【完結】私との結婚は不本意だと結婚式の日に言ってきた夫ですが…人が変わりましたか?

まりぃべる

文字の大きさ
上 下
16 / 23

16. 束の間

しおりを挟む
 次の日。
 朝食を摂り、庭で朝の水やりをやろうとそちらに向かおうとすると、ロニーが声を掛けて来た。

「奥様。アンセルム様がもう少ししたら到着されますから、お仕度をなさって下さい。」

「え?ロニー、早いわね。今日は、先触れがあったの?」

「いいえ。昨日王宮に行かれる際、王宮で朝食を摂ったらこちらへ向かうと言われておりましたから。ささ、お早く。」

(確かに、今日また来ると言われていたけれど、仕事が終わった夕方かと思っていたわ。昨日まで討伐をしに遠くまで行かれていたみたいだから、お休みなのかしら。)

 と考えていると、先ほどから姿が見えないと思っていたへレーナも邸から現れ、

「お風呂の準備が出来ましたよ。」

 と言われ、誘われるがまま入る事にした。



☆★

「え?これを着るの…?」

「はい。せっかくですからね。」


 いつもの落ち着いた緩いワンピースではなく、少しお出かけにでも着るような華やかなフンワリと広がるワンピースを着るように言われ、髪もいつもはまっすぐに伸ばしただけなのにへレーナが『髪を緩く纏めますね』と言われ、上部だけ少し纏め、あとはそのまま伸ばしてくれる。

(なんだか、どこかにお出かけに行くみたいよ。)

 気恥ずかしくなる位、いつもよりおめかしされた私は、『やっぱりいつものに…』と言おうとしたのに、開け放たれた窓から、馬が駆けてくる音が聞こえて来てしまった。

「さぁ、下へ行きましょうか。」

 へレーナに言われてしまい、

「これで本当に?なんだか…」

「まぁ!安心して下さい!よくお似合いですから。さぁ!」

 そう言って、へレーナは早くお出迎えをと促したので仕方なくこれで出向かえる事となった。



 階下へ下りていくと、ちょうど玄関ホールにアンセルム様が入って来ていて、ロニーと話していた。

 アンセルム様が私に気づき、ロニーとの話を止めると、ハッとしたような顔をして口に手を押さえなんだかボソリと呟いたような気がした。

(やっぱり…どこにも出掛けないのにどんな格好をしているんだと呆れているのかしら…でも、仕方ないわ!)

 こうなったら、今から部屋へ戻るのもどうかと思い、何事もないように挨拶をしようと声を掛けた。

「アンセルム様、お帰りなさいませ。」

 とフンワリ笑い掛けてみると、何故か固まったまま、一言も言葉が返ってこないのよ。

(あぁ、言葉も出ないほど呆れているのかしら。)

 そう思って、困ったように笑って後ろから付いてきていたへレーナを見ると、何故かクスクスと笑っていた。そしてまた『大丈夫ですよ。』と私に声を掛けると、呆けているアンセルム様へと大きな声でへレーナは声を掛けた。

「ほらほら!坊ちゃま!スティナ様がお帰りと言っておりますよ。ちゃんと聞こえておりますか?」

 そう言うと、固まっていたのが溶けたようで、目を瞬いたあと、やっと反応してくれた。

「あぁ…た、ただいま…。君、どうした?その格好…」

 アンセルム様がそう言うと素早く、横にいたロニーが何か耳打ちすると、アンセルム様は咳払いをしてからまた言葉を発したわ。

「す、スティナ嬢…その、なんだ…とても素敵だ。何処か、一緒に出掛けたくなるな。」

「もう奥様なのですからね、その呼び方は止めて下さい。そうですな、では以前とは変わった領地を、お二人で現地を見に行くのはどうですかな?」

「は!?」

 ロニーがそう言うと、アンセルム様はロニーの方を向いて焦ったようにまた何か言っているわ。
私がそれをどうしたのかしらと見ていると、へレーナがいつの間にか私の隣に来ていて、

