上 下
10 / 16

誕生祭当日2

しおりを挟む
町を隅々まで見回り、片付けをする店も出始めた頃。広場で私兵団が火をくべはじめた。私とエルは、その隅で並んで火を見ていた。

まだ少し日は傾きかけているので、真っ暗ではないが、だんだんといい雰囲気になってくる。普段は日が暮れると、町は暗くなるので、ほとんどの人達は家に籠もる。
しかし今日はそれが解禁されるのだ。
子どもも大人も開放感に溢れ、すでに火の周りを男女ペアになり、囲んで踊っている人達もいた。

その中に、リズとダンを見つけた。そして、照れているのか言い合いしながら踊っている。よかった!うまくいったのね。そう思ってニヤニヤとしていると、エルが話しかけてきた。
「どうした?今年は踊りたくなったか?」

エルは、私が小さな時から一度も踊っていないのを知っている。だから冷やかして聞いてきたのだろう。
「ううん。見て。あそこにリズとダンが踊っているの。来年はダン、見習い騎士として王都へ行ってしまうでしょ?だから、うまくいってよかったわ。」
そう言うと、エルも踊っている人達の方を見ていた。

「ああ、本当だな。そうか。もうそんな年齢か…。なぁ。ティア?真面目な話していいか?俺、お前と踊りたいんだ。」
え?どうしたの!?と、私は思わずエルの方を向いた。

「エルも踊りたかったの?ごめんなさい、だったら私といてつまらなかったわよね。あっちへ行ってきていいのよ?」

そう思わず言った。
…でも言ってから、エルが他の人と踊る事を考えたら何か…イライラとした。なんでだろう。私一人になって淋しいから?

考えていたら、エルがフフッと笑って、
「…そう言いながらなんで、俺の服握ったの?」
と言った。

え!?見ると、エルの服の上着の裾を少し握っていた。無意識だった…恥ずかしい。

「ご、ごめんなさい!無意識で…。」
「無意識?なんで?」
と、エルが私の顔を、クスクスと笑いながら覗き込むから思わずそっぽを向いた。

「すごく悲しい事言われたけど、可愛いから許すね。」
と、エルが呟いた。そして、エルは私の手をそっと握って、また前を向き、火を見ながら話し出した。

「俺の兄上がさ、さすがにそろそろ婚約でもしろってうるさくて。今まで、俺がそんな事しようものなら知り合いのおっさん達が文句言ってくるやつもいたんだ。だけど、それに怯えなくていいって兄上が言ってきてね。」

と、エルはそこまで話すと、ふーっと息を吐き出した。私はどうしたのかと思ってエルの方を向いた。
何か考えているんだろう。それともどう話そうか悩んでいるのか、少し間があった。だから、私も前を向き火の方を見つめた。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

魔法が使えなかった令嬢は、婚約破棄によって魔法が使えるようになりました

天宮有
恋愛
 魔力のある人は15歳になって魔法学園に入学し、16歳までに魔法が使えるようになるらしい。  伯爵令嬢の私ルーナは魔力を期待されて、侯爵令息ラドンは私を婚約者にする。  私は16歳になっても魔法が使えず、ラドンに婚約破棄言い渡されてしまう。  その後――ラドンの婚約破棄した後の行動による怒りによって、私は魔法が使えるようになっていた。

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

雇われ妻の求めるものは

中田カナ
恋愛
若き雇われ妻は領地繁栄のため今日も奮闘する。(全7話) ※小説家になろう/カクヨムでも投稿しています。

朝起きたら同じ部屋にいた婚約者が見知らぬ女と抱き合いながら寝ていました。……これは一体どういうことですか!?

四季
恋愛
朝起きたら同じ部屋にいた婚約者が見知らぬ女と抱き合いながら寝ていました。

皇帝(実の弟)から悪女になれと言われ、混乱しています!

魚谷
恋愛
片田舎の猟師だった王旬果《おうしゅんか》は 実は先帝の娘なのだと言われ、今上皇帝・は弟だと知らされる。 そしていざ都へ向かい、皇帝であり、腹違いの弟・瑛景《えいけい》と出会う。 そこで今の王朝が貴族の専横に苦しんでいることを知らされ、形の上では弟の妃になり、そして悪女となって現体制を破壊し、再生して欲しいと言われる。 そしてこの国を再生するにはまず、他の皇后候補をどうにかしないといけない訳で… そんな時に武泰風(ぶたいふう)と名乗る青年に出会う。 彼は狼の魁夷(かいい)で、どうやら旬果とも面識があるようで…?

婚約破棄の上に家を追放された直後に聖女としての力に目覚めました。

三葉 空
恋愛
 ユリナはバラノン伯爵家の長女であり、公爵子息のブリックス・オメルダと婚約していた。しかし、ブリックスは身勝手な理由で彼女に婚約破棄を言い渡す。さらに、元から妹ばかり可愛がっていた両親にも愛想を尽かされ、家から追放されてしまう。ユリナは全てを失いショックを受けるが、直後に聖女としての力に目覚める。そして、神殿の神職たちだけでなく、王家からも丁重に扱われる。さらに、お祈りをするだけでたんまりと給料をもらえるチート職業、それが聖女。さらに、イケメン王子のレオルドに見初められて求愛を受ける。どん底から一転、一気に幸せを掴み取った。その事実を知った元婚約者と元家族は……

出来損ないと言われて、国を追い出されました。魔物避けの効果も失われるので、魔物が押し寄せてきますが、頑張って倒してくださいね

猿喰 森繁
恋愛
「婚約破棄だ!」 広間に高らかに響く声。 私の婚約者であり、この国の王子である。 「そうですか」 「貴様は、魔法の一つもろくに使えないと聞く。そんな出来損ないは、俺にふさわしくない」 「… … …」 「よって、婚約は破棄だ!」 私は、周りを見渡す。 私を見下し、気持ち悪そうに見ているもの、冷ややかな笑いを浮かべているもの、私を守ってくれそうな人は、いないようだ。 「王様も同じ意見ということで、よろしいでしょうか?」 私のその言葉に王は言葉を返すでもなく、ただ一つ頷いた。それを確認して、私はため息をついた。たしかに私は魔法を使えない。魔力というものを持っていないからだ。 なにやら勘違いしているようだが、聖女は魔法なんて使えませんよ。

処理中です...