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28. ヴァレリアの彼
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「では一年、やってみなさい。詳しい事は、来週から宮廷に部屋を与えるからそこで説明する。本来であれば教会学校を卒業したら、再度ヴァレリアに女王陛下になるための教育をしようと思っていた。その教育が概ね完了したら、婿を探し、婚儀を何年か後にさせようとしていたのだよ。しかし、君、卒業したら先に国王としてやってみるか。君の思う国づくりをしてみたまえ。ヴァレリアとは婚約状態にするから。一年後、上手くいったならヴァレリアと婚儀をしようじゃないか。」
今は夕食前。
ヴァレリアとその彼アントンを連れて応接室でお父様とお会いになった時、お父様は言った。
私も、同じ応接室で座ってはいるが、会話を聞いているだけに留めた。
アントンは珍しい明るい緑色の髪だわ。…そう言えば、以前行った王都の有名な店でヴァレリアに会った時に一緒にいた男女も緑色の髪だったわ。一人はアントンだったのね。もう一人も見た事あるような女の子だったけれど、どこでだったか…。
「へぇ…!この国の貴族連中、本当に許可してくれたんですか?オレがヴァレリアと結婚して国王となる事。」
アントンと言った彼は、取り繕う事もしない、平民同士がするような態度や言葉遣いでお父様と話している。通常であれば、不敬罪に問われるでしょうけれど今は私的であるからか、お父様は鼻で笑って答えていた。
「なんだ。お主、口先だけだったのか?」
「はっ!なわけねぇだろ!オレは確かにヴァレリアと結婚したいと思っていたさ。この国を変える為にも、国王となるのを小さな頃から夢見ていたしよ!」
「そうか。夢が叶って良かったな。しかし、国民の生活が荒れ果ててしまっても困るからな。一年と言わずとも今より国が乱れていたらすぐに今の状態に戻して貰うぞ。」
「今の状態とは?」
「我が再び国王となり、ヴァレリアが女王陛下となるよう教育をし直す。」
「待って!私は女王にはならないって言ったわ!」
「オレが立派な国王になれればいいって事だろ?」
「そういう事だ。しかし、なれてもなれなくても、今まで国の政治を司ってきた者達には、最低限の保障はするように。ヴァレリアに相応しい婚約者を選定せず、君に決めたんだ。いいね。」
「ふん!相変わらず貴族ってのはいけ好かないな!何もしないでも贅沢な生活を続けられると勘違いしていやがる!仕事がなければ、ある金で生活するしかないのによ!生活水準を下げれないもんなのかね!」
「勘違いしてもらっては困る。君が国王にならなければ彼らはずっと国の中枢にいて政治を続けていた優秀な者達なのだよ。彼らの職を奪うのは君だ。生活の保障を与えるのは筋であると思うがね。」
「そうか?それを屁理屈って言うんじゃないのか?」
「では、無かった事にするか?」
「…分かったよ。ヴァレリアのお父さまよ、これからよろしく頼むぜ!それから、オレの仲間をここに呼んでいいか?以前は門前払いしやがってよ。」
「えっ!?」
「それは、君が国王になってからにして欲しい。警備の面でいろいろと問題になるからな。それから、我々は出て行くからな、使用人達は一から選定してくれ。ここで残ると言う者は雇ってくれ。」
「なんだかいろいろと制約があるんだな。」
「当たり前だ。ここは宮廷。様々な職種の人々が働いておる。国の主が変わるという事はそういう事だ。」
「はいはい、分かりましたよ。」
「待って!ここで暮らすの?あの私の邸は!?あそこで暮らせばいいじゃない?そう言ったでしょ!?」
「国王となる人があんなちんけな建物に住んでいるとは、国王になる前ならまだしも、国王がそこで政治をするのは狭すぎるだろ。どこで国の大事な事を話すんだ?あの応接室でか?」
「だって!『ここでお前と暮らせたらな。』って言ってくれたじゃない!」
「いや…言ったけどよ、言葉の例えだろ?国王といえば、広い宮廷だろうよ。」
「おや。ヴァレリアよ、あの邸がそんなに気に入ったのか?」
「それはそうよ!思い出がたくさんあるもの。私好みの家具やカーテンになっているんだから!」
「そうか。では別荘にしたらどうだ?確かにせっかく作ったのに潰すのはもったいないし、毎日通うのは宮廷からは遠いな。火急の時も、すぐに対処せないかん。」
「………分かったわよ。なによ。私、ここから出て行けると思ったのに…。」
「話は以上だ!ヴァレリア…淋しくなるな。」
その言葉を聞いたのかどうか。ヴァレリアはお父様には返事をしなかった。
「お父様…。」
私は、お父様の目の奥に光った涙を見逃さなかった。
けれど、ヴァレリアは席を立ち、アントンの手を握って部屋を出て行った。きっと、自室で夕食を食べるのでしょう。
「ふぅ…。ヴェロニカよ。宮廷をしばらく去らねばならん。私は少しゆっくりするとしよう。イオネルの好きだった、東の蓮池の別荘にでも行こうかと思う。ヴェロニカも来るか?もし、おばあ様がいる所がいいなら、王都からもそれなりに近いし使いを出すぞ。まぁ、まだ少し猶予はある。考えておきなさい。」
そう言って、『どうしてこうなったのか…』そう独り言を呟きながら、お父様は部屋を出て行った。
東の蓮池…ヴァレリアと一度行ったような気がする。馬車で半日以上掛かる場所ではなかったかしら。それとも、私達が小さかったからゆっくり行っていたのか。
