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「賑やかだな。」
入れ違いに、イェレではない燕尾服姿の妙齢の男性に支えられてやって来たのはレオポルトだ。支えているのはレオポルト付きの侍従である。
…少し遅れて、アレッタも手にはハンカチを持ってついてきていた。
「え…お、親父!?」
「うそ…」
「じいさん!?」
カスペルとカーリンは腰を抜かす程に驚き、ランメルトも驚いてはいるが喜びの声を滲ませる。
「フレイチェありがとう、ノアザミの根は、よく効いたよ。
それにしても、大きくなったなあ。」
そう言って慈愛の視線を送るレオポルトに、フレイチェは返事を返す。
「それは良かったです。
…あの、お会いしておりました?」
フレイチェは記憶にあったかと、探る。
「ハハハ。君がうんと小さな頃にね。ディアンナがまだ生きておる時、うちのアレッタと湖の畔のホテルによく行って、そこでな。ディアンナは、幼い君をよく連れて来ていたよ。」
「そうだったんですか?」
フレイチェはあまり記憶になかった。だが確かに、湖の畔の別邸で、ディアンナと過ごした日々はあったように思う。
「ディアンナは、多感なフレイチェを心配していてね。
アレッタが冗談交じりによく、フレイチェとうちの孫を結婚させようだなんて口にしていたわ。」
「そうでしたか…」
それは知らなかった、とフレイチェは思う。だが、それがあったからランメルトと結婚が出来たのだと思うと、とてもありがたいと思った。そんな軽い口約束なら、反故にする事も可能だと思ったからだ。
「もっと早くにそうするべきだったのか、私には判断出来んが、嫁いで来てくれてありがとうフレイチェ。
そして、私をまた外の空気を吸わせてくれて本当にありがとう。
…のう、カスペル、カーリン?」
「ひえ…!」
「ひ…!」
「よくもまぁ人が居ないのを見計らって、大層な事をしでかしたもんじゃ!
今まで、親の欲目で子爵の位まで分け与えて領地に住まわせてやった恩を仇で返しおって!!
私が覚えておらんとでも思うか?ジャスミンティーと偽った液体を飲ませおったな?」
「や、そ、それは…ち、違うんだ!カーリンが、カーリンがどうしてもやるって聞かないから!」
「はぁ!?カスペル、何?私のせいっていうの!?そろそろデニスの結婚相手を探さないとってカスペルが言うからじゃないの!!
でも適齢期をとうに過ぎた三十にもなるデニスを結婚させるにはお大金を積みでもしないと相手が来ないだろうっていうから!
私はデニスはずっと家に居てもいいと思ったけど、でも心を鬼にしてカスペルに従ったのに!!」
「酷っ!そんな事…俺は結婚なんて…カトリーナ以外とは考えられないって言ったよね!?」
「バカか!カトリーナは既婚者だ!それに十年も前にお前が崖から突き落としたんだろうに!
それを隠してやったのにお前ときたら…!」
「そうよ!本家の皆を亡き者にして、お金を全部頂いちゃおうとしたのに、全部デニスのせいよ!!」
「止めんか!!人のせいにするな!見苦しい!!」
カスペルとカーリンとデニスの親子の罵り合いになった時、レオポルトの喝が入った。
しかし、まだ本調子ではないからだろう、その後ゲホゲホと咳をしてから肩で息をし、侍従に背中を撫でられていた。
「だ、大丈夫かしら…」
フレイチェが呟くと、傍にいたランメルトが頷き、同意をする。
「あぁ、病み上がりだろうに。本当だったらここに来るのも辛いはずだ。
だが、やはりじいさん。俺よりもさすが威厳があるな。」
カスペル達を糾弾するには、爵位的にはランメルトのが上であるがやはり甥に詰め寄られても認めたくないという思いがあるのだろう。
だが、自分達が弱らせたと思った父親が出てきた事で、戦意を喪失したのだろう。カスペルとカーリンはそのまま地面へとしゃがみ込んだ。
「潔く全て認めよ。おまえたちが誇り高きオルストールン家の一員であるならな。」
呆然としたままのデニスだけが、唇を噛み、下を向いている。
「私にも非があるのだろう。愛する子供達だからと、親の欲目で甘やかした成れの果てか…こんな殺伐とした関係になるなんて思いもしなかったわ!
