【完結】気味が悪い子、と呼ばれた私が嫁ぐ事になりまして

まりぃべる

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10 心開く時

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「フレイチェ、君はすごい能力を持っているのだな!素晴らしい!」

「本当なの?だったら羨ましいくらいだよね!」


 ランメルトが言った傍からヨーズアも加勢するように言ったその言葉を聞き、どことなく肯定的な意を含んでいるようだと顔を上げるフレイチェ。


「聞いたって、母上と会話したって事か!?居る、のか!?」


 ずい、っと体を前に乗り出して食い入るようにフレイチェへと聞くランメルトの青い目は輝いているように見えた。それは、なんとなく弟のアーレントを思い出させる。
フレイチェは思っていた反応ではない為戸惑い、けれども嬉しさを滲ませながら答える。


「はい。庭園で話しました。」

「そうか…母上が……」

「もしかしたら、の真相も分かるかもよ?」


 感慨深そうに宙を見つめたランメルトに、ヨーズアがそう言うと、ランメルトは視線をヨーズアにチラリと向けた後、フレイチェに目を向けると言葉を選ぶようにしてフレイチェへと呟くように言う。


「フレイチェ…実は、母上は十年前、崖から落ちたのだ。」

「!」

「ちなみに、俺には四歳上の兄がいるんだが、十一年前に失踪したんだ。」

「そうなのですね…」

「ああ。兄が失踪してちょうど一年後に母が崖の下に落ちたらしいと言われた。兄が帰って来ない事に心を病んで自ら身を投げたのだろうと言われた。
俺は絶対に違うと思って調べて欲しいと願ったんだが、祖父や父も調べなかった。侯爵夫人が自死とは世間体が悪いから対外的には病死と発表しているけれどね。
だけど、その真相をずっと知りたいと思っていたんだ。
 済まないな…不幸続きの家で。」


 切なそうに笑うので、フレイチェは思わず口を挟む。


「そんな事…!私には計り知れないですがずっと大変だったのですね。
 ランメルト様のお母様も言われてました。ランメルト様はとても今淋しいと思うからよろしく、と。私に出来る事は少ないかもしれませんが、お力にならせて下さい!」


 フレイチェは、自死を選んだ人があんなにランメルトの事を想うのだろうかと疑問に思った。それに、威厳たっぷりのランメルトが寂しそうに言うから、何とか元気付けたくてフレイチェは、ランメルトの目をジッと見つめ、力強く言った。


「フレイチェ…ありがとう。俺には…君が必要だ。」

「嬉しい…」


 熱い眼差しを送られながら必要だと言われ、今までそんな事言われた事も無かったフレイチェははにかみながら呟く。
 ランメルトは立ち上がり、フレイチェの傍まで来ると、座っていいかと聞く。はい、と頷いたフレイチェに、ランメルトは微笑むとそこへ腰を下ろす。


「フレイチェ、君はなんて心が優しいんだ。」

「そんな!ランメルト様こそです!気味の悪い私に、温かい言葉を掛けて下さって…」

「気味悪い?どこがだ!?こんなに可愛い、の間違いでないのか。」


 そう言って、顔を覗き込むランメルトに、フレイチェは、首を左右に力無く振り否定する。


「いやですわ!ランメルト様…そんなお世辞、私慣れていないのですから…。」

「俺は世辞なんてもう何年も言っていない。フレイチェは可愛いよ。」

「ランメルト様…」


 フレイチェは恥ずかしさに耐え切れなくなり、ランメルトを見つめていた視線を外して床へと向ける。


「顔を逸らさないでくれ、可愛い顔が見えない。」

「だって…」


 だんだんと距離が近づく二人に、ヨーズアは痺れを切らして大声を上げた。


「あー見てらんないよ!ランメルトってば素に戻っちゃって!まぁ、二人の仲が良くなるのは良い事だけどさ、まだ話終わってないよね!?」


 ランメルトはヨーズアを見ると舌打ちをし、フレイチェは見られていたんだと思い出し顔を真っ赤にして俯いた。


「とりあえず、フレイチェちゃんに説明するのは…あー、あとさレオポルト様の事もだよね?
 レオポルト様、二週間前倒れちゃったんだ。それも、んじゃないかって睨んでんだよね?」

「ああ…。」


 ヨーズアの言葉に、ランメルトは仕方なく返事をする。フレイチェは物騒な話をされ一気に恥ずかしかった気持ちが冷めて考えながら言葉を返す。


「そうなのですね…。誰かにって、なんだか嫌ですね。」

「まぁ、やりそうな奴らがオルストールン家の親族に何人もいるから、犯人を見つけたいんだけどなかなか見つけられないんだよねー。」


 ヨーズアがお手上げだよ、と言って両手を上に挙げ、降参、とでもいうような仕草をする。


「…それが、人の皮を被った中身は獣って事ですか?多いから巣窟?信頼出来る人か分からないから人を雇えないって…」


 フレイチェは、ランメルトの母の言葉を思い出しながら口にする。


「そうだよー、カトリーナ様ってそんな事フレイチェちゃんと話してたんだね。」


 感心したようにヨーズアは言う。


「カトリーナ様ってランメルト様のお母様の事ですか?」

「そうだ。俺の母上の名前がカトリーナ。
兄上は…会えるか分からないが、ハブリエルと言うんだ。」

「そうなのですね、分かりました。」


(失踪って…何かきっと理由があったのよね?現実から逃げたかった何かが。でも、残された方も、淋しいわよね。)


