【完結】私との結婚は不本意だと結婚式の日に言ってきた夫ですが…人が変わりましたか?

まりぃべる

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17. 領地の見回り、という名の

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 紅茶を飲みながら領地改革の話をゆっくりと楽しんだ私達は、領地を見に行く事になった。
ヘレーネが『デートを楽しんで来て下さいね。』と私にだけ聞こえるようにこっそりと言ってきたけれど、違うわよ、領地の見回りですからね!


 王宮から王都を通ってこの領地に来るまで、アンセルム様も石畳を走って来たらしく、ぼろぼろだった道が、走りやすくなったと言っていた。
どうやら、魔力も使って専門家の方々と領民とが力を合わせて、約一週間で石畳は綺麗に出来上がったのだそう。
 私も、まだ見に来ていなかったので、どう変わったのかドキドキとしていた。

 ……いえ、ドキドキしているのは、アンセルム様と二人で馬車に乗っているからかもしれないわ。
だって、本当に二人で行ってらっしゃいってロニーもへレーナも言うのだもの。

 従者のヨルゲンが、御者となって馬車を操っているけれど、馬車の中からは窓で仕切られている為に、アンセルム様と二人で向かい合わせに座らないといけなくて。

 しかも、乗る時にやはり紳士らしく、エスコートして馬車に乗るのを手伝ってくれるので緊張してしまったの。

 これから、社交界に出るなら慣れないといけないでしょうけれど…慣れるのかしら。書面上はすでに夫婦ではあるけれど。


 馬車に乗りはじめて思った事は、ガタガタと揺れはするけれど、壊れそうな程ではなく、また私も中で飛び跳ねるような事もなくなっていた。

「走りやすそう。」

 私が知らず呟くと、アンセルム様もそう思っていたみたいで、

「ああ…スティナのおかげだ。ありがとう。」

 とにこやかに言ってくれたのは嬉しかったわ。


 小窓を少し開けて見ると、湯井戸の屋根もカラフルで可愛くなっていた。四角い板をはめただけのような屋根であったのが、三角の洒落た屋根になり、真っ赤な色や、黄色、青とさまざまな色で塗られていて、若々しく生まれ変わっていた。

「まぁ…!」

「ん?あれは…何だ?」

 アンセルム様は、この領地に来た事が無いのかもしれないわね。だから私がガイドとなって教えようと言葉を繋いだ。

「あちらに見えますのは、地面の下に湯が溜まっている井戸のようなものです。屋根が崩れたりしていたので、思い切って綺麗にしてもらったのですわ。でも、想像以上に可愛らしく出来ていてすごいです!」

「なるほど。俺は、ここは公爵領となったのだが、恥ずかしながら訪れた事がなかった。だが、スティナが手直ししてくれたおかげで、領民もなんだか楽しそうだ。見て見ろ。」

 そう言われ、小窓から外を更に覗くと、遠くの方で領民と思われる人達がこちらの馬車に向かって手を振っていた。
そちらは、大きな建物を建てているようで、きっと大衆浴場を造っているのかもしれない。

「フフフ。手を振ってくれているわ。」

「俺は、父からこの領地で住む、と言った時に、『領民は死んだ魚のようだぞ。』と言われたんだ。だが、君に公爵夫人としての領地での仕事をしてもらおうとは全く思っていなかったから、税の徴収も緩いここなら楽だと思ったんだ。でも、ここから見ると領民は死んだ魚のようでは、とてもではないな。スティナ、君のおかげなんだろうな。…ありがとう。」

「そんな…私こそ、勝手にいろいろ改革のような事をしてしまって、良かったのかしらと思っていました。けれど、そう言って下さって嬉しいです!アンセルム様のお役に立てたなら、やれて良かったですわ。それに、アンセルム様が許可を出して下さらなかったら、あんな風に領民達も楽しそうにされなかったと思います。ですから、アンセルム様のおかげですわ!」

 そう言って笑い掛けると、アンセルム様は私をジッと見つめ、

「そちらへ座っていいか?」

 と聞かれたの。私は驚いたけれど、

「はい…。」

 と答えたわ。断る理由は、無いもの。
 そしたら、揺れに気をつけながら私の隣に座って、私の手に視線を向けたアンセルム様は、そっと私の右手を握ったの。

(!!??)

 私は、え!?どうして!?と、アンセルム様の顔を見ると、顔が先ほどよりも近づいて来たように感じて、どうすればいいのか分からなくて目をぎゅっと瞑ったの。

 …でも。

 同時に、馬車がガタンと止まった。

 私は椅子から少し落ちそうになり、驚いて目を開けると、アンセルム様はいつの間にか最初に座っていた対面に戻っていた。

(な、なんだったのかしら…。)

 そう思った時、ヨルゲンが外から、

「着きました。今、準備します。」

 と言って、ガタガタと降りる準備をしてくれていた。






☆★

 止まった所は、ちょうど足風呂が出来る所だった。
 そこは、元は湯溜まりの所だったと思う。湧き出た湯を使った足風呂。
浴槽の端に隙間があり、そこを通って湯が流れ出るようになっているし、いつまでも湧き出ているから、新鮮だわ。

 四阿のように屋根をしっかりとつけ、深さは足首までと浅い長方形のお風呂の浴槽に、ベンチが設置してあって、座りながら足を湯に浸かれるようになっていた。

「素敵ね!」

「奥様。入りますか?」

 見ると、従者のコーレがいた。コーレは確か、皆に指示を出す為にこちらへ何度も来ていたのだ。

「コーレ、ここは?」

 アンセルム様がなぜここにコーレがいる?というような顔付きで、でも、何処かで作業していたのか長いスコップを持っていたので、知っているかと思って聞いたのかもしれない。

「はい。ここは、誰でも自由に入れる足風呂です。領民達がここへ来て、ゆっくり足風呂に入りながらおしゃべりを楽しめるような、そんな憩いの場です。」

「まぁ!出来たのね!入っていいの?」

「はい。足風呂から上がると、こちらで座ってまた話しをしていれば、いつの間にか足の濡れが乾くと言う名目のベンチもあります。」

 もう一つ形がそっくりな、でも湯はないひとまわり小さい四阿のような場所があった。

「まぁ…!領民達はお話好きみたいだものね。」

 クスリと笑ってしまった。

「魔力で乾かす事が出来れば早いが…」

「でも、ここで使うのは勿体ないものね。高価だし、すぐ無くなってしまうものね。」

「はい。いつでも自由に使える場所に、魔道具を使っては、採算が合いませんから…。」

 私は嬉しくて、早速履物をベンチの横に置いて入る事にした。
アンセルム様はしばらく立っていたが、私が誘うと微笑んで、隣に座ってきた。

「風呂に入っているようだが、これはまた違って気持ちいいものだな。」

「本当です!これでしたら、お風呂に一緒に入っているようにお話出来ますね!」

 …って!なんだか、言ってから思ったけれど、何だか恥ずかしいわ!

「そうだな。これなら男女関係ないな。」

 そう言ってから、ニヤリと笑うと自身の足を少し私へと近づけて、パチャパチャと湯を私の足にかけ始めた。

「きゃ!アンセルム様!」

「ハハハ!どうだ!」

 アンセルム様もそうやって無邪気に笑うのね。そう思うと、なんだか一緒にいるのが嬉しく、とても楽しく思えた。
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