょっと出てくる!」

「気をつけるのよ。」

「うん!」


 玄関を出ると、窓から見た時と同じ体制でいたが、私の姿を見ると動き出し、歩き出した。
でも、素早く逃げる、ではなく、ゆっくり歩いていく。


「ついていっていい?」


 声に出すと、歩いていた猫は一度振り返り、私と視線を交わすとまた、歩き出した。
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