「フフフフ。成功しましたわね!スティナ様の魅力を見せつけられて、アンセルム様は恥ずかしがっておいでですね。」

 と私にだけ聞こえるような声で言った。

「まさか…」

「その証拠に、普段のような完璧な表情が崩れておりますでしょう?」

 言われてみれば、アンセルム様は顔が赤く、仕草もなんだかいつもより慌ただしい。

「さぁさ、せっかく帰って来られたのですからね。まずは、談話室で休憩なさってから領地を見回ってきて下さいね!」

 またへレーナは大きな声で言って、私の背中を優しく押して歩みを進めてくれた。






☆★

 談話室のソファに座り、紅茶を出してもらう。でも今日は、この香りは…と私は思った。
 口をつけたアンセルム様は、首を傾げた。

「ん?これはいつもの紅茶とは違うな。」

「あぁ、坊ちゃまは緊張なさっておいでですので、リラックス効果のあるカモミールティーにしてみました。庭に自生しておりましてね、私どもも飲んでおりますから安心して下さいませ。」

「いや、それは安心だ…というか、坊ちゃまはそろそろ止めてくれと言ったじゃないか。」

「そうでしたかね。幼い頃より存じてますからねぇ。そのうち呼ばせてもらいますね、坊ちゃま。」

「ほらまた…!」

 坊ちゃまと言う言葉が、なんだかアンセルム様に似合っていなくてクスリと笑ってしまったわ。すると、アンセルム様が私を見ていたので、慌て居住まいを正した。

「あ、すみません!仲がお宜しいなと思いましたので…。」

「まぁ、母親みたいなもんだからな。でもさすがに、俺もいい歳なんだがな…。」

 と、アンセルム様は苦笑いしている。
なんだか、結婚式の日よりも話し易い雰囲気だわ。あの日は、威圧感たっぷりだったもの。
 少しは、夫婦としてやっていこうと思ってくれたのかしら?邸に帰らないと言われたから、ずっと会わないかと思ったけれど、こうやってお話をさせて下さるのだもの。
 そういえば、ご一緒して良かったのかしら?一人でゆっくりしたかったとか…?

 いろいろと考えていると、アンセルム様がまた声を掛けてきた。

「君…いや、ええと…夫婦なのだからす、スティナと呼んでいいだろうか。」

 アンセルム様の方を見ると、こちらをジッと見つめてくれている。やだわ…なんだか、恥ずかしくなってくる。
でもなんだか、やっとこうして私の方をしっかりと見て話してくれて、嬉しく思っている自分がいるの。
そういえば昨日も、私をちゃんと見て話してくれたわね。
 結婚式の日は私を見てもくれなかったから、これから夫婦となるのに随分と淋しく思ったのよ。

 これから夫婦としてやっていこうと、向き合ってくれたのかしらね。

「はい。私も、アンセルム様とお呼びしていましたが宜しいですか?」

「あぁ。構わない。」

 そう言って私に向かって微笑んでくれたアンセルム様。なんだか本当に別人のようだわ。

「改めて、討伐お疲れ様でした。今日はお休みなのですか?」

「あぁ。国境の森にわんさかいた悪獣をとりあえず一掃出来たからな。今日は休みなんだ。昨日、国王陛下に報告も終えたから、やっと一日ゆっくり出来る。」

「そうでしたか。…貴重なお休みに、来て下さって、ありがとうございます。」

「?どういう意味だ?」

「あ、いえ。領地がどのように変わったかの確認だとは分かっています。でも、私、アンセルム様に結婚式の日に『邸には帰らない』と言われましたから、こうやって来て下さって嬉しいのです。」

「そう…か…。いや、あの時は済まない。き、緊張していたから、という言い訳にもならんだろうが…。これからは、お互いを知って行くべきだと思ったんだ。」

 途中、口元に手を充てていらっしゃるけど、どうしたのかしら?と私は思った。
 きっとアンセルム様の癖かもしれないわね。とも思う。先ほどもやっていらしたし。
 ん?そういえば…懐かしいあの夢でも出てきた、あの時の男の子も、そんな事やっていたような…?
 気のせいね!
しおりを挟む
感想 65

