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1.始まりは

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「はー………。もう、俺たち終わりだ。別れよう。」

 ここは、ライルヴィア国王立学院の正面玄関。

 天井までがかなり高く吹き抜けになっている空間の為か、思ったよりもその声は響きわたり、歩いている生徒達が一斉にこちらを見ました。

 声の主は、私のお付き合いをしている人で、侯爵家のご子息のクラヴィズ=アンダーソン様。
彼は私より一学年年上で、この王立学院の三年生です。

 この王立学院は、ライルヴィア国の貴族が通う学院で、十五歳で入学して十七歳で卒業します。



 私が入学してまもなく、私、レティシア=アルフィフィス伯爵領の家へと、結婚の打診がありました。
その打診があってから一週間程して両家の顔合わせが、アルフィフィス伯爵領の屋敷で行われました。

 アンダーソン侯爵様とご夫人も来られ、終始恐いくらいに貼り付けたような笑顔で、クラヴィズ様も、ニコニコニコニコとしておられました。

 お父様は、断れるものなら断りたかったそうです。私の意思を尊重してくれていたのです。だから婚約者も今まで居なかった。

 でもうちは伯爵家。高位貴族である侯爵家から直々の打診とあればこちらから断れるわけもなく。

「うちは侯爵家と縁を繋ぎたいと思ってもおらん。だが…顔合わせの時に、せめてお付き合いから始めさせて欲しいと願い出てみるよ。それで、交流を深めてもどうにも無理な相手だったら言いなさい。理由をつけて断ろう。レティシア。お前の意思を尊重するからな。」

 お父様は本当にお優しいですわ。

 うちの伯爵家は、五歳年齢の離れたお兄様がゆくゆくは跡継ぎの予定です。今はまだ騎士団に入っているし、お父様も元気なので、あと数年は帰って来ないそうです。
その為私はお父様の元ぬくぬくと生活させてもらっております。



 クラヴィズ様とは、お付き合いからという事で、週に一度学食でランチをする事と、月に一度一緒に過ごす予定にしていました。
…でも、私は楽しくなんて無かったのです。知らない人とのランチなんてとても苦痛でした。
初めこそクラヴィズ様は私を手厚く扱ってくれましたが、会話もあまり続かず、だんだんと面倒になってきたのでしょう。
言葉遣いも乱暴になっていき、ご自分が食べ終わったらさっさと席を立って行くようになりました。

 そして、最近はそのランチにも顔を出さなくなりました。違う女性とお食事をされているのです。
その日だけは私が一人でランチを食べる事になってしまうので、他の日のようにお友達が隣に来て一緒に食べるようになりました。…つまり、週に一度の学食デートはうやむやのうちに無くなったのです。

 出掛けるのもそうでした。
初めは、月に一度街に出掛けたりしていましたけれど、私はそこでも緊張してうまく話す事が出来ませんでした。
なので、最近は私の屋敷でお茶を飲む事になりましたが、何のお触れもなくすっぽかされるようになりました。

 ええ、自分の屋敷ですから私は普段と変わらず過ごせばいいので特段気になりませんが、やはり一言知らせて下さればと思うのです。使用人達は朝から用意して下さるわけですし。

 昨日もお茶会をすっぽかされた日でした。そして朝、ちょうどよくクラヴィズ様を見かけたのでその事を思い切って聞こうと思って声を掛けたのですが、あらあら。よろしいのですか?私としては、願ったり叶ったりですけれど。
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