そこで、ヴァレリアが蓮を取ろうとして池に落ちたのよね。近くにいたモラリが助けてくれて。そういえば、忘れていたけれどモラリは普段は焦げ茶色の髪なのに、濡れた髪は緑だったわ。色が変わってびっくりして叫んでしまったもの。
それ以来また池に落ちたら危険だからと行かせてもらえなかったわ。
私、その蓮池に行く?それともおばあ様の邸かしら…。
しばらく悩んでラドゥに呼ばれるまでその場から動けなかった。
今は夕食前。
ヴァレリアとその彼アントンを連れて応接室でお父様とお会いになった時、お父様は言った。
私も、同じ応接室で座ってはいるが、会話を聞いているだけに留めた。
アントンは珍しい明るい緑色の髪だわ。…そう言えば、以前行った王都の有名な店でヴァレリアに会った時に一緒にいた男女も緑色の髪だったわ。一人はアントンだったのね。もう一人も見た事あるような女の子だったけれど、どこでだったか…。
「へぇ…!この国の貴族連中、本当に許可してくれたんですか?オレがヴァレリアと結婚して国王となる事。」
アントンと言った彼は、取り繕う事もしない、平民同士がするような態度や言葉遣いでお父様と話している。通常であれば、不敬罪に問われるでしょうけれど今は私的であるからか、お父様は鼻で笑って答えていた。
「なんだ。お主、口先だけだったのか?」
「はっ!なわけねぇだろ!オレは確かにヴァレリアと結婚したいと思っていたさ。この国を変える為にも、国王となるのを小さな頃から夢見ていたしよ!」
「そうか。夢が叶って良かったな。しかし、国民の生活が荒れ果ててしまっても困るからな。一年と言わずとも今より国が乱れていたらすぐに今の状態に戻して貰うぞ。」
「今の状態とは?」
「我が再び国王となり、ヴァレリアが女王陛下となるよう教育をし直す。」
「待って!私は女王にはならないって言ったわ!」
「オレが立派な国王になれればいいって事だろ?」
「そういう事だ。しかし、なれてもなれなくても、今まで国の政治を司ってきた者達には、最低限の保障はするように。ヴァレリアに相応しい婚約者を選定せず、君に決めたんだ。いいね。」
「ふん!相変わらず貴族ってのはいけ好かないな!何もしないでも贅沢な生活を続けられると勘違いしていやがる!仕事がなければ、ある金で生活するしかないのによ!生活水準を下げれないもんなのかね!」
「勘違いしてもらっては困る。君が国王にならなければ彼らはずっと国の中枢にいて政治を続けていた優秀な者達なのだよ。彼らの職を奪うのは君だ。生活の保障を与えるのは筋であると思うがね。」
「そうか?それを屁理屈って言うんじゃないのか?」
「では、無かった事にするか?」
「…分かったよ。ヴァレリアのお父さまよ、これからよろしく頼むぜ!それから、オレの仲間をここに呼んでいいか?以前は門前払いしやがってよ。」
「えっ!?」
「それは、君が国王になってからにして欲しい。警備の面でいろいろと問題になるからな。それから、我々は出て行くからな、使用人達は一から選定してくれ。ここで残ると言う者は雇ってくれ。」
「なんだかいろいろと制約があるんだな。」
「当たり前だ。ここは宮廷。様々な職種の人々が働いておる。国の主が変わるという事はそういう事だ。」
「はいはい、分かりましたよ。」
「待って!ここで暮らすの?あの私の邸は!?あそこで暮らせばいいじゃない?そう言ったでしょ!?」
「国王となる人があんなちんけな建物に住んでいるとは、国王になる前ならまだしも、国王がそこで政治をするのは狭すぎるだろ。どこで国の大事な事を話すんだ?あの応接室でか?」
「だって!『ここでお前と暮らせたらな。』って言ってくれたじゃない!」
「いや…言ったけどよ、言葉の例えだろ?国王といえば、広い宮廷だろうよ。」
「おや。ヴァレリアよ、あの邸がそんなに気に入ったのか?」
「それはそうよ!思い出がたくさんあるもの。私好みの家具やカーテンになっているんだから!」
「そうか。では別荘にしたらどうだ?確かにせっかく作ったのに潰すのはもったいないし、毎日通うのは宮廷からは遠いな。火急の時も、すぐに対処せないかん。」
「………分かったわよ。なによ。私、ここから出て行けると思ったのに…。」
「話は以上だ!ヴァレリア…淋しくなるな。」
その言葉を聞いたのかどうか。ヴァレリアはお父様には返事をしなかった。
「お父様…。」
私は、お父様の目の奥に光った涙を見逃さなかった。
けれど、ヴァレリアは席を立ち、アントンの手を握って部屋を出て行った。きっと、自室で夕食を食べるのでしょう。
「ふぅ…。ヴェロニカよ。宮廷をしばらく去らねばならん。私は少しゆっくりするとしよう。イオネルの好きだった、東の蓮池の別荘にでも行こうかと思う。ヴェロニカも来るか?もし、おばあ様がいる所がいいなら、王都からもそれなりに近いし使いを出すぞ。まぁ、まだ少し猶予はある。考えておきなさい。」
そう言って、『どうしてこうなったのか…』そう独り言を呟きながら、お父様は部屋を出て行った。
東の蓮池…ヴァレリアと一度行ったような気がする。馬車で半日以上掛かる場所ではなかったかしら。それとも、私達が小さかったからゆっくり行っていたのか。
そこで、ヴァレリアが蓮を取ろうとして池に落ちたのよね。近くにいたモラリが助けてくれて。そういえば、忘れていたけれどモラリは普段は焦げ茶色の髪なのに、濡れた髪は緑だったわ。色が変わってびっくりして叫んでしまったもの。
それ以来また池に落ちたら危険だからと行かせてもらえなかったわ。
私、その蓮池に行く?それともおばあ様の邸かしら…。
しばらく悩んでラドゥに呼ばれるまでその場から動けなかった。
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