あなたにおすすめの小説

婚約者を譲れと姉に「お願い」されました。代わりに軍人侯爵との結婚を押し付けられましたが、私は形だけの妻のようです。

ナナカ
恋愛
メリオス伯爵の次女エレナは、幼い頃から姉アルチーナに振り回されてきた。そんな姉に婚約者ロエルを譲れと言われる。さらに自分の代わりに結婚しろとまで言い出した。結婚相手は貴族たちが成り上がりと侮蔑する軍人侯爵。伯爵家との縁組が目的だからか、エレナに入れ替わった結婚も承諾する。 こうして、ほとんど顔を合わせることない別居生活が始まった。冷め切った関係になるかと思われたが、年の離れた侯爵はエレナに丁寧に接してくれるし、意外に優しい人。エレナも数少ない会話の機会が楽しみになっていく。 (本編、番外編、完結しました)

継母や義妹に家事を押し付けられていた灰被り令嬢は、嫁ぎ先では感謝されました

今川幸乃
恋愛
貧乏貴族ローウェル男爵家の娘キャロルは父親の継母エイダと、彼女が連れてきた連れ子のジェーン、使用人のハンナに嫌がらせされ、仕事を押し付けられる日々を送っていた。 そんなある日、キャロルはローウェル家よりもさらに貧乏と噂のアーノルド家に嫁に出されてしまう。 しかし婚約相手のブラッドは家は貧しいものの、優しい性格で才気に溢れていた。 また、アーノルド家の人々は家事万能で文句ひとつ言わずに家事を手伝うキャロルに感謝するのだった。 一方、キャロルがいなくなった後のローウェル家は家事が終わらずに滅茶苦茶になっていくのであった。 ※4/20 完結していたのに完結をつけ忘れてましたので完結にしました。

お前など家族ではない!と叩き出されましたが、家族になってくれという奇特な騎士に拾われました

蒼衣翼
恋愛
アイメリアは今年十五歳になる少女だ。 家族に虐げられて召使いのように働かされて育ったアイメリアは、ある日突然、父親であった存在に「お前など家族ではない!」と追い出されてしまう。 アイメリアは養子であり、家族とは血の繋がりはなかったのだ。 閉じ込められたまま外を知らずに育ったアイメリアは窮地に陥るが、救ってくれた騎士の身の回りの世話をする仕事を得る。 養父母と義姉が自らの企みによって窮地に陥り、落ちぶれていく一方で、アイメリアはその秘められた才能を開花させ、救い主の騎士と心を通わせ、自らの居場所を作っていくのだった。 ※小説家になろうさま・カクヨムさまにも掲載しています。

お願いされて王太子と婚約しましたが、公爵令嬢と結婚するから側室になれと言われました

如月ぐるぐる
ファンタジー
シオンは伯爵令嬢として学園を首席で卒業し、華々しく社交界デビューを果たしました。 その時に王太子に一目惚れされ、一方的に言い寄られてしまいましたが、王太子の言う事を伯爵家が断る事も出来ず、あれよあれよと婚約となりました。 「シオン、君は僕に相応しくないから婚約は破棄する。ザビーネ公爵令嬢と結婚する事にしたから、側室としてなら王宮に残る事を許そう」 今まで王宮で王太子妃としての教育を受け、イヤイヤながらも頑張ってこれたのはひとえに家族のためだったのです。 言い寄ってきた相手から破棄をするというのなら、それに付き合う必要などありません。 「婚約破棄……ですか。今まで努力をしてきましたが、心変わりをされたのなら仕方がありません。私は素直に身を引こうと思います」 「「え?」」 「それではフランツ王太子、ザビーネ様、どうぞお幸せに」 晴れ晴れとした気持ちで王宮を出るシオン。 婚約だけだったため身は清いまま、しかも王宮で王太子妃の仕事を勉強したため、どこへ行っても恥ずかしくない振る舞いも出来るようになっていました。 しかし王太子と公爵令嬢は困惑していました。 能力に優れたシオンに全ての仕事を押し付けて、王太子と公爵令嬢は遊び惚けるつもりだったのですから。 その頃、婚約破棄はシオンの知らない所で大騒ぎになっていました。 優れた能力を持つシオンを、王宮ならばと諦めていた人たちがこぞって獲得に動いたのです。