私はこれを機に、カスペルが住んでいた屋敷へ行く。」
「え、じいさん!?」
「その方がいいだろう。
カスペル達は、国の貴族特別機関へと受け渡そうと思う。」
貴族特別機関とは、貴族が罪を犯した時に裁くことの出来る特別機関である。主に、国王や王族が取り仕切っている為、表沙汰には出来ない事も、さまざまな事象を調べた上で、証拠や証言を考慮し秘密裏に処理する事が出来るのだ。
「…そうですね、ありがとうございます。」
「済まんが、よろしく頼む。
フレイチェも、もしかしたら証言を頼まれると思う。その時は、聞いた事をそのまま伝えるといい。」
「じいさん、だけど…」
「大丈夫だ。稀有な力を持っている者も特別機関にはいらっしゃる。理解して下さるはずだ。」
(私の事、ご存じだったのね…)
「なぁフレイチェ。アレッタはどこかに居るか?」
「は、はい!そちらにいます。
レオポルト様がお部屋にいた時には、お部屋にいらっしゃいましたよ。」
ずっと居るのかは分からないが、今もこうしてレオポルトの後を追って来たのなら、部屋にもずっといたのではないかと推測するフレイチェ。
「そうか…。ディアンナが言っていたが、本当に見えるのだな…。
アレッタは怒っているか?」
「え?…喜びの涙を浮かべています。」
そう言われ、アレッタを見ると涙を浮かべていた。レオポルトが歩いてここまで来れた事をとても喜んでいるように見えた。
「そうか…アレッタは、子爵邸に来るだろうか?」
「それは…分かりません。この世界に未練が無くなれば、居なくなると言われていますから。」
「なるほどな。アレッタに伝えてくれるか?ブラムの絵は、アレッタと過ごした場所によく似た絵を描くから好きなだけだと。」
「え?はい。…だそうですよ、アレッタ様。」
《そうなの?私、ブラムが好きなのだとばっかり…!
私と過ごした場所?……あぁ、そうね。自然豊かな、心が洗われるような場所よね。》
(えっと、ブラムさんって誰だったかしら…?でも、絵?)
「レオポルト様はブラムさんが好きだと思ってたそうですよ?」
アレッタがレオポルトの言葉を聞くと、手で口を抑え、先ほどよりも大粒の涙が溢れ出て来ている。
それを見て、心がすれ違っていたのだろうかとレオポルトにもアレッタが口にした言葉を伝える事とした。
「ふー…だろうな。それで何度も喧嘩したわ。それも今となっては懐かしいがね。
ブラムの絵は、至る所に飾ってあるだろ、屋敷中に。だがアレッタはそれが気に入らんと言ってな。
私には、ブラムの絵はアレッタと過ごした場所に似た、温かな気持ちを抱くのだよ。絵を見ているとなんだかアレッタと過ごした日々を思い出すようだったから引き取って描かせたんだがなぁ…。
その内、娘のヨランダがブラムを気に入って、アトリエが欲しいって言い出したから造ってやったらそれにも怒り狂ってな…心を病んで亡くなってったんだ。私には、今も昔も変わらずアレッタ一筋であったんだがな。」
そう寂しそうに宙を見て笑うレオポルト。
(あぁ、ブラムさんってランメルトの伯母様の恋人だったわ!そっか、絵がたくさんいろんな所に飾ってあったのは、そういう事だったのね。
…愛するって事が、拗れてしまったのかしら。)
《そんな…言ってくれなきゃ分からないじゃないの!どうして生きている時に言ってくれないの……》
「アレッタ様、レオポルト様は、とてもあなたを愛してらしたのですね。」
《私だって…大好きだったわ。ずっと。ブラムの絵を見ると嫉妬して壊したくなるくらいだった……!》
フレイチェは拗れてすれ違う二人を見てとても切なくなった。きっとこれも、アレッタの気持ちを感じているのかもしれない。
と、フレイチェの手を、温かいものが触れて柔らかく包み込んだ為、そちらを見ると、ランメルトがフレイチェの手をふんわりと握っていたのだった。
「フレイチェがなぜだか消えそうに思えてしまって、許可も取らずに手を握って済まない。だが、今そうしなければならないと思ってしまったんだ。」
そう不安そうに口にしたランメルトの顔を仰ぎ見たフレイチェは、力なく笑って応える。
「いいえ、わざわざ許可を取らなくとも夫婦なのだからいいのよ?
ランメルト様の温かい温もりを感じられて、とても嬉しいと思ったわ。」
「そうか…!
