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19.移民の授業

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「…という感じで、隣国キシデルから大勢の人達がやってきました。その時の国王は現国王のお父様でミハイ様の治世でした。ミハイ前国王は国境近くの荒れ果てた土地のオルフェイ地区ならと居場所を与えました。たった二十年程前は荒野だったそこが今ではかなり栄え、街と成りつつあります。」

 歴史の先生がそう授業をしてくれた。

「はい、今日はここまで。あ、それから、これは一番大切な事です。万が一興味が湧いても、絶対にオルフェイ地方へは行かない事です。まぁ、ここに通われている貴方達だったらしっかり守れるとは思いますけれどね。では。」

「先生!なぜ、行ってはいけないのですか?」

 そう、生徒の一人が質問をすると、とても苦い顔をしてため息を深々と一つ吐くと答えてくれました。

「あそこは、キシデル国の人達が住んでいると言いましたね?そして、あそこは元荒野だったとも。いいですか?ヴェロニカさんのおじい様であられるミハイ前国王が、彼らをそこに住まわせたのは英断だったと思います。キシデルが、大雨が続いたせいで住む場所も作物も流されたのです。元々、キシデルはわが国モルドバコドルのように平坦な土地はあまり無く、どちらかと言えば小高い山が多くて作物も作りにくい地形だったのです。普通、大勢の人が隣の国から来て『今からこの国に住まわせて下さい』と言って『分かりました、はいどうぞ』とは言えませんよね?」

「でも、ミハイ前国王は許した。」

 質問をした生徒が、そう答えました。

「そうね。ただ…地質が良くなかったのよね。荒れ果てた土地であまり作物も上手く育たなかったそうよ。そういう場所でも良く育つ芋は唯一育てられたそうですが。それに、持ってきた僅かばかりの財産を売り払って大勢の人達は命を繋いだ。それから、キシデル国では貴族だった人達も、この国では皆一律の地位とされた。それはそうよね。あちらでは貴族としての仕事があっても、ここでは無いのだもの。苦労されたと思うわ。だから…貴方達貴族が近づいたら、どうなるのかは分からないの。恨んではいないとは思うけれど…だから万が一と言ったのよ。」

「キシデル国は、大勢の人達が出て行って、戻って来いとは言わなかったのですか!?」

 また違う生徒が質問した。

「当時、キシデル国は大雨で土砂崩れや水害など大変だったみたいね。人が居なくなれば、そこは救助や復興しなくて済むから何も言ってこなかったみたいなの。貴族がいなくなっても、残った人達で復興し、また新しい貴族がキシデル国で出来てしまったみたいなの。だからオルフェイ地方の人達ももう、キシデル国へは戻れないのかもしれないわね。」

 そう先生が言うと、みな苦い顔をしている人が多かった。

「さ、授業はここまで。ちゃんと将来を考えている貴方達なら、頭で考えて馬鹿な事はしてはダメよ。」

 皆、頷いているわ。
それにしても、そうだったのね…。おじい様も大変だったでしょうね。また会った時に、その話でもしてみましょう。ヴァレリアが女王となった時に、そこの所もしっかり国として面倒見ていかないといけないわよね。
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