契約結婚のはずが、気づけば王族すら跪いていました

言諮 アイ
ファンタジー
――名ばかりの妻のはずだった。 貧乏貴族の娘であるリリアは、家の借金を返すため、冷酷と名高い辺境伯アレクシスと契約結婚を結ぶことに。 「ただの形式だけの結婚だ。お互い干渉せず、適当にやってくれ」 それが彼の第一声だった。愛の欠片もない契約。そう、リリアはただの「飾り」のはずだった。 だが、彼女には誰もが知らぬ “ある力” があった。 それは、神代より伝わる失われた魔法【王威の審判】。 それは“本来、王にのみ宿る力”であり、王族すら彼女の前に跪く絶対的な力――。 気づけばリリアは貴族社会を塗り替え、辺境伯すら翻弄し、王すら頭を垂れる存在へ。 「これは……一体どういうことだ?」 「さあ? ただの契約結婚のはずでしたけど?」 いつしか契約は意味を失い、冷酷な辺境伯は彼女を「真の妻」として求め始める。 ――これは、一人の少女が世界を変え、気づけばすべてを手に入れていた物語。

学園首席の私は魔力を奪われて婚約破棄されたけど、借り物の魔力でいつまで調子に乗っているつもり?

今川幸乃
ファンタジー
下級貴族の生まれながら魔法の練習に励み、貴族の子女が集まるデルフィーラ学園に首席入学を果たしたレミリア。 しかし進級試験の際に彼女の実力を嫉妬したシルヴィアの呪いで魔力を奪われ、婚約者であったオルクには婚約破棄されてしまう。 が、そんな彼女を助けてくれたのはアルフというミステリアスなクラスメイトであった。 レミリアはアルフとともに呪いを解き、シルヴィアへの復讐を行うことを決意する。 レミリアの魔力を奪ったシルヴィアは調子に乗っていたが、全校生徒の前で魔法を披露する際に魔力を奪い返され、醜態を晒すことになってしまう。 ※3/6~ プチ改稿中

不遇な王妃は国王の愛を望まない

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。 ※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり(苦手な方はご注意下さい)。ハピエン🩷 ※稚拙ながらも投稿初日からHOTランキング(2024.11.21)に入れて頂き、ありがとうございます🙂 今回初めて最高ランキング5位(11/23)✨ まさに感無量です🥲

兄にいらないと言われたので勝手に幸せになります

毒島醜女
恋愛
モラハラ兄に追い出された先で待っていたのは、甘く幸せな生活でした。 侯爵令嬢ライラ・コーデルは、実家が平民出の聖女ミミを養子に迎えてから実の兄デイヴィッドから冷遇されていた。 家でも学園でも、デビュタントでも、兄はいつもミミを最優先する。 友人である王太子たちと一緒にミミを持ち上げてはライラを貶めている始末だ。 「ミミみたいな可愛い妹が欲しかった」 挙句の果てには兄が婚約を破棄した辺境伯家の元へ代わりに嫁がされることになった。 ベミリオン辺境伯の一家はそんなライラを温かく迎えてくれた。 「あなたの笑顔は、どんな宝石や星よりも綺麗に輝いています!」 兄の元婚約者の弟、ヒューゴは不器用ながらも優しい愛情をライラに与え、甘いお菓子で癒してくれた。 ライラは次第に笑顔を取り戻し、ベミリオン家で幸せになっていく。 王都で聖女が起こした騒動も知らずに……

処理中です...