祖父上と祖母上は晩年、確かに言い争いが絶えなかった。だが、愛し合っていたんだな。」
「そうね。…ねぇ、私達もそうなれるのかしら?」
「ん?愛し合いたいとは思うが、言い争いはしたくないな。」
「それはそうね。だったら、いろんな事もちゃんと言ってね?」
「そうだな、喧嘩なんてしたくない。フレイチェと触れている方がよっぽど充実する時間だ。」
そう言って見せびらかすように握り合った手を上に挙げた。
「ふふ。ランメルト様ったら!」
「…そろそろ、ランメルトって呼んで欲しいな。」
「ラ、ランメルト…?」
「いいな、やっぱり。
…フレイチェ、いろいろとありがとう。」
「え?」
「こんな、問題ばかり不幸続きの家に嫁いで来てくれてさ。それで、解決に導いてくれちまうんだもんな!」
「そ、そんな事…ランメルトこそ、私を受け入れてくれてありがとう。
だって今思えば、ゴタついている時に私がやってきた訳でしょう?追い返す事だって出来たのに、それをしなかったのだもの。」
「こんなに可愛いフレイチェを、追い返すなんて出来やしないさ。」
そうやって、二人でしばらく話していたのだが、いつの間にか日は高く上っているようで、ヨーズアが痺れを切らして声を掛けた。
「ねぇお二人さん。そろそろ、クラース様の葬儀の時間だよ!早く行こう!」
その声に周りを見渡すと、ランメルトとフレイチェだけが残されていた。
「レオポルト様がやってくれたよ?
もう、病み上がりの人に任せっきりは困るよー。ま、それができるくらい元気になってくれたって事で、良いことではあるけどね-!」
しゃがみ込んでいたカスペルとカーリンは、オルストールン家の数少ない警備が客間に連れて行った。そこで貴族特別機関が到着するまで軟禁するのだ。
放心状態だったデニスも、警備が腕を掴むと力なくついて行ったそうだ。直接崖から突き落とした訳では無くとも、同意なく追い回したり、抱きつこうとした事は立派な犯罪だ。なので、こちらも両親と同じ部屋で軟禁され、貴族特別機関へと委ねる。
きっと、この数々の事は表には出す事の出来ない事案となるが、罪はしっかり償ってもらわなけれはならない。罪を犯したら、償う事は当然の事だからだ。
フレイチェも、ランメルトや他の人(霊)達の憂いが少しは薄らいだかなと思い、ランメルトと手を繋ぎながら屋敷へと向かった。
入れ違いに、イェレではない燕尾服姿の妙齢の男性に支えられてやって来たのはレオポルトだ。支えているのはレオポルト付きの侍従である。
…少し遅れて、アレッタも手にはハンカチを持ってついてきていた。
「え…お、親父!?」
「うそ…」
「じいさん!?」
カスペルとカーリンは腰を抜かす程に驚き、ランメルトも驚いてはいるが喜びの声を滲ませる。
「フレイチェありがとう、ノアザミの根は、よく効いたよ。
それにしても、大きくなったなあ。」
そう言って慈愛の視線を送るレオポルトに、フレイチェは返事を返す。
「それは良かったです。
…あの、お会いしておりました?」
フレイチェは記憶にあったかと、探る。
「ハハハ。君がうんと小さな頃にね。ディアンナがまだ生きておる時、うちのアレッタと湖の畔のホテルによく行って、そこでな。ディアンナは、幼い君をよく連れて来ていたよ。」
「そうだったんですか?」
フレイチェはあまり記憶になかった。だが確かに、湖の畔の別邸で、ディアンナと過ごした日々はあったように思う。
「ディアンナは、多感なフレイチェを心配していてね。
アレッタが冗談交じりによく、フレイチェとうちの孫を結婚させようだなんて口にしていたわ。」
「そうでしたか…」
それは知らなかった、とフレイチェは思う。だが、それがあったからランメルトと結婚が出来たのだと思うと、とてもありがたいと思った。そんな軽い口約束なら、反故にする事も可能だと思ったからだ。
「もっと早くにそうするべきだったのか、私には判断出来んが、嫁いで来てくれてありがとうフレイチェ。
そして、私をまた外の空気を吸わせてくれて本当にありがとう。
…のう、カスペル、カーリン?」
「ひえ…!」
「ひ…!」
「よくもまぁ人が居ないのを見計らって、大層な事をしでかしたもんじゃ!
今まで、親の欲目で子爵の位まで分け与えて領地に住まわせてやった恩を仇で返しおって!!
