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9. 庭
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昨日は、午後に使用人の紹介をしてもらった後は部屋でゆっくりとさせてもらった。
ここの邸には、図書室が無かったので自分が持ってきた少ない本を引っ張り出して読んでいた。
あぁ…実家の図書室が懐かしいわ。本があり過ぎて、探すのには苦労したけれども。
朝食を食べてから、今日は何をしますかとへレーナに聞かれ、
「庭を、見せてもらってもいい?」
と、私はそう答えたの。
庭がこの部屋から見えるのだけれど、手前に花が数種類咲いているのが見えるだけで、奥は背丈までの草がたくさん自生しているように見えた。
「スティナ様。庭、と言っても、まだ奥まで全て綺麗に出来ておりませんので、では、その花が咲いている所を見ましょうか。」
「人が足りないのであれば、私も手伝うわ。薬草とか生えていたらそのままにして置いて欲しいし。」
「え?や、薬草ですか…?」
へレーナは、綺麗に手入れされている所だけを私は見たいと思っているのかもしれないが、逆で、手入れされていない奥の方を確認したかったのよね。
粗を指摘したいからではなく、人間の手が付けられていない所ほど、いい薬草が生えている場合があるからなのだけれど、どう言ったらへレーナに伝わるかしら。
「ええ。手入れされていない所を見たいの。怒ったりはしないわ。庭師の…オーヴェの所へ行っても大丈夫?」
「は、はい…では。」
「あ、待って!私も動き易い格好をしたいのだけれど、いいかしら?」
「う、動き易いですか?」
へレーナ…とっても驚いているわ。
だって今、私は足首まであるワンピースを着ている。
このように長いヒラヒラとした服ではなくて、乗馬服のような、足が引っ掛かからない服が着たいのよ。汚れてしまうでしょうし。
結局、へレーナと一緒に衣装部屋へ行って、私の実家から持ってきた少し土の汚れが取りきれていない簡素な服と、長いブーツを選んだ。へレーナは、しきりに『本当にこれでいいのですか?』と言っていたけれど、どうせ汚れてしまうから、汚れが取りきれていない服で充分よ。あ、お洗濯はキッチリしてもらっているのだけれど、どうしても、酷い土汚れは薄くはなるけど取りきれないのよね。
へレーナに、庭へと連れて来てもらうと、オーヴェを探す。キョロキョロとしていると、建物の裏手でポールが草むしりをしているのが見えた。
「ポール!お仕事中ごめんなさい。オーヴェはいる?」
「あぁ、奥様!じぃちゃんは…あ、あっちにいます!」
そう言ったポールの指を指した方を見ると、オーヴェが湯井戸の所で大きな樽に汲んだ湯を入れていた。
私とへレーナは、そちらへと行くと、オーヴェが気づいて手を止めてこちらを見てくれた。
「あぁ、お仕事中ごめんなさいね。オーヴェ、あなたが部屋から見える所に綺麗な花を植えてくれたの?」
「はい。そうです。ポールにも手伝ってもらいました。奥様、何か不手際がありましたか?」
あぁ、恐縮してしまったわ。被っていた帽子をすぐに外して頭を下げてくれたけれど、そうではないのよ。
「違うわ。心が洗われるようで嬉しいからお礼に来たのよ。だから、気にしないで。それでね、あの庭の奥なんだけれど、見てきてもいいかしら?」
「ええ、そう言われてありがたいですわ
…え?す、すみません!まだしっかりと片付けておらず…ん?見るとは…?」
「違うわ。私の実家では、薬草や、植物を生活に役立てていたの。だから、どんなものが自生しているか見てみたいのよ。むしろ、ああやって自生させてくれていて、嬉しいわ!」
「そ、そう言ってもらえて…私は腰が痛くてね、なかなか思うように仕事を進められんのですわ。ですから、ゆっくりとやっていて申し訳ないと思っておりました。そう言っていただけて嬉しいですわ。」
そう言ってまた、ペコリとお辞儀をしてくれたオーヴェ。腰が痛いなら、いいのよ動かさなくても。
「腰、痛いのね…今度、腰に良く効くもの、お渡しするわね。」
私のパワーの水でいいかしら。もしくは痛みに効くあの薬草が自生してくれていれば良いのだけれど…。探してみましょう。
「いやぁ!奥様!そんな!!み、見に行かれるのは自由にされていいけども、お気を付け下さい。」
「ええ。ありがとう!ところで、これは何をやっているの?」
「はぁ。これは、湯をこの樽に入れて、冷まして水として使えるようにですよ。」
なるほど…。そうやって使えるようにしているのね。それにしても、これも腰が痛くならないのかしら?
