【完結】双子の国の行く末〜妹ヴェロニカの見た景色〜

まりぃべる

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33. 新国王陛下ばんざ…い? アントン視点

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 ハハハハハ!笑いが止まらねぇぜ!やっと夢が叶ったぜ!!



 俺はアントン。
元々、両親はキシデル国に住んでいたらしい。それが、三十年程前の飢饉で食べる物が無くなり、何もしてくれないキシデル国よりも、隣国のモルドバコドル国へと助けを求めに移住しに来たんだと。

 キシデル国で住んでいたのは、モルドバコドルとの国境付近だったから、キシデル国の国王陛下がいる王宮へ行くよりも、モルドバコドル国の宮廷のが近かったっていうのもあるけど、なによりモルドバコドルは農業国だったから食べる物を分けてくれると期待したんだと。

 でも、モルドバコドル国王陛下は、移住する許可は与えたが、食べる物といえばわずかばかりのジャガイモやサツマイモ。あとは何かの種をくれたらしいがそれじゃ飢えがしのげない!


 どうしてどこも助けてくれない!!


 自分達で何とかするしかないと持ってきていた金目の物を売って、移住してきた皆と分け合っていたらしい。

 飢えで亡くなった人も一人や二人ではないという。

 それでも、半年ほどするとモルドバコドル国王だか偉い人が来て、住み込みで働く就職口を紹介すると言ってきたらしい。
そんな怪しいの、と無下にする者もいたが幾人かはその口車に乗せられ連れていかれ、それから音沙汰もなく姿を見てもいないらしい。

 俺はそんな悔しい思いをしてきたんだと何度も両親から聞かされた。
キシデル国で今も変わらず住めていれば何の苦労もしなくていい貴族の子だったとも言われた。だが、泣く泣く、もう貴族ではないから家名は忘れた、と言った。
母さんがこの国へ来たのは十歳位だったと。それまでは裕福な貴族の生活が出来たのにそこからひもじい思いを強いられたといつも憤っていた。


 何故国が違うだけで、こんなにも待遇が違う!?


 いつしか俺は、理想郷を創る事を目標にしてきた。国王だか貴族だか偉い人だけがいい思いをするんじゃなく、誰でもいい思いが出来る国。

 教会学校に通う事が出来た。そこは、教会が運営しているらしく俺らみたいな金が無くても入れる学校らしい。偉い人が寄付した金で、運営出来ているんだと。その辺りはまぁ有難いとは思うが、所詮〝施して〟とでも思っているんだろ?


 そんな境遇の俺が、紆余曲折あって、この国の王女ヴァレリアと結婚出来る事になった。

 ヴァレリアは、〝自分が女王陛下にならないといけないから必死に勉強しているんだ〟アピールをしてきやがって一々鼻につく。ま、顔は可愛いんだけど気が強いんだよな-。
『女王陛下なんて、大変だよな。俺みたいな庶民には計り知れない重圧があるんだろうよ。』なんて思いもしない言葉を並べて声を掛けていたらあっさり上手くいったって訳さ。




 ヴァレリアが、王都の端に建てた邸を〝根城〟にしたいと言った時は焦ったぜ。〝国王〟といえば立派な広い建物だろ?宮廷に国王が居なきゃ話になんないぜ。
一年で、この国を俺の理想郷にするのなんてわけないさ!


 ヴァレリアが、俺の理想郷に文句言ってくるけどよ、そもそも考え方が違うんだ!ヴァレリアの考えは古い。俺の理想郷、もっと長い目で見てみろよ。

 オルフェイ地区に住んでいる奴全ての人を、今まで冷遇されていた分も取り返すように優遇するようにして、今まで貴族としてふんぞり返っていた人達は冷遇して…。


 ん?なんか難しいな…。せっかく俺が教会学校に通っている時から、少しずつ王都の下町に住んでいる奴らにも、『今の国王じゃダメだ。国王を変えたい』って思わせるようにどうにか陽動してくれって指示してあったのに。
俺が国王となっても、『新国王陛下ばんざーい!』って声が聞こえねぇぞ!?

 なんだ?暴動ではないにしろ、王都の人達が宮廷に毎日陳述書を携えてやってきていると報告が上がっているぞ?
王都にある店、高い貴族向けの店には税金を五倍にしてやったからか?いや、でも金を使うのが仕事の貴族向けに商売をしている店だからそれ位じゃ生ぬるいかと思っていたのによ。

 おかしいな…オルフェイに住んでいる奴の親戚が営んでいる、キシデルからの商品を優遇するようにしただけなのに、似たような商品を扱っているモルドバコドル国内から反発が出ているって?

 …国王陛下って苦情処理係なのか!?俺の理想郷は!?おい!おーい!!
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