私が覚えておらんとでも思うか?ジャスミンティーと偽った液体を飲ませおったな?」
「や、そ、それは…ち、違うんだ!カーリンが、カーリンがどうしてもやるって聞かないから!」
「はぁ!?カスペル、何?私のせいっていうの!?そろそろデニスの結婚相手を探さないとってカスペルが言うからじゃないの!!
でも適齢期をとうに過ぎた三十にもなるデニスを結婚させるにはお大金を積みでもしないと相手が来ないだろうっていうから!
私はデニスはずっと家に居てもいいと思ったけど、でも心を鬼にしてカスペルに従ったのに!!」
「酷っ!そんな事…俺は結婚なんて…カトリーナ以外とは考えられないって言ったよね!?」
「バカか!カトリーナは既婚者だ!それに十年も前にお前が崖から突き落としたんだろうに!
それを隠してやったのにお前ときたら…!」
「そうよ!本家の皆を亡き者にして、お金を全部頂いちゃおうとしたのに、全部デニスのせいよ!!」
「止めんか!!人のせいにするな!見苦しい!!」
カスペルとカーリンとデニスの親子の罵り合いになった時、レオポルトの喝が入った。
しかし、まだ本調子ではないからだろう、その後ゲホゲホと咳をしてから肩で息をし、侍従に背中を撫でられていた。
「だ、大丈夫かしら…」
フレイチェが呟くと、傍にいたランメルトが頷き、同意をする。
「あぁ、病み上がりだろうに。本当だったらここに来るのも辛いはずだ。
だが、やはりじいさん。俺よりもさすが威厳があるな。」
カスペル達を糾弾するには、爵位的にはランメルトのが上であるがやはり甥に詰め寄られても認めたくないという思いがあるのだろう。
だが、自分達が弱らせたと思った父親が出てきた事で、戦意を喪失したのだろう。カスペルとカーリンはそのまま地面へとしゃがみ込んだ。
「潔く全て認めよ。おまえたちが誇り高きオルストールン家の一員であるならな。」
呆然としたままのデニスだけが、唇を噛み、下を向いている。
「私にも非があるのだろう。愛する子供達だからと、親の欲目で甘やかした成れの果てか…こんな殺伐とした関係になるなんて思いもしなかったわ!
私はこれを機に、カスペルが住んでいた屋敷へ行く。」
「え、じいさん!?」
「その方がいいだろう。
カスペル達は、国の貴族特別機関へと受け渡そうと思う。」
貴族特別機関とは、貴族が罪を犯した時に裁くことの出来る特別機関である。主に、国王や王族が取り仕切っている為、表沙汰には出来ない事も、さまざまな事象を調べた上で、証拠や証言を考慮し秘密裏に処理する事が出来るのだ。
「…そうですね、ありがとうございます。」
「済まんが、よろしく頼む。
フレイチェも、もしかしたら証言を頼まれると思う。その時は、聞いた事をそのまま伝えるといい。」
「じいさん、だけど…」
「大丈夫だ。稀有な力を持っている者も特別機関にはいらっしゃる。理解して下さるはずだ。」
(私の事、ご存じだったのね…)
「なぁフレイチェ。アレッタはどこかに居るか?」
「は、はい!そちらにいます。
レオポルト様がお部屋にいた時には、お部屋にいらっしゃいましたよ。」
ずっと居るのかは分からないが、今もこうしてレオポルトの後を追って来たのなら、部屋にもずっといたのではないかと推測するフレイチェ。
「そうか…。ディアンナが言っていたが、本当に見えるのだな…。
アレッタは怒っているか?」
「え?…喜びの涙を浮かべています。」
そう言われ、アレッタを見ると涙を浮かべていた。レオポルトが歩いてここまで来れた事をとても喜んでいるように見えた。
「そうか…アレッタは、子爵邸に来るだろうか?」
「それは…分かりません。この世界に未練が無くなれば、居なくなると言われていますから。」
「なるほどな。アレッタに伝えてくれるか?ブラムの絵は、アレッタと過ごした場所によく似た絵を描くから好きなだけだと。」
「え?はい。…だそうですよ、アレッタ様。」
《そうなの?私、ブラムが好きなのだとばっかり…!
私と過ごした場所?……あぁ、そうね。自然豊かな、心が洗われるような場所よね。》
(えっと、ブラムさんって誰だったかしら…?でも、絵?)