そう思ったけれど、きっと草むしりよりはいいのだろうと思い、先ほど見えた奥の方へと行ってみる事にした。
「スティナ様…あまり奥に入りませんように。草が多く背が高いので、虫などが下にいても見えませんから。」
そう、へレーナが言ってくれたわ。あ、でもへレーナは私みたいな服ではないものね。
「分かったわ。へレーナ、あなたはそこで待っていてね。この辺りは、どうするのかしら?邪魔な草は、刈ってもいいのかしらね。」
私がそう言うと、
「でも…」
とへレーナが躊躇したのよ。でも、へレーナに悪いものね。
「良いのよ。へレーナはそこにいなさい。あぁそうね、オーヴェに、この辺りをどうするか聞いてきてもらえるかしら?」
「スティナ様。この辺りはまだ手つかずですみません。綺麗に刈る予定です。」
その声に振り向くとオーヴェが来てくれていた。湯汲みが終わったのかしら。
「あら、いいのよ謝らなくて。私は気にしないもの。じゃあ、今から奥に入って行きたいから、要らない雑草は刈っていいかしら?あと、薬草があれば取ってもいいかしら。」
「ええそれはお好きに!でもいいのですか、やらせてしまって。」
「私がやりたくてやっているからいいのよ。じゃあ刈るものをお借りしても?これからも使わせてもらうかもしれないから、場所も教えてもらっていい?」
「これからも…?おやおや。奥様は大層なお方ですな。私も楽しくなりそうですわ。ではこちらへ。」
オーヴェはそう笑って、庭作業小屋の場所を教えてくれ、好きに使っていいと言ってくれた。『刃物だからくれぐれもお気を付け下さい。』と言って。
そこでしばらく、草を刈ったり、薬草を取ったりしていると、聞こえるはずのない声が聞こえてきた。
「どこにいるかと思えば。そんな格好で何をしているのだ。」
…紺色の軍服をかっちりと着たアンセルム様が、そこにいた。
ここの邸には、図書室が無かったので自分が持ってきた少ない本を引っ張り出して読んでいた。
あぁ…実家の図書室が懐かしいわ。本があり過ぎて、探すのには苦労したけれども。
朝食を食べてから、今日は何をしますかとへレーナに聞かれ、
「庭を、見せてもらってもいい?」
と、私はそう答えたの。
庭がこの部屋から見えるのだけれど、手前に花が数種類咲いているのが見えるだけで、奥は背丈までの草がたくさん自生しているように見えた。
「スティナ様。庭、と言っても、まだ奥まで全て綺麗に出来ておりませんので、では、その花が咲いている所を見ましょうか。」
「人が足りないのであれば、私も手伝うわ。薬草とか生えていたらそのままにして置いて欲しいし。」
「え?や、薬草ですか…?」
へレーナは、綺麗に手入れされている所だけを私は見たいと思っているのかもしれないが、逆で、手入れされていない奥の方を確認したかったのよね。
粗を指摘したいからではなく、人間の手が付けられていない所ほど、いい薬草が生えている場合があるからなのだけれど、どう言ったらへレーナに伝わるかしら。
「ええ。手入れされていない所を見たいの。怒ったりはしないわ。庭師の…オーヴェの所へ行っても大丈夫?」
「は、はい…では。」
「あ、待って!私も動き易い格好をしたいのだけれど、いいかしら?」
「う、動き易いですか?」
へレーナ…とっても驚いているわ。
だって今、私は足首まであるワンピースを着ている。
このように長いヒラヒラとした服ではなくて、乗馬服のような、足が引っ掛かからない服が着たいのよ。汚れてしまうでしょうし。
結局、へレーナと一緒に衣装部屋へ行って、私の実家から持ってきた少し土の汚れが取りきれていない簡素な服と、長いブーツを選んだ。へレーナは、しきりに『本当にこれでいいのですか?』と言っていたけれど、どうせ汚れてしまうから、汚れが取りきれていない服で充分よ。あ、お洗濯はキッチリしてもらっているのだけれど、どうしても、酷い土汚れは薄くはなるけど取りきれないのよね。
へレーナに、庭へと連れて来てもらうと、オーヴェを探す。キョロキョロとしていると、建物の裏手でポールが草むしりをしているのが見えた。
