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8. 提案

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 部屋には、私とへレーナとロニーだけになって、少し圧迫感がなくなったわ。

「どうされましたか?」

 ロニーが、そう声を掛けてくれた。

「午前中に、領地を回らせてもらったの。その時に幾つか感じた事があったので、聞きたいと思ったのよ。」

「はい。何でしょうか。私が答えられる事であれば。」

「そうよね。ありがとう。ではまず…ここの領民の人達…何をして過ごしているの?」

「はぁ…どういう意味でございましょうか?」

 あら?言い方が悪かったかしら。ロニー、困っているわね。

「先ほど、湯井戸を見に領地を回った時に思ったの。やる事が無いから話しをしているって人もいたわ。それは別にいいんだけれど、やる事が無いって、どうしてなのかしら?」

「あぁ…そういう意味でございますね。それは、十数年ほど前に、ここを統治していた領主が、悪さをしましてね。自分の儲け欲しさに重い税を掛け出したのです。領地自体が小さいから、儲けを出す為にはと徴収する額を増やしたそうで。領民は泣く泣く何年か耐え忍んだそうですが、ある時それが発覚して、領主は罪を償う為に爵位を返上したのです。それ以来公爵様がこちらの領地を割り振られたのですが、数年間は払いすぎるほど絞り取られていた事もあって、税は今はどれだけ少なくてもいいから払える分を払えばいいという事にしたらしいのです。」

「…そう。でも、せっかく湯が湧き出ているのに勿体ないのね。」

「何年も重税を掛けられていた領民へ、せめてもの罪滅ぼしらしいですね。大麦一束でもいいと言われてますから寛大なお心ですな。」

 …それって寛大というのかしら?領地は荒れ果てているとも言えるのよ。それに、領民もとても退屈そうだったのは、お年寄りだったからそう見えただけかしら…?
他の領民は、何をしているのかしら。外に出て畑仕事している人なんて居なかったわ。

「ねぇ、へレーナ。領民は先ほど『私が手伝って欲しいといったら手伝ってくれる?』と聞いたら、『皆暇だから手伝う』と言っていたわよね?」

「大まかにはそう言われていましたね。」

「では、ここの領地をもう少し綺麗にするのを、領民総出でやるのはどうかしら?そうしたら、この領地を通る馬車や人も増えるんじゃないかしら?」

「き、綺麗に…ですか?でも…何も無いですから、わざわざここを通らないでしょう。」

「私が来て早々に勝手に領地を変えたりするのは良くない事って分かってはいるけれど…でも、皆、この領地を〝何も無い〟って言っているけれど、雄大で素敵な自然もあるし、湧かさなくても勝手に湯が出来るのは大いに素晴らしいと言えると思うのよ。活かさないのは勿体ないわ。」

「そ、それは…。」

 へレーナは、私が言って困ってしまったかしら。ロニーの方を見て、助け舟を出してと訴えてる様子だわ。

「それに、過去はそういう出来事があったのは本当にお辛かったでしょうけれど、だからって今の領民達、幸せそうなのかよく分からなかったわ。やる事が無いからって…。せっかくの土地も、荒れ放題って感じよね。」

「…なるほど。それでは、のお考えは、仕事を与えたいと?」

「お、奥様!?」

「はい。どうされました?」

 ロニー…当然のように頷いてるけど…まぁ、確かに、私はアンセルム様の妻となったから奥さんといえばそうよね…実感ないけれど。
慣れていかないといけないわね。

「…な、何でもないわ。そうよ。不便があれば何なりとって言っていたけれど、そういうのはダメかしら?せっかくこの領地に私、来たのだもの。領民達も幸せになってもらえると嬉しいのだけど。でも、領民達はそれを、望んではいないかしら?」

「…分かりました。では許可を得れましたら順次取り掛かりましょう。ご心配で有りますれば、領民達にも、意思を確認してみますか?過去の事がありますからね。具体的に何か考えがお有りですか?」

「そうね、お願い。…まず、石畳は思った以上に荒れているように思ったのだけれど…。」

 馬車なんて、石畳に引っ掛かって飛び跳ねるように進んでいたもの。隙間が空いている箇所もあったし、普通に歩くのでも危なくないのかしら?

「そうですね。ここは、王都には近いですが、主要な大きな街は両隣にありますからわざわざここを通る人達もいなかったので、整備されなかったのでしょう。奥様が来られるのが何年も前から分かっていたら、整備していたでしょうけれど、間に合わなかったのもありますね。申し訳ありません。」

「あ、そ、それはいいのよ。謝らないでちょうだい!そう…とてもいい土地柄なのに勿体ないわ。自然豊かで。…あとは、湯井戸ももう少し手直ししたいわよね。屋根が崩れている所もあったわ。」

「なるほど………。奥様。通るか分かりませんが、聞いてみます。あとはご要望はごさいませんか?」

「要望?そうね…石畳を変えるのだって、力仕事だわ。今日お話したご年配の方でも出来る事があればいいのに。」

「奥様…そうでは無く、奥様のご要望はございませんか?」

「私?私というか、領民全員に、やる事が分配出来るような仕事…あ!ねぇ、植物を利用するのはどうかしら?」

「……ええと?」

「荒れ放題の土地にも、植物はたくさん自生していたわね。それを果実酒とかにしてもらうのでもいいわね。…でも、ロニー?」

「なんでごさいましょう?」

「アンセルム様、怒ったりします?好きにして構わないと言っていたけれど。」

 今更ながら、心配になってしまったのよ。私の一人善がりかもしれないって。

「…大丈夫でございますよ。」

 ロニー、ニッコリと微笑んでくれたから大丈夫よね?結婚式ではアンセルム様、ご機嫌斜めの雰囲気醸し出していたからちょっと、いえかなり怖かったもの。
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