 ランメルトの寂しそうな表情を見て、兄弟がまた会えるといいのにと思った。


「明日は忙しくなるよー!クラース様の葬儀に、獣の皮を被った奴らが資産欲しさにやってくるからね!」


 ヨーズアが、空気を変えるように手をポンと叩き、明るい口調で声を上げる。


「全く…面倒な事だ。あんな奴らが俺の親族だと思うと、反吐が出る。」


 それに合わせるように、ランメルトも顔を嫌そうに歪め、軽口を叩く。


「あれー?もうフレイチェちゃんの前では格好つけなくていいの?ランメルトは。あんなに外面良くして、一線引くように話してたのにさ。」

「ヨーズアは本当に余計な事を包み隠さず言う…いいだろ?俺から歩み寄らねば、フレイチェも心を開いてくれないだろうからな!」

「ふーん。まぁ、ボクはいいけどね。
 フレイチェちゃん、よかったねー!ランメルト、だいぶ心許してるよ。」

「そ、そうなんですか?」


 急に話を振られ、動揺して声が上擦るフレイチェ。


「まぁ…だから、フレイチェもゆっくりでいいから、俺に心許してくれると嬉しい。」

「は、はい…。」


 そう言われても、心を許す、とはどういう事なのかいまいち分からないフレイチェ。
 だが考えてみると、ランメルトは初めと畏まった言い方をしていたが、今はと言っている。それに、視線を合わせてくる事が多くなったように感じた。
 だがフレイチェ自身は、ランメルトに接する時はヘリーと話す時と大して変わらないと思っていた為、良く分からない。


(何でも言いたい事を言うって事かしら?でも気味悪いって嫌悪されたら…あら?でも、私が亡くなった人が見えたり話せるって知っても、ランメルト様は変わりなく、むしろその前よりも距離が近くなった…??)


「んー、手始めにその敬語止めちゃえばいいんじゃない?余所余所しいじゃん?敬語って。
ねぇ、ヘリー?」

「…私に聞かれても困ります。」

「ヘリーだって、仕事じゃない時位、敬語止めればいいのに真面目なんだもんなぁ。勤務時間以外はいいじゃん?」

「…私の場合はこれで慣れております。私に振らないでと言っております!」

「あぁ、ごめんごめん!ヘリーってばすぐ怒るんだからさ。
 フレイチェちゃんはさ、ランメルトと夫婦になったんだから難しく考えずに普段通りに話せばいいんじゃない?そしたらもっと距離が縮まると思うんだけどなー。」

「まぁ、ヨーズアの言葉も一理あるな。まだ会ったばかりで遠慮があるのだと思うが、に怪しまれても面倒だからな。フレイチェよ、気を楽にして話してくれればいい。」

「はい。あ、ええと…うん。しょうち…分かったわ。」

「フッ…いいな、それ。違和感ないから、これからもそう話してくれ。」


 フレイチェが一生懸命に言葉を気をつけようとしているのを見て、ランメルトは自然と笑みがこぼれる。


「はい…うん。努力するわ。」

「いいねー!フレイチェちゃん素直!!ヘリーも見習ってよね?」

「知りません!」


(ヨーズアはヘリーと敬語ではない話し方で話して欲しいのね。私だけにそういう接し方をしているのでは無くて良かった…。なんだが、義務的に話されているように感じてしまったもの。でも違うのね。ふふふ。ヨーズアとヘリーって性格が全く違うように見えるけれど、案外お似合いかもしれないわね。)


「フレイチェ、ヨーズアとヘリーはいつもこうだ。だが二人共に頼りになるぞ。」


 ランメルトは、フレイチェがヨーズアとヘリーのやり取りを見て笑っているので、そのように言う。ヨーズアはいつも真面目なヘリーやイェレにまでちょっかいを掛け軽口を叩く。だがヨーズアは飄々としているようで、やるときはやる男だと、フレイチェに伝えたかったのだ。


「ふふふ。そうよね、ランメルト様が信頼している方だもの。
ヨーズアもヘリーも頼りにしているわ。」

「そう?ありがとう、ボクも期待に応えられるよう頑張るねー!」

「!
 も、勿体ないお言葉感謝致します…。」


 ヨーズアは嬉しそうに手を振り、ヘリーは頭を床に付ける勢いで下げて謝辞を述べた。それを見てフレイチェは頭を上げて、と慌てている。
それがランメルトには微笑ましく見え、口角を上げて笑みを溢すとフレイチェへと声を掛ける。


「では、フレイチェ。そろそろ祖父上に会いに行こうか。」

「!うん、分かったわ。」


 ランメルトは、エスコートしようとフレイチェの手を取りソファからゆっくりと立ち上がった。
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