「ポール!お仕事中ごめんなさい。オーヴェはいる?」
「あぁ、奥様!じぃちゃんは…あ、あっちにいます!」
そう言ったポールの指を指した方を見ると、オーヴェが湯井戸の所で大きな樽に汲んだ湯を入れていた。
私とへレーナは、そちらへと行くと、オーヴェが気づいて手を止めてこちらを見てくれた。
「あぁ、お仕事中ごめんなさいね。オーヴェ、あなたが部屋から見える所に綺麗な花を植えてくれたの?」
「はい。そうです。ポールにも手伝ってもらいました。奥様、何か不手際がありましたか?」
あぁ、恐縮してしまったわ。被っていた帽子をすぐに外して頭を下げてくれたけれど、そうではないのよ。
「違うわ。心が洗われるようで嬉しいからお礼に来たのよ。だから、気にしないで。それでね、あの庭の奥なんだけれど、見てきてもいいかしら?」
「ええ、そう言われてありがたいですわ
…え?す、すみません!まだしっかりと片付けておらず…ん?見るとは…?」
「違うわ。私の実家では、薬草や、植物を生活に役立てていたの。だから、どんなものが自生しているか見てみたいのよ。むしろ、ああやって自生させてくれていて、嬉しいわ!」
「そ、そう言ってもらえて…私は腰が痛くてね、なかなか思うように仕事を進められんのですわ。ですから、ゆっくりとやっていて申し訳ないと思っておりました。そう言っていただけて嬉しいですわ。」
そう言ってまた、ペコリとお辞儀をしてくれたオーヴェ。腰が痛いなら、いいのよ動かさなくても。
「腰、痛いのね…今度、腰に良く効くもの、お渡しするわね。」
私のパワーの水でいいかしら。もしくは痛みに効くあの薬草が自生してくれていれば良いのだけれど…。探してみましょう。
「いやぁ!奥様!そんな!!み、見に行かれるのは自由にされていいけども、お気を付け下さい。」
「ええ。ありがとう!ところで、これは何をやっているの?」
「はぁ。これは、湯をこの樽に入れて、冷まして水として使えるようにですよ。」
なるほど…。そうやって使えるようにしているのね。それにしても、これも腰が痛くならないのかしら?
そう思ったけれど、きっと草むしりよりはいいのだろうと思い、先ほど見えた奥の方へと行ってみる事にした。
「スティナ様…あまり奥に入りませんように。草が多く背が高いので、虫などが下にいても見えませんから。」
そう、へレーナが言ってくれたわ。あ、でもへレーナは私みたいな服ではないものね。
「分かったわ。へレーナ、あなたはそこで待っていてね。この辺りは、どうするのかしら?邪魔な草は、刈ってもいいのかしらね。」
私がそう言うと、
「でも…」
とへレーナが躊躇したのよ。でも、へレーナに悪いものね。
「良いのよ。へレーナはそこにいなさい。あぁそうね、オーヴェに、この辺りをどうするか聞いてきてもらえるかしら?」
「スティナ様。この辺りはまだ手つかずですみません。綺麗に刈る予定です。」
その声に振り向くとオーヴェが来てくれていた。湯汲みが終わったのかしら。
「あら、いいのよ謝らなくて。私は気にしないもの。じゃあ、今から奥に入って行きたいから、要らない雑草は刈っていいかしら?あと、薬草があれば取ってもいいかしら。」
「ええそれはお好きに!でもいいのですか、やらせてしまって。」
「私がやりたくてやっているからいいのよ。じゃあ刈るものをお借りしても?これからも使わせてもらうかもしれないから、場所も教えてもらっていい?」
「これからも…?おやおや。奥様は大層なお方ですな。私も楽しくなりそうですわ。ではこちらへ。」
オーヴェはそう笑って、庭作業小屋の場所を教えてくれ、好きに使っていいと言ってくれた。『刃物だからくれぐれもお気を付け下さい。』と言って。
そこでしばらく、草を刈ったり、薬草を取ったりしていると、聞こえるはずのない声が聞こえてきた。
「どこにいるかと思えば。そんな格好で何をしているのだ。」
…紺色の軍服をかっちりと着たアンセルム様が、そこにいた。
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