「レオポルト様はブラムさんが好きだと思ってたそうですよ?」
アレッタがレオポルトの言葉を聞くと、手で口を抑え、先ほどよりも大粒の涙が溢れ出て来ている。
それを見て、心がすれ違っていたのだろうかとレオポルトにもアレッタが口にした言葉を伝える事とした。
「ふー…だろうな。それで何度も喧嘩したわ。それも今となっては懐かしいがね。
ブラムの絵は、至る所に飾ってあるだろ、屋敷中に。だがアレッタはそれが気に入らんと言ってな。
私には、ブラムの絵はアレッタと過ごした場所に似た、温かな気持ちを抱くのだよ。絵を見ているとなんだかアレッタと過ごした日々を思い出すようだったから引き取って描かせたんだがなぁ…。
その内、娘のヨランダがブラムを気に入って、アトリエが欲しいって言い出したから造ってやったらそれにも怒り狂ってな…心を病んで亡くなってったんだ。私には、今も昔も変わらずアレッタ一筋であったんだがな。」
そう寂しそうに宙を見て笑うレオポルト。
(あぁ、ブラムさんってランメルトの伯母様の恋人だったわ!そっか、絵がたくさんいろんな所に飾ってあったのは、そういう事だったのね。
…愛するって事が、拗れてしまったのかしら。)
《そんな…言ってくれなきゃ分からないじゃないの!どうして生きている時に言ってくれないの……》
「アレッタ様、レオポルト様は、とてもあなたを愛してらしたのですね。」
《私だって…大好きだったわ。ずっと。ブラムの絵を見ると嫉妬して壊したくなるくらいだった……!》
フレイチェは拗れてすれ違う二人を見てとても切なくなった。きっとこれも、アレッタの気持ちを感じているのかもしれない。
と、フレイチェの手を、温かいものが触れて柔らかく包み込んだ為、そちらを見ると、ランメルトがフレイチェの手をふんわりと握っていたのだった。
「フレイチェがなぜだか消えそうに思えてしまって、許可も取らずに手を握って済まない。だが、今そうしなければならないと思ってしまったんだ。」
そう不安そうに口にしたランメルトの顔を仰ぎ見たフレイチェは、力なく笑って応える。
「いいえ、わざわざ許可を取らなくとも夫婦なのだからいいのよ?
ランメルト様の温かい温もりを感じられて、とても嬉しいと思ったわ。」
「そうか…!
祖父上と祖母上は晩年、確かに言い争いが絶えなかった。だが、愛し合っていたんだな。」
「そうね。…ねぇ、私達もそうなれるのかしら?」
「ん?愛し合いたいとは思うが、言い争いはしたくないな。」
「それはそうね。だったら、いろんな事もちゃんと言ってね?」
「そうだな、喧嘩なんてしたくない。フレイチェと触れている方がよっぽど充実する時間だ。」
そう言って見せびらかすように握り合った手を上に挙げた。
「ふふ。ランメルト様ったら!」
「…そろそろ、ランメルトって呼んで欲しいな。」
「ラ、ランメルト…?」
「いいな、やっぱり。
…フレイチェ、いろいろとありがとう。」
「え?」
「こんな、問題ばかり不幸続きの家に嫁いで来てくれてさ。それで、解決に導いてくれちまうんだもんな!」
「そ、そんな事…ランメルトこそ、私を受け入れてくれてありがとう。
だって今思えば、ゴタついている時に私がやってきた訳でしょう?追い返す事だって出来たのに、それをしなかったのだもの。」
「こんなに可愛いフレイチェを、追い返すなんて出来やしないさ。」
そうやって、二人でしばらく話していたのだが、いつの間にか日は高く上っているようで、ヨーズアが痺れを切らして声を掛けた。
「ねぇお二人さん。そろそろ、クラース様の葬儀の時間だよ!早く行こう!」
その声に周りを見渡すと、ランメルトとフレイチェだけが残されていた。
「レオポルト様がやってくれたよ?
もう、病み上がりの人に任せっきりは困るよー。ま、それができるくらい元気になってくれたって事で、良いことではあるけどね-!」
しゃがみ込んでいたカスペルとカーリンは、オルストールン家の数少ない警備が客間に連れて行った。そこで貴族特別機関が到着するまで軟禁するのだ。
放心状態だったデニスも、警備が腕を掴むと力なくついて行ったそうだ。直接崖から突き落とした訳では無くとも、同意なく追い回したり、抱きつこうとした事は立派な犯罪だ。なので、こちらも両親と同じ部屋で軟禁され、貴族特別機関へと委ねる。
きっと、この数々の事は表には出す事の出来ない事案となるが、罪はしっかり償ってもらわなけれはならない。罪を犯したら、償う事は当然